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    印刷2021/02/24 18:00

    インタビュー

    「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

    画像集#003のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー
     2021年2月25日,セガからPS4 / Nintendo Switch版「Empire of Sin エンパイア・オブ・シン」がリリースされる。これに合わせて,同作の開発を担当するRomero Gamesのジョン・ロメロ(John Romero)氏ブレンダ・ロメロ(Brenda Romero)氏にインタビューする機会を得た。

     「エンパイア・オブ・シン」の舞台は「禁酒法時代」(Prohibition Era)である。社会正常化の流れを受け,1920年から1933年にかけてアメリカで施行された「禁酒法」により,密造酒作りと販売に手を出したマフィアの巨大化に拍車がかかった時代だ。
     プレイヤーは混乱するシカゴで勢力拡大を目論む14人のボスから1人を選び,ギャングスター(部下)を集めつつ,密造酒作りをはじめ,酒場や下宿,裏カジノ,ホテル経営などを行い,敵対するマフィアと抗争を繰り返して,新たな犯罪帝国を築いていくことになる。
     戦闘では最大10人のキャラクターを操り,「XCOM」シリーズを彷彿させるターン制バトルが展開する。各キャラクターのアビリティや武器の特徴を活かして,うまく使い分けることが求められる。
     また,地域や敵勢力の数を調整することで,各自のプレイスタイルに合った遊び方が可能だ。それにより,長く遊び込める作品に仕上がっている。

    ブレンダ・ロメロ氏(左),ジョン・ロメロ氏(右)
    画像集#001のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー 画像集#002のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

     リードデザイナーとして本作のプロジェクトを率いるブレンダ・ロメロ氏と言えば,「ウィザードリィ」シリーズを手がけたSir-Techにてキャリアを積み,その後は「Playboy: The Mansion」(2005年)や「Tom Clancy's Ghost Recon: Commander」(2012年)などを生み出してきた。
     一方のジョン・ロメロ氏は「Doom」や「Quake」などのゲームデザイナーとして知られる,もはや説明がいらないほどの人物。ロメロ夫妻は共にさまざまな開発者向けイベントに登壇したり,教育現場では若い才能を指導したりして,北米のゲーム業界を中心に多大な功績を残してきたが,今も現役のクリエイターである。その最新の成果が「エンパイア・オブ・シン」なのだ。

    画像集#009のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

     今回のインタビューでは,「エンパイア・オブ・シン」の楽しさを伝えることを重視しつつ,ロメロ夫妻が作品に込める思いやスタジオの近況についても語ってもらった。

    「Empire of Sin エンパイア・オブ・シン」公式サイト



    ベテラン開発者が再現する“禁酒法時代のシカゴ”


    4Gamer:
     本日はよろしくお願いします。海外やPC版の「エンパイア・オブ・シン」のローンチからは2か月以上が経過していますが,これまでの反響はいかがですか。

    ブレンダ・ロメロ氏(以下,Brenda氏):
     ええ,良い評価とあまり良くない評価がはっきりと分かれている印象ですね。ギャングスターやマフィアが活躍する世界が好きなゲーマー,そして経営/建設シムのファンには高い支持を受けていると思っています。
     その一方、ローンチ当初のPC版に脆弱性があることが発覚したり,その他のバグがあることも分かり,そのためにユーザーの皆さまに不便な思いをさせてしまいました。ゲームプレイそのものについての評価ではなかったとはいえ,とても残念なことだったと思っています。
     熱狂的にプレイしてくれている人が多くおられるので,皆さんから寄せられる意見やSNS上の声を参考にして,ゲームの改良を続けていきます。

