連載
レトロンバーガーOrder 34:見ざる,聞かざる,ボンバザル。サル蔓延の現代社会に「ボンバザル」で点々と花を咲かせにいこうぜ編
2020年2月,文藝春秋から「サル化する世界」(著:内田 樹)という書籍が刊行されて話題となりました。
この本では,目前の出来事について,背景にある歴史的文脈を鑑みず,現状の観察も今後の分析もできないため,「今が良ければそれで良い」と即物的・刹那的になり,近視眼的なビジョンに留まりがちな現代人を,朝三暮四の故事になぞらえて,それがもたらす倫理崩壊に警鐘を鳴らしています。実際,狭い範囲での合意に過ぎない事柄を普遍的な常識だと思いこんでいる人って少なくないですよね。例えば筆者の出身地である茨城県北部の童磔村では,花見にはバナナとアボカドの寿司を食べるのが常識ですが,一般的にはそんな寿司を出されても「何それ!?」となると思います。
調べたら集英社から2014年に「『サル化』する人間社会」,PHP研究所から2008年に「ウェブ人間退化論 - 『社会のIT化』は『サル化』への道!?」という本も出ていますし,たま(バンド)も1990年にピテカントロプスになる日も近づいたのでサルになるよサルになるよと歌っていますので,むしろ人間はサルってるのが基本なのではないでしょうか。「社会のサル化」というのは「●●っていつも死んでるな」や「××って毎年オワコンになってるな」みたいな,特定の視点から事象を見たことによる,一種のデマゴギーと言えるかもしれません。筆者が茨城出身とか,花見にバナナとアボカドの寿司を食べるとかなんて,デマどころか嘘ですし。でもバナナとアボカドの寿司は実在するんですよ。いやマジで,カリフォルニアロール的なやつ。
サルと言えば,ゲームには樽を投げて配管工を攻撃するサル(広義)や,ごく偶にUZIで援護してくれる捕虜のサル,バナナのために人を殺すサルなどがいますが,ゲーマーのサルもリアルで存在していたりします。アメリカ・ジョージア州立大学言語研究センターで飼育されているカンジは,「パックマン」のルールを理解してプレイできるサル(ボノボ)です。
オランダの歴史家であるヨハン・ホイジンガは,「文化は遊戯より発する」という主張のもと,“ホモ・ルーデンス(遊戯する人間)”という概念を提唱しました(コジマプロダクションが,シンボルキャラクターの名前をそこから取ったのも有名な話です)。遊戯と言っても,カンジ(や,夭逝した同研究所のパンバニーシャ)のゲームプレイは消費的なものに過ぎませんが,彼がスコアアタックやスピードランなどの概念まで理解して「パックマン」をさらに“遊ぶ”ことができたなら,言うなれば“パン・ルーデンス”としてサル独自のゲーム文化を創出できたかもしれません。
逆に言えば,消費的な“遊ぶ”ことだけに興じていたら,何も生み出されませんし,いずれ文化は擦り切れてしまうでしょう。“文化”と言うと大層なもののように感じるかもしれませんが,ゲーム市場に例えれば,新規性を欠いた低品質なタイトルが大量にリリースされることで市場が消費しつくされてアタリショックが起こった(実態については諸説ありますが)みたいな話です。
人類がサルってるのが基本だとしても,どちらかと言うと前頭葉が発達している方のサルなら,頭を使ってゲームをプレイすると,アレとかソレとか文化とかが創出されて,もっとゲームが楽しくなります(ちなみに最近の筆者は,RTA動画を観ることにハマっています)。頭を使わないサルは指笛を吹かれて大混乱&同士討ちですが,頭を使うサルはブロックを横に並べて消したり,ボールに入って転がったり,ゲッチュされたり,ロード中にお手玉したり,女体を走ってセーラー服を剥いだりするものです。
なんだかサルゲーム・カルトクイズの様相を呈してきましたが,そんなわけで今回は頭を使うサルなゲームでやっていきましょう。漫画「花さか天使テンテンくん」の「見ざる,聞かざる,ボンバザル」でおなじみ,「ボンバザル」です。まあ「ボンバザル」自体は,まったくサルとは無関係だけどな! 「さるかにハムぞう」は火力発電!(ちがうよ)
ボンバザル!(アオーサー!)
