インタビュー
「FFXV」のリードゲームデザイナーからインディーズゲーム開発者へ転身。日本でキャリアをスタートしたマレーシア人開発者がてがける「No Straight Roads」とは
また,開発者の経歴も興味深い。マレーシア人でありながら日本でそのキャリアをスタートし,「FINAL FANTASY XV」のリードゲームデザイナーを務めたのちに,マレーシアに帰国し,会社「METRONOMIK」を設立。その開発会社の処女作となるのが,「No Straight Roads」なのである。
今回は,METRONOMIKの設立者でありCEOを務めるWan Hazmer氏にNo Straight Roadsだけでなく,Hazmer氏自身についても語ってもらった。
4Gamer:
よろしくお願いします。まずはHazmerさん自身のお話を聞かせてください。日本で「FINAL FANTASY XV」のリードゲームデザイナーをやっていたマレーシアの方が,母国に戻ってゲームを作っているとなると,いろいろと聞きたいので。
Hazmer氏:
分かりました。どこから話しましょうか。
4Gamer:
では,どういう経緯で「FINAL FANTASY XV」のリードゲームデザイナーになったのかを教えてください。
分かりました。
私はゲーム業界に入る前,広告会社で働いていましたが,ゲームに興味があってFlashゲームを趣味で作っていました。2006年に2タイトル作ってコンテストに出したら1位と3位を獲得できたこともあり,もっとゲーム作りを学びたいと思い,ほかの国に行くことを決断しました。
4Gamer:
ゲーム作りを学ぶという意味だと,日本ではなくて英語圏,たとえばアメリカでもよいのではないでしょうか。日本で暮らすとなると日本語の勉強も必要になりますし。
Hazmer氏:
確かに使用言語を考えると,マレーシア人にとって日本で働くのはハードルが高いかもしれません。ですが,「塊魂」など日本のゲームが大好きでしたので,「あんなゲーム,いったいどうやって作ったんだ?」という秘密を知りたくて日本行きを決意したんです。アメリカの開発手法はゲームデザインの本を読んで勉強できたんですが,日本の手法はブラックボックスで,日本の開発現場に入らないと学べないと思ったんです。
4Gamer:
とはいえ,いきなりスクウェア・エニックスに入れるわけではないですよね?
Hazmer氏:
もちろんです。まずは日本で学校に通って日本語の勉強から始めました。ただ,入った学校が大学への入学を目指すところだったので,日本語で数学や歴史もやりました。もう無理ゲーでしたよ(笑)。
4Gamer:
強くてニューゲームで行くコースかもしれませんね,それは。
Hazmer氏:
本当に大変でしたが,まずは10ページの企画書を日本語で書くことを目指してがんばりました。そして2010年ぐらいになんとか形にできて,それをいろいろなゲーム会社に送ってみたら,スクウェア・エニックスに入れたんです。
4Gamer:
ゲーム開発を志す人にとってスクウェア・エニックスというのは特別な会社だと思います。スクウェア・エニックスに企画書を送ってアピールする人というのはものすごく多いですよね,きっと。
Hazmer氏:
そうだと思います。なぜ採ってもらえたんでしょうね(笑)。ただ,ゲーム以外の経験が豊富な人を採用しているようには感じました。
4Gamer:
なるほど。
Hazmer氏:
個人的な意見ですが,「ゲームを一杯遊んでいます」「趣味はゲームです」といった人が面白いゲームを作るのは,難しいと考えています。
4Gamer:
ゲームが好きなのは当たり前で,そのうえでゲーム以外の経験が重要になってくると。
Hazmer氏:
そうです。私が採用してもらえたのも,日本人にはない感性をゲームに取り入れたかったからだと思います。同じようなタイプの人ばかりを集めても,アイデアが広がりづらいですから。
4Gamer:
入社の経緯は分かりましたが,今度は入ろうと思ってもなかなか入れないスクウェア・エニックスを辞めてしまった理由が気になってきます。
それは入社前から決めていました。「ここで学んだノウハウをマレーシアに持って帰りたい」と担当者に伝えていて,それを承諾してもらったうえでの入社だったんです。ゲームを作るだけであれば日本に残っていたほうがよかったかもしれませんが,私の最終目標はマレーシアのゲーム業界を成長させることでしたので帰国しました。
4Gamer:
そういう大きな目的があったんですね。「苦労して大きな会社に入ったのにもったいない」と,ちっぽけな発想をしたのが恥ずかしいです(笑)。
Hazmer氏:
外国人にとって会社を日本で作って勝負するというのは難しいですし,マレーシアでやったほうが成功する確率が高いという計算もありました。それとマレーシア政府が支援してくれたということも大きいです。
4Gamer:
国からの援助も受けていたんですね。
Hazmer氏:
ええ,マレーシアでゲームの開発会社を作りたいといったときに,オフィスを用意してくれました。結構広い場所を無料で使っています。
4Gamer:
オフィス賃料という固定費がないというのは,立ち上げたばかりの会社にとってかなり助かりますね。
Hazmer氏:
そのワーキングスペースにはほかにIT関連の会社入っているだけでなく,学生もいて,業界人がゲーム作りを教えるコースなんてものもあります。
4Gamer:
かなり充実していそうです。
Hazmer氏:
ええ,おそらく東南アジアでトップだと思いますよ。いろいろとサポートしてもらえるので,一人でゲーム会社を起こしてもパブリッシャを探せるでしょう。マレーシアはここ10年くらい,アニメやゲームなどに携わる会社を支援する体制が整ってきているんです。
4Gamer:
そんなマレーシアでゲーム開発をやるデメリットはありますか。
Hazmer氏:
マレーシアでは発展途上の分野ということもあり,人材が不足しています。ゲームを作る人はそれなりにいますが,プロデューサーやディレクターがあまりいません。現状だと,ゲームを作ってお終いになりがちで,そのゲームをいかに売るかといったところまで意識できる人が少ないんです。
また,ゲームの作り方を教える教育の体制が整っていません。ですので,いろいろな学校と協力してシラバスを変えたいです。さらに言うと,5年後くらいに学校も作りたいと思っているんです。
4Gamer:
なんとも壮大な話になってきました。5年後と数字が出ている以上,単なる願望ではなく,ある程度はその道筋が見えているということですよね?
