プレイレポート
「Destroy All Humans!」プレイレポート。伝説のカルトゲームが,より爽快に,遊びやすくなって復活
個性的なゲームを好む人ならご存知かもしれないが,「デストロイ オール ヒューマンズ!」の翻訳はいい意味でブッ飛んでいた。元の設定が“凶悪な宇宙人がDNAを採集するため,地球人を殺して脳を奪い取る”という残虐性の高い内容であったため,ゲーム内のセリフをそのまま訳して使用することができず,その表現を和らげるため“お馬鹿な宇宙人が,地球人からエンドルフィンを奪う”といった設定に変更し,コメディタッチでかなりおバカなセリフへと変更されたのだ。
この翻訳に携わったのがSF作家の山本 弘氏や,戦記作家の故・佐藤大輔氏といったマニア中のマニアたち。アニメや特撮,オカルトといったサブカルネタを山盛りにした台詞は抱腹絶倒の仕上がりで,好事家の間で伝説となった。
ただ本作は,同名の原版である「Destroy All Humans!」をリメイクしたものであり,ゲームのノリが大きく違っている。“地球人の頭を砕いて脳みそを飛び出させる”という原版の残虐描写を解禁したうえ,ストーリーも旧日本語版ではなく,原版通りのものとなっている。
つまり,主人公の宇宙人「クリプト137」(以下,クリプト)も,「デストロイ オール ヒューマンズ!」で山口勝平氏が演じた悪ガキではなく,地球人を「猿」と呼んで憚らない,ハードボイルドで凶暴なキャラクターへと戻されているのである。
言い換えれば,原作準拠の無修正版を日本語字幕で遊べるリメイクが,本稿で紹介する「Destroy All Humans!」というわけだ。
今回のリメイクでは,グラフィックスとゲームシステムの両方に改良が加えられている。グラフィックスはより美しくなっているし,ゲームシステムについては,2020年のゲームとして遊びやすさを追求しており,旧版で気になっていた部分はほぼ解消されているといってもいいだろう。改良点は後述するとして,まずは本作のプレイフィールを紹介していこう。
「Destroy All Humans!」公式サイト
超能力を駆使し,諜報活動をこなせ
地球に赴き,上司であるポックスの司令に従って任務をこなしていくことになるクリプト。どんな時でも,円盤で町を丸焼きにしていきたいところだが,任務内容によっては“地球人に見つかってはならない”必要性も発生する。ただ,宇宙人のクリプトが町へ行けば,もちろん大騒ぎが起こるわけで,それによって上昇する警戒レベルが一定値になると,最終的には警察や軍隊がやってきてクリプトを追い回すようになってしまうのだ。
最終的には戦車や戦闘ロボットに追い回されてしまう |
そんな時に役に立つのが超能力の「ホロボブ」。地球人の姿をコピーすることが可能で,エネルギー切れを起こさない限り,騒ぎを起こすことなく町中を歩き回れる。中には軍隊が警備している場所もあるのだが,そんな時は軍人の姿を借りればいい。ものものしい警備の中を堂々と歩き回るのはちょっと妙な感覚だ。
ホロボブのエネルギーは,地球人を「コーテックススキャン」することで補充できる。この時に対象の思考も読み取ってしまうのだが,なぜかみんな非常に能天気な人々ばかりなのである。
戦後の経済復興で華やかな消費文化が花開き,都市の郊外化が進んで広い家を持てるようになったという豊かな時代ということもあってか,考えているのはご近所のゴシップや買い物,上司への不満,不倫に逢い引き……と実に小市民的。中には“生活が安定しているが故に退屈を感じている”なんて贅沢なケースもあり,現代とは大きな違いが感じられる。
敵の真っ只中でホロボブのエネルギーを補充するためには,次から次へと人間をコーテックススキャンする必要があるのだが,こんなお気楽な思考を山ほど読み取っていると,いつのまにか地球人を猿と呼ぶクリプトに感情移入できるのだから不思議なものだ。
