インタビュー
開発期間“6年”――「機動戦隊アイアンサーガ」を手掛けた中国インディーズ系ゲームスタジオGAME DUCHYを現地取材。中国新世代クリエイターたちの挑戦を垣間見た
前述した事業を支えるのは,言うまでもなく同国における巨大なエンジニアリングソースの存在だ。中国の大手ゲーム会社は,他国と比較にならないほど豊富な開発リソースを有しているケースが多く,新しいトレンドに向けて柔軟に対応できる体制を完備。今後も中国発のゲームアプリは,日本の市場を席巻することが予想される。
そんな折,4Gamerは,2018年6月29日に日本でリリースされた「機動戦隊アイアンサーガ」(iOS / Android)を手掛ける開発会社GAME DUCHY(ゲームダッチー)と出会った。中国・杭州市にオフィスを構える同社は,さきに挙げた大手企業とは異なり,いわゆるインディーズ系のゲームスタジオだ。
話を聞いてみると,本作は6年もの歳月をかけて開発され,加えて自社パブリッシングで配信・運営を担当しているという。少数精鋭の彼らが自社パブリッシングにこだわる理由,そして日本語版リリースにかけた想いをGAME DUCHYの現地スタジオで取材した。
「機動戦隊アイアンサーガ」公式サイト
「機動戦隊アイアンサーガ」ダウンロードページ
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ただ“面白いゲームを作りたかった”
杭州市のサポートを受け大学3年生の時に起業
4Gamer:
お忙しいところ本日はお時間をいただき,ありがとうございます。日本でも「機動戦隊アイアンサーガ」がリリースされます(※)が,まずはGAME DUCHYがどのようなゲームスタジオなのか教えてください。(※)インタビューの収録は6月1日に行われた。
GAME DUCHYは2009年,私が大学3年生のときに友人と共に設立した会社です。起業した理由は,ただ“面白いゲームを作りたかった”から。当時,杭州市では大学生の起業を支援するプログラムがちょうど始まったところで,それをきっかけに会社を設立することにしました。
4Gamer:
起業支援プログラムでは具体的にどのようなサポートがあったのでしょうか。
ソン氏:
金銭的には約17万元(約300万円)の支援を受けることができました。といっても,1年ですべて家賃に消えてしまったんですけどね(笑)。
4Gamer:
支援があっても会社の経営は簡単でなかったと。就職活動をして,どこかのゲーム会社へ入社したいとは思いませんでしたか。
ソン氏:
まったく思いませんでしたね。中国では大学4年生になった頃から本格的に就職活動を始めるのが一般的ですが,私は3年生のときからすでに起業するつもりでいました。海外のゲーム会社でインターンを経験して,「このビジネスなら自分も挑戦できるのではないか」と確信を持つようになったからです。
杭州市の支援プログラムのおかげで資金も十分に準備できたことからも,“入社”という選択肢はありませんでした。高校生の頃から大親友のジョン(GAME DUCHY マーケティングディレクターのジョン・リー氏)と一緒にファウンダーとなることができて,不安よりも,すごくワクワクした気持ちでいっぱいでしたね。「これでやっと本当に作りたいゲームを作れるぞ」と。
4Gamer:
自身が作りたいものと,企業に入ることで作れるもの,そこに乖離があったのでしょうか。
ソン氏:
ええ。起業前には海外のゲーム会社からデザインの仕事を請け負っていたこともあったのですが,私のゲームに対する理解や想いが,クライアントの会社となかなか合致しないところもあって,悶々とした気持ちを抱えていました。
起業はリスクもあるし,ここ最近の中国市場はゲームに対する審査が非常に厳しく,インディーズゲームが基準を完璧にクリアするには大変な苦労を伴います。けれども,自分の目指すゲーム作りのために苦労するなら価値があるし,仕事も生活も自由なほうがいいと思ったんです。
4Gamer:
ソンさんのように,ゲーム会社を設立する人は多いのでしょうか。
ソン氏:
大学を卒業してすぐに起業する人は珍しいですね。テンセントやNetEaseのような大手のゲーム会社で経験を積んだあとに起業するパターンはよくあるのですが。そういう意味では,GAME DUCHYは正真正銘のインディーズゲーム会社といえるでしょう。大手のゲーム会社から資金もノウハウもまったく援助を受けずにゲームを自社開発してきましたから。
4Gamer:
ですが,中国のインディーズ系ゲームスタジオは増えてきていますよね。
ソン氏:
はい。着実に増えています。中国では2015年にスマートフォン向けゲームアプリが急激に人気を集め,インディーズ系のゲームアプリ開発会社が次々と生まれました。
しかし,その後ブームが落ち着くと,インディーズ界隈には淘汰と再編の波が押し寄せ,私たちGAME DUCHYも何とか乗り越えてきたというところです。規模としては10〜15人程度のスタジオが多いのではないでしょうか。
4Gamer:
なるほど。ちなみに,GAME DUCHYのメンバーは今何人くらいに?