「ボンバザル」(北米ではKablooey)は,英・MirrorsoftのImage Worksレーベルから1988年にリリースされた,Amiga,Atari ST,Commodore 64向けのアクションパズルゲーム。1989年にMS-DOS版が発売されたのち,コトブキシステム(ケムコ)によって1990年に国内向けスーパーファミコン版,1992年にSuper NES(海外向けスーパーファミコン)版も発売されました。このスーパーファミコン版は,ハードの発売から10日後に発売された,スーパーファミコン初のサードパーティ製ソフトです。
しかし「旧世代(Atari ST enhancedやAmiga 3000が出る前!)のイギリス製PCゲーム」がお子様達の手に渡った結果は,ザ・阿鼻叫喚。「難度が高すぎる」「グラフィックが任天堂のゲームと比べて見劣りする」「キャラクターが気持ち悪い」と非難GO!GO!で,のちに「抱き合わせ商法やワゴンセールで常連のクソゲー」として認知されるようになってしまいます。ハード発売直後のブルーオーシャン状態にある市場へ,急いで大量のソフトを出荷したいというコトブキシステムの当時の思惑は察しますが……。スーパーファミコン版の発売直後に行われていたという「クリア不可能な構造のステージ数をハガキに書いて応募すると,景品がもらえる」といったキャンペーンに対し,巷では「バグ修正が間に合わなかったのをキャンペーンということにしたのでは?」という疑惑も囁かれていますが,真偽のほどは不明ながら事実だったとしても不思議はありません。
ただゲーム自体は,いわゆる“洋ゲー”らしい不親切さこそ節々にあるものの悪くない出来。Amiga / Atari ST版は当時のゲームメディアで高めの評価を得ていたそうです(当時における旧世代ハードだったCommodore 64版は芳しくない出来だったらしいですが)。
そう,ゲームが悪かったんじゃない。時代が変わっちまっただけなのさ……。
燃え立つような熱い爆弾(オゥイェー!)
ゲームのルールは,よくわからん一頭身の怪生物を操作して,フィールド上に存在する爆発物を全部除去すればステージクリアというもの。フィールド上にある赤い球体は爆弾で,怪生物が乗って起爆キー(標準設定はスペースキー)を押すと,3段階のカウントダウンが開始されます。中断せずにカウントを終了させて隣接したマスに移動すると爆弾が起爆。中サイズ・大サイズの爆弾を爆発させると逃げ切れず爆死確定なので,プレイヤーが自ら起爆させていいのは小サイズの爆弾だけ。ほかは誘爆で処理していきます。また,特定の地形に置かれている爆弾は起爆キーの短押しで持ち上げて運んだりもできます。
ただ爆発はフィールドの床タイルを破壊するので,考えなしに爆発させていくと,残った爆弾を処理できないということになりがちです。そのほか,一度乗り降りすると崩壊する床タイルあり,乗ると次のタイルまで強制移動の滑るパネルあり,ひとつのパネルで立ち止まっていると怪生物を跳ね飛ばすオブジェクトが発生するペナルティあり……。プレイフィールを一言で表せば,「『倉庫番』みたいな手順系パズルゲームの,すっげー複雑なやつ」といったところです。
実に頭を使う! サルには解けん! これはプレイしていると文化が生じるかもしれない! 気のせいかもしれない!
明日を見捨ててないと心が叫びたがってるんだ
Throwback Entertainmentは,その名の通りレトロゲーム復古を積極的に行っているパブリッシャです。日本だとハムスターみたいな立ち位置でしょうか。Mirrorsoftのタイトルは「ボンバザル」のほか,「Interphase」や「Blade Warrior」,「Bloodwych」などを販売中。これらのタイトルに「わあ懐かしい!」となる日本人はフランソワルトン(絶滅危惧種のサル)並に希少かと思いますが,「ああ,なるほど。これが1980年代のPCゲームか……」とひたってみるのもオツなものです。
ちなみに日本人にも懐かしい(かもしれない)タイトルとしては,アクレイムジャパンから1999年に発売されたニンテンドウ64用ソフト「エクストリームG2」などが販売されています。
Throwback Entertainment公式サイト
Throwback Entertainmentのmirrorsoftブランド特設サイト
- 関連タイトル:
Bombuzal
- この記事のURL: