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レトロンバーガー Order 45:「DAIKATANA」で失望されたって,おばあちゃんにトンプソン乱射させてニッコニコできるのが人生さ編
4Gamerは20周年を迎えることができました。おめでたいですね。
4Gamerは,20周年を迎えることができました
2000年8月18日にオープンした4Gamerは,おかげさまで20周年を迎えることができました。世界を取り巻く状況のせいで,やろうと思っていた記念イベントなども出来なくなってしまいましたが,ご挨拶だけさせてください。
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皆さんは20年前,何をされていたでしょうか。中学生だった筆者はゲーセンに入り浸って,当時の最新タイトルである「メタルスラッグ3」や「電脳戦機バーチャロン オラトリオ・タングラム M.S.B.S.Ver.5.66」に熱中したり,ちょっと前の「エスプレイド」「レイクライシス」「超鋼戦紀キカイオー」「クライシスゾーン」あたりをつまみ食いしていたりしました。あとゲーセンへ行くついでに投げ売りのセガサターン用ソフトを漁ったり,家に帰ったらドリームキャストの「ドリームパスポート3」でセガBBSに書き込みしていたりしました。いろいろと拗(こじ)らせたり狂わせたりしたのはもうちょっと後なので,まだ“ただのゲーム少年”でしたね。
2000年といえば,「ルーマニア#203」「レンタヒーローNo.1」「プリズマティカリゼーション」「青の6号 歳月不待人 -TIME AND TIME-」「ルームメイト井上涼子〜COMPLETE BOX〜」「デスクリムゾンOX」「アシュラバスター」「トラック狂走曲」「鈴木爆発」「建設重機喧嘩バトル ぶちギレ金剛!!」などなど,いろんな意味で思い出深いタイトルがたくさんあります。セガ派だったのでセガハードに寄ってはいますが,10本も挙げたのでラインナップ自体は広い範囲をカバーしているはずです。偏ってないですよ。
そんな4Gamerの誕生した2000年を彩るタイトルの数々から,今回は「John Romero's DAIKATANA」(以下,DAIKATANA)でやっていきましょう。いや偏ってないですよ。
Wait & See 〜リスク〜
「DAIKATANA」は,Ion Storm開発・Eidos Interactive発売で2000年5月23日にPC / ニンテンドウ64でリリースされたFPSです。FPSの金字塔「DOOM」を(John Carmack氏と共に)生み出したJohn Romero氏が贈る新規タイトルとして期待されていましたが,大いにズッコケたことでゲーム史に名を刻みました。ちなみに同タイトルのゲームボーイカラー用ソフトもありますが,ゲーム的にはほとんど別物です。
もともとの販売元であったEidos Interactiveは,スクウェア・エニックスによって2009年(当時の社名はEidos)に買収されて,Square Enix Europeとして再編されました。そのため,Steam版はSquare Enixが販売しています。ただし,日本からは購入できません(いわゆる,おま国ですね)。
でも,GOG.comなら日本からでも購入可能です。GOG.comのニュースページでは「DAIKATANA」の20周年記念記事が公開されていたりもしますね。あとは……ググっていたらSquare Enix Storeがヒットしたのですが……。
……買えました。
ちゃんとアクティベートできました。
「直販で買えばSteamのおま国を回避できる」……筆者はこれまでいろいろな回避策を試行錯誤してきましたが,なかなか衝撃的な方法です。
なんだか「おま国するなら,ちゃんとおま国しろよ!」という,不条理な憤りが沸き上がってきます。まあ,ちゃんとされたら「おま国すんなよ!」と言いますけど。ノーモアウォー,ノーモアクライ,ノーモアおま国,ノーモアヒーローズ。国境は俺達に何をくれた? 歪んだパズルは一度リセットするべきだ(ピクシー)。地球には国境などどこにもない。まして冷戦や東西の線引きなどどこにも無い(ザ・ボス)。世界平和とボタン戦争を願う(ボーステック),もしくは踊りで勝負(うらら),あるいは麻雀で勝負よ(ニチブツ)! そんな国境なきゲーミング軍隊によるゲーミング限定戦争のゲーミング武装平和こそ,現代のグローバルゲーミング時代に必要ではないでしょうか。何の話でしたっけ。