ソン氏:
設立当初は6〜7人の小さな会社でしたが,今では30名ほどにまで増えました。オフィスも当時に比べて5倍くらいの広さになって,随分大きく成長したなと思います。
メンバーには,イギリス,オーストラリア,カナダなどのゲームスタジオで経験を積んだトップレベルのクリエイターやエンジニアも在籍していますし,日本進出にあたっては,中国語と日本語を流暢に使いこなす素晴らしい語学力を有する伊藤りんかさんにジョインしていただき,私たちの事業を大きくサポートしてもらっています。皆,ゲームが大好きで,本当に心強い仲間達です。
4Gamer:
伊藤さんは機動戦隊アイアンサーガでどのような仕事を担当していらっしゃるんですか。
運営チームの一員として,TwitterなどのSNSアカウントの運用,いわゆる“中の人”を務めつつ,カスタマーサポートやローカライズにも関わっています。
4Gamer:
ちなみに伊藤さんがGAME DUCHYに入社したきっかけを教えてください。
伊藤氏:
私は中国人と日本人のハーフで,日本で生まれてから両国を行き来しながら育ってきました。中国と日本のために役に立つ仕事に就くのが小さい頃からの夢で,ちょうど仕事を探していたところ,GAME DUCHYのことを知りました。スマートフォン向けのゲームには以前から興味があったので,すぐに応募書類を送ったんですよ。それがきっかけですね。
採用面接ではソンさん,ジョンさんをはじめ,いろいろなクリエイターの方々とお会いして,皆が面白いゲームを作ろうと一生懸命に開発に携わっているんだと知りました。「機動戦隊アイアンサーガ」はもちろんですが,GAME DUCHYの作るプロダクトはミニゲームであっても非常に丁寧に作られていて,私もここで一緒に働きたい,GAME DUCHYの作品を日本のゲームファンにもっと知ってもらえるようにしたいと思い,入社を決心しました。
4Gamer:
実際に海外のゲーム会社で働いてみていかがですか。
伊藤氏:
私は今18歳で,知識も経験もほとんどないままGAME DUCHYに入社し,中国のゲーム業界に飛び込んできました。中国語にはそれなりに自信はあったのですが,海外で働くには思っていた以上にハイレベルな語学力が必要で,現地の文化への理解も求められます。
生活習慣はもちろん,企業文化においても日中では違いが大きく,慣れるまでは,正直かなりハードだと感じることもありました。ですが,中国に来てからはゲームビジネスのダイナミックさにワクワクしない日はありません。日本は世界でも有数のマーケットですが,グローバルな視点で見てみると,日本だけでなく,さまざまな地域にたくさんのチャンスがあることに気付かされました。
4Gamer:
学べることも多々あるわけですね。
伊藤氏:
そうですね。楽しいことばかりとは限りませんが,グローバルな環境で仕事をするというのは人生でとても良い経験になると思います。もし,この記事を読んでいる方の中で海外で働きたいと考えている人がいるなら,今すぐトライしてみてください。挑戦するのに若すぎるということはありませんから。
開発期間“6年”の道のり
自社開発にこだわったゲームエンジン
4Gamer:
ちょっと話は変わりますが,ソンさんがゲーム制作において影響を受けたタイトルはありますか。
ソン氏:
最初に好きになったゲームは「スパロボ」(スーパーロボット大戦)! それに「ポケットモンスター」「悪魔城ドラキュラ」「モンスターハンター」も好きだし,「真・三國無双」や「THE KING OF FIGHTERS」もかなりやり込みました。好きなゲームを挙げればキリがありませんね(笑)。
4Gamer:
日本のコンシューマゲームにインスパイアされた部分も大きいと。
ソン氏:
そうですね。「StarCraft」などのPCゲームも好きですが,コンシューマゲームも相当な数をプレイしてきました。
4Gamer:
そのあたりは「機動戦隊アイアンサーガ」にも表れているのでしょうか。
ソン氏:
もちろん! 子供の頃からロボットが大好きで,「スパロボ」もそうですが,アニメの「機動戦士ガンダム」シリーズもすごく思い出に残っています。だから,そういうSF的なロボットをモチーフにしたゲームをずっと作りたかったんです。
当社のCTOもSF的でメカニカルな乗り物が好きなんですよ,戦艦だったり戦車だったりね。GAME DUCHYにとって「機動戦隊アイアンサーガ」は初めての本格的なゲームタイトルですから,自分たちの好きなものをぎゅっと詰め込んであります。
4Gamer:
開発期間はどのくらいかかりましたか。
ソン氏:
大体6年かかりました。
4Gamer:
6年!? ゲームアプリの開発期間は長くて3年前後が一般的ですが……。
ソン氏:
カジュアルゲームのアプリなど,いろいろなものを作りながら少しずつ開発を進めていたので,普通より時間がかかってしまいました。でも焦らずに,本当に良いものを作ろうという気持ちだけでここまで続けてきたという感じです。6年間の内,半分はゲームエンジンとバトルシステムの開発に費やしました。
4Gamer:
ゲームエンジンから自社開発にこだわったのですね。
ソン氏:
Unityなど既存の仕組みを利用する方法もありましたが,将来的にゲームをもっとスピーディに開発していくためには,ジャンルを問わず汎用的に使える独自のエンジンが必要だと考えました。それがGAME DUCHYの「機動戦隊エンジン」です。これまでの開発経験を活かして,アート表現や物理的なエフェクトをより軽快に表現し,キレのあるアクションを実現しています。
4Gamer:
バトルシーンも“ロボット感”があって,手軽なのに戦闘の熱さを感じました。
ソン氏:
ありがとうございます。バトルシステムの原型は「バトルシティー」のようなモデルを考えていたんですよ。そこから,モバイル端末に適した操作性を考慮したり,パイロットとスキルの組み合わせで戦略性を高めたりして,どんどん改良を重ねた結果,現在の放置型システムに行き着きました。
ただ単にゲーム性の向上を狙うなら,プレイヤーがひとつひとつコマンドを入力するスタイルでも良かったのかもしれません。ですが,やはりスマートフォン向けのゲームということで,手軽さを重視した設計になりました。バトルをAIに任せたまま休憩することもできますし,じっくり遊びたいときは自分で操作して楽しんでもらえるようにもなっています。
ソン氏:
加えて,飽きずに長く遊び続けてもらう工夫として多数のミニゲームも実装しています。「機動戦隊エンジン」で開発の効率化が進み,ミニゲームをどんどん作れる体制が整ってきたので,今後もミニゲームは増やしていくつもりです。
4Gamer:
なぜ,ソンさんは遊び方の幅,豊富さにそこまでこだわっているのですか。
ソン氏:
イベントのために同じステージを周回させるのが,私はどうしても納得がいかないんですよ。だって,そんなのつまらないでしょう?
