10年前の続きは佐渡島から。MIKAGEが「クリミナルガールズX」で挑戦する，新たなゲームの姿と，新しい試みと

　深い夜に静まる，関越自動車道の越後川口SA。桜散る東京から来た身には，純白の夜桜にでも見立てているつもりか，淡い雪化粧でおめかしした名も知らぬ木々の姿に，少しだけ心持ちが安らぐ。

「ぜんぜっん寝れないんですけど」

「ハートの強い奴が勝つんですよ，御影さん」

　まもなく平成が終わる世でも，いつだって夜行バスで損しないのは，小さな無神経の持ち主だ。目に映るものすべてが暗幕で閉ざれた車内では，トンネルを抜けた先が雪国だろうと分かりやしない。

　まもなく令和が始まる世でも，いつだって夜行バスで得しないのは，小さな神経質の持ち主だ。狭いトンネルのような暗闇に覆われた車内では，眼前に美しい景色が広がっていようと見えやしない。


　2019年2月9日。御影良衛氏が率いるゲームメーカーのMIKAGEが，新作ゲーム「クリミナルガールズX」（iOS / Android / PC。略称CGX。Xの読みはエックス）を発表した。ゲームジャンルはノベル×RPGで，提供時期は2020年2月の予定とされている。

　本作は，日本一ソフトウェアのRPG「クリミナルガールズ」シリーズにおける10周年プロジェクト作品にあたり，今回は同社の原作提供のもと，1作めの原案および開発に携わった御影氏らによって，VR対応（iOS/Androidは対応，PCのみ非対応）のRPGとして生まれ変わる。

　そして嘘の日への関心も薄まってきた，4月2日の深夜。MIKAGEの関係者らはゲームの舞台である“佐渡島”こと，新潟県佐渡市でのロケハン，PV撮影，挨拶回りのために，東京・池袋から佐渡へと向かった。原点への回帰，あるいは業界への再起を籠めたこの作品を，より確かなものにする。よそ者の私には，そういう決意を示すための行脚にも見えた。


　4月2日23：00。夜行バスに揺らされること約6時間30分で，新潟駅近くの新潟港に到着する。4月3日6：00。カーフェリーに揺さぶられること約2時間30分で，佐渡島の両津港に到着する。いずれも澄まし顔で乗り切れたのは，1人か2人といったものだ。東京から新潟まで新幹線なら2時間程度，港から港へも高速船なら1時間程度だが，全員の動向が合致するスケジュールはこれしかなかった。

　現地に赴いたのは，音頭の中心にいる御影氏，シナリオライター，3Dディレクター，ドローンブロガー，コスプレイヤーとそのマネージャー，彼らの知り合いのカメラマン，そこに4Gamer編集者（2名）を加えた，計9名となる。一見するだけでもユニークな面子が揃っているが，本当に興味深かったのは3日間で知った“彼らなりのワケ”だった。

　本稿ではこの旅路について，ページ1「クリミナルガールズXと御影氏」と，ページ2「佐渡島と彼らと彼女ら」の計2部構成でお届けしていく。いずれもお付き合いいただければ幸いだ。

「クリミナルガールズX」公式サイト

「クリミナルガールズXと御影氏」

　揺れない陸地への喜びも冷めてきたころ，現地であれこれと協力してくれるらしい，佐渡PRフォトグラファーや行政機関の方々に出迎えられた。

　ふと想像すると分かるかもしれないが，佐渡を扱っているエンターテインメント作品は間違いなくあるものの，それを中心に押し出している作品となると，そう多くはない。切って言い捨てるのならば，このご時世に聖地巡礼をさせるほど佐渡の魅力を注ぎ込んだものとなると無いに等しい――というのが，我々と現地の見解と言っていいようだった。

「カモメ」。フェリーでよく見る

　その点，本作は舞台となる佐渡の風土をふんだんに取り込んだ，主人公と24人の“彼女”たちの物語が綴られる。しかし“罪”をテーマとした物語には地獄，修羅，闘争，絶命，更生，囚人，監守など，のっぴきならないキーワードが揃っていたため，当初は「もしや佐渡を地獄の地にするのか」と疑っていた。けれど，どうやらそうではないようで。

　「物語は二重構造。地獄の入り口の『修羅界』では，現世へのヨミガエリを目指す“闘争と更生”の物語と，その進行度に応じて明かされる彼女たちの“過去の罪”の物語が描かれる。佐渡の地は“過去パート”において重要な役割を果たす」とのこと。内容の判断材料はまだ多いとは言えないので，とりあえずは下記の画像で想像してみてほしい。


　こちらは先んじて提供してもらえた，（開発中の）バトル画面だ。プレイヤーは主人公（の猫）のナビゲートを聞きつつ，バイクを運転しながらショットガンやグレネードランチャーなどをぶっ放して戦う，ハードボイルドな女の子たちの視点で戦闘を繰り広げる。移動やターゲティングは自動で，スキル発動やキャラクター切り替えは手動とのこと。