    4Gamer:
     ゲームプレイの楽しさを阻害していた問題も,現在は大きく改善されていますね。

    Brenda氏:
     そうですね。2月初めに配信したパッチでは,「セーフハウス」の問題を修正しました。これは勢力同士の抗争を無視して,いきなり相手の本拠であるセーフハウスを急襲することで乗っ取りが成功してしまうという問題でした。
     修正後はマップに敵勢力のセーフハウスが表示されず,相手のビジネスを攻撃していくうちにポイントが加算されて,やがて敵の場所が分かるようになっています。いろいろな攻略法を探し出すことはゲーマーの楽しみの一つですが,挑戦的な要素がなくては楽しみが半減してしまいますからね。
     今後もストラテジーとしての厚みをさらに増していくため,努力していきます。

    画像集#012のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

    4Gamer:
     Romero Gamesは2015年に設立されましたが,「エンパイア・オブ・シン」のプロジェクトはいつごろからスタートしたのでしょうか。

    Brenda氏:
     実は,設立当初から「エンパイア・オブ・シン」の企画は存在していました。Paradox Interactiveにプレゼンテーションをしたのが2016年の半ばで,開発もそこから始まっています。
     Paradoxにアプローチをした理由は言わずもがなですよね。彼らはストラテジーゲームを作ってきた経験が豊富で,ゲームのロングテール化に長けたパブリッシャですから。

    4Gamer:
     日本ではいよいよPS4 / Nintendo Switch版がリリースされますが,もともとマルチプラットフォーム展開を予定していたのでしょうか。

    ジョン・ロメロ氏(以下,John氏):
     ええ。Paradoxと契約した当時からマルチプラットフォーム展開を念頭に置いていました。当初はPCやMac,PS4,Xbox One向けのリリースを計画しており,Nintendo Switchへの参入を決めたのは2017年3月のことです。
     現在,PCゲーム市場ではストラテジーが非常に盛んですが,その流れはコンシューマ機にも確実に浸透しつつあり,より多くのゲーマーに「エンパイア・オブ・シン」を楽しんでもらえると思います。

    4Gamer:
     今回の作品はブレンダさんが主導するプロジェクトですよね。

    John氏:
     ええ,ブレンダは禁酒法時代をテーマした作品のアイデアをずっと温めていたんです。私は今回,スタジオディレクターとしてプロデュースに関わり,ゲームデザイン面の支援やオーディオプログラミングも担当しています。

    4Gamer:
     ブレンダさんはSir-Tech在籍時,ストラテジーの名作「Jagged Alliance 2」の開発に携わっていますが,「エンパイア・オブ・シン」では当時のノウハウが活かされているのでしょうか。

    Brenda氏:
     そうですね,いいチームに参加させてもらえて幸運でした。過去に手がけた作品はすべて,私のキャリアとして蓄積されています。例えば「ウィザードリィ」シリーズで培ってきたRPGのノウハウも,「エンパイア・オブ・シン」には活かされていますよ。
     「エンパイア・オブ・シン」はまったく新しいジャンルのゲームではありませんが,さまざまなジャンルの良い部分を抽出して作りました。それに加えて,Paradoxのストラテジーは業界でも非常に個性的かつ高水準ですから,とくに経営/建設シムやリプレイアビリティの部分で参考にさせてもらっています。

    4Gamer:
     リプレイアビリティの部分について,もっと詳しく教えてください。

    Brenda氏:
     ゲームを開始するときには難度の設定だけでなく,地域と敵勢力の数を変更することが可能で(それぞれ最小3/最大10),さまざまなゲームプレイが楽しめるようになっています。
     例えば地域を3,敵勢力を10にすると,最初からごく限られた地域での抗争が勃発し,とてもカオスな状態になります。プレイヤーが巻き込まれることもあれば,あちこちの通りで敵同士が争っている光景も見られるでしょう。反対に地域を10,敵勢力を3にすると,じっくりと犯罪帝国の構築を楽しめます。

