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アカツキが目指すこれからの戦略とは。「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」の強みは海外拠点&時代に合わせたゲーム作りにある
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印刷2020/08/06 13:30

インタビュー

アカツキが目指すこれからの戦略とは。「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」の強みは海外拠点&時代に合わせたゲーム作りにある

モバイルゲーム事業担当 取締役 Head of Games 戸塚佑貴氏
画像集#001のサムネイル/アカツキが目指すこれからの戦略とは。「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」の強みは海外拠点&時代に合わせたゲーム作りにある
 青春×女子高生×甲子園をテーマに掲げた,青春体験型野球ゲーム「八月のシンデレラナイン」iOS / Android / PC)。同作は2017年6月27日にサービスが開始されているが,2019年4月に放送されたテレビアニメで存在を知ったという人も多いのではないだろうか。

 そんな本作を運営しているのが,2020年6月に創業10周年を迎えたアカツキだ。他社と協業した複数のタイトルで立て続けにヒットを飛ばし,2020年夏以降はクリエイターユニット「HoneyWorks」初のスマホ向けリズムゲーム「HoneyWorks Premium Live」iOS / Android)のリリースを控えている。
 小高和剛氏や打越鋼太郎氏など個性派クリエイターが集う「Tookyo Games」との新IPプロジェクト「トライブナイン」も打ち出しており,堅実な成長を続けている同社は2020年3月27日,モバイルゲームの開発・運営力の強化に加え,ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニーを目指した経営・執行体制の変更を行った。社外取締役としてゲームクリエイターの水口哲也氏を招聘し,同社のビジョン「A Heart Driven World.」の実現に向けた新たなステージを目指しているという。

 今回4Gamerは,2017年からモバイルゲーム事業全体を統括している戸塚佑貴氏にオンラインインタビューを実施した。アカツキとは,そもそもどのような企業なのかといった原点や,会社の強み,そして気になる新作タイトルまで幅広く語ってもらえたので,その内容をお届けしよう。


自社IP&協業タイトルで堅実に成長

強みは海外展開と時代に合わせたゲーム作り


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。実はアカツキにお話を聞かせていただくのは今回が初めてなので,自己紹介を兼ねて戸塚さんの立ち位置についてお聞かせください。

戸塚佑貴氏(以下,戸塚氏):
 私は2012〜2013年頃,まだマンションに10人ほどが集まっていた時代のアカツキに参画しました。そこからゲームディレクター/プロデューサーとして何本かゲームを出したあと,2017年に執行役員としてゲーム事業本部長や執行役を担いながら,ゲーム事業全体を統括して現在に至っています。

4Gamer:
 アカツキにとって,2019年度はどのような1年でしたか。

戸塚氏:
 2019年度に関しては,スクウェア・エニックスさんとの協業タイトル「ロマンシング サガ リ・ユニバース」(スクウェア・エニックスより配信)の1周年があり,欅坂46・日向坂46を応援する音楽ゲームアプリ「UNI'S ON AIR」も新たにリリースして,好調な成績を残せたのかなと思います。

 ゲームの市場全体が成熟期と言われてから2〜3年以上経ち,きちんと我々なりの牙を磨いて蓄積していこうというようなコンセプトでいました。他社IPと自社IPの両輪で,収益面でも技術面でも成長できたのは大きな前進だったと思います。

4Gamer:
 そもそもの話となりますが,戸塚氏はアカツキをどのような会社だとお考えでしょうか。

戸塚氏:
 ちょうど6月に10周年ということもあり,2019年度は経営陣やマネージャー陣と半年間ほど“我々のゲーム事業とは?”という部分で対話を続けてきました。その中でとくに我々の強みだと捉えたのは,大きな土台でいえば,優秀な人材とそれを活用できる組織となります。事業の面からであれば,海外展開の力とIPをプロデュースする力といったところでしょうか。

 直近の3〜4年では弊社のAkatsuki Taiwan(アカツキ台湾)を起点とし,海外支社と連携しながら英語圏やヨーロッパ,台湾,韓国などへ複数のタイトルをグローバルに展開していけるというところが,我々ならではの強みです。世界にきちんと挑戦できるモバイルゲーム企業として,ユニークな存在なのかと思います。

 そうした海外の配信力や優秀な人材を抱えているうえで,お預かりした他社さんのIPを時代に合わせたモバイルゲームとして提供するのを強みとしています。「八月のシンデレラナイン」のような自分たちのIPを育てながら,モバイルゲームの運営力や開発力も培ってきましたし,IPをより大きく生かす力が強い会社だと思っています。

