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プレイ前に読みたい「サイバーパンク2077」前史・徹底解説。英雄ジョニー・シルヴァーハンドの足跡から“暗黒の未来”を振り返る
ジョニー・シルヴァーハンドはこのシリーズを象徴するキャラクターであり,彼の物語こそが「サイバーパンク」世界の歴史であるといっても過言ではない。そう,E3 2019で発表されたトレイラーで,俳優キアヌ・リーブスが演じることが明らかになった人物――彼こそがジョニー・シルヴァーハンドその人なのだ。
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本稿ではジョニー・シルヴァーハンドと彼の仲間達の足跡を辿りながら,知っておくと「2077」がより楽しめるであろう「サイバーパンク」世界の歴史についてを語っていく。これを読み終わったとき,あなたは海外の「サイバーパンク」ファンが何故彼の登場を熱狂的に歓迎したのかを知るとともに,「2077」で出会う彼の言葉をより深く理解できるようになっていることだろう。
もちろんネタバレなどは一切ないので,「2077」が手に届くまでのつなぎとして,あるいはプレイ後に,より深く「サイバーパンク」世界を知りたいと思ったときの副読本として,この記事を活用してもらえたら幸いだ。
※記事中に登場する用語や固有名詞は,テーブルトークRPG版に準拠したものです。「サイバーパンク2077」に登場するものとは異なる可能性があります。
■テーブルトークRPG版「サイバーパンク」とその系譜
ジョニー・シルヴァーハンドについて語る前に,まずテーブルトークRPG版の「サイバーパンク」シリーズについて少し紹介しておこう。
「2077」のベースとなった「Cyberpunk 2.0.2.0.」は,米国の出版社であるR.Talsorian Gamesから,1990年に発売されたテーブルトークRPGだ。これはそもそも,1988年に発売された「Cyberpunk」(区別のため「Cyberpunk 2013」とも呼ばれる。以下,2013)の第2版にあたるもので,サイバーパンクを題材にしたRPGとしては元祖にあたる存在だ。
日本では,「Cyberpunk 2.0.2.0.」の邦訳版「サイバーパンク2.0.2.0.」(以下,2020)が,1993年にホビーベース・イエローサブマリンから発売された。40代以上のオールドアナログゲーマーなら,かつてプレイしたという人もいるかもしれない。
テーブルトークRPGとしての「2020」の特徴は,シンプルなゲームシステムに過剰なまでの情報をぶち込んだスタイルにある。ルールは非常に簡単だ。現行の「ダンジョンズ&ドラゴンズ 第5版」や「新クトゥルフ神話TRPG」をプレイしている人なら,すぐに理解し憶えられるだろう。
その一方で,キャラクターが使用する武器装備やサイバーウェア,ヴィークルなどのアイテム類は,とても使い切れないほどの数が用意されている。各種のサプリメント(資料集)で追加されるものを含めれば軽く1000種類以上,銃器だけでも300種以上という充実っぷりだ。しかも,そうしたアイテムひとつひとつに,メーカー名や商品名といった設定が用意されている。「2077」の公式動画「Night City Wire」で紹介されているツナミ防衛システムやバジェット・アームズといった兵器メーカー名は,すべてテーブルトークRPG版に存在するものなのだ。
なお海外ではテーブルトークRPG版の新展開もスタートしている。最新ルール「Cyberpunk Red」(以下,Red)の時代は2045年――第四次企業戦争の戦禍から復興途上の時代が舞台だ。本稿の執筆時点では,スタートセットである「Cyberpunk Jumpstart Kit」が発売されているのみだが,正規の基本ルールブックがリリースされた暁には,「2020」から「2077」に至るまでの謎の多くが明かされることになるだろう。
