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【ドロッセルマイヤーズ渡辺】そろそろ「ゆるゲー」が必要かもしれない
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印刷2018/12/22 10:00

連載

【ドロッセルマイヤーズ渡辺】そろそろ「ゆるゲー」が必要かもしれない

渡辺範明 / 遊びと創作ボードゲームの店「ドロッセルマイヤーズ」代表

画像集 No.001のサムネイル画像 / 【ドロッセルマイヤーズ渡辺】そろそろ「ゆるゲー」が必要かもしれない

ドロッセルマイヤーズ渡辺の ゲームボーズ

Twitter:@Drosselmeyers_


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 2018年11月24日に,ドロッセルマイヤーズとしては久方ぶりとなる新作アナログゲーム「ドロッセルマイヤーさんの法廷気分」を発売した。自社製品としては「巨竜の歯みがき」以来,なんと6年ぶりだ。他社から発売された製品を含めても,(ノンクレジットの受注案件は別として)おそらく2年ぶりぐらいだろう。
 我ながら久しぶりにもほどがあると思うが,その間ずいぶん色々なことを考えてここにたどり着いたので,今回はそのあたりの話をしたい。「ドロッセルマイヤーさんの法廷気分」は「ゆるゲー」という新しい自社シリーズの第1作目と位置づけている。まずはやたらフロシキを広げた話になるが,最終的にはミニマムな「ゆるゲー」シリーズの話に着地する予定なので,お付き合いいただければと思う。

 いま,世界ではゲームがかつてないほどの活況である。コンシューマゲームの集大成と言える「レッド・デッド・リデンプション2」PS4 / Xbox One)は,あらゆるジャンルのエンターテインメント作品の中で史上最高の初週売上を記録した。地上波テレビはスマホゲームのCMなしには成り立たなくなってきており,VR,ARなどゲームの表現手段も多様化し,プレイ動画の配信やeスポーツなど,プレイヤー発の文化も花開きつつある。
 一方でアナログゲームに目を向ければ,ボードゲーム市場は元が小さいながらも右肩上がりに成長し続けているし,リアル脱出ゲーム/謎解きゲームはすっかり興行の1ジャンルとして定着した感がある。TCGやテーブルトークRPG,ミニチュアゲームといったジャンルでも,動画メディアなどを通じて新しい世代が入ってきてている。
 こんな風にいろんなゲームがいくらでも遊べ,仲間もたくさんいるというのは,1ゲームファンとして,まさに夢のような状況だと思っている。

何かと話題のeスポーツも,新しいゲームの楽しみ方の一つと言える
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 しかし,ゲーム産業やゲーム文化が存在感を増せば,一方で社会との摩擦もそれだけ大きくなるものだ。2018年6月,WHOは「ゲーム依存症」を疾患として認定する方針を示した。来年5月のWHO総会で正式決定されれば,「ゲーム依存症」は治療すべき「病気」ということになる。
 あくまでも個人の意見表明だけれども,僕はこの方針にははっきり反対だ。ゲーム依存を病気とする発想は,過度のゲームプレイが鬱,寝不足,不登校などの具体的被害をもたらすことを根拠にしているようだが,そもそもゲームに過度の依存をしてしまうような人は,それ以前に社会での居づらさやコンプレックス,家庭環境の不安,貧困,いじめ,発達障害,精神疾患などの悩みを抱えていることが多い。WHOの見解は,これらの問題からの貴重な「避難先」としてゲームが機能しているケースを満足に考慮できていないばかりか,隠してしまう可能性さえある。もちろん僕は医者でも研究者でもないから,明確な実証研究と結果をもとに述べているわけではないが,少なくともゲーム側の関係者として,現状そうしたことがまともに議論されているとは思えない。

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 とはいえ,ゲームに対して社会がこのようなヒステリックな態度をとる理由もまた,よく分かる。ゲームは確かに,依存性(「いぞんしょう」ではなく「いぞんせい」)の高いメディアではあるからだ。ひたすら人間の思考/行動のクセを研究し,「どうしたらよりハマることができるか」を練り上げてきたのが,ゲームデザインという技術なのだ。そりゃあ,依存性が高くて当たり前ではないか。というか,これまではそういった「ハマれる」ゲームこそが,ファンや業界から「良いゲーム」「優れたゲーム」とされてきたのだ。

 これは言い方を変えれば,「ゲームには力がある」ということだ。ゲームには,人間に行動をうながす力がある。キャラクターを育てたり,コンボやエイムの練習をしたり,戦略を練ったり。以前はそういうゲーム内の行動を繰り返し促すことで「ハマるゲーム」を実現してきたゲームデザインの技術が収益モデルと結びついたものが,いわゆる「ガチャ」や「アイテム課金」の仕組みなのだ。