ちなみに日本向けのスクウェア・エニックス e-Storeでは,PS2用ソフト「ヘビーメタルサンダー」を定価で購入できたりします。「人生はゲームではない。ゲームが人生なのだ。永遠に終わらない闘いの世界,それがヘビーメタルサンダー。今,ゲームの歴史が,ある意味塗り替えられる!!(※ストアの紹介文より)」……うーん,買う。
そのほか「半熟英雄 対 3D」「グランディアIII」「聖剣伝説4」なども定価で販売中です。「デュープリズム」や「レーシングラグーン」だったら定価でも全然惜しくないと思ったものの,合併前のタイトルおよびPlayStationソフトは取り扱っていないようですね。
さよなら 大好きな人
盛大に脱線しましたが,改めて「DAIKATANA」をやっていきましょう。
主人公はHiro Miyamotoという,いかにもアメリカンヒーローなゴツいオッサンです。Hiroは「Hero」の捩りで,Miyamotoは任天堂の宮本 茂氏へのリスペクトから名付けられたそうです。
本作は発売当時,辛辣な評価を受けました。まずグラフィックスが冴えません。
1999年に「Unreal Tournament」や「System Shock 2」,2000年に「Deus Ex」や「Return to Castle Wolfenstein」,2001年に「Serious Sam: The First Encounter」や「Halo: Combat Evolved」と,本作の発売前後はFPSが進化の過渡期にあった時代でした。それに2000年3月にPS2が発売,Xboxが発表されて,風潮も「次世代イケイケGOGO!」の色合い。その中で「開発が長引いて,ちょっと前時代的なグラフィックスになりました」というのは,今以上に見劣りするものだったでしょう。
とはいえ,20年を経た今見ると,「20年くらい前ならこんなもんだよね」とも思えます。また,初期バージョンはロードが長いとか動作が重いとか言われていたそうですが,20年前のゲームなんて,いくら重いものでも今のPCならサクサクです。
また,敵を倒すことで経験値を得て主人公や近接武器・大刀がレベルアップするなど,RPG的な要素が盛り込まれています。これはタイムトラベルをテーマとしたシナリオと共に,ファンの間では「Romero氏が好きだと広言していた『クロノ・トリガー』の影響だろう」と言われています。
ですが,「成長要素を盛り込んだシューター(広義)」」というのは鬼門です。日本でも「頭脳戦艦ガル」「デスクリムゾン」「RXN-雷神-」など,アレなことになったケースが古くから近年まで散見されます。ゲームデザインに成功すれば「E.D.F.」「サイヴァリア」「カラス」のように“一味違う”テイストを演出できますが,「DAIKATANA」はその域に至りませんでした。
道中,仲間キャラクターが追随してくるシーンがありますが,そのAIはちょっと擁護できないレベルのダメっぷりです。道に迷う,地形に引っかかる,勝手に敵の目前へ突っ込む,しかも置いてけぼりにできないし,死なれると即ゲームオーバー。ファンメイドのパッチでは「仲間を消す」ものがあったり,ファンの評価では「仲間が少ないステージほど楽」というコメントがあったり,「でもSuperfly Johnsonはネタキャラとして笑える」と言われていたりします。
ただ「多彩なビッグガンで撃ちまくり,個性的なメレーウェポンで殴り倒し,そして敵の火砲が来たらサッと退く!」といった“Romeroイズム”は節々に感じられます。ゲームデザインは悪くないので,「うまく作られていたら,相当違うものになっただろうな……」という惜しさがあります。
ヘッドライト・テールライト
そんなわけで「DAIKATANA」のセールスはズッこけました。開発の失敗はもちろん,過激な広告も反感を買うばかりで,“売り逃げ”すら叶いませんでした。このあたりは「奥谷海人のAccess Accepted」のバックナンバーに詳しく書かれてありますね。
