レビュー
手持ちのヘッドフォンをヘッドセット化できるデバイスは「買い」か?
ModMic 5,ModMic 4
米Antlion Audio(アントライオンオーディオ)の「ModMic」(モッドマイク)は,ヘッドフォンのエンクロージャ部に取り付けて使う,後付けのブームマイクだ。「お気に入りのヘッドフォンがあるのにゲーマー向けヘッドセットなどを追加購入するのはコスト的にも保管場所的にも厳しい。ならヘッドフォンにブームマイクを取り付けてヘッドセットにしてしまえばいいじゃない」というアイデアをそのまま製品化したものと紹介してもいいだろう。
現在のラインナップは,無指向性と指向性とでマイクを切り換えられる上位モデル「ModMic 5」と,指向性マイクを搭載する下位モデル「ModMic 4」の2製品だ。北米市場における直販価格が順に69.95ドル,42.95ドル(いずれも税別)となっているところ,税込の国内実勢価格は順に1万1000〜1万2200円程度,7500〜8900円程度(※2018年10月22日現在)とけっこう割高なのだが,これだけの投資に見合う製品なのだろうか? 実機を入手したので,使い勝手とマイク品質をチェックしていきたい。
100%アナログ接続の単体ブームマイク
ModMicシリーズの接続インタフェースはアナログで,接続インタフェースは3極の3.5mmミニピンだ。付属する,直径実測約14mmの磁石付きアタッチメントを両面テープでヘッドフォンのエンクロージャへ貼り付け,そのうえで必要なときだけModMicを取り付ければ,当該ヘッドフォンをヘッドセット化できるというわけである。
今回ModMicシリーズのテストに使うのはAKG製の「K712 PRO」というオープンエア型だ。エンクロージャに平らなところがほぼないうえに中央部分は盛り上がっているという,およそModMicの取り付けには向いていなさそうな製品なのだが,いざ取り付けてみたら,普段使いに問題のないレベルでしっかり固定できたため,いい例ではないかと考えている。
ちなみにブームマイクのブーム部分だが,割と硬めで,融通の利くタイプではない。なので,最初にどう取り付けるかが重要になってくる。取り付けてからブームで微調整しようと考えるのではなく,台座を貼り付けるときにある程度まで追い込んでおくことを心がけたい。
(1)まずは配置を仮決め。視界にマイクが入ると集中しづらくなり,またマイクを「吹く」とノイズになるので,マイクが口元より下に来るような場所と角度に調整する必要がある |
(2)ヘッドフォン側の「台座を取り付ける先」を製品ボックス付属のアルコールパッドで吹いてキレイにしたら,ModMic本体から台座部を取り外さずに(※外すと噛み合わせがおかしくなる恐れあり),台座部の粘着テープ保護シートを剥がす |
(3)ModMicをヘッドフォンに貼り付ける。この状態で30秒は固定せよと簡易マニュアルには書いてあった。凹凸の大きな面に貼る場合は「貼った状態」で1時間ほど放置するようにというアドバイスもある |
(4)固定したところ。ModMicとヘッドフォン側の突起部が干渉しているように見えるかもしれないが,きちんと固定できるなら問題ない |
取り付けた状態に違和感はなく,また,ModMic本体を取り外して台座だけにしても,見栄えはそれほど損なわれない。
ModMicを取り付けた状態。基調色が黒のヘッドフォンであればそれほど違和感はない |
ModMicを取り外して台座だけにしてみたところ。見栄えとしては許容できるレベルだと思うが,どうだろうか |
仮に粘着力が弱くなった場合でも,製品ボックスには予備の粘着パッドが付属しているので,それに貼り替えたり,あるいは市販の両面テープに変えればよい。台座が取れて紛失した場合に備えてだと思うが,予備の台座が1個付属しているのも歓迎できる仕様と言える。
ModMic 4はケーブル一体型なので,ケーブルクリップを使って固定したらあとはその状態で使う人向けだろう。機能や音質以前の問題として「どう使うか」というのはModMic選びにとって重要なテーマであるように思われる。