未成年者に過度の消費を求めたり,成人のプレイヤー相手であっても,いたずらに射幸心を煽って本人の意図を超えた買い物をさせることは,明らかに問題だ。そしてそれを意図的におこなうサービスならば,やはり社会悪であろう
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 ゲーム依存症についての議論では,この種の収益モデルにおける重課金の経済的被害も引き合いに出されることが多いが,これについてもハマる側の「疾患」が問題なのではなく,それを促すサービスの方に問題があるのと僕は考える。ゆえに「依存症」としての治療よりも,そういうビジネスに対して働きかけるほうが,はるかに本質的な解決となり得ると思っている。

 改めて言うが,ゲームには人間に行動をうながす「力」がある。「力」というのは危険な道具だから,それをふるう者は使い道をよく考えないといけない。「スパイダーマン」シリーズの「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉を思い出してほしい。僕らゲーム業界の人間は,これまでそういう「力」の使い道について,深く考えてこなかった。「遊び手を夢中にしたい」というのは娯楽作品の作り手がもつ純粋な願いなのだが,それが「うまくいきすぎて」,あるいは「行き過ぎて」しまっているのが今の世の中なのだ。そしてこれから先の時代,ゲームの力は,もっとずっと強くなっていくはずだから。

 日本初の長編カラー劇場用アニメ「白蛇伝」監督の薮下泰司さんの言葉に「(漫画映画の)企画はまず,少年に対する善意から出発する」というものがある。これに倣って,「プレイヤーに対する善意」からゲーム企画をスタートさせるとしたら,どんなものになるだろうか。これは「教育的にいい作品を作る」とか,そういうことではない。あくまでも「面白い作品を作る」ことを目的としたうえでのものだ。
 例えば「教育に良いけどつまらないゲーム」,あるいは「健康に良いけどつまらないゲーム」――そんなものは誰も求めないし,ゲームである意味もない。「すごく面白いのに,誰の人生も破壊しないゲーム」――これはなかなか良さそうではある。でも目指すべきは,「すごく面白くて,プレイヤーの人生を豊かにするゲーム」であるはずだ。

 ちょっと大げさに聞こえてしまうとは思うが,そんなわけで僕らドロッセルマイヤーズが「ゆるゲー」シリーズで目指しているのは,そうした「人生を豊かにする」ゲームだったりする。僕らの「ゆるいゲーム」はプレイヤーの生活も,人生も決して破壊しない。でも,「いいメンバー」と「いい場」で遊びさえすれば,しっかり面白くて味わいもある。そして,ゲームなのでもちろん最低限のルールはあるが,遊び方はわりと自由で,プレイヤーの創意を込めることができ,工夫を許す。そういう遊びこそが,人生を豊かにしてくれるんじゃないかと思うのだ。

※大塚康生氏の著書「作画汗まみれ」(徳間書店/文春ジブリ文庫刊)より。


「ドロッセルマイヤーさんの法廷気分」はどんなゲーム?


 というわけで,ここからは宣伝だ。
 「ゆるゲー」シリーズ第1作「ドロッセルマイヤーさんの法廷気分」(以下,法廷気分)は裁判を題材にしているが,その本質はディスカッションのゲームだ。「いま私はトイレを我慢しています」「私の一番好きな果物はモモです」「死後の世界はあると思います」などの被告の証言に対し,検察官と弁護士が「ウソかほんとか」議論し,裁判長がジャッジする。それだけと言えばそれだけのゲームだ。

 そんなゲームが面白いのか……? と思う人も多いだろうが,これが実際に遊んでみると悪くない。証言の内容は完全に自由なので,「地上最強の動物はゾウだと思う」とか「プリキュアの最高傑作はハートキャッチだと思う」など,普段だったら大のオトナがわざわざ議論しないようなお題を設定して,検察官と弁護士が喧々諤々するだけでもけっこう盛り上がるのだ。「実は三日前にフラれました」「私にはこういうフェチがあります」など,あえてプライベートな話題に踏み込むのも味わい深い。裁判長は被告があらじかじめ設定した正解を当てるのが目的だが,検察官と弁護士はそれぞれ「ウソ」「ほんと」の判決に裁判長を誘導するのが目的なので,必ず意見が割れるようになっている。飲み会の空気がうまくドライブしたときの「不毛な議論」や「茶番劇」は最高に面白いものだが,それをゲームシステムによって実現する遊びだと捉えると分かりやすい。しかも,話題に飽きて場がグダグダしてしまう前に裁判長が「判決!」と言ってハンマーを叩いて結論を出してくれるので,次々と新しい話題に進むことができるのだ。