画像集#002のサムネイル/アカツキが目指すこれからの戦略とは。「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」の強みは海外拠点&時代に合わせたゲーム作りにある

4Gamer:
 2017年に執行役員にご就任されたとのお話しも出ましたが,これまでを振り返ってみて大きなターニングポイントとなった出来事はなんでしょうか。

戸塚氏:
 2017年から執行役員をやらせていただいていますが,毎年命懸けですし,大きな変化があるので,なかなかターニングポイントを絞るのは難しいですね。
 とくに大きかったのは既存タイトルの海外展開の成功でしょうか。それに加えて,「ロマンシング サガ リ・ユニバース」のほか,「UNI'S ON AIR」「八月のシンデレラナイン」なども大きく台頭して,1タイトルだけでなく複数タイトルで事業部全体を下支えしていく構造を実現できました。

 数字で見ても2016年に上場してから4年で5倍に高速成長していると捉えていいかなと思っていて,アカツキ全体で2019年度は売上高が320億,営業利益が110億という水準まで成長できました。2017年に「八月のシンデレラナイン」という待望のオリジナルIPをリリースできて,これ以降も自社IPを2タイトル開発し,他社IPを5本ほど進めさせていただきました。モバイルゲームの運営力,アニメ化なども含めたメディアミックスを着実に積み上げ,これらを年々伸ばしていくという流れを構築できているんじゃないかなと思います。


2014年に台湾支社を設立

創業者経営から未来を見据えたチーム経営へ


4Gamer:
 2010年の創業当時はマンションの1室で3人から始まったそうですが,数百人規模に成長されています。現在は具体的にどのような構成となっているんでしょうか。

戸塚氏:
 2017年におけるゲーム関係の正社員がだいたい190人ほどだったんですが,2019年では340人ほどになっています。業務委託やその他の協力をいただいている方も含めると350人だったんですが,今は520人ほどになっています。

 また,2014年に台湾支社を設立し,日本企業としては比較的珍しい海外配信拠点を170人で育てています。2017年には福岡に支社を立ち上げて,福岡の土地に根付いた形で一歩踏み込んだQAやカスタマーサポートの機能強化にも挑戦し,現在は東京本社の目黒と福岡,台湾の3拠点体制となっています。規模を拡大しながら,きちんと利益も伸ばしていく。この4年間,我々の強みである人材や専門性を積み上げていくということができたのではないかと思っています。

4Gamer:
 2020年3月には経営陣の体制変更が発表されました。具体的に何を変えていくのか,また変えずに守っていくのはどのような部分なのでしょうか。

戸塚氏:
 大きく変わったところとしては,先ほど申し上げたとおり,2019年までにさまざまなゲームや新しいIPへ挑戦してきましたし,海外展開に対してのノウハウや体制も整ってきました。今後はその強みをより生かし,世界に挑戦していく日本発のゲーム企業として,そしてゲームへの集中投資をアカツキの事業戦略の1つの柱として,あらためて打ち出していこうと考えています。

 アカツキの経営体制も刷新して新たに「Executive Leadership Team(ELT)」を組成し,取締役会と一緒に中長期的な企業価値の最大化を目指すことになりました。もともと創業者2人を中心とした創業者経営でしたが,新しい経営体制では,チーム経営に大きく舵を切ったことになります。

 ELTのメンバーには,アカツキのゲームを世界へと広げていくHead of Global Game Expansionとして小川 智也が就任しました。小川はアメリカやインドなどのテクノロジー,エンタメ企業への投資を通じたパイプと知見を持っています。また,海外でのIP事業の強化という点では,Netflixの日本事業立ち上げにコンテンツ企画・分析担当として参画した河村 悠生がHead of Global IP Expansionとして入っています。

 そして,ゲームファンにはおなじみの水口哲也さんを社外取締役にお招きしました。弊社は私を含めて若いメンバーで運営しているので,海外できちんと実績がある専門家の方々を交え,チーム経営に移行するという点が非常に大きく変化したところかと思います。

 一方で,積み上げてきた資産を活用し,世界に勝負していくという点は変わりません。引き続き我々が得意とする,他社のIPをお預かりして国内を中心としつつ海外にも発信していく姿勢は同様です。「ロマンシング サガ リ・ユニバース」は先日海外配信を開始しましたし,それ以降の2021〜2022年もモバイルゲームは国内の市場だけでなく,世界へ照準を合わせた展開を常に視野へ入れています。

 我々は失敗も成功も,積み上げていくのを重要視しています。そうした観点でさまざまな専門職の人材が一番の宝であると考えていて,世界で通用するゲームカンパニーを目指すという部分はずっと変わらないかと思います。

4Gamer:
 なるほど。今後の展開や,現在走っているタイトル数についても可能な範囲でお聞かせください。

戸塚氏:
 我々は計画的な展開を得意としているんですけど,1人1人のやりたいという情熱や気持ちを大事にし,経験が少ない若い社員にも機会を与え,チャレンジしてもらうことも重要だと考えています。
 事業のビジョンの中で「ハートドリブン」という言葉を使っているんですけど,ワクワクする気持ちからモノを作り,自分たちの情熱で新たな可能性を生み出していくことによって,ゲームやエンターテインメントのクオリティは上がっていくと信じています。こうした可能性に注目し,個人やチームの情熱から始まるプロジェクトを大事にしています。

 ちょうど先日,デザイナーが発案した新規ゲームの企画を全社員にプレゼンしましたし,エンジニアが発案したプロトタイプの制作メンバーを集めるなど,職種を問わずやりたいという気持ちを重要視しながら始めるプロジェクトもあります。これを「シード(種)プロジェクト」という制度としています。プロジェクトの種を情熱のある人が植えて,皆で協力しながら育んでいく。そのような世界をアカツキの中で構築しています。

画像集#003のサムネイル/アカツキが目指すこれからの戦略とは。「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」の強みは海外拠点&時代に合わせたゲーム作りにある

4Gamer:
 少し余談となりますが,ゲーム業界も新型コロナウイルス感染症によるさまざまな影響を受けている中,御社はかなり順調にリモート体制へ移行された印象を受けます。もともとそうした体制が整っていたのでしょうか?

戸塚氏:
 もともと東京オリンピックを想定し,交通が麻痺して出社できなくなるなど,お客様にサービスを提供できなくなる可能性は1年ぐらい前から着目していました。私の視点では,CTO & CISOの田中勇輔を中心したチームが準備を進めていたので,スムーズに移行できたのかなと。そうした中でたまたま今回のような状況になってしまったのですが,リモートに切り替わってむしろパフォーマンスが上がったという人もいたくらいで,どちらかといえば順調なほうかと思います。

 しかし声優さんの音声収録やモーションキャプチャーの撮影など,物理的に難しい要素もあり,結果として開発と運営が効果的に進まないという状況も避けられません。そしてブレインストーミングのような場の雰囲気で生まれるクリエイティビティなものも確実に存在すると思っていて,まだ正解のないものを突き詰めているプロトタイプやα開発のようなフェーズでは,難しい部分もあるというのが正直なところです。良い面も悪い面も見ながら,今後の新しい働き方に適用していきたいと考えています。


新規タイトルで新たなチャレンジ

積み重ねで成長していくマトリクス組織を構築


4Gamer:
 新作として「HoneyWorks Premium Live」や「トライブナイン」が発表されていますが,市場への投入に向けて意識しているのはどのような点でしょうか。それぞれプレイヤー層やジャンルは大きく異なるかと思います。

戸塚氏:
 HoneyWorksさんや小高さんというクリエイターを前にして私がお話しするのも恐縮ですが,まず「HoneyWorks Premium Live」では,2018年夏前頃から本格的にゲーム制作のパートナーとして関わることになり,10周年を迎えるHoneyWorksさんの企画にも参加させてもらうことになりました。

 IPプロデュースという,お手伝いさせていただく的な表現になるかと思いますが,例えば弊社では,横浜駅直通の複合型体験エンターテインメント施設「アソビル」を運営しています。ここで展示イベント「ハニワのアトリエ展」という,既存のファンの方に向けたリアルコンテンツを提供しました。

 HoneyWorksさんが描かれた絵や,一緒に制作させていただいたミュージックビデオなどを先行公開し,事前登録の開始と合わせてファンの皆さんに楽しんでいただく。そんなことにも挑戦しています。HoneyWorksさんはもちろん,ほかのIPをお預かりする場合はすべてに言えることですが,なにより考えるのはそのIPの世界観,哲学を大事にすることです。我々にはパブリッシングや,既存のモバイルゲームに対する効果的なマーケティング・プロモーションへの知見が蓄積してきていますし,そうしたものを含めて作家さんや版元さん,関係者の皆さんと相談しながら総合的に仕掛けていくというような,1つの大きなチャレンジになると思います。

 年齢層に関しても,今までは20〜30代が中心のコンテンツを運営することが多かったんですが,「HoneyWorks Premium Live」については少し若い10代後半〜20代がメインターゲットになるでしょう。新しい世代の方にゲームを提供する。そういった部分でも新しいチャレンジですね。

4Gamer:
 では「トライブナイン」はいかがでしょうか。

戸塚氏:
 「トライブナイン」については,弊社の「八月のシンデレラナイン」など,複数のヒットに大きく貢献している山口修平がプロデューサーを担当しているタイトルとなります。山口には「トライブナイン」の総合プロデューサーとして最前線に立ってもらいながら,Chief IP ProducerとしてELTのメンバーとして経営にも参加してもらっています。弊社オリジナルの新作にはなるんですけど,Tookyo Gamesの小高さんと一緒に世界観を作っています。

 我々はいろいろな方々との協業を強みとしていますし,山口は他社IPのヒット経験も,「八月のシンデレラナイン」のオリジナルタイトルの経験も十分です。今回は我々の柔軟性と情熱を尊重いただきながら小高さんと一緒にIPを作らせていただくという形で,こちらも新しいチャレンジとなりますね。

 オリジナルIPとしてかなり力を入れていて,キーワードとしては「東京」「エクストリームスポーツ」「ストリートファイト」といった部分がコンセプトとなります。ティザーサイトで公開しているように,最先端の3DCGの導入を目指していて,ゲームデベロッパとしても非常に高いゲーム開発力が要求されるゲームジャンルになるかと思います。こういったものに対しても,業界内のさまざまなスペシャリストの方をより積極的にお誘いして開発力を大きく高め,世界に通用するゲームを作っていく。そういったところを目指して挑戦しています。


 海外のメディアにも取り上げられていて,「トライブナイン」の海外での可能性を感じています。弊社としては,これからもバラエティ豊かなゲームジャンルを作り,プレイヤーの皆さんへ新たな価値を提供するというチャレンジを続けていきたいと思います。

4Gamer:
 ご参加されている打越さんなども,海外で高い人気を集めていらっしゃいます。個人的にもリリースが楽しみです。
 さて,そうした新作を展開していくにあたり,2020年度のスマホ市場の変化についてはどのように捉えていますか。

戸塚氏:
 上位タイトルの顔ぶれがあまり変わらないところから超寡占市場などと呼ばれたりしますが,2020年度も2019年度のスマホ市場と同様に,大きなトレンドはそこまで変わらないだろうなと思っています。成熟市場の中でクオリティがより求められてくるので,仮に成功しても失敗しても,きちんと組織や事業に積み上がるようにしていく必要があると考えています。

 ゲーム産業というものは,技術革新とセットで変わってきました。もともと街のゲームセンターにあったアーケードゲームが家庭で遊べるようになり,そこからガラケー,スマホと体験が変化していきました。
 すごく簡単に言うと,ここ2〜30年で大きな変化があって,変化のたびにゲームの体験は進化してきたと思います。新しいハードウェアや技術が普及したタイミングでゲーム体験が変わると思っていて,我々としては新しい技術に着目し,そうしたゲーム産業の変化に対して機動力高く,世界に対しても挑戦できるような製品を作っていきたいと考えています。

 個人的な予想ですが,2020年度は,国内はより寡占市場となり,例えばNetEase Gamesさんのような,とくに中国系の会社の方々が参入をより加速させていくでしょう。そうした脅威とも戦うことになりますし,悲観的になられる方もいるかもしれないんですが,私はとても希望を持っています。
 クラウドゲーミングやXRという技術が社会に実装されれば,ゲームの体験がこれから大きく変革していくと信じています。モバイルゲームだけにこだわらず,機動力のある体制を作り,そうしたゲーム産業の変化を見据えながら人材の専門性や実力を確かに積み上げていくのが大事なんだろうなと思います。

4Gamer:
 何度か“強み”というワードがお話しにも出てきていましたが,あらためてアカツキの持つ強みはどこにあるとお考えでしょうか。

戸塚氏:
 経営体制変更の際に「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」と宣言させていただいたんですが,我々は他社と協業させていただいているゲームをはじめ,「八月のシンデレラナイン」「トライブナイン」など,いわゆる2次元や3次元を問わずさまざまな分野で柔軟性が高く,きちんと時代に合わせたゲームを提供しています。ベタですが,モバイルゲームを日本と世界に適用させ,パブリッシングし,運営・開発を重ねていけるのが大きな強みだなと思います。