また,ケーブルの取り回し以外にもModMic 5とModMic 4には違いがある。ModMic 5はカージオイド(cardioid,心臓型)型の指向性と無指向性(omni-directional),2つのマイクを内蔵しており,マイク部にあるスライドスイッチで切り換えられるのに対し,ModMic 4はカージオイド型の指向性マイク1つを搭載する仕様だ。
2種類のマイクで部屋の環境に対応できるModMic 5と,「ゲーマー向けヘッドセット」らしい音質傾向のModMic 4
言うまでもなくModMicはマイクなので,テストは「4Gamerのヘッドセットレビューなどにおけるマイクテスト方法」準拠となる。周波数特性と位相特性の検証は,ADAM製パワードスピーカー「S3A」で再生した音を,Creative Technology製サウンドカード「Sound Blaster ZxR」と接続したModMicで拾い,PC上でグラフ化するというイメージだ。
なお,Sound Blaster ZxRの工場出荷時設定だとマイク入力レベルがModMicにとって高すぎるため,今回はSound Blaster ZxRの入力レベルを88,ブーストレベルを+10dBとして測定を行うことにした。基本的にModMicの入力感度は高いと思ってもらってよい。
これは,Waves製アナライザ「PAZ Analyzer」で計測したグラフを基に4Gamer独自ツールを使ってリファレンスと測定結果の差分を取った結果だ。リファレンスに近ければ近いほど黄緑になり,グラフ縦軸上側へブレる場合は程度の少ない順に黄,橙,赤,下側へブレる場合は同様に水,青,紺と色分けするようにしてある。
差分画像の最上段にある色分けは左から順に重低域(60Hz未満,紺),低域(60〜150Hzあたり,青),中低域(150〜700Hzあたり,水),中域(700Hz〜1.4kHzあたり,緑)中高域(1.4〜4kHzあたり,黄),高域(4〜8kHzあたり,橙),超高域(8kHzより上,赤)を示す。
というわけで,まずはModMic 5からだ。下に示したのは,工場出荷時設定であるカージオイド型指向性マイクの特性である。
低域の落ち込みは80Hz付近,高域は20kHz付近から始まる感じだ。全体としてはほぼドンシャリ型と言ってよく,低域のピークは80Hz付近,高域のピークは7kHz付近にそれぞれ存在し,後者のほうが山はやや高い。一方,600〜750Hzと1.3〜1.5kHzあたりが谷の底になっている。
位相は完璧だ。
ただ,ちょっと気になったのは超高周波までしっかり集音する低弱高強の周波数特性のせいか,エアコンの音などといった高周波のヒスノイズを割と多めに拾う点だ。「指向性があるからノイズレス」とは思わないほうがいい。
また,その指向性がやたらと強く,集音する範囲が非常に狭い点も注意が必要だろう。マイクの位置,とくに向きを適切に調整してきちんと集音できるようにしておかないと,あっさりと集音範囲から外れてしまい,何を話しているのかチャット相手に伝わらなくなるということが当たり前に生じるほど指向性が強い。したがって,事前にしっかりとセッティングしなければならないわけだ。この点は要注意である。
では無指向性のほうはどうかというと,そもそもマイク部品自体が違うのだから当然なのだが,けっこう異なる結果になっていて興味深い。
下に示したのがテスト波形だが,低域は45Hz付近を境にしてその下で大きく落ち込むものになっている。形状としては低強高弱のドンシャリで,谷は明確に1.5kHz付近にあり,その周辺,900Hzから1.7kHz付近が落ち込み気味だ。高域のピークははっきりしない形状になっており,その上では20kHz以上で一気に落ちていく。
こちらも位相はまったく問題ない。