    画像集#011のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

    4Gamer:
     「エンパイア・オブ・シン」には14人のボスが登場しますが,最初はどのキャラクターを選ぶのがおすすめですか。

    Brenda氏:
     その答えは誰に聞くかで変わってくるでしょうね。とても難しい質問です(笑)。
     ぜひ全員を試して,好きなキャラクターを探してほしいと思います。開発チームでは毎週月曜日にテストプレイを行っているのですが,過去2週間の私の担当はマギー・ダイアーで,ムチを操る彼女の楽しさを再認識したところです。でも,もし1人しか選べないのであれば,私は開発初期からのお気に入りであるダニエル・マキー・ジャクソンですね。

    4Gamer:
     ジョンさんはいかかですか。

    John氏:
     フランク・ラーゲンアンジェロ・ジェンナも楽しいボスですが,己の拳を頼りに生きているフランキー・ドノヴァン,ワンショットで3人の敵をも倒せるゴールディー・ガノーはアクションゲームが好きな人におすすめしたいね。それぞれのボスに個性があって,さまざまなアビリティを用意しているので,すぐに好きなキャラクターが見つかると思いますよ。

    4Gamer:
     ボスの中にはアル・カポネのような実在の人物もいれば,架空のキャラクターもいますが,それぞれの個性はどのようにデザインしたのでしょうか。

    エルヴィラ・デュアーテ
    画像集#004のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー
    Brenda氏:
     もちろん,実在する人物であれば彼らの生き方に即したキャラクターにしつつ,さらに必要だと思う個性を当てはめていく形でした。ただ,架空のキャラクターであっても,例えばニューヨークやカリフォルニアで暗躍していた裏稼業の人物に着想を得たりしているので,必ずしもすべてが架空というわけでもありません。
     ちなみにエルヴィラ・デュアーテは,ジョンの祖母にあたる人物がモデルなんですよ。

    John氏:
     より正確には,僕の祖母の外見と,曾祖母の名前と性格を合わせたようなキャラクターですね。曾祖母がどんな仕事をしていてどういう人だったかはなんとなく覚えていたけど,キャラクターとしてデザインするにあたって,曾祖母や祖母の遺品,家族の記憶を繋ぎ合わせてエルヴィラを作り上げました。

    4Gamer:
     それは面白いですね。ブレンダさんも自身の家系をたどってみたのでしょうか。

    Brenda氏:
     ええ。ですが,私のほうはジョンに比べると大したトピックはありませんよ。私の一族はアメリカの国境に近いカナダの町に定着していたのですが,カナダでは禁酒法が存在しなかったのです。それで,祖父のパディ・ドノバンはセント・ローレンス川を渡ってニューヨークに酒を運んでいました。ジョンの祖母のような規模ではありませんでしたが,彼らもビジネスに関与していたようです(笑)。

    画像集#007のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー 画像集#008のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

    4Gamer:
     なかなかユニークなエピソードですね(笑)。
     ボスの個性も面白いのですが,自分の部下として雇用するギャングスターの存在も重要ですよね。私はなぜか,プレイするたびにマリアとブルーノを選んでしまうのですが,彼らによって独特のストーリーテリングが生まれていると思います。

    Brenda氏:
     私もほとんどのプレイでマリアをキープしますね。ギャングスターもストーリーを持っているので,誰を雇用するかによって,ゲームプレイが大きく変わることは確かです。
     「エンパイア・オブ・シン」の成功しているポイントとして,マリアとブルーノのように相性のいい部下を選んでもいいのですが,あえて相性の合わないキャラクターを選ぶことで,そこから起こるドタバタ劇が面白くなる点が挙げられます。

    画像集#013のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

    4Gamer:
     日本人にとって,禁酒法時代のアメリカはあまり馴染みがないものです。ゲームをプレイする前に観ておくといい映画があれば教えてください。

    Brenda氏:
     マフィア映画はたくさんありますが,やはり禁酒法時代をテーマにした映画と言えば「アンタッチャブル」でしょう。また,TVドラマシリーズですが「ピーキー・ブラインダーズ」(※日本ではNetflixが配信中)もおすすめです。舞台はイギリス・バーミンガムですが,アイルランド系ギャング一家の物語は参考になりますよ。


    今後のプロジェクト展開について


    4Gamer:
     それでは,今後のプロジェクト展開を教えてください。

    Brenda氏:
     近日中にバトルの自動モード機能を加える予定があります。シミュレーションやストラテジーの要素をじっくりと楽しみたい人に満足してもらえると思います。

    4Gamer:
     現在の開発チームはどのような規模なのでしょうか。

    Brenda氏:
     総勢33人ですね。

    4Gamer:
     「エンパイア・オブ・シン」の開発チームとして考えると,思っていたより小規模ですね。アイルランドの開発環境はどのようなものでしょうか。

    Brenda氏:
     非常にすばらしいですよ。アイルランドと言えば,IT業界では人材の宝庫として有名ですが,ゲームの開発チームも多くあります。例えばElectronic Artsは約400人のスタッフを抱えるスタジオを持っていますし,さまざまなインディー開発者も精力的に活動しています。
     我々はもともと,アイルランドにはフルブライト奨学金プログラムの調査チームとして赴任してきたのですが,Romero Gamesを設立したときも温かく迎えてくれました。

    画像集#015のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー 画像集#016のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー

    4Gamer:
     ずいぶん昔のことですが,ジョンさんは「ほかのスタジオから人材を奪いたくないから,新しい人材を確保してゲーム開発のイロハを教える」という持論を展開されてましたね(関連記事)。

    John氏:
     確かに,ずいぶん昔だ(笑)。1997年のことですね。
     現実的な話をすると,ゲーム業界は昔と比べて大きくなり,人材の移動も多くなりました。知り合いのツテをたどって履歴書が届くこともありますが,有能な人であればもちろん話を聞いてみたいですよね。我々のチームにはベテランも新人もいますが,非常に才能のあるゲーム開発者ばかりですよ。

    4Gamer:
     そう言えば,2017年にRomero Gamesからリリースされた「Gunman Taco Truck」はユニークでしたね。もともとは9歳の少年がデザインしたゲームだったんですから。

    John氏:
     僕の息子,ドノヴァン(Donovan)が作ったゲームだね(笑)。まだアメリカに住んでいたときから制作していたもので,とてもいいアイデアだからアイルランドに移住後,本格的に制作することにしました。
     Appleの「今週のゲーム」で「Gunman Taco Truck」がフィーチャーされて,ドノヴァン(当時14歳)のインタビューが掲載されたりしたんです。

    「Gunman Taco Truck」(Steamストアページより)
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    4Gamer:
     彼にとって,とても勇気づけられることだったでしょうね。ドノヴァンさんはRomero Gamesに在籍しているんですか。

    John氏:
     いやいや,まだ高校に通っています(笑)。「エンパイア・オブ・シン」ではQA(品質管理)を手伝ってもらっているけどね。

    4Gamer:
     最後になりますが,これから「エンパイア・オブ・シン」 をプレイする人にメッセージをお願いします。

    Brenda氏:
     先ほどもお話をしましたが,14人のボスやギャングスター,ゲームの設定などに応じて,ゲームプレイがさまざまに展開する作品です。いろいろな角度から,じっくりと楽しんでもらえると嬉しいですね。
     そして,プレイした感想をどんな形でも構いませんから,私達に届けてください。皆さんが意見を寄せてくれることで,「エンパイア・オブ・シン」はより良いものになっていきます。

    4Gamer:
     ありがとうございます。今後のプロジェクト展開に期待しています。

    画像集#010のサムネイル/「エンパイア・オブ・シン」発売直前。ゲーム業界の大ベテラン,ジョン・ロメロ氏&ブレンダ・ロメロ氏にインタビュー



     冒頭でお伝えしたとおり,PS4 / Nintendo Switch版「エンパイア・オブ・シン」はセガから2月25日にリリースされる予定だ。ストラテジーファンから根強い支持を受けるParadox Interactive,そしてベテラン開発者が率いるRomero Gamesとの豪華なパートナーシップによる本格派ストラテジーを,じっくりと味わってみてほしい。

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