 その中で,少し体制の話になりますが,ゲーム事業の体制としてはゲーム事業本部というものと職能本部というものに分けています。ゲーム事業本部にはタイトル,職能本部には職業のスペシャリストが紐づいていて,縦串・横串のマトリクス型組織を採用しています。これが非常にうまく機能しているのも強みの1つだと思います。

※クリックで拡大します。詳細は「アカツキゲーム事業部特設サイト
画像集#005のサムネイル/アカツキが目指すこれからの戦略とは。「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」の強みは海外拠点&時代に合わせたゲーム作りにある

 私はアカツキという会社の専門職の集団は本当に素晴らしいと思っていて,マーケティングと企画,クリエイティブと呼んでいるデザイナーの部,エンジニアの部,検証とカスタマーサポートも自社で持っています。台湾にも170人のチームを持っているんですけど,それらの部長陣がそれぞれの専門性を磨いていますから,日本のモバイルゲームでも通用しますし,例えばマーケティングでは,ほかの産業のマーケティングと比べても遜色ないレベルの専門性を積み上げていこうという気概でいます。
 アメリカのアパレル系通販小売店Zappos.com(ザッポス・ドットコム)はカスタマーサポートがものすごく強い会社ですが,それが結果としてeコマースビジネス全体を底上げしています。ゲームのカスタマーサポートでも専門性を極めれば,ゲームの継続率へ好影響を与え,ゲームをより愛してもらうきっかけになると思うんですよね。

4Gamer:
 一プレイヤーとして遊ぶ際,カスタマーサポートから親身な返事をもらえて嬉しかったり,親しみを感じたりした経験があるので,継続率や愛情などへの影響はよく分かります。

戸塚氏:
 そうした各専門性を積み上げて,例えばマーケティング部門は「八月のシンデレラナイン」で仕掛けた実績を自部門に持ち帰り,「トライブナイン」や「HoneyWorks Premium Live」のチームに生かすといったこともできます。
 専門職が自律的にノウハウを蓄え,色々なプロジェクトへ栄養のように与えていく生態系がアカツキの中で生まれているんです。職能の専門性と各タイトルが生態系のように混じり合い,お互いに刺激しあうことで全体が増幅していく。1つ1つの経験を未来のヒットにつなげていける組織も大きな強みだと思います。

4Gamer:
 ゲーム発のメディアミックス戦略を積極的に採られるのも御社の特徴だと思いますが,他社と「ここが違う」といったポイントはありますか?

戸塚氏:
 「八月のシンデレラナイン」ではゲームをリリースし,テレビアニメ化や音楽LIVE,コミケでのグッズ展開など,ゲームだけに閉じない多角的なメディアミックスを行う体制を3年ほど積み重ねてきました。マーケティング部の中にも「マーケティングスペシャリスト」という,マスマーケティングを含めてブランドを育てていくチームがありますし,ほかにもファンの方々により接点を持ってもらって,ゲームを長く愛してもらう「ファンマーケティング」というチームもあります。
 それぞれが積み上がっていろいろな手が打てるようになってきたなと思うので,新作の「トライブナイン」やまだ発表できていない新作などに応用展開し,メディアミックスを仕掛けていきたいと思います。
 HoneyWorksさんとの取り組みがまさにそうした事例なんですけど,自社IPを醸成させたり,他社IPにもノウハウを活用して展開していったり,そうしたチャレンジを重ねていったりし,IPプロデュースカンパニーとしてより成熟していきたいなと考えています。

画像集#004のサムネイル/アカツキが目指すこれからの戦略とは。「ゲームを軸としたIPプロデュースカンパニー」の強みは海外拠点&時代に合わせたゲーム作りにある

4Gamer:
 ありがとうございました。最後にアカツキが提供するゲームについて,今後プレイヤーに注目してほしい部分をお聞かせください。

戸塚氏:
 我々が提供しているタイトルは多様なジャンルにわたっていて,一言でコメントするのは難しいのですが,私のゲーム部門を管轄するスタイルとしては,各チームに多くの権限を渡しています。我々は「自分色」と呼んでいるんですけど,例えばHoneyWorksらしさ,ハチナイらしさを追求したうえで,自分たちらしいものを提供する。アカツキとして「これ」というものを断言しにくい理由はそこにあります。他社さんでは出せない個性的な体験や仕掛け,独自のサプライズや施策を楽しみに待っていただければと思います。

──2020年6月4日収録。


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