イベント
[TGS 2019]「三國志14」のプロデューサーに話を聞いた。ナンバリングタイトル最新作が目指した新たな「三國志」の世界とは
さまざまに新たなチャレンジが行われる「三國志」シリーズだが,最新作はどのようなゲームを目指して作られているのか。プロデューサーである越後谷和広氏にTGS 2019会場で聞いた。
「三國志14」公式サイト
三國志9,11の完成形としての14
4Gamer:
まず最初に,従来の「三國志」シリーズファンにとって「三國志14」はここがウリだ! というポイントを教えてください。
越後谷和広氏(以下,越後谷氏):
「三國志14」は,これまでのシリーズで言いますと「三國志9」と「三國志11」の1枚マップシステムを受け継ぐ作品になっています。また9では同時プロットというシステムを採用していましたが,14はこれをさらに進化させました。
ですので,イメージとしては,9が11になって,さらに14という完成形になったと考えてもらうのが良いのかなと思います。
4Gamer:
なるほど。確かに「三國志12」と「三國志13」は,11とは異なるシステムでした。
越後谷:
また11は2006年の作品で,それから今日まで世界中でさまざまなストラテジーゲームが開発されてきました。そうした作品をプレイしたり,研究したりしてきた中で,最新のトレンドやシステムなどを把握して,9と11という基礎に編み込んでいます。
もちろん,過去作品の反省点も踏まえていて,例えばマップの大きさも,「11ではこうだったから,14ではこうしよう」といった形で,11をひとつの比較対象として利用しているところがあります。
4Gamer:
14は1枚マップがヘックスで表現されていますが,これに限らず,システムにどこかアナログのウォーゲームの雰囲気を感じます。「ユニットが移動したあとは一種の占領状態となり,それが兵站線となる」といった概念は,アナログのウォーゲーマーにとってなじみ深いのですが,制作スタッフの中にファンがいらっしゃるのでしょうか。
越後谷:
実を言うと,ヘックスを使う判断については社内でも賛否両論がありました。
否定的な意見では,「ヘックスを使うと古めかしく見えるんじゃないか」「今風の表現ではない」といったあたりが有力でしたね。
ただ,だからといってヘックス=悪というわけではないと考えました。古めかしく見えるのも,ヘックスがある意味でシミュレーションゲームを象徴する記号になっている面が強いのだろうな,と思います。
4Gamer:
確かにアナログのウォーゲームの傑作は,全体的にヘックスマップを用いたものが多いですね。
越後谷:
そういう懐かしさが,古めかしさを感じさせることはあるのかもしれませんが,ただ,本当に今のプレイヤーにとってヘックスが「懐かしい」のかというと,これもまた疑問ですよね。
4Gamer:
はい。PCでは「Civilization」シリーズが5からヘックスを採用していますし,そもそも10代〜20代のプレイヤーにとって「Civilization V」が生まれて初めて見たヘックスマップだ……というケースもあるかと思います。ギリギリ,「カタンの開拓者たち」で見たことがある程度ですかね。
越後谷:
そうなんです。ですので,いわゆる「ヘックスアレルギー」的なものはもうないだろう,と判断しました。まあ実際のところ,11も構造的にはヘックスですしね。こうしたことを総合的に勘案して,今回はストレートに,悪びれずにヘックスで勝負することにしました。
4Gamer:
そもそも「三國志」シリーズの初期は,戦闘がかなり大きなヘックスマップ上で戦われていました。
越後谷:
ですね。そういう点からは,「14は初代に対するリスペクト」という側面も持っています。ヘックスマップっていいものだよね,という(笑)。実際,六角形は平面を同一正多角形で埋め尽くすにあたって最も頂点数の多い形ですから,マップにマス目を引くゲームとしては最も細かい表現が可能なんです。その感覚をプレイヤーに体験してほしい,という思いはあります。
あくまでも戦略級のゲームとして
4Gamer:
初代のリスペクトということですが,これまでの発表会などでは「マップに色を塗る楽しさ」が語られてきました。これはTGS 2019の試遊でも実際に感じたことです。「マップを自分の国の色で塗る」ということが楽しいのは,おそらく多くのストラテジーゲームのプレイヤーが感じていることかと思います。しかしその反面で「色塗り」は「めんどくさい」という側面もあります。
この点について,14ではどのような解決法を用意されているのでしょうか。
越後谷:
TGS 2019のバージョンは,「まだ少勢力でしかない時代の,戦闘に特化したデモ」となっています。ですがゲームが先に進み,より地位が高くなり,勢力の規模が大きくなると,大勢力ならではのコマンドを選べるようになります。これにより,デモ版のように小さなヘックスを塗っていくのではなく,より大所高所からの「色塗り」が可能になります。
4Gamer:
立場によって変わるわけですね。
越後谷:
そうです。また,色塗りというシステムそのものも,どちらかというと兵站をうまく表現したいという思いが根底にありました。例えば第一次北伐では,戦略的なルートが2つありました。1つは諸葛亮が提示した安全策。もう1つが,魏延が提案した長安を直撃するルートです。いずれもメリットとデメリットがあるプランです。
この「メリットとデメリット」を表現するためには,兵站の概念をきちんとゲームに実装しなくてはなりません。
4Gamer:
なるほど。
越後谷:
ちょっと話がズレてしまいますが,第一次北伐にはもう1つ,三國志を軍事的に考えるときに重要になるエピソードがあるとも思っています。それが,馬謖の失敗ですね。
4Gamer:
泣いて馬謖を斬る,の街亭の戦いですね。
越後谷:
あの逸話が興味深いのは,北伐という枠組みと,それを迎撃する魏という視点では諸葛亮のプランは優れたものでした。いわば,戦略的には優勢だったと言って良いと思います。
ですが,各方面の戦闘の結果と,そして街亭の戦いでの決定的な戦術的敗北が,諸葛亮の作った戦略的優勢を壊してしまった。
4Gamer:
古代の戦いにはありがちですが,「戦略的優位が戦術的敗北によって覆る」というパターンとして考えられると。
越後谷:
ああいう,正しく巨大な戦略が,戦術的敗北によってネジが狂い,全体が総崩れになってしまうというのも,14を作っていく中で実現したいことの1つだったんです。
4Gamer:
それは非常に興味深いです。
越後谷:
同じような状況は官渡の戦いでも見られると思います。官渡の戦いも,大枠で見れば袁紹の戦略は正しかったと思うんです。でも,勝ったのは曹操なわけでして。
4Gamer:
官渡も兵站が重要になった戦いだった,と言われます。
越後谷:
あとは,個々の武将の力の差ですかね。やはり古い時代の戦いでは,まだまだ個の能力で戦いの趨勢が変わっていたんだなと感じます。
とはいえ,やはり「三國志」シリーズは戦略級ですので,あまり戦術に偏らせてしまうとゲームのコンセプトが壊れてしまいます。ゲームを始めた直後は戦術の妙を楽しんで,最終的には戦略級の楽しさが満喫できる。そこは崩したくなかったですね。
4Gamer:
「三國志」が戦略級のストラテジーだというのは,誰にも否定できないと思います。
越後谷:
実を言いますと,デモ版に見られる色塗りを,もっと突き詰めたらいいのではないかという意見も出たんです。
4Gamer:
確かに。それくらい,デモ版の戦闘システムは楽しいものでした。
越後谷:
でもやっぱりその方向って,別のゲームにならざるを得ないんですよね。
4Gamer:
三國志は戦略級のシミュレーションである,というところから外れてしまうわけですね。
越後谷:
ですから,戦術級として面白いという部分を捨ててしまうのではなく,これはこれで別のゲームとして突き詰めれば良いのではないかとも感じています。なにもそれをナンバリングタイトルにする必要はないよね,と。
ナンバリングタイトルは戦略級のゲームであり,ゲームの目的は天下統一である。ここは14でも守っています。
兵站の重要性を強調したゲームシステム