　また過去のシリーズ作品では，女の子たちは命令すると行動してくれるものの，好感度が低いと無視されたり，違う行動をされたりするのが恒例だった。このドタバタ劇も画面右側のモニターで再現され，戦闘時は傍らで「私に攻撃させなさい！」「私に運転させなさい！」と，少女たちが代わる代わるいちゃもんをつけてくるらしい。さすがは地獄だ。

　そして一連のバトルはVR対応だという。画面の外郭が運転者のヘルメットを象っているのも，VR視点時の没入感を考えてのことなのかもしれない。なお，さらなるゲーム画面は4月26日に，VR対応のゲーム動画は5月31日に公開するとしている。

■「主人公」	■「ナナ」
■「ミソラ」	■「ユイコ」

クリーチャーフェイスデザイン：雷雷公社

　ロケハンの中心地である“北沢浮遊選鉱場跡地”は，佐渡金銀山（世界文化遺産登録候補地）の遺跡群のひとつだ。ここでは破砕した鉱石から「浮遊選鉱法」で鉱物を回収し，巨大な「50ｍシックナー」で不足しがちな工業用水を確保していた。施設は1952年に閉鎖され，今では無料で見学できる観光名所となっている（立ち入り範囲には制限あり）。

　ここら一帯に設置されている建造物は，物語の核となり，またホーム画面からアクセスできる各種コンテンツのビジュアルも担うらしい。どうしてこの場を選んだのかについては，御影氏が日本全国を回って，最終的にここに決めたとのこと。ほかのどこでもなく，北沢浮遊選鉱場だからこそ，直感に訴えるなにかがあったのかもしれない。

「北沢浮遊選鉱場跡地」

「50m シックナー」

ドローンが上から見た，50m シックナーの姿

　現地ではドローンやスチルカメラを用いて，キービジュアルを飾る女性ナナに扮した，コスプレイヤーのカモミールさんが出演するPVが収録された。佐渡では前日まで降雪があり，外套のひとつもなければ手足がすぐさま悴む環境だったが，薄着でも顔色を変えることなく被写体を務める彼女の姿に，コスプレへのリテラシーが低い者ほど唸らされる。

　気温はなにも人だけを苦しめたわけではない。今回は島に久々の強風が吹き荒ぶ“当たりの日”を引いてしまったために，ドローンによる空撮が滞りなく進められるのかにも懸念があった。しかし，男子たちの心と視線を釘付けにしたドローン界のフラッグシップ機「DJI Inspire2」は，人間の不安なんてどこ吹く風で，気持ちよさそうに空を泳いだ。

北沢浮遊選鉱場とナナ（カモミール）

ドローン「DJI Inspire2」

　「気持ちは続編の3のつもりで。クリミナルガールズをもう1度“シリーズ化”する」。御影氏が同シリーズに関わっていたのは，1作めのみだ。2作め以降は当時の状況もさまざまにあって，開発に参加することはなかったという。つまり，氏の歩みはシリーズ10周年のうち，約10年もの期間で断絶された「はじまり」と「これから」だけになる。

　2018年当初，本作は現在主流とされる，スマホゲームらしい構造になるはずだった。しかし，御影氏は1通のメールをきっかけに考えをあらためた。文面には「御影さんの作ったゲームが大好きです」の意が，当人の長い時間経過と，圧倒されるほどの熱量でしたためられていたという。そして氏は「僕はこのまま，収益優先のスマホゲームを作ってはいけない。この人を失望させるゲームにしてはいけない」と考え直した。

　その日から，御影氏は新たなビジネスモデルを探った。ゲームとして企業として，利益を生むことから逃げないことを第一としつつ，子供のころからのゲームファンに，今の自分たちが作るゲームを納得してもらうための形を探った。そうして今回の「コンソール型」と「基本無料型」を両軸とする，新たなビジネスモデルにたどり着いた。

「シリーズ化を目指すためには，今のお客様に満足してもらいつつ，未来のお客様を見つけ出して，その方々にも作品を届けなくてはなりません。そういった理由からビジネスモデルを考えていきました」

北沢浮遊選鉱場の前面。ヒロインたちの寝床になったりするのかも

火力発電所 発電機室棟。キャラクターの強化施設とかだろうか

鋳造工場。間違いなく武器関連だろうが，そうなるのかは分からない

「構想としては，PS4/Xbox One/Switchのマルチプラットフォーム展開に近いですね。ゲームで最も手間と費用がかかるのは“世界観を作ること”（絵作り/シナリオ/サウンド/2D・3Dの画面素材/etc…）ですが，マルチ展開なら共通素材で済むものも多いわけです」

「しかし，コンソール型と基本無料型の並行には，通常のマルチプラットフォーム化とは異なる作業が発生します。それは“ゲームデザイン”です。物語や戦闘などの間を補うレベル上げなど，過程のゲームプレイが根本的に違っているんです。ですから，今回はそこを“ゲームデザインをローカライズする感覚”で取り組もうとしています」