4Gamer:
気持ちは分かります(笑)。
ソン氏:
ひとつのゲームの中に見下ろし型のバトル画面もあれば,シンプルなタップゲームからレースゲームもある。そういう形のほうがずっと面白いと思いませんか。ミニゲームといっても,これまでGAME DUCHYが培ってきたノウハウを詰め込みましたから,かなり遊びごたえのある内容になっています。今後もバラエティ豊かな遊びを実装していきたいですね。
4Gamer:
ゲーム内の楽曲も印象的です。ボーカルなども採用されていますよね。
ソン氏:
そうですね。ゲーム内には3〜40曲収録しています。よりゲームに没頭してもらうように,ホーム画面やバトル画面など,様々なシーンでこだわりの楽曲を流しています。今後も楽曲は追加してきますし,まだ発表はできないのですが,日本のロボットアニメの楽曲を手掛ける著名な作曲家とのコラボレーションも検討しています。きっと日本のプレイヤーは驚くと思います。ぜひご期待ください。
4Gamer:
楽しみですね。ちなみに世界観,ストーリーもソンさんがディレクションを?
ソン氏:
ええ,主人公・ベカスを軸にSF的な戦記物語として仕上げました。私が主に制作していますが,プレイヤーの声を反映させた部分もあります。
「機動戦隊アイアンサーガ」は中国と台湾ではすでに正式リリースして運営2年目なんですが,ファンコミュニティで熱心に意見やアドバイスをくれる人を,新たな人材としてGAME DUCHYに迎えたこともあります。そのくらい,プレイヤーの皆さんの意見は大事にしていますし,可能な限りゲームへ反映できるように努めています。
4Gamer:
本作の世界観には,これまでソンさんが触れてきたゲームやアニメ作品がよく表れていると思います。
ソン氏:
子供の頃に見た作品はやっぱり忘れられないもので,私の原点と言えるかもしれません。「機動戦隊アイアンサーガ」でも日本の作品へのリスペクトをいろいろなところに散りばめてあります。それはゲームシステムだったり,エフェクトやモーションだったりするのですが,知っている人ならきっと気付いてもらえるんじゃないかなと。
本当に作りたいゲームを追究すればするほど,自分の創作意欲と日本のサブカルチャーが陸続きであることを感じますね。
4Gamer:
なるほど。
ソン氏:
日本のコンテンツが中国のサブカルチャーに与えた影響は絶大なものがあります。皆,子供の頃から日本のアニメやゲームに親しんできましたし,中国でも日本人の声優は大変な人気を誇っています。
本作の開発にあたり,ベカスや朧(おぼろ),スロカイ達に命を吹き込むにはやはり日本の実力派声優を起用すべきだと,かなり早い段階から考えていました。実際にゲームでボイスを聞いたときは震えるほどの感動でした。憧れの声優の方々と一緒に仕事ができて,本当に嬉しかったです。
4Gamer:
日本のコンテンツに精通していらっしゃって驚くばかりですが,IP作品を利用してゲームを作ろうと考えたことはありますか。
ソン氏:
GAME DUCHYは新しい会社ですし,知名度も高くはありません。日本で成功しているIPタイトルを我々が取得するのは相当困難でしょうね。資金面の問題もあります。
それに何よりも,私たちは自分自身の手でオリジナルのゲームを作りたかったんです。それはビジネスの面では厳しい選択ですが,クリエイターとしては最高に楽しいプロセスでもある。リリース直後は不具合も多くてクレームを受けることもありましたが,一生懸命改善を重ねて,今ではたくさんのプレイヤーから認めてもらえるようになりました。そこにやり甲斐を感じますね。
私は日本のゲームが大好きで,だからこそ,ひとつひとつの作品をコマーシャルなものに利用したくないんです。話題を集めて古いゲームシステムでガチャを回させても,きっと誰も満たされない。そう思いませんか。
パブリッシャから提携のオファーはすべて辞退
大切にしたプレイヤーとの“直接のコミュニケーション”
4Gamer:
ところで,「機動戦隊アイアンサーガ」の日本でのリリースは当初から考えていらっしゃったのでしょうか。
ソン氏:
そうですね。企画当初から日本進出は念頭にありました。
4Gamer:
それは何か特別な理由が?