4Gamer:
戦闘システムまわりの話ですが,実を言いますと最初に概要を聞いたとき,「これはちょっと現代戦に寄ったシステムなのでは」と感じました。ですが,実際に遊んでみると想像以上に「三國志っぽい」と。
私は戦線正面を夏侯惇らで支え,曹操が指揮する主力を北方から延翼させて敵本拠地を叩くというプランで戦ってみたんですが,敵の小規模な部隊に曹操軍の兵站を切られて攻勢が破綻するという展開になりました。なるほど,「側面は敵に心配させておけ」をやるには兵力不足だったな,と。
そのうえで「なるほど」感が高かったのは,兵站を切られたときのペナルティの大きさです。
日本のウォーゲームの父である鈴木銀一郎氏は「ウォーゲームのデザインの妙は,何を誇張し,何を省略するかにある」と語っていますが,14の兵站システムには非常に良い誇張と省略がなされているように感じられました。
越後谷:
ありがとうございます。実際,兵站はとくにシビアに見たほうが古代の戦いらしいと考えたところはあります。昔は輸送には陸路しかなかったし,運送能力にも限界があったわけですから。ですので,「兵站線が維持できているかどうか」は死活問題として表現しています。
4Gamer:
兵站ルールによって発生する戦闘のアヤも,かなり楽しめそうです。
越後谷:
誰かが突出しないと敵の兵站線を切れないんですが,突出すれば,当然それはその部隊の兵站線が切られるリスクになります。これは敵の攻撃に対しても同じことが言え,リスクとチャンスが一体化しているんです。
プレイヤーは「どこでリスクを負うか,どこから攻め手を伸ばしていくか」ということを真剣に考えねばなりません。あるいはうまく敵軍をおびき寄せて兵站線を切る,といった選択肢もあり得ます。
こういった選択肢の幅と展開が,はさみ将棋を連想させますね。
4Gamer:
しかし,戦術的なオプションの多さは,AIのハンドルが大変になるということでもあると思います。また,君主の個性が戦術に反映されるのかというところも気になるのですが。
越後谷:
現状,AIは一本化されています。ですが,君主は,パラメータなどによって,かなり高いレベルで得意,不得意が発生します。ですから,こちらが同じ行動をとっても結果が変わり,そして,その結果が次のAIの判断に影響を及ぼします。
またAIは,成功したらそれを伸ばし,失敗したらそれを補うように動きますので,これによってもまた判断の個性がより深まっていきます。加えて,プレイヤーがどう行動したかも参照されますので,AIのふるまいは毎回,まるで違ったものになります。
4Gamer:
プレイを通じて行動様式が変化するというのは,とても興味深いです。
越後谷:
「複数勢力の間で選択が連鎖する」といった様子を想像してもらうのが良いかなと思います。誰かの行動が,ほかの勢力の判断に影響し,それによって発生した行動が,さらに遠くの勢力の行動に影響する。
例えばA,B,C,D,Eという5つの国がこの順番で北から南に並んでいるとします。BがAに攻撃すると,CはBの背後を襲おうとする。そうなるとDはCとEを比較し,「今はEを食い荒らそう」と判断する。こんな感じで,行動が連鎖していくんです。これは一枚マップというシステムが持つ特徴とも言えますね。
4Gamer:
そうなると,外交もまた大事になってくるわけですね。
越後谷:
そうです。攻撃正面以外の勢力と一時的に手を組むもよし,あるいは計略を用いて混乱させ,混乱が収まらないうちに本来の攻撃対象を攻略してしまうもよし,です。
でも,外交の方針や成果にも君主の影響が及びますから,常に「こうすればこうなる」とは言い切れません。
4Gamer:
外交について,もう少し詳しく教えてください。
戦略級のPCゲームで外交となりますと,しばしば結果がオール・オア・ナッシングになりがちで,だんだん無意味なコマンドになるような感覚を抱くことがあります。「ああもう,絶対に同盟は結べないんだな」みたいな。この点について,14のバランスはどうなっているのでしょうか。
越後谷:
14の外交は友好度ベースで行われる,比較的素直なものです。極論を言えば,「他国との友好度をうまく調整していきましょうね」という考え方ですね。
ただ,外交のゴールが少し違います。14では同盟にしても敵対にしても,永続しません。武将個人の関係性として「絶対に相容れない」といったことは起きますが,そういうケースを除けば,ずっと同じ関係が続いていくといったことは起きません。
大事なのは,周辺国とうまくやっていくことなんです。同盟はゴールではなく,「敵ではない」状態を維持するのがとても大事になっています。
4Gamer:
いわゆる,パブリック・エネミーになってしまうのが最悪であるわけですね。
越後谷:
そのとおりです。周囲から袋叩きにされる状況は最悪ですので,これだけは回避する必要があります。
そのうえで,攻撃正面を見定めて,その相手と戦っている間に別方向から仕掛けられないように根回しをしておく。あるいは遠交近攻の原則に従って,隣国のさらに隣の国と結んだり,その2国間の関係を悪化させて戦争に突入させ,そのスキをついて自分は本来の目標としていた国を攻める。そういった外交手腕が問われます。
「数は力」をどう活かすか
4Gamer:
なるほど。もう1つ,外交とセットで内政についても教えてください。14の内政システムはどのような感じになるのでしょうか。
越後谷:
14はやや戦争に注力したバランスになっていますので,内政はシンプルなシステムです。具体的には,府の単位で将軍を割り振っていくという感じですね。もちろん,能力が適合する将軍を置けば高い能力を発揮してくれますが,フィットしていなかったとしても,担当がいないよりは良い結果が出ます。
4Gamer:
イメージ的には12に近い感じでしょうか。そうなってくると,配下の武将の質もさることながら,数が重要になりますね。
越後谷:
実はそれが14のポイントの1つで,武将の質と数は本作の大きなカギになってくるんです。例えば,戦闘では武に優れた武将がいれば敵陣を突破できます。でも,質で負けていても武将の数があれば,突破されたあとで敵軍後背を襲って兵站を切ってしまうことが容易になります。
4Gamer:
兵站を切るのは,要は移動するだけですから,そこまで武将の質は問われないんですね。
越後谷:
一方,曹操は配下の質も数も素晴らしいものがありますが,さまざまな強豪に囲まれた状態でスタートするのが大きな課題になります。とはいえ,武将の質と数の両方が揃っている状況はとても有利ですので,初めてプレイする人でもかなり楽しめると思いますよ。
4Gamer:
なるほど。基本的には「数は力」というわけですね。
越後谷:
そうです。配下武将の数と質によって,戦略の基礎が成り立つというのが14の基本にありますから,敵国から武将を引き抜くような行動には,これまでにない価値が発生します。やろうと思えば,都市単位で引き抜くことも可能ですし。
4Gamer:
なるほど。引き抜き工作がこれまでになく嫌な効果を発揮しそうで,これは楽しみです。
では最後になりますが,これから発売に向けての開発状況と,ユーザーからのフィードバックなどについて教えてください。
越後谷:
現在,ゲームとしてはほぼ仕上がりつつあり,最終的なデバッグに入っているところです。
またTGS 2019では,「プレイデータ収集版」としてテストプレイをプレイヤーにお願いしていますが,これは,製品発売後にもセーブデータを送付してもらう形で継続したいと考えています。
とくにAIのアップデートについては,リリース後も継続的に行う予定です。やはり,どうしてもAIが妙な行動をとってしまう状況の発生が予想されますので,セーブデータを送ってもらえれば大変ありがたいです。
4Gamer:
ファンとしても,より面白いゲームの完成を手伝えるのは嬉しいことだと思います。本日はどうもありがとうございました。
「東京ゲームショウ2019」公式サイト
4Gamer「東京ゲームショウ2019」特設ページ
キーワード
(C)コーエーテクモゲームス All rights reserved.
(C)コーエーテクモゲームス All rights reserved.