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2020年のVRゲーム市場を新 清士氏が解説。オンラインセミナー「VRゲーム市場の現在〜今後の成長の可能性はどこまで見えたか」をレポート
このセミナーでは,よむネコ CSO(最高戦略責任者)の新 清士氏が,世界のVR市場の最新動向や今後の日本市場における可能性についての解説を行った。
セッションの冒頭,新氏はまずSteamVRの同時アクセス数からVR市場の動向を解説。それによると,VR元年と言われた2016年には6000前後だったアクセス数が,現在は1万8000を超えており,とくに毎年クリスマスシーズンに大きく伸びる傾向にある。直近の2020年春頃にも数字が大きく伸びているが,これは新型コロナウイルスの感染拡大の影響により,PCゲームやコンシューマゲーム同様,VRゲームに対する需要が増えたからだという。
世界的に見るとVRの需要が高いのは先進国で,その比率は,アメリカが7割,欧州が2割,日本が1割という推測がなされている。一方,中国はVRハードが出回っているものの,それがヒットしているとまでは言えないのが現状だという。また,全世界に普及しているVRハードは,推定で千数百万台前後。そのうち50%はPS VRと考えられており,販売台数で言えばPS4本体の10%程度とのことである。
そうしたVR市場は,PC VR,Oculus Quest,PS VRの3つの市場に分かれており,それぞれユーザーの性質が異なる。PC VR市場では現在,SteamVR対応のValve Indexがヒットしているが,生産が追いつかないため,販売台数は20万台程度に留まっていると推測されている。また,Oculus Rift Sも引き続き好調とのこと。一方でHTC VIVEはシェアを落としており,いくつか施策を打っているが販売台数の回復には至っていないというデータが出ている。
またSteamVRのアクティブユーザー数の変動からも,Oculus Rift/Rift SがPC VR市場の中心となっており,HTC VIVEが減少傾向,Valve Indexが徐々に伸びていることが読み取れる。「その他」のハードウェアのユーザー数が増えている理由は不明だが,新氏はOculus QuestをPCに接続してPC VRのコンテンツを利用可能にする,Oculus Link機能を使っているユーザーがカウントされているのかもしれないとの見解を示していた。
VRヘッドセット単体でVRゲームを楽しめるOculus Questの市場状況は,まず販売台数が100万台を超えたと推定されるという。新型コロナウイルスの影響により,3月頃にいったん生産が止まったが,現在は再開されており,店頭では入荷即売り切れという状態とのこと。
またPS VR市場は上記のとおりVRゲーム市場全体の50%を占めるとされており,一番収益が出やすい。そのためVRコンテンツは,最初にPC VR市場でリリースして評価を高め,そのあとでPS VR市場に展開するのが成功パターンとなっている。ただ,PS VRの販売台数は500万台を超えているものの,実稼働しているのはその3割程度と推測されている。
さらに新氏は,VRプラットフォームがSteam(Valve),Oculus Store(Oculus),PS Store(SIE)と固定化しており,それぞれに紐付くVRハードのシェアが高いことから,VRハードベンチャーの時代が終わりつつあることに言及。たとえ高性能の新たなVRハードが登場しても,VRプラットフォームのサポートがなければシェアを伸ばすことはできないと指摘した。
それではVRゲーム市場は儲かるかと言うと,まだまだ新興市場であり,開発に予算をかけすぎると収益化が難しくなるという状況だ。しかし「Beat Saber」や「SUPERHOT VR」のようにセールスが100万本を超えるタイトルや,数十万セールスを誇るタイトルも複数出てきており,利益が出ない市場ではなくなっている。また旧作が市場の中心ではあるが,新作もセールスを伸ばすなど,変化が見られるという。
セッションでは,VRゲームのヒットタイトルが成功した要因も解説された。まず「Beat Saber」は,MR合成でプレイヤーの姿を画面内に表示した動画で注目を集め,これによってVRゲームの「実際に体験してみないと面白さが伝わらない」という課題をクリアした。
さらに,Modの普及も人気の後押しをした。「Beat Saber」ではユーザーが作成したModがSNSなどでバズるという好循環が生まれ,さらなるヒットにつながっている。とくに日本においては,プレイヤーの姿をアバターに差し替えるModが「Beat Saber」のヒットに一役買ったという事例も紹介された。
また「Half-Life」シリーズの13年振りの最新作となる,ValveのVRシューター「Half-Life: Alyx」は,圧倒的に高画質のグラフィックスや,完成度の高い物理システムなどが生み出す,これまでにない没入感が評価され,推計100万セールスを達成している。しかし,その売上を持ってしても開発予算を回収できていないと考えられるため,新氏はロングテールで数百万本のセールスを狙っているのではないかと見解を述べた。
さらにValveは本作以外にもVRゲームを開発中であると明らかにしていることから,「Counter-Strike」シリーズのようなマルチプレイVRゲームも用意しているだろうと予想される。ただ,ユーザーがそうしたVRゲームをプレイするための環境を整えるには,現状かなりのコストがかかるため,技術の進展を待つという長い目で見た戦略になるのではないかと新氏は話していた。
また,純粋なゲームではないが「VRChat」もユーザー数を伸ばしており,簡単にアバターの入手やカスタマイズができる点が高く評価されている。さらにコミュニティ内では,アバター販売のカルチャーなど,独自の経済圏が形成されつつある。ただ,「VRChat」自体は無料ソフトなので,今後どのように収益化していくかが最大の課題だ。
新氏によると,多くの人から評価されやすいVRゲームには共通点があり,1つはしっかりした物理要素があるもの,もう1つはコミュニティ要素が入っているものであるという。コミュニティ要素には,Modなどを作ることも含まれる。一方,ネガティブな要素としては,バグの多さやマルチプレイモードがないことが,しばしば挙げられる。
新氏は,VRプラットフォームの今後の展開についても言及した。まずValveはValve Indexを中心に展開していくと予想されるが,ユーザーが負担するエントリーコストが高いため,どうやって普及させるかが不透明だという。
またSteamVR市場は強力だが,Steam全体での競争の激化や,セール/キャンペーンを前提とした販売,ユーザーの求める水準が上がっていることなどから,収益を上げることが年々難しくなっている。
SIEは,PS4からPS5への移行期ということもあり,PS VRには消極的になりつつある印象だと新氏。PS VR2などの展開は早くても2021年になるのではないかと話していた。
Oculusは,Oculus Quest中心の戦略にシフトしているように見えるという。Facebookではスタッフ全体の10%がVR/AR事業に従事しているそうで,その背景には既存のiOSやAndroidに頼らない独自のOSやハードを開発するという強い意思があるとのこと。
Oculus QuestのスペックはiPhone 7世代と同等で,グラフィックスなどの表現に限界がある。そこで専用OSをカスタマイズし,さまざまな機能を追加しているという。例えば,PCに接続するとOculus Rift Sとほぼ同等の環境を実現できるOculus Link機能は,ユーザーのPC VR参入のハードルを大きく下げた。またユーザーの指を認識する機能も,コンテンツの没入感を高めるのに寄与している。そして何より,Oculus Questは単体で動作し,比較的安価である。
コンテンツ面では,Oculusはタイトルを厳選しており,クオリティの高いゲームしか販売しないことでユーザーの信頼を得る戦略を採用。Oculus Rift/Rift Sでは,ユーザーがSteamVRでゲームを購入してしまう傾向にあったが,Oculus Quest専用コンテンツはOculus Storeでしか買えないため,収益が上がったという話もあるそうだ。これには,Oculus Questユーザーのアクティブ率やゲームの購入率の高さ,そしてVRを初めて体験したユーザーが多いと考えられることなども関係している。
新氏によると,現在Oculus QuestはPC VR以上に売れており,数値こそ表面に出ていないが百数十万台前後普及している感触があるという。実際,よむネコがリリースしたVR剣戟アクション「ソード・オブ・ガルガンチュア」の購入者のメインはOculus Questユーザーで,しかも安定的に売れ続けているそうだ。またOculus Quest用ソフトのセールスランキングを見ても,往年の人気作が上位に集中する中,「Pistol Whip」のような新作も入ってくるなど変化が見られる。
こうした状況を踏まえ,新氏はOculus QuestユーザーとPC VRユーザーはかなり傾向が違うと分析。Oculus QuestユーザーはPC VRユーザーほどグラフィックスなどのクオリティを求めず,多少古いタイトルでもゲームとしての体験を評価しており,逆にゲーム体験を損なうようなバグやクラッシュに対しては,PC VRユーザーよりも厳しい傾向にあるそうだ。
新氏はこれらの傾向から,Oculus Questユーザーは比較的カジュアルゲーマー寄りであるとしたうえで,Oculus Quest市場で重視すべきこととして「レビュースコアを高く保つ」ことを挙げた。例えばPCゲームからの移植タイトルがランキング上位に位置するのは,Oculus Questユーザーの多くが元のPCゲームの評価をチェックしているからというわけである。
また,広告を打つと興味を持ってくれる人は多いのだが,VRハードを所持している人が少ないので売上につながらないことや,プラットフォーマーに選ばれるポジションを意識することも重視すべき点として挙げられた。
セッションの最後に,VRゲームに求められるものと,今のVR市場で意識すべきことに話が及んだ。
まずVRゲームに求められるのは,物理属性を再現した「Half-Life: Alyx」や,立体感をうまく利用した「Pistol Whip」のように「VRらしさを体験できる」ことである。また「Beat Saber」や「VRChat」のように,「ゲームプレイの風景がプレイヤー以外にも分かりやすく,バズりやすい」ことも必要だ。
今回のセッションでは取り上げられなかったが,「VR酔いがない」ことも重要である。現状では酔う人と酔わない人の差が大きく,そのギャップを1つの方法では埋められないことが判明しつつあり,例えば移動方法について,通常移動とワープ移動のどちらかをユーザーが選択できるタイトルが増えているとのこと。
今のVR市場で意識すべきこととしては,「VR開発技術のハードルが着実に上がっている」ことが挙げられた。これは,UnityやUnreal Engineにより参入自体のハードルは下がっているものの,操作性やグラフィックスの表示方法など,VRゲームには既存のゲームとは異なる3D技術が求められるためだ。例えばコンシューマゲームの多くは,遠くにあって近付けないオブジェクトならぼかしてしまえばいいが,どんなものにも近付けてしまうVRゲームではそれができない。
「Half-Life: Alyx」では,ハードディスクにテクスチャなどの膨大なデータをすべてインストールしてしまうことでその課題を解決しているが,そのアプローチがすべてのタイトルに有効かどうかは別の問題である。またUIをどこに置くか,UX(ユーザー体験)をどうデザインするか,あるいはマルチプレイをどうやって実現するかもコンシューマゲームとは大きく異なる。
そして繰り返しになるが,VR市場は新興市場を脱していないため,予算をかけすぎると収益化に時間がかかる。さらにユーザーは「VRではこんなこともできる!」といった実験的なタイトルでは満足しなくなりつつあり,全体のボリュームや繰り返し遊べる要素を考慮に入れる必要もある。その一方で,100万セールスを記録するタイトルもいくつか見られるようになっており,今後の伸びも期待できる。
これらを総合して,新氏は「市場の性質を意識し,適切なサイズで適切な企画を考える必要がある」とまとめていた。
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ソード・オブ・ガルガンチュア
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