「サイバーパンク」前史――“暗黒の未来”の始まり
まず「サイバーパンク」世界の成り立ちを,ざっと説明するところから始めていこう。ここで紹介するのは「2020」においても“歴史”として語られる部分,つまり過去の出来事である。
1980年代まで,「サイバーパンク」の世界は我々が生きる現実の地球とほとんど変わらない歴史を歩んできた。しかし,いつの間にか,どこかで,歴史の歯車が致命的なまでに歪んでしまった。誰も気付くことのないまま,人の心はゆっくりと荒んでいったのだ。社会は人種,思想,出自,財力,職業や所属する組織ごとに分断され,格差と不信と対立が広がっていた。人々は自己中心的になり,刹那的で暴力的な風潮が蔓延。倫理を見失った政府と企業によって,科学技術は作り手たる人類の理解を超えた進化を始めていた。
1989年,ベルリンの壁の崩壊とともに“暗黒の未来”は始まる。この年,腐敗しきったアメリカの政府機関――CIA(中央情報局),NSA(国家安全保障局),FBI(連邦捜査局),DEA(麻薬取締局)――が結託した秘密組織,通称“四連”(ギャング・オブ・フォー)が秘密裏にクーデターを実行。大統領は傀儡化され,民主主義は事実上有名無実なものとなる。
政府を掌握したギャング・オブ・フォーは,すぐに暴走を開始した。中米におけるユーロシアター(サイバーパンク世界における欧州諸国連合)の影響力増大を危惧したNSAは,中米諸国に内政干渉を開始。1990年には国防上の理由を掲げてパナマに侵攻,運河地帯を制圧した。しかしパナマ軍が周辺国の山岳地帯へ逃げ込みゲリラ戦を展開したことで戦況は泥沼化し,ついには中米諸国連合4か国との全面戦争に突入することとなる。これを第一次中米戦争という。
この中米戦争を皮切りに,なにもかもが最悪の方向に転がり出す。麻薬取締りを主導するDEAがコカとケシを標的にした合成伝染病を世界中に散布したことで,いくつもの麻薬生産国が財政破綻。報復として,中米の犯罪組織群が北米全域で麻薬戦争を展開したばかりか,1993年にはコロンビアの麻薬王がニューヨークで小型核爆弾によるテロを実行,1万5000人もの死者を出す惨事を引き起こした。1994年には世界株式市場で大暴落が発生。1996年には,巨額の財政赤字とギャング・オブ・フォーの陰謀による混乱に,大統領および副大統領の暗殺事件が追い打ちをかけ,無政府状態に陥ったアメリカはついに崩壊してしまう。
さらに悪夢のような災厄の数々がアメリカを襲った。原子力発電所のメルトダウン,毒性物質の流出事故,中西部の大干魃を発端とする食糧危機,マグニチュード10.5の超巨大地震とそれにともなう異常気象といった問題が,1990年代後半に立て続けに発生。2000年には巨大な火災嵐がアメリカ北西部から中部を荒れ狂い,さらにはウェイスティング・プレイグ(殲滅病)と呼ばれる致死性の高い消耗性伝染病(後に中東諸国が開発した生物兵器であったことが判明する)が流行して,数え切れない人々が犠牲になった。2000年代後半には,欧州連合との戦争で月面のマスドライバーから3発の岩塊が撃ち込まれ,コロラドとタンパの水源地帯が消滅。ワシントンDCも壊滅し,付随して発生した海面上昇から海岸地帯のほとんどは水没,ないしは沼地と化すこととなる。
こうした事態に対処できない連邦政府への不信から,いくつもの州が独立を宣言。1996年以前に存在した都市や市町村の7割は放棄され,アメリカ人の4人に1人がホームレスとなった。職と住居を失った人々は寄り集まって“ノーマッド”と呼ばれる放浪の部族集団を形成。ノーマッドには短期労働に従事して食い扶持を得る者もいれば,血に飢えた獣のごとく略奪と暴虐の限りを尽くす者達もいた。
災厄に見舞われたのはアメリカだけではなかった。中東では諸国間の対立が相互核攻撃にまでエスカレートし,イラン,イラク,リビア,チャド,アラブ首長国連邦はガラス質の荒野が広がる放射能汚染地域になった(これが原因で石油生産量が激減し,主要な燃料がCHOOH2/チューツーというバイオエタノールに置き換わることとなった)。
植物に感染する突然変異ウィルスにより,ネオ・ソヴィエト連邦,カナダ,中国北部の農作物が全滅したことで食料危機が発生。世界中で凄まじい数の餓死者が発生した。アフリカでは民族浄化と殺戮の嵐が吹き荒れ,革命とクーデターでいくつもの国が興っては消える戦乱の大陸と化した。
欧州諸国連合(ユーロシアター)――1992年以降はEEC(欧州経済共同体)となる――は,地球温暖化による海水面の急激な上昇で海沿いの地域が水没したものの,ほかの国々に比べれば被害は軽微だった。しかしアメリカの崩壊にともなう市場の混乱や政変,巨大企業群(メガコープ)の暗躍によって政府機能は大幅に弱体化していた。
日本ではアメリカの崩壊に伴う混乱に乗じて,セキュリティ企業のアラサカが勢力を急拡大した。政権与党と結託して憲法第九条を無期限停止,自衛隊を掌握し,一時は日本を支配下に置く寸前にまでに至ったほどだ。しかし,財閥系企業群と官僚機構の頑強な抵抗によって,アラサカの企みは辛くも阻止された。財閥系企業群はアラサカに対抗すべくFACS(Far-Asian Co-prosperity Sphere:極亜共栄圏)を結成し,アラサカと暗闘を繰り広げている。
かくして世界は,軍事力を獲得し,国家という枷から解き放たれた巨大多国籍企業群が,その莫大な経済力によって民衆を支配し,資源や権益をめぐって争う時代となった。このような世界で,腐敗した政府や巨大企業に対して反抗し,研ぎ澄まされたサイバネティクスを武器に,己の矜恃と生きざまを貫く人々こそが“サイバーパンク”なのである。
■「サイバーパンク」世界の日本
「2077」では背景として語られるに止まる日本だが,もちろん詳しい設定が用意されている。ここでは日本語版「2020」のサプリメント「ニッポンソースブック」から,2020年の日本について掘り下げてみよう。
しかしながら,日本人にとって“暗黒の未来”は意外と悪い未来ではないかもしれない。確かにアラサカが政・財・官に巨大な影響力を及ぼしているせいで,社会全体は窮屈であるし,難民の流入や巨大企業の抗争によって治安もかなり悪くなっているのは確かだ。だが,経済面では一国で欧州連合全体に伍するほどの超大国になっているし,世界中で猛威を振るった飢餓や伝染病も日本にはほとんど影響がなかった。それどころか,合成食料の輸出や周辺諸国の動乱に伴う“特需”で1990年代からずっと好景気が続いている。
最新テクノロジーは多くが日系企業の製品で,独占的なシェアを握っている分野も少なくない。2020年の時点でもコミケが開催できる程度には平和で,思想信条・表現・言論の自由は残されている(そしてVRゲームの分野では,日本の某社が米国の某社を吸収合併してできた“セガタリ”が業界最大手として君臨している!)。
つまるところ,「サイバーパンク」の世界において日本と日本企業は都合の良い悪役であり,それゆえに“暗黒の未来”から最も都合良く利益を得ているのも日本なのである。
“ロッカーボーイ”ジョニー・シルヴァーハンドの誕生
ジョニー・シルヴァーハンドが青年期を過ごしたのは,このような激動の時代だった。彼の本名はRobert John Linder(ロバート・ジョン・リンダー)。第一次中米戦争(1990〜96年)に徴兵されて従軍していることから,この時期に18歳から20代前半だったと思われる。米陸軍の記録によれば,ニカラグアでの作戦行動中に行方不明になっているが,実際には極秘の非人道的作戦に参加させられ,左腕を失う重傷を負いながらもかろうじて生き残り,戦死を装って軍を脱走していたのだった。
命からがら帰郷した彼が目にしたのは,変わり果てた故郷だった。生まれ育った小さな住宅街は更地にされ,巨大企業群の出資によって新たな巨大都市が建設されていたのだ。コロナド市――後にナイトシティと改名されることになる街として。元々の住民達は立ち退かされて,後に“旧ダウンタウン”と呼ばれることになる地域に押し込められていた。彼の家族がどうなったのかは分からない。だが,彼は左腕の義手にちなんで自らの名をジョニー・シルヴァーハンドと変え,新たな人生を歩み出した。彼の人生をぶち壊した,政府と巨大企業に対する怒りを心にたぎらせながら。
その後,しばらく彼の足取りは途絶えるが,その間に彼は“サムライ”というロックバンドを結成,2003年にメジャー・デビューを果たすや爆発的なヒットを連発し,一躍トップスターの座に駆け上がった。
だが,サムライとしての活動は長くは続かなかった。2008年にメンバーの1人が殺人事件を起こして投獄されたことをきっかけに,音楽の方向性に関する意見の相違から,サムライは解散してしまったのだ。しかし,サムライを解散したことは,そのシンボルともなっている憤怒の鬼を野に解き放つに等しかった。元々サムライの曲は腐敗した社会に対する反抗のメッセージを込めたものが多かったのだが,フリーランスになったジョニーの歌はいっそう先鋭化していった。彼は権力者にとって目障りな存在だったが,金を生み出すガチョウでもあった。彼に首輪をはめるべく,企業が動いた。大手音楽会社が彼の過去を調べ上げ,専属契約を結ばなければ,彼が脱走兵であることを公表すると脅したのである。
ジョニーは彼流のやり方で痛烈な報復に出た。彼はすぐさまニュー・アルバム「Sins of Your Brothers」をリリースした。収録曲の中でジョニーは自分が脱走兵であることを認めるとともに,政府に命じられた非人道的行為の数々を告発した。アルバムは大ヒットし,民衆の怒りと共感を呼び起こしただけでなく,中米戦争の帰還兵や脱走兵に対する世間の認識を完全に変えてしまった。こうして彼は音楽によって世界を変革する,真のロッカーボーイとして飛躍を遂げたのだった。
そして「サイバーパンク」の物語は,ここから幕を開ける。
■ジョニーの仲間達(1)
クロマティック・ロックバンド“サムライ”のメンバー達。
ケリー・ユーロダイン(Kerry Eurodyne)
ヴォーカルとリズムギター担当。サムライ解散後もソロで活動を続け,ジョニーの親友であり続けた。「サイバーパンク」世界最高の作詞・作曲および演奏技術の持ち主で,その技能レベルはジョニーをもしのぐほど。ジョニーが反企業・反政府を掲げ,自ら暴力に訴えることも辞さなかったのに対し,ケリーは自らの音楽だけを武器に戦争・疫病・貧困・麻薬といった社会問題を訴え,チャリティ活動もおこなった。
ナンシー(Nancy)
キーボード担当。サムライに加わる前はブースター・ギャングのキッカー(荒事担当のメンバー)だった。薬物中毒者の夫から再三にわたってサムライから抜けるように脅され暴力を振るわれていたが,ついにキレて夫を83階のペントハウスから投げ落とし殺害,有罪判決を受けて投獄された。彼女が出所したとき,サムライはすでに解散してしまっていた。その後,ナンシーは名をBes Isis(ベス・イシス)に変え,ネットワーク54のメディア(報道レポーター)として活躍することになる。
ヘンリー(Henry)
ベース担当。サムライ解散後,試作型のヒューマン・インターフェイス・サイバーウェアを使用中に端子が電極に接触する事故で脳を焼いてしまい,人格再構築処置を受けるはめになり引退した。その後の消息は不明。
デニー(Denny)
ドラム担当。サムライ解散後,彼女は“マスターマインド”というバンドに加わっている。
ネヴァー・フェイド・アウェイ:ジョニーとオルトの物語
「サイバーパンク」には全シリーズを通じて貫かれている1つのバックグラウンドストーリーがある。それがジョニー・シルヴァーハンドとオルト・カニンガムの物語だ。この物語は,初版である「2013」(日本語版では「レフリーズ・アクセサリー」)に収録されていた「Never Fade Away」という短編小説から始まる。「2077」の物語もまた,実はこの小説が起点となるのである。
2013年4月,ジョニーはナイトシティでのライブを終え,恋人のオルト・カニンガムを連れて裏口から会場を出たところで,ファンを装って近づいてきた暴漢に撃たれ瀕死の重傷を負い,オルトを連れ去られてしまう(※この事件は「2020」では2012年の出来事とされているが,最新版「Red」では2013年に変更されている)。
事件を目撃したトンプソンと名乗る男が呼んだトラウマ・チームの救命処置で命をとりとめたジョニーは,彼を襲った暴漢が,実はアラサカがオルトを誘拐するために差し向けた工作員であったことを知る。
ジョニーはオルトがITSという企業で働くネットランナーであることは知っていたものの,彼女が何を作っていたかまでは把握していなかった。オルトはAIの人格データを記録するマトリクスを開発中に,それが人間の生体エングラム(ニューロンが脳内に残す物理的痕跡)を記録できることに気付いた。これを応用すれば,将来的に人間の記憶と人格を電子的に記録して,新たな肉体に移すことで,事実上の不老不死を実現できる可能性があった。
だが,このプログラムには作成者である彼女にすら完全には理解できない謎の性質があった。このプログラムで人間のエングラムを記録すると,単に電子的なコピーが作られるのでなく,肉体から意識が失われて記録装置の側に移ってしまうのだ――まるで魂が吸い取られてしまったかのように。
ITSは倫理的問題に悩む彼女からこのプログラムを取り上げ,自社のサーバーに侵入しようとするネットランナーの精神を捕らえて尋問するためのブラックICE(攻性防壁)“ソウルキラー”に作り変えた。このソウルキラー・プログラムは最新鋭のスーパーコンピュータでなければ動かせない巨大なものであり,不正にアクセスしてきた侵入者を迎撃するためにしか使えないものだったが,アラサカはソウルキラーを我が物とするだけでなく,ネットを自在に動き回って邪魔者を始末できる改良型を作らせるため,開発者であるオルトを誘拐したのだった。
トンプソンからオルトが誘拐されるに至った事情と,彼女がアラサカのナイトシティ支社ビル“アラサカ・タワー”に囚われていること,そして彼女が近いうちに日本へ移送されることを知らされたジョニーは,彼が知る限りで一番の凄腕ソロ(サイバー傭兵)であるローグと,彼女の相棒であるノーマッドのサンチァゴを雇った。しかし,いかに腕利きといえど,たった4人で厳重に警備された巨大企業アラサカの拠点に乗り込むのは自殺行為だ。そこでジョニーは,ロッカーボーイ流のやり方で味方を集めることにした。
一夜にしてナイトシティ中に噂が駆けめぐった。ジョニー・シルヴァーハンドがアラサカ・タワー前にある緑地公園でゲリラ・ライブをやるという噂が。即席ステージの前に6千人もの熱狂的なファンが詰めかけた。ジョニーがステージに上がり,「Chippin'in」を歌い出すと,観衆の興奮は一瞬にして頂点に達した。アラサカ・タワー側は何が起きているのか理解できず,タワー前に武装した警備員を配置することしかできなかった。
ジョニーは観衆の熱狂が頂点に達したのを見計らって突然演奏をやめ,アラサカ・タワーの前に銃を構えて整列するアラサカの警備員を指さすと,ステージを降りて,ゆっくりとタワーに向けて歩き出した。すると,興奮しきった6千人の観衆からいきなり一斉に敵意を向けられた警備員の1人が,怯えて銃の引き金を引いてしまう。会場に銃声が鳴り響いた瞬間,観客は怒り狂った暴徒と化し,アラサカ・タワーに殺到した。付近のビルの屋上に隠れたサンチァゴが,騒ぎに紛れて警備員達を狙撃していく中,ジョニー,ローグ,トンプソンの3人はタワー内への侵入を果たす。
オルトもおとなしく囚われの姫君となってはいなかった。監視下に置かれながら新たなソウルキラーを作らされていたオルトは,それが自分に使われた場合にプログラムの制御を奪えるように,そして精神を肉体に戻すことができるように,密かに細工をしていたのだ。彼女の予想どおり,ジョニーの突入とともにオルトに対して新型ソウルキラーが使用された。オルトの精神はコンピュータに移し替えられたが,彼女は即座に制御を奪い取り,監視していたアラサカのネットランナー達をソウルキラーで殺害し,反撃に移った。
だが,ここで不運な出来事が起きる。オルトが反撃を開始したのとほとんど同時に,彼女が囚われている部屋にジョニー達が突入してきたのだ。戦闘が終わったとき,オルトのサイバー・デッキは銃撃戦に巻き込まれて破壊され,肉体との接続が断たれてしまっていた。ジョニーはオルトが精神を破壊されて死んでしまったのだと思い込み,彼女の肉体を抱いてアラサカ・タワーを後にした。ネット空間から助けを求めるオルトの存在に気がつかぬまま……。
こうしてオルト・カニンガムはデジタルゴーストとなった。「2077」にまで続く壮大な物語,その発端となるジョニーとアラサカとの因縁が,ここに生まれたのである。
■ジョニーの仲間達(2)
オルトを救出しようとするジョニーに協力した仲間達。後の物語でも大きな役割を果たす彼らは,「2077」にも登場することが判明している。
トンプソン(Thompson)
ワールド・ニュース・ネットワーク社所属のメディア(報道記者)。アラサカに不都合な報道をした報復として妻を殺され,復讐の機会を狙っていた。アラサカに暗殺されそうになっていたジョニーを救い,オルト救出作戦に協力した。
ローグ(Rogue)
2013年時点におけるナイトシティで最高の凄腕ソロ(サイバー傭兵)。ジョニーの恋人だったが,喧嘩別れした。ジョニーに昔の“借り”を持ち出され,しぶしぶながら協力する。2023年の事件でもジョニーに協力し,彼の最期を看取る。「2077」ではナイトクラブ“アフターライフ”を経営するフィクサーとして登場する。
サンチァゴ(Santiago)
2013年時点におけるローグの相棒。有力なノーマッド・ファミリーであるAldecaldo Clan(アルデカルド・クラン)のメンバーで,後にリーダーの座を受け継ぐ。高額の報酬に惹かれてジョニーに協力するが,事件後は友となり,アラサカに追われる彼を自分のファミリーにかくまった。
ファイアーストーム:ジョニー・シルヴァーハンドの死
ここからは「2020」のグランドフィナーレを飾る長編シナリオ「Firestorm」で描かれる物語だ。「Firestorm」は全3部の予定だったが,実際には第2部までしか発売されなかった。その第2部である「Firestorm: Shockwave」終盤のイベントシーンにおいて,ジョニー・シルヴァーハンドは壮絶な戦死を遂げる。だが,そこには彼が後にデジタルゴースト化するような描写は一切書かれていなかった。ゆえに,これから語る経緯は「2077」で説明されるだろう歴史とは異なる可能性もあることを理解したうえで,読み進めてほしい。
オルトを失ったのち,アラサカに追われるジョニーは,サンチァゴが所属するノーマッド・ファミリー“アルデカルド・クラン”にかくまわれて身を隠した。だが,ジョニーの怒りの炎はくすぶるどころか,さらに激しく燃え上がる。彼は幾度も暗殺されそうになりながら,政府や巨大企業の悪事を音楽の力で糾弾し続けた。民衆の英雄,反抗のヒーローとしてのジョニー・シルヴァーハンドの名声は,2020年までに不動のものとなっていた。
2023年,二つのメガコープ・アラサカとミリテクの対立が全世界を巻き込む戦乱にまで拡大した第四次企業戦争のさなか,ジョニーはオルトの精神がデジタルゴーストとしてネット上で生き続けていたこと,そしてまたしてもアラサカが彼女を捕らえ,新たなソウルキラー(ソウルキラー3.0)を作らせていることを知らされる。10年前にもオルト救出作戦に関わったトンプソンとローグ,そして新たな仲間であるシャイタンとスパイダー・マーフィーとともに,ジョニーは今度こそオルトを救出するために動き出した。
ジョニー達は,米軍とミリテク企業軍を率いるパトリック・エディントン将軍(General Patrick Eddington)の依頼を受けたモーガン・ブラックハンド率いる特別作戦チームに加わり,ナイトシティのアラサカ・タワー(2013年の襲撃後に130階建ての高層ビルに建て替えられた)への襲撃に参加した。
ジョニーのチームはアラサカのCEO 荒坂 敬(アラサカ・ケイ)の居住階にあるソウルキラー研究所に突入し,ソウルキラー3.0を奪取。オルトのエングラムをスーツケース大の記録装置に移し替えることに成功する。しかし,脱出しようとする彼らの前に,アラサカのサイボーグ兵アダム・スマッシャーが立ち塞がった。アダムの猛攻でトンプソンが重傷を負い,シャイタンも苦戦を強いられた。重い記録装置を抱えていては逃げ切れないと悟ったスパイダー・マーフィーは,オルトのエングラムをネットにアップロードして逃がすことを決断する。
ジョニーは今度こそオルトを置き去りにはしないと,敢然とアダム・スマッシャーに挑みかかる。しかし,彼の銃ではアダムの装甲を貫くことができず,反撃のオート・ショットガンの直撃を受け,胴体を真っ二つにされてしまう。こうして伝説のロッカーボーイは非業の最期を遂げたのだった。
だが,ジョニーの英雄的行為は無駄ではなかった。彼が稼いだわずかな時間に,マーフィーはオルトのエングラムのアップロードを完了させた。シャイタンはアダム・スマッシャーの背後に回り込んで格闘戦を挑み,ローグとマーフィーとトンプソンが脱出するまで敵の攻撃を引きつけた。そしてモーガン・ブラックハンドが救援に現れると形勢は逆転。最強のソロであるモーガンはアダム・スマッシャーを圧倒し,破壊されたシャイタンの義体からバイオポッド(脳と脊椎を格納したユニット)を回収して,屋上から脱出しようとした。
そのとき,ナイトシティを閃光が包んだ。アラサカ・タワーの地下で小型核爆弾が炸裂したのだ。ジョニーのチームは囮だった。モーガン・ブラックハンドにすら知らされていなかったが,エディントン将軍は別働隊に小型核爆弾を持たせ,アラサカの機密データを奪取ないし破棄した後は,タワーそのものを跡形もなく吹き飛ばす計画だったのだ。さらに,核爆弾の威力は将軍が想定していたよりもはるかに大きく,ナイトシティの住民75万人あまりが死亡する大惨事となってしまった。
崩れ落ちたアラサカ・タワーの中から,シャイタンのバイオポッドは奇跡的に発見された。だが,モーガン・ブラックハンドとジョニー・シルヴァーハンドの遺体はついに発見されなかった。
■ジョニーの仲間達(3)
モーガン・ブラックハンド(Morgan Blackhand)
世界最高の凄腕として名高い伝説のソロ(サイバー傭兵)。ケリー・ユーロダイン誘拐計画をたった1人で阻止し,犯人全員を生け捕りにしたことで知られる。2023年のアラサカ・タワー襲撃においてはミリテクに雇われて作戦の指揮をとったが,核爆発でタワーが崩壊した際に行方不明になった。
シャイタン(Shaitan)
フルボーグ(全身義体)の傭兵。アラサカに恋人ないし女性の肉親を殺されたらしく,全身義体化によって失われた人間性をアラサカへの憎しみによって再構築している。2023年時点でのローグの相棒。アラサカ・タワー襲撃作戦に参加し,アダム・スマッシャーとの戦闘で義体を失なうが,バイオポッド(脳と脊椎を格納したユニット)は核爆発に耐えて回収され,奇跡の生還を果たした。その後,ローグとスパイダー・マーフィーとともに,潜水艇でナイトシティを脱出しようとする荒坂 敬を追い,見事討ち果たした。
スパイダー・マーフィー(Spider Murphy)
友人にして師匠であるレイシィ・バートモスの仇を討つべく作戦に参加した女性ネットランナー。2023年のアラサカ・タワー襲撃作戦に参加し,オルトの人格データを奪還してネットに解き放った(あるいは彼女だけが知る秘密のストレージに移した)とされる。ジョニーの死を看取った仲間の1人であり,作戦中にソウルキラー3.0を入手していたことから,「2077」における彼のデジタルゴースト化に何らかの形で関与していると思われる。ローグ,シャイタンとともに,ナイトシティを脱出しようとする荒坂 敬を追い詰め,ソウルキラーを使って肉体を操って切腹させた。
オルト・カニンガム(Alt Cunningham)
人類最初のデジタルゴースト。デジタルゴースト化した後もジョニーの活動の余波でたびたび災難に見舞われていたらしく,彼との接触を避けていた。ジョニーのことは憎からず思ってはいるものの,ひどいトラブルメーカーなのでなるべく関わりたくないとも思っていたようだ。「Red」の記述によると,バイオ兵器によって生命が死に絶えた香港の廃墟に,隔離されたネット空間“ゴースト・ワールド”を築き,行き場を失ったAIを保護している。
そして“2077”へ
ジョニー・シルヴァーハンドと仲間達の活躍により,アラサカはアメリカにおける最大の拠点だったナイトシティからの撤退を余儀なくされたばかりか,CEOの荒坂 敬の死によって混乱に陥った。それでも第四次企業戦争は2025年まで続いた末,日米両政府の妥協により,はっきりとした決着がつかぬままに終結した。世界はあまりにも疲弊しきっていたのだ。
戦争が終わった時,世界市場は崩壊し,ネットや生産施設を含む社会的インフラの多くが破壊し尽くされていた。地球の空は戦禍によって大気中に巻き上げられた粉塵のせいで真っ赤に染まり,2030年代半ばまで晴れることはなかった。
それ故,第四次企業戦争終結から10年あまりの時期は“赤の時代”(Time of the Red)と呼ばれた。巨大企業が世界を巻き込む戦争を繰り広げる時代は終わり,復興の時代が始まったのだった。
ジョニーの死から50年あまりが過ぎた2077年。苦難の時代は続いているが――いや,苦難の時代であるからこそ――人々はジョニー・シルヴァーハンドの伝説を語り継ぎ,彼の歌を歌い継ぎ,彼の反抗の魂を受け継いでいる。
新たなる主人公“V”もまた,そのようなサイバーパンクの1人だ。復興を遂げたナイトシティで“V”は,そしてジョニー・シルヴァーハンドとオルト・カニンガムはどのような物語を紡ぐのか。「2077」をプレイして,君自身の目で確かめてほしい。
■参考文献
「Cyberpunk」「Rockerboy」「Solo of Fortune 2」「Neo Tribes」「Firestorm: Stormfront」「Firestorm: Shockwave」「Cyberpunk Red Jumpstart Kit」(以上,R.Talsorian Games刊)
「サイバーパンク2.0.2.0.」「ナイトシティ」「ニッポンソースブック」「レフリーズ・アクセサリー」(以上,ホビーベース・イエローサブマリン/FEAR刊)
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