ソン氏:
開発メンバーを含め,私たちは日本のサブカルチャーから良い影響をたくさん受けてきました。だからこそ,いつか日本に自分たちのゲームを届けたい,日本のゲーム市場に挑戦したいと思っていたんです。まずは中国と台湾でリリースし,改善を重ねた上で満を持して日本に上陸するというプランを考えていました。
4Gamer:
今こそ上陸のタイミングというわけですね。
ソン氏:
「機動戦隊アイアンサーガ」は,中国の大手アプリストアTapTapで10点満点中8.8点という非常に高いスコアを獲得しています。とくに,ストーリーの独創性,美しいイラスト,バトルの手軽さ,高額な課金をせずとも十分楽しくプレイできる点などが高く評価されました。日本にも素晴らしいゲームアプリが数多くありますが,決して引けを取らないクオリティだと自負しています。
4Gamer:
中国のプレイヤーからは高評価だと。
ソン氏:
はい。ただ,今振り返っても不思議なのは,中国でリリースしたばかりの頃から日本のプレイヤーに遊んでいただけているという点です。当初はゲームの内容はすべて中国語表記でしたし,日本向けのプロモーションもまったく行っていません。にもかかわらず,日本語で応援のメッセージを送ってくださる方までいました。
どういう経緯で知っていただけたのかは分かりませんが,本作は日本のプレイヤーにも十分楽しんでもらえるゲームなのだと,まさに自信が確信に変わった瞬間でしたね。実際,日本語版の公式Twitterアカウントは,開設直後でまだ事前登録キャンペーンも始まっていない段階で,7000人近いフォロワーを集めました。
4Gamer:
中国のデベロッパによるゲームアプリといえば,「荒野行動」「アズールレーン」「崩壊3rd」などが人気ですが,いずれもテンセントやNetEaseといった大手企業がパブリッシャとして関わっています。「機動戦隊アイアンサーガ」も,大手企業と組んで日本へ展開する方法があったのではと思うのですが,なぜ自社開発,自社パブリッシングという形になったのでしょう。
私はGAME DUCHYでマーケティング部門を統括しているのですが,パブリッシングについては中国ゲームアプリ市場におけるいくつかの課題が関わっています。
4Gamer:
課題ですか。
ジョン氏:
はい。中国では,課金の発生するゲームアプリはすべて,Appleの審査とは別の,独自の審査を受けなくてはならないルールがあるんです。審査は文化的な保護,消費者の保護を目的としたもので,主に3つのポイントがチェックされます。
まず,Webサービスで事業を行うための企業認証を取得しているかどうか,2つめは安全な決済システムを確立できているかどうか,そして,サービスやゲーム内容の詳細を事前に申請し,配信の許可を得なくてはなりません。
この3つすべてが揃って,リリースの準備がやっと整うという感じです。手続きには最短でも2〜3か月かかりますし,それ以外にもさまざまな制約があります。たとえば,ゲームを運営する企業は資本金が100万元(約1700万円)以上なくてはならないという規約もあって,企業としての信頼が大きく問われるようになっています。自社パブリッシングになると,こうした難問が私たちのようなインディーズ系のゲームスタジオに降りかかってくるのです。
4Gamer:
なるほど。そこで大手企業がパブリッシャとして,開発会社とプレイヤーを媒介する役割を担うというわけですね。
ジョン氏:
そのとおりです。テンセントやアリババによるバックアップは私たちのような企業にとって非常に重要で,とりわけ資金面の支援は大きい。小規模のゲーム会社であれば,審査期間中に資金ショートを起こすリスクだってありますから。
4Gamer:
日本と中国,両国のパブリッシャから提携のオファーがあったのでは。
ソン氏:
確かに,複数のパブリッシャから声をかけていただきました。日本の皆さんが知っているような有名企業からも。ですが,いろいろと考えたうえですべて辞退しました。
4Gamer:
それは一体なぜでしょう。
ソン氏:
だって,提携のオファーをいくつももらえるほど,「機動戦隊アイアンサーガ」のポテンシャルが高いってことじゃないですか。商談の連絡をもらうたびに自信が湧いてきて,むしろ自分の手で日本のゲームファンに届けたいと強く思うようになったくらいです。
4Gamer:
なるほど!