Hazmer氏:
はい。亡くなった母が英語文学の大学教授だったので,教育関係者とのコネクションがあり,それを通じていろいろと計画しています。
母の授業は共感度の高い内容で暗記とは無縁でしたので,私もクリエイティブシンキングを鍛えられるような学校にしたいですね。
4Gamer:
それはどんな教育方法でしょうか。
Hazmer氏:
そうですね,例えば,自分の国の歴史上の出来事を「いいくにつくろう」といったように暗記するのではなく,しっかりとストーリーとして教えるようなイメージです。
4Gamer:
暗記をメインにしたほうが教える側も楽なんですよね。テストの採点もやりやすいですし。
Hazmer氏:
その楽な教育方法を変えていきたいです。
目指したのはプレイヤーが自身の成長を感じられるゲーム
4Gamer:
話題を変えますが,「No Straight Roads」の開発経緯を教えてください。
Hazmer氏:
私は音ゲーが大好きなんですが,一緒に遊ぼうと友達を誘うと断られることが多かったので,その状況をなんとかしたいと思ったのが発端です。
4Gamer:
確かに音ゲーを遊ばないという人はいますね。
Hazmer氏:
そうなんですよ。ですので,ゲームのベースはアクションゲームにして,そこに音ゲーの面白みを加えようと思ってNo Straight Roadsの仕組みを考えたんです。
4Gamer:
試遊台で少しプレイしましたが,最初は完全に3Dのアクションゲームだと思っていたので,敵の攻撃を避けるのに苦労しました。途中で「リズムに合わせて回避すればいい」というのをアドバイスしてもらって,徐々に避けられるようになりましたね。
Hazmer氏:
最初は敵の攻撃を目で見て避けようとしてしまう人がけっこういます。ですが,それだと難し過ぎます(笑)。3Dアクションということと,グラフィックスのテイストから「キングダムハーツ」シリーズのようなゲームをイメージする人が多いようですが,私が意識したのは「DARK SOULS」ですね。
4Gamer:
ちょっと以外なタイトルが挙がりました。どんなところを意識したのでしょうか。
Hazmer氏:
DARK SOULSは,自分がうまくなっているのを実感しやすいゲームで,No Straight Roadsもそういうゲームにしようと思いました。
4Gamer:
なるほど。確かに私も最初は敵の攻撃を避けられずに苦労していましたが,そういう共通点はあるかもしれません。
Hazmer氏:
あと,ストーリーを語るカットシーンをあまり入れないところもDARK SOULS譲りだと思います。もちろんカートシーンを期待する人もいますので,最初の部分に少し用意してそこで危機感を煽りますが,その後は「はいどうぞ」といった感じにゲームをやってもらいます。なぜ戦っているのかなどはボス戦を通して語ります。
4Gamer:
カットシーンを多く作るのは,開発リソース的に厳しいという側面もありますか。
Hazmer氏:
それもゼロではないですが,私たちが作っているのは「映画ではなくゲームだ」という思いが強いからです。カットシーンでストーリーを語るというのは映画的で,ゲームだからこその表現方法にこだわりたいんです。
4Gamer:
なるほど。確かにカットシーンが長いとゲームから意識が離れてしまいがちで,「観ている」という感覚になりますからね。ところで,ゲーム全体のボリュームについて聞かせてください。
Hazmer氏:
ストレートにプレイすると3時間程度でクリアできると思います。こういうゲームの場合,ステージ数を答えることが多いと思いますが,あえて答えないようにしています。
4Gamer:
そうなんですか。それはまたなぜ?
例えばここで10ステージと答えたとします。そうなると発売日までに10ステージできていないと,発売を延期することになってしまうからです。明言していなければ,間に合わないと思ったら,ステージを一つカットすればいいですから。
4Gamer:
理屈は分かりますが,そんなことを書いてしまっていいんですかね(笑)。
Hazmer氏:
ええ,問題ないです。私は1年に1本といったペースでゲームを出し続け,社員の経歴を豪華にしたいと思っています。ですので,ゲームの要素を減らしてでも発売日を厳守したいんです。
4Gamer:
なるほど。開発の工数を減らすという意味だと,ゲームを2Dで作るという方法もあったのではないでしょうか。
Hazmer氏:
もちろん2Dも考えました。ですが,2Dだとどうしても音ゲー感が強く出てしまって……。3Dにしてアクションゲームに見せかけて音ゲーの要素があるという体験を実現したくて,3Dにこだわりました。
4Gamer:
リズムにあわせて戦えばいいと気がついた瞬間は気持ち良かったですからね。あの感覚はやってみないと味わえないでしょう。
Hazmer氏:
だと思います。
4Gamer:
それでは最後に,「No Straight Roads」を待っている読者に向けてメッセージをください。
Hazmer氏:
「No Straight Roads」はすごくユニークなコンセプトのゲームなので,音ゲーファンだけでなく,アクションゲームファンにも満足してもらえると思います。2019年春のリリースを楽しみにお待ちください。
4Gamer:
ありがとうございました。
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