関連記事:奥谷海人のAccess Accepted / 第15回:あの時,“嵐の渦中”で起こっていたこと 〜 その1
関連記事:奥谷海人のAccess Accepted / 第18回:あの時,“嵐の渦中”で起こっていたこと 〜 その2
関連記事:奥谷海人のAccess Accepted / 第197回:疑問符を付けたくなる広報戦略
2005年の「Access Accepted」第18回で,奥谷氏は「ジョン・ロメロ氏が若くして栄光をつかみながらも,メディアやファンにスター扱いされ,そして手のひらを返したかのように失笑の的となり,そしてゲーム史の一幕へと消えていく」と述べました。当時は誰もが,Romero氏の輝かしいキャリアもこれで潰えたものだと思っていたでしょう。
実際,Romero氏の活動は低迷が長く続きます。Monkeystone Gamesを立ち上げてモバイルゲーム開発に注力したり,Midway Gamesの「Gauntlet: Seven Sorrows」に携わるも完成直前で退職したり,会長を務めていたCyberathlete Professional League(eスポーツ大会組織の草分け的存在)の競技FPS「Severity」に携わるも開発が頓挫したり,Gazillion Entertainmentを立ち上げてMarvelと10年間の独占ゲーム公開契約を締結し,傘下のSlipgate Ironworks(現存する同名のゲームスタジオとは別の組織)で制作に携わるも,「Marvel Super Hero Squad Online」がリリースされる直前に退職したり,2016年に行った「Blackroom」のKickstarterキャンペーンも開始後4日でキャンセルして結局再開しなかったり。
その一方で,Romero氏が妻(Brenda Romero氏)と設立したRomero Gamesは,それらとは違った角度から活動を始めました。同スタジオが2015年にリリースしたiOSアプリ「Dangerous Dave in the Deserted Pirate's Hideout」は,1990年にDOS向けにリリースされた同名タイトルをリメイクしたもの。「新しいこと」や「大ヒット」を目指すプロジェクトで低迷を見せていたRomero氏ですが,この「初心に立ち戻った」かつ「小規模な」ゲームでは好評を得ます。
2017年にリリースされたRomero Gamesの第2作「Gunman Taco Truck」(PC / Mac / iOS / Android)は,リメイクでなく新作ながら,これまた軽いテイスト。それでいてSteamレビューで「非常に好評」の評価を得ています。
孫
そんなRomero Gamesの最新作が,Paradox Interactiveから2020年秋に発売予定の「Empire of Sin」(PC / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch)です。同作は,マフィアが跳梁跋扈する禁酒法時代のアメリカを舞台にしたストラテジーゲーム。アル・カポネやダイオン・オバニオン,ステファニー・セント・クレアなど,実在したマフィアが多数登場します。
そんな暗黒街の面々に肩を並べるキャラクターが,パワフルおばあちゃん・Elvira Duarte! このキャラクターはRomero氏の曾祖母であるElvira Duarte Morales氏をモチーフとしたもの。Elvira氏は,メキシコのノガレス(同町はアメリカとメキシコの国境をまたいで存在している)で3軒の売春宿を20年ほど経営していたことがあり,裏社会での地位を築いていたようです。
しかもゲームキャラクターのElviraは,Romero氏の祖母であるSocorro Duarte Romero氏が外見的なモデルになっているとのこと。“Happy Mother’s Day”トレイラーで,Romero氏は「my grandmother holding a tommy gun and mowing down enemies, it was pretty awesome!(俺のおばあちゃんがトミーガン※で敵をなぎ倒して,そりゃあ超サイコーだったぜ!)」とニッコニコで述べています。Blenda Romero氏も,「髪の色がジョンとそっくりね!(意訳)」と嬉しそうです。