　また御影氏は，基本無料型では現代の主流に一石を投じたいと考えた。海外で人気のハイパーカジュアルゲーム（広告収入型）から着想を得て，学生でも無料で遊びこめるように「動画を見てくれたらご褒美」の構造を優先し，運営のための最低限の収益は動画広告でフォローするという。それを成すために，氏は日本国内のみならず北米まで足を運び，同様のスタイルで収益を上げている有名企業のいくつかに教えを請うてきたという。

「動画広告モデルの採用例はたくさんありますが，それらは売上ランキングには反映されないので，外部の注目をあまり集めていないんです。瞬間的な売上につなげる装置を抑制してしまうことも，大手企業が採用しない理由のひとつかと思います。ですが，クリミナルガールズXの作品コンセプトなら，このモデルとの相性が良いと判断しました」

朝食は港近くで評判のカフェ「mikawa」にて

ハムと卵のホットサンドとコーヒー。シナモンが香るクランブルケーキも絶品

　現代のスマホゲーム界隈の飽和状況をわざわざ説明するのは釈迦に説法としても，話を聞いている最中に「最初からコンシューマゲームにするのは？」との疑問が生じた。

「そうですね。私もコンシューマゲームに憧れて，この業界に飛び込んだ口なので，当然考えました。そして残念ですが，今はそれを選択できませんでした。その理由を述べるのもいいことだと思わないので，語りません。政治問題のように提議してもしょうがないと思うので。だって，ほとんど人は問題点を理解しています。そんなときに“ここが問題点だよね！”って声を上げても，ネガティブな雰囲気になるだけじゃないですか。必要なのは具体的な解決策です。宣言よりも，行動して，正解探しにもがく時期だと思います」

　考えて，行動する。筆者の指摘など織り込み済みだったらしい。

「今は大勢の“誰か”が挑戦する時期です。我々の取り組みも正解じゃないかもしれません。この先が成功でも，失敗でもです。だから誰かが成功例を見つけたのなら，それをみんなで模倣すればいいんですよ。そうすればきっと，みんなハッピーになりますよ」

左から御影良衛氏，佐渡市長の三浦基裕氏。佐渡側との協力関係もここからスタートしていく

ちょうど本日2019年4月20日に新設オープンした，佐渡金銀山ガイダンス施設「きらりうむ佐渡」（参考リンク）。縁あってここで山師の関係筋に話を聞けたので，縁もあるしで紹介しておく

■コンソール型は「CAMPFIRE」で販売

　本作の基本無料型についてはアプリストアで配信予定だが，コンソール型については「CAMPFIRE（キャンプファイヤー）」で4月26日から開始される，先行受注予約（クラウドファンディング「All-or-Nothing」）で提供されるという（参考記事）。

「現時点で需要がないものは作れません。“コンソール型のクリミナルガールズ”を求める声が大きければ成功しますし，声がなければ成功しません。コンシューマじゃなければ買わないといった声もいただきますが，今回のハードルを飛び越えられないようでは，そもそも両機種に出すのも難しいでしょう。気持ちは痛いほど分かるんですけどね」

CAMPFIREの「限定版」（下記は付属特典）
・高級箔押しCGX-BOX
・CGX 描き下ろしハードブック画集
・CGX サウンドトラック
・iOS/Android/PCで起動できるCGXコンソール型ゲームデータのSDカード

「クリミナルガールズX」
CAMPFIRE プロジェクトページ

　※プロジェクトスタートは【2019年4月26日】から。

　CAMPFIREというとゲーム業界では開発資金集めに聞こえるが，本件では物品販売が主となる（支援金＝品物提供のお買い物感覚）。「グッズで利益を出すつもりもないので，素材費をMAXつぎ込みますよ」。受注予約で無駄を絞って，グッズやリアルイベントの質は担保して，ゲームの売上で生計を立てる。実にコンシューマ的な発想だ。

　ユーザーに向けて販売されるアイテムはさまざまなようだが，なかでも目玉となるのは，関係者らと一緒に佐渡ツアーを楽しめる「リアルイベント（旅行手配・チケット販売）」，キャラクターデザインを務める望月けい氏と，京都の老舗革メーカー“デグナー”が共同制作中のフライトジャケットなどの「グッズ提供（予約生産）」と言える。

　とくに気になるのは，東京に行くよりも遠い距離が横たわるかもしれない人を，佐渡まで誘致するというリアルイベントか。しかし，それでもファンに足を運んでもらう，足を運んでみたいと思わせる仕掛けは，しっかり練っているという。ゲームモデルにせよ，提供方法にせよ，今回のMIKAGEはオリジナルの攻めが効いている。

※続くページ2「佐渡島と彼らと彼女ら」では，今回の同行者および関係者に話を聞いている。気になる人は引き続き，目をとおしてほしい。