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[NDC18]アメリカで人気を誇るストーリーゲーム「Choices」の開発キーマンを取材。プレイヤーの3分の2は女性で,押さえるべきはロマンス?
Pixelberry Studiosは,「Surviving High School」「Choices: Stories You Play」(以下,Choices)といったスマートフォンアプリをヒットさせた実績がある,2012年設立のゲーム開発スタジオ。2017年にネクソンのグループ会社となっている(関連記事)。ミャオ氏は,NDC18で同社について紹介する講演を行ったが,日本のメディアに向けてPixelberry Studiosの成り立ちや,ネクソンに加入した経緯をあらためて語ってくれたので,その模様をお届けしよう。
Pixelberry Studiosとは,どんな会社?
Pixelberry Studiosは,アメリカ・カリフォルニア州に設立された,ストーリーをメインコンテンツとしたモバイルゲームを制作しているスタジオだ。2018年で創業6周年を迎えたが,ミャオ氏によると,スタジオ設立前から付き合いがある社員達と18年以上にわたって一緒に働いているという。
Pixelberry Studiosでもストーリージャンルのゲーム開発を続け,「High School Story」をリリース。本作は全米におけるiPhoneカテゴリのセールスランキングで10位を獲得する鮮烈なデビューを果たした。続く「Hollywood U: Rising Stars」は100位以内にランクイン。そして約1年半前にChoicesが登場し,根強い人気のタイトルを抱えるスタジオへと成長した。
Choicesは高校を舞台にしたストーリーゲームだが,ゲーム内の学生生活を通じて冒険やホラーといったさまざまなジャンルも楽しめる。ミャオ氏いわく,もっとも人気があるジャンルはロマンスとのこと。
毎週のアップデートでコンテンツが追加されるのもChoicesの特徴で,ストーリーの見せ方はTVドラマのような手法が使われている。ただし,Choicesはインタラクティブ性を持つゲームだ。作中の登場キャラクターはプレイヤーの選択によって異なる影響を受け,ストーリーの展開が変わってくる。そこがゲームとTVドラマなどとの違いであり,人々がChoicesにハマるポイントだとミャオ氏は語る。
Pixelberry Studiosは,他国で流行しているジャンルと同様に,Choicesを新しいジャンルのひとつとしてワールドワイドで人気のあるものにしたいという。その実現のためには大企業のサポートが必要不可欠だった。
幸いなことにChoicesは北米のモバイルゲーム市場で非常に好調であった。そんな人気タイトルを抱えながら自らを売却しようとしている会社は少なく,Pixelberry Studiosには興味深いオファーが多く届いたという。その中にはネクソンが含まれていたが,ミャオ氏はなぜ同社からのオファーを受けたのか,3つの理由を挙げた。
まずひとつめの理由は,人々だ。ネクソンのスタッフ達は頭が良く,強い意志を持っていると感じたという。さらにこの先,何年間も一緒に働きたいと思える人ばかりだからだそうだ。
2つめの理由は,ネクソンが長期運営のゲームをたくさん抱えていたこと。ミャオ氏は,「メイプルストーリー」「アラド戦記」といったタイトルが10年以上続いていることに感銘を受けたという。それに加えて,長期間にわたって売上を伸ばしていることに興味を持ち,ノウハウをぜひ教えてもらいたいと考えたそうだ。
3つめは,ネクソンがグローバル企業であることだ。ネクソンは韓国で設立されながら,日本に本社を置き,社長はアメリカ人(※)である。その経営体制から,ネクソンは本当に世界市場でビジネスをやっていると感じられたという。
※ネクソン代表取締役社長のオーウェン・マホニー氏は,アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ出身である(関連記事)。
また,Choicesのアジア展開についてミャオ氏は未定としつつも,中長期的に狙っていることは間違いないとコメント。文化によってキャラクターの特徴やストーリーの使い方は変わるかもしれないが,いいストーリーは国境を越えて愛されることを信じているという。ビジョンとしては,アジア各国での展開では現地のライターを起用して展開を広げたいと考えており,Pixelberry Studiosは,どのようにしたら素晴らしいストーリーを描けるかを,彼らに伝えることでサポートできるはずだとしている。
会社に関する説明を終えた後,ミャオ氏に質疑応答する機会も得られた。本稿の締めとして,その模様を掲載しよう。
──ネクソンに加わってから,会社の環境はどのように変わりましたか。
私達は過去に2回の買収を経験しています。ネクソンのオファーを受けるかは注意を要する決断でした。ネクソンに加わるまでは現実的なイメージを抱いており,小さな会社が大きな会社に統合されることは容易ではないと想像できました。