※いわゆるトンプソン・サブマシンガン。著名な使用者は,「バイオハザード4」のレオン・S・ケネディ,「メタルギアソリッド3 スネークイーター」のザ・ペイン,「アイドルマスターシンデレラガールズ」の[デモニックソルジャー・S]柳 清良,「アイドルマスターミリオンライブ!」の[静かに佇むクールビューティー]篠宮可憐など。
Paradox Interactiveは自社グループ開発の「Hearts of Iron」シリーズや「Europa Universalis」シリーズを主力製品としているので,「Empire of Sin」に看板タイトルとなることまでは期待しておらず,求めているのは“堅実な中継ぎ”といったところでしょう。ですが,ホームランバッターとなることを期待されてRomero氏が道を見失った「DAIKATANA」およびその後の活動と,Romero Games製のゲームやニッコニコしているRomero氏を見比べると,「プロジェクトはデカけりゃいいってもんじゃないよな」と感じられます。そう,大事なのは“らしさ”を貫ける環境かどうかです。
「DOOM」を生み出した功績から,誰もがRomero氏を「発明家」だと捉えていました。なので「もっと凄いもの,もっと新しいもの」を期待し,Romero氏自身も「もっとゲームを革新できる」と思っていたでしょう。ですが,Romero氏の気質は実際のところ「アーティスト」寄りだったのでしょう。言うなれば,歩き回って「新しいデザイン手法」を探すのが発明家,腰を据えて「新しいデザイン手法を用いた最適解」を探すのがアーティストです。
Romero氏が腰を据えて作ったゲームは,ゲーム自体がイキイキしているように感じられます。「Empire of Sin」はデモ版のリリースもまだですが,海外メディアによるgamescom 2019出展版のプレイレポートなどでは押しなべて高く評価されており,大いに期待できそうです。
NEO UNIVERSE
4Gamerが20年間続いてこれたのも,大小の変化や栄枯盛衰あるWebゲームメディア界隈で,“らしさ”のあるスタイルを貫けたからでしょう。読者の皆さん,これからも“らしさ”ある4Gamerにご期待ください。
……まあ,筆者はトラディショナルなスタイルを大して考慮せず,「超ゴジラ」とか「ZX Spectrum Next - Issue 2」とか載せちゃいますがね!
というか根本的に,“らしさ”とか個性とか言っても,「どこのメディアにも載って然るべき」的な情報は載せなきゃならないし,いささか品の無いネタでもネタとしてのバリューで記事が載ることだってあるし,結局のところ“テセウスの船”的な話で体制というのは首脳なり組織なりが入れ替わっても存続しうるものです。それに時勢も評価も流動的なので,らしくやったつもりが「らしくない」と言われることも,斬新を狙ったつもりが「らしい」と言われることもあります。
世の中は諸行無常のザ・カオス。それでも,もしくはそれゆえに,自らのセンスを磨き,それに基づいてドッカーンとやっていくのが重要なわけです。カオスに流されてしまえば生じるのは「DAIKATANA」。でも腰を据えれば曾祖母をバ美肉(ババアの美しきデジタル受肉)させてニッコニコ。「レイディアントシルバーガン」の希望的観測者も「世の中は移り変わってゆく……しかし,変わらないものが1つだけあるのだ」と述べていました。
だから,自分を信じることが大事!
(自分を信じて10回+1回スカウトのボタンを押す)
……そうそう,ちなみに筆者の母方の祖父は,花札の賭博にハマって家計を崩壊させたそうで,50歳前後で亡くなったのが不幸中の幸いと言われていました。なので,2000年発売のドリームキャスト版「サクラ大戦」でミニゲームの花札を遊んでいたとき,祖母によく苦言を呈されたものです。自分を過信せず,堅実に生きたほうがいい場合もありますね。あかよろし!
- 関連タイトル:
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