ドロッセルマイヤーさんの法廷気分
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 「そんなのはゲームが無くてもできる遊びでは?」と思われるかもしれないが,実際のところゲームが無くても話が盛り上がるなら,それはそれでいい。でも,初対面だったり,逆に顔なじみすぎたりして,話題がうまくドライブしない場というのもしばしばあるわけで,そんなときもこのゲームがあれば盛り上がったりする。
 「そんなのはゲームの面白さではなくて,会話自体が面白いだけだろう」と言われたら,それもまったくそのとおり。だけど「ゲーム自体が面白い」より,「ゲームの外部にある面白さを引き出す」ことが,僕らの「ゆるゲー」の目指すところである。

 ちょっと言い方を変えると,ドロッセルマイヤーズが「ゆるゲー」で目指しているのは,場の主役じゃなくて脇役になってくれるゲームだ。そのゲームを遊ぶためにわざわざプレイヤーが集合するような,強烈な吸引力のあるゲームではなくて,たまたま人の集まる場にいるときに「そういえば……」という感じでカバンから取り出して遊ばれるような。
 主役はゲームではなくて,あくまでも人間だ。だけど,取り出してもらえたら,きっちりそれなりの面白さを演出する「名脇役」でありたい。しかも,その面白さはゲームそのものの面白さではなくて,その場に集まったメンバーの面白さになっている。ゲームは,それを引き立てているだけ。だから,ゲームを遊んでいる途中で話が逸れていってもいいし,そのままゲームそっちのけで話が盛り上るならむしろ最高ではないか。そういうのが僕らの思う,「プレイヤーの人生を豊かにするゲーム」である。

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 だから,これまで「優れたゲーム」とされてきたゲームのように「法廷気分」にハマってそのことばかり考えてしまうような人は,たぶんいないだろう。賞も受賞しないだろうし,「これはゲームじゃない」と思う人も多いはずだ。でも,実際に人と人とがコミュニケーションするときに「法廷気分」を介することで,その場の「面白さ」「幸せ」の絶対量が増すことはあるはず。つまり「ルールによって面白さが生まれている遊びすべて」というドロッセルマイヤーズの定義に従うなら,「法廷気分」は立派にゲームなのである。

 もちろん,すべてのゲームがこうあるべきだとも思わないし,こういうゲームをまったく面白いと思わない人もいるだろう。僕だってそこそこコアなゲーマーとして,重厚なゲームを寝食忘れてどっぷり遊びたい時もある。ドロッセルマイヤーズでも「ゆるゲー」シリーズ以外の,もうちょっとディープ&ヘビーな企画も普通に進行中だ。しかし,ひとつのオルタナティブとして「ゆるゲー」みたいなものは必要だと,それなりに強い確信を持って思っている。

 「ゆるゲー」みたいなゲームがこれまで存在しなかったわけでもない。むしろ僕がこれまでアナログゲームに感じてきた魅力のけっこう大きな部分がこの「ゆるさ」「自由さ」にあることに気づき,それを具体化したのがドロッセルマイヤーズの「ゆるゲー」だったりする。だから言ってしまえば,これまでも当たり前にあったものを,あらためてパッケージ化しただけのことだ。だからこそ,今後その「意味」に共感してくれたゲームデザイナーが「ゆるゲー」シリーズに参加してくれる可能性にも期待したい。実際「法廷気分」のオマケについている「ゆるゲー」シリーズの第二作「ドロッセルマイヤーさんのなぞなぞ気分」は,大山功一さんという大先輩ゲームデザイナーの作品である。これがまた「法廷気分」以上にヤバみのある「ゆるさ」なので,最高としか言いようがない。ぜひ一度遊んでみてほしい。

ドロッセルマイヤーさんのなぞなぞ気分
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 かつてブームだった「ゲーミフィケーション」のような実利主義/機能主義には陥らず,むしろ遊びの本質としての「無駄さ」「くだらなさ」「おかしみ」を充分に備えたうえで,ほんのりと社会に溶け込み,内側からじわっと温められるようなゲーム。そういうゲームを「ゆるゲー」名付け,これからゆっくり,提案していきたい。

■■渡辺範明■■
ドロッセルマイヤー商會代表取締役。創作ボードゲームと雑貨を扱うネットショップ「ドロッセルマイヤーズ」を経営するかたわら,アナログゲームを中心にさまざまなタイトルを手がけるゲームデザイナー&プロデューサー。代表作に「巨竜の歯みがき」「アダムとイヴ」「未来逆算思考」など。最新作「ドロッセルマイヤーさんの法廷気分」はオマケゲーム「ドロッセルマイヤーさんのなぞなぞ気分」付きで2500円。もちろんドロッセルマイヤーズでご購入いただけます。
  • 関連タイトル:

    ドロッセルマイヤーさんの法廷気分

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