リンカーン記念堂で立ち小便をする,罰当たりな科学者の姿を「ホロボブ」でコピー |
警察関係者の姿になれば,警備されているところにも忍び込める |
女性にも化けることができる |
便利なホロボブだが万能ではない。変装を目撃されないような場所で使わないと見破られるし,地球人の中には宇宙からの侵略に対抗する「マジェスティック」という黒服の男たちがいるからだ。
マジェスティックたちはホロボブを妨害するフィールドを張っており,うかつに踏み込むとエネルギーが急激に減少し,変装が解けてしまう。こうなると戦闘は避けられないし,任務によってはその場で即座に失敗になるのだから厄介だ。
彼らを避けて通るのもいいが,地球人を洗脳して味方に付ける「フォロー」を使うのも面白い。民間人ならクリプトに付いてくるだけだが,武装している者なら一緒に戦ってくれる。周囲を巻き込むバズーカを持った軍人や,謎の銃で広範囲を攻撃できるマジェスティックを狙って洗脳し,連携して戦うのも楽しいだろう。
「フォロー」の洗脳は地球人を味方にできる。特に武装した軍人やマジェスティックは戦闘力が高い |
秘密裏に任務を遂行する際は,地球人に「ディストラクト」を使うのも一つの手だ。ディストラクトされた相手は突然ダンスをはじめ,周囲の注目を引いてくれる。
今なら「YouTubeの動画を自撮りしてるんだろう」と大して驚きもしないが,なにせ1957年だけに皆が食いつくように見入るのだ。その間にこっそりとそばを通り抜けたり,ホロボブで変装してやろう。年齢・性別ごとに違うダンスが用意されているので,色々な人に試してみるのも楽しいのである。
なお,旧作ではミッションをクリアした後,マップを歩き回ってDNAをためないと次のミッションへ進めなかったが,本作ではこうした手間は掛からない。次々と新しいミッションが出てくるので,止め時を見失ってしまう。
怪光線で焼き尽くし,念力で脳みそを引っこ抜く。宇宙人ならではのバトル
地球人に変装して情報収集や秘密工作をこなした後は,バトルの時間。堂々と姿を現し,大昔のSF映画にあるような怪光線「ザップ・O・マティック」や,食らった相手が骨になってしまう「分解光線」,爆発を起こす「イオンデトネイター」,相手の尻からケーブルを突っ込んで脳みそを引きずり出す「アナルプローブ」といった武器。そして念力で頭を砕く「脳抽出」を使い,地球人どもを叩きのめしてやろう。
尻からケーブルを突っ込む「アナルプローブ」。旧日本語版では「イチジクビーム」という名前だった |
こうしたハイテク武器に加え,ジェットパックでの飛行や,地面を高速滑走する新装備「S.K.A.T.E.」を駆使すれば,警戒レベルが最高になってもそうそうやられることはない。最終的には無数の兵士や戦車,戦闘ロボットが襲いかかってくるが,危険になったらその場を離脱してシールドを回復するヒットアンドアウェイで戦おう。
武器や超能力のアップグレード数は,本作では66個と旧作の18個から3倍以上に増えており,クリプトを著しくパワーアップさせることができる。
例えば旧作ではアップグレードが出来なかったアナルプローブ。突っ込んだ相手に継続的にダメージを与える上,体力が尽きると頭を爆発させて脳みそを手に入れられる強力な武器だが,本作では「ケツ圧アンプリファイアー」「ケツ圧マキシマイザー」といった複数のアップグレードでダメージを大幅アップさせられるうえ,「直腸パッケージャー・シュプリーム」で複数発を同時発射できるようになり,「センチペダル・プロビュレーター」を取れば頭が爆発する効果が周囲の地球人に波及するようになる。
要はぶち込めば一気に相手を仕留められるうえ,周囲の敵の頭も破裂するのだからとんでもない。脳みそを取れば,通貨となる「DNA」が手に入り,シールドの回復速度が上がるのだから,実用性も兼ね備えているのだ。危なくなったら,とりあえず敵2体にアナルプローブを撃ち込んでジェットパックで逃げ回り,脳みそを取って回復するという手で粘り強く戦える。
アナルプローブを強化すれば,敵を倒した際に頭が爆発する効果が周囲に波及。次々と敵が倒れて脳みそが手に入る |
脳抽出の効果が周囲の敵に伝染するだけでなく,脳抽出が進むと洗脳効果も発動するといった,恐ろしいアップグレードも新設されている。
洗脳された兵士たちは,頭が破裂するまで味方を攻撃し続けるのだが,アップグレードによってその効果が伝染して別の敵が洗脳されて同士討ちが延々と続く形になるのである。フルパワーアップすると,クリプトの周囲は地獄絵図のようになるのだが,コメディタッチの強い作品のため,あまりゴアは感じられないようになっている。どっちかというと爽快な気分になるので,ガツガツと脳を拾ってDNAをため,どんどんアップグレードを進めていこう。
相手の頭を砕いて脳みそを取り出す「脳抽出」をアップグレード。1体の敵に脳抽出をかければ,周囲の敵にも影響が及ぶ。また,脳抽出が進行すると洗脳の効果も付与されるようになり,こちらも周囲の敵に影響を及ぼすようになる。結果として,クリプトを守る洗脳地球人の部隊が完成するが,やがては脳抽出が進行して次々と頭が破裂していく |
今回は脳抽出やフォローといった超能力を使うためのゲージが撤廃されて無制限になったうえ,武器も併用できるので,バトルの自由度がアップしている。
多くの敵が来たら,稲妻が複数目標を貫くザップ・O・マティックで攻撃しつつ,同時にフォローで洗脳を試みるような組み合わせも可能。痛めつけながら味方になるようにはたらきかけるのはなんとも矛盾しているが,敵が死ぬまでに洗脳できればそのまま味方にすればいいし,そうでなくてもザップ・O・マティックが敵を仕留めてくれる。
洗脳された敵もHPがかなり減っているため,長くは持たないのだが,次を探せばいいだけの話で,凶暴宇宙人らしい残虐な戦闘を繰り広げることができるのだ。
また,アナルプローブを打ち込みつつ脳抽出をかければ,効率よく脳みそを取り出せる。念力で脳みそを上へ引っ張りつつ,尻から入ってきたアナルプローブが下から引っ張るのでは,かえって効率は良くないような気もするが,こちらも本作ならではの笑えて非道な戦法といえるだろう。
任務中には円盤に乗り込むこともできる。円盤は並みの攻撃ではびくともしないうえ,敵を焼き尽くす「殺人光線」,攻撃範囲が広めの「ソニックブーム」,大爆発を起こす「量子デコンストラクター」など装備も充実。建物が次々と吹っ飛ぶ様はまるでSF映画のようで,ゴシップや逢い引きで頭がいっぱいの“猿”どもの町を瓦礫にするのはとても爽快だ。
ゲームを進めれば,オープンワールドのマップを任務なしで自由に歩き回ることができる。人間を襲ってDNAをためるもよし,とりあえず町を破壊してスッキリするもよし,歩き回って隠しアイテムの「プローブ」を探索するのもいいだろう。
また,マップのあちこちにはアクティビティが用意されている。逃げるプローブをジェットパックで追いかけたり,移動するエリアに指定された品物を納品したり,制限時間内に地球人どもを倒したりと,その内容は様々。好成績を修めるとDNAが手に入るため,アップグレードの資金集め活用できるのだ。
武器と超能力の併用,増えたアップグレードによるパワーアップ,S.K.A.T.E.による迅速なマップ移動,超能力ゲージの撤廃……と,強大な力を持つクリプトで大暴れできるような様々な変更が行われている本作だが,プレイして見ると,旧作の仕様とプレイヤーの反応をしっかりと理解したうえで,2020年のゲームとして楽しめるものへと成長を遂げたという印象だ。
最終ボス戦などは「クリプトと最終ボスが生身で戦う」というコンセプトはそのままに,現代のゲームっぽい猛烈な攻撃や,旧版のマップの雰囲気を活かした新たなステージギミックが追加されている。また,新規ミッションの「エリア42」編も,旧作の開発スタジオから資料を回収して作ったとうことで,こちらも旧版へのリスペクトが感じられる。
最終ボスは無数の弾幕をばらまく猛烈な攻撃をしてくる |
「エリア42」編は,砂漠の秘密基地を舞台にしたミッションが展開 |
物語は,カリカチュアされた1957年を宇宙人の視点から見ることで,当時の世相を理解するというブラックユーモア的な要素が高く,中でも「アカ」(共産主義者)絡みの描写に,こうしたスタンスが現れている。
ゲームの舞台は東西冷戦が激しい1957年であり,出てくるアメリカ人たちは何かというとアカを罵り,悪いことをすべてアカのせいにする。政治的・歴史的描写に対してセンシティブになっている2020年ではあるものの,こうした部分をうまく笑いに昇華させつつ表現しているのは,シリーズのファンにとっては喜ばしいところだろう。
本作の民衆たちを脅かすのは,クリプトばかりではない。彼らを統治する政府もまた,邪悪な陰謀を企んでいる。恐ろしいのは情報操作だ。クリプトが事件を起こしても,宇宙人の存在を隠蔽したい政府はこれを偽ニュースにすり替える。
エリア42で核爆弾を破壊した時などは「軍旗工場」の事故とされ,放射性物質が飛び散ったのを「星条旗がアメリカの栄光を国民に浴びせかける」などと笑い話にしているのだからゾッとする。加えて,サブリミナルで国民を洗脳しようとしたり,ファストフードに攻撃性を上げる薬を混ぜたりもしているのだから,クリプトと政府のどっちが悪なのか分からなくなってくる。
ファストフードに薬を混ぜ,国民の攻撃性を高める陰謀も進行中。責任者は良心の呵責を覚えるどころかノリノリだ |
このように,本作は旧版の良さを引き継ぎ,より派手で爽快なプレイを楽しめるリメイクとなっている。旧版を遊んだ人も,そうでない人も楽しめるだろう。
個人的には,本作と旧版のカットシーンを見比べて,旧版のローカライズスタッフがいかに丁寧な仕事をしているかにも注目してほしい。例えば,オープニングにはクリプトが指を2本立てるシーンがある。本来は,怒りに燃えるクリプトが“熟考するか,行動を起こすかという2つの選択肢があるが,オレは2つ目の行動する方を選ぶぜ”的な意味合いで指を立てているのだが,旧版では“お小遣いを2倍にしてくれ!”とおねだりする台詞になっていたりする。
ムービーを作り直せない中,ゲームをコミカルにして残虐性を薄めるべく工夫したというわけで,海外ゲームのローカライズが重要になっている現代だからこそ,改めて評価されるべき仕事といえるだろう。
念のために付け加えておくと,筆者は今回のローカライズを否定しているわけではない。旧版のローカライズがある種の奇跡であり,今回のリメイクにしっかり日本語字幕がついていることについては感謝する以外の選択肢はないと考えている。
旧版とリメイクのノリが違うことについては,旧版に携わった小堤正人氏と山口勝平さんによる日本オリジナル動画を作り,「日本だけクリプトの偽物が出没していた」という形で説明している(関連記事)のだから,これは思い入れとリスペクトがなせる技だろう。
なお,海外では続編やモバイル版といった5作品が「Destroy All Humans!」シリーズとしてリリースされてる。これを機に,日本では発売されなかったそのほかのタイトルもリメイクされることを期待したい。
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