カージオイド型指向性マイクと比べると明らかに高域が弱いわけだが,実のところ,有効な周波数帯域で大きな落ち込みを見せている範囲は900〜1.7kHz付近だけで,谷が2つあるようなこともないためか,録音してみると,波形ほどには低域が強すぎる印象を受けなかった。むしろ低周波が強くなって相対的にヒスノイズが小さく聞こえるので,これはこれでありだろう。
もう1つのメリットとして,無指向性なので,指向性マイクほどにはマイクの向きをシビアに調整する調整する必要がない点が挙げられる。
今回の結果から,ModMic 5を使うなら無指向性のほうを筆者としては推したい。ただ,住環境によっては低周波ノイズが混入してチャット相手が聞きづらくなることもあるので,そういう場合はサウンドデバイス側のノイズリダクション機能を使ったり,それこそ指向性マイクへ切り換えたりすることをお勧めする。
続いてはModMic 4だ。
ゲーマー向けヘッドセットが搭載するマイクの特性として,「低域と高域をカットして,低域から中域くらいと比べて中高域から高域くらいを一段高くし,何を言ってるのか聞き取りやすくする」のが最近の主流だが,ModMic 4の波形はそれに沿ったものとなっている。
もう少し細かく見ると,下は60Hz付近より低周波,上は13kHzより高周波のところで大きく落ち込んでいく。750Hz〜1.5kHzくらいがやや低いものの,全体としては60〜1.8kHzくらいと比べて1.8kHz〜12kHzくらいがやや高い。3kHz付近が落ち込んでいるが,これは人間が聴いたときに「耳に痛い」帯域をピンポイントに狭い帯域幅でカットすることになるため,若干ながら破裂音や歯擦音などを抑えられる効果につながっているようだ。
位相は問題ない。
録音してみると,周波数特性通りで眠くもないがそれほどパリッともしていない,割と低域から高域までフラットに近い感じで出ている印象だ。グラフから想像されるイメージどおりとも言えるだろう。
きれいな音質傾向なので,実況などでも結構品質の高いナレーションを録音できるはずだ。
「ヘッドフォンをヘッドセット化したい」というニーズには確実に応えられるModMic。あとは使い方と価格がマッチするか次第
両製品とも最近のゲーマー向けヘッドセットが搭載するマイクと比べて音質傾向は素直。その分,低周波および高周波ノイズを拾いやすいものの,極端な周波数バランスには堕していないため,ノイジーとまでは感じないのもいい。
「で,ModMicを購入するとしてどちらがお勧めなのか」というのは読者の大きな関心事だと思うが,本稿の序盤でもお伝えしているとおり,これは音質傾向というよりは使い方次第だ。マイクを頻繁に付けたり外したりする前提ならModMic 5しかなく,付けっぱなしならケーブルが不用意に抜けたりする心配がない分だけModMic 4のほうが扱いやすい。
ModMic 5のほうが初期設定は面倒ながら,その分,低周波ノイズが気になる環境なら指向性マイク,高周波ノイズが気になる環境なら無指向性マイクと使い分けることもできる。
むしろどこまでも気になるのは冒頭でも紹介した内外価格差で,果たしてこの強気すぎる国内価格で日本のゲーマーにどれだけ響くかというのが,「どちらを選ぶか」よりよほど重要な問題であるように思われる。もっと言うと,「ModMic 5を買う予算があればミドルクラス,ModMic 4を買う予算があればエントリーミドルクラスのゲーマー向けヘッドセットが買えてしまう」ので,なら追加でそれを買ってサブ機として使ったり,首にかけてマイクだけ使ったりすればいいのではないか,という話になりかねないのだ。
なかなかほかにないアイデア製品であり,お気に入りのヘッドフォンを使いながらボイスチャットもしたい人にとってスマートな解決策であることも間違いないため,個人的には頑張ってほしいのだが,この国内価格だとなあ……というのも正直なところである。
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Antlion Studio公式Webサイト(英語)
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