ソン氏:
それにパブリッシャはビジネスパートナーであって,いろいろとお金を出してくれるのはありがたいけれど,彼らが介在することで運用改善のアジリティが損なわれるのは本意ではありません。
「機動戦隊アイアンサーガ」がここまで良いゲームになれたのは,累計1万件以上のフィードバックをプレイヤーから直接もらうことができたからです。日本語版もこれまでと同じように,Twitterなどでプレイヤーと直接コミュニケーションを重ねながら,より良い運営にしていきたいと思っています。
だから,私たちとプレイヤーの間に誰かが入り込むのは,必ずしも理想的とは言えない。本当に伝えたいことを伝えられなかったり,途中でズレて伝わってしまったりするかもしれませんから。
ジョン氏:
中国で開発だけに集中し,海外での運営はパブリッシャに任せるという戦略も選択肢としてないわけではありません。が,中国市場にフォーカスしたところで,いずれは「機動戦隊アイアンサーガ」の類似タイトルが出てきて消耗戦になるでしょう。
そうなる前に,自力でグローバル展開できる体制を整え,ビジネス面から見ても,今こそ大きな市場に打って出るべきだと考えたのです。
お気に入りの1本を大切にする日本プレイヤー
「機動戦隊アイアンサーガ」に込めた想い
4Gamer:
独自に海外展開を行ううえで,最大の課題だと感じていることは何ですか。
ジョン氏:
ローカライズですね。厚みのあるストーリーであるがゆえに,全体の文字数が多く,専門用語や造語も出てきます。翻訳も大変な作業ですが,フォントをひとつ選ぶだけでも苦労があります。言語と求められる質の高さという点において,日本は最も参入の難しい市場とも言えるでしょう。
4Gamer:
日本向けに仕様やシステムを変更する可能性はありますか。いわゆるカルチャライズです。
ジョン氏:
システムもゲームバランスも概ね中国語版と同じですね。手を入れるとすれば,マネタイズの部分かな。中国のゲームではVIPシステム(累計課金額に応じてさまざまな特典が付与される課金体系)を採用するケースがほとんどですが,日本語版にはガチャの実装を検討しています。
日本のプレイヤーのことを考えて可能な限り最適化を図っていますが,配信開始後も継続的に改善を続けていくつもりです。日本のプレイヤーの皆様には,お気づきの点やご要望があれば,ぜひTwitterでコメントをいただければと思います。伊藤さんがしっかり目をとおして,私たちに伝えてくれますから。日本のプレイヤーの求めていること,楽しいと思うことを私たちも少しずつ勉強して,より良い運営に務めていきたいです。
4Gamer:
Twitterの“中の人”でもある伊藤さんから見て,日本のプレイヤーの特徴,リアクションをどのように感じていらっしゃいますか。
伊藤氏:
事前登録キャンペーンを始めて,おかげさまでより一段とフォロワーが増えました。間もなく日本語版がリリースされるということで,世界観やストーリーを説明するなど,キャラクターの紹介を中心にツイートしています。リアクションはほとんどがポジティブな内容で,声優さんへの期待も多く寄せられていますね。
4Gamer:
日本のプレイヤーのプレイスタイル,ゲームへの向き合い方を見て,何か気付いた点はありましたか。
ソン氏:
日本のプレイヤーはひとつのタイトルに対するロイヤルティ(忠誠心・愛着)が非常に高いですよね。同じゲームを3年以上プレイし続けている人も多くて。一方,中国のプレイヤーは長くても半年か1年くらいでほかのゲームにスイッチしてしまう人がほとんどです。それを見越して,ゲーム会社も少ししかストーリーを用意していなかったりして,“作りっぱなし”のタイトルも少なくありません。
この状況は私も非常に残念に思っていて,ゲーム運営はもっと長期的な視点で行われるべきだと考えています。その点,「機動戦隊アイアンサーガ」は数年分のストーリーをしっかり練り上げてありますし,継続的な改善に主眼を置いています。ここは日本の運営型ゲームに学んだところですね。
4Gamer:
スタッフの皆さん,想いはひとつですね。
ソン氏:
はい。GAME DUCHYは「機動戦隊アイアンサーガ」に全精力を注ぎ込んでいて,全員が「このタイトルに懸ける」という想いでいます。もしかしたら,中国よりも,お気に入りの1本を大切にしてくれるプレイヤーの多い日本のほうが向いているタイトルなのかもしれません。
自分で言うのもなんですが,本作は世界観でちょっと複雑なところもあるし,キャラクター同士の人間関係も,ストーリーを経ていくうちに段々と変化していきます。そういうハードコア向けのパートもあるので,何百万人ものプレイヤーから愛されたいなんて大それたことは考えていないんですよ。
ただ,GAME DUCHYの目指すゲームを日本の皆さんにも楽しんでもらいたい,一緒にもっと良いゲームに育てていきたい。この気持ちさえ届いたら,それだけでもうすごく嬉しいですね。
4Gamer:
では最後に,「機動戦隊アイアンサーガ」とGAME DUCHYの今後の展望をお聞かせください。
ソン氏:
このゲームには,GAME DUCHY全員の夢とこだわりをいっぱい詰め込みました。とても面白くて良いゲームになっていると思います。また,本作に関わっていただいた作曲家,イラストレーター,声優の皆様にもあらためて感謝を述べたいです。本当にありがとうございました。
私は子供の頃から日本のゲームが大好きで,その経験から今こうしてゲームを作る仕事に就いています。日本のゲームに育ててもらったと言ってもいいかもしれません。ですから,今度は私たちの作ったゲームで日本のゲーム業界とプレイヤーに恩返しができたらいいな,と思っています。ぜひ楽しみにしていてくださいね!
4Gamer:
これから運営とプレイヤーの架け橋を担う“中の人”として,伊藤さんからも最後に一言いただければと。
伊藤氏:
私が今こうして中国にいるのは,じつは中国で働くという決心をしたからではないんです。ここで皆と一緒に働きたいと思った会社がたまたまGAME DUCHYだったんですね。
GAME DUCHYは,プレイヤーと共により良いゲームを作るという目標を本気で掲げています。スタッフ全員がプレイヤーの意見に耳を傾け,ゲームを改善し続けてきました。いかにも売れそうなゲームが売れているのではなく,プレイヤーを大切にするチームこそが成功するのだと思います。
こんなに情熱的で誠実なメンバーと共に働けること,GAME DUCHYの一員であることが私にとって何よりの誇りです。プレイヤーの皆さんと開発メンバーの架け橋となれるよう頑張りますので,GAME DUCHYと「機動戦隊アイアンサーガ」をどうぞ応援してください。よろしくお願いします!
4Gamer:
日本語版リリース直前のお忙しいところ,ありがとうございました。
――2018年6月1日収録。
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