買収からしばらく経ちましたが,その想像はいい意味で裏切られています。ネクソンは私達をストーリーゲームのエキスパートとして認めており,自身がそのノウハウを持っていないことを自覚しているんです。
日々の実務はネクソンから指示されることなく,私達に任されています。小さな会社ゆえリソースが不足していましたが,こちらもネクソンがサポートしてくれて大変ありがたいですね。例を挙げると,ネクソンにはマーケティング面のサポートがあります。Choicesはセールスランキングで最高8位を記録しましたが,これもそのおかげです。
また,データ管理を今後どのように活用していくかという点でも非常にたくさんのノウハウを得ています。
──ネクソンに加わり,どういった新しい機会を求めていますか。
ネクソン側がどうして私達に興味を持ったのかというと,ストーリーゲームの未来の可能性を共有できていたからです。ネクソンの歴史を振り返ると,過去にさまざまなジャンルが展開されていましたが,ストーリーゲームは含まれていません。
究極の望みとしては,トップの新しいメディア・プラットフォームになることです。具体的にはアジアのマーケットに対する理解をより深めたいと思います。やはりネクソンに加わってから私達の知見は深まりました。将来的には韓国と中国,そして日本のそれぞれに拠点をオープンし,現地の優秀なライターをあてがうという夢を描いています。
反対に,アジアで作られたコンテンツを北米に持ち帰ることも考えています。アジアのコンテンツは北米でも非常に人気を博しており,市場に新しい価値を生み出せるでしょう。何よりもChoicesのプレイヤーは,アニメが大好きなんです。日本で作られたアニメコンテンツを北米に持ち込むこともできたらいいなと思います。
──仮に日本でサービスするとしたら焦点はどこになりますか。
やはり日本の環境に合わせるべきだと考えます。日本のライターに書かれたストーリーが,間違いなく日本に受け入れられると思うからです。
──長年にわたって社員との絆が結ばれている秘訣を教えてください。
特別なポリシーがあるわけではないです。過去にさまざまな困難を一緒に乗り越えたのが秘訣かもしれません。Pixelberry Studiosの中心メンバーは,それこそ恋愛や結婚,奥さんの出産といったことまで,すべて知っています。そのような方々と仕事をすることは,人生の友と仕事をしている感覚です。外部から新たに入ってくる人にとっても,それが何より魅力に見えるのではないでしょうか。
自分達がやっていることを,とにかく楽しんでいるかが重要だと思います。私達のCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)は女性ですが,出会った当時はまだ駆け出しのライターでした。時が経つにつれて彼女の責任範囲は大きくなり,現在の地位にいますが,COOの立場になっても彼女の半分の時間はストーリーの執筆に使われています。
ライターがストーリーを書いて人々に伝えるのは,とても情熱を持ってできることなんだと思います。彼女はよく「ライターはそれぞれ歌のようなものを内に秘めている」と話していますが,私はその心にあるものを外に出すことを支援しています。
きっとライター自身もPixelberry Studiosで働くことを誇りに思ってくれています。何故なら,私達は彼らがやることを誰よりも理解していますし,尊重しているからです。
──在籍しているライターはどれくらいいるのでしょうか。
企業秘密なので具体的な数字は明かせません。ただ,Pixelberry Studiosほどライターを抱えている会社は存在しないのではないかと思います。
──Web小説なども流行している昨今,ライターを目指す人は増えているんでしょうか。
ライターになりやすい時代を迎えたと同時に,作品の全体的なクオリティが向上し,地位も高くなったと実感しています。ゲームのためにストーリーを書きたくて今に至る人もいるくらいです。その中でもChoicesのストーリーを書きたいと言ってチームに加わった人もいて,非常に嬉しく思いましたね。
──ライターの供給に伴い,読者の需要も拡大しているのでしょうか。
読者の全体数という意味ではそんなに変わりません。本というジャンルで語れば,市場としては間違いなく縮小しています。しかし読むという行為に関しては,10年前よりも今のほうが多くの時間を皆さん費やしています。スマホで読まれる時間は間違いなく増加していますね。
実は私達のゲームを遊んだプレイヤーから,「本はあまり好きではないが,Choicesは好きだ」と言われたことがあります。本もChoicesも同じ読みものですが,後者にはインタラクティブ性と目を引くグラフィックスがあります。グラフィックスはメインではなく,最初のステップに過ぎませんが,この2つがプレイヤーを読ませる方向へとうまく導いているのだと思います。人が本を読まなくなったというよりは,世の中の姿勢が変わったと言えるのかもしれません。
ちなみに我々からすると,ストーリーゲームといえば“ロマンスゲーム”を想像します。ストーリーゲームとして開発したChoicesも,当初は女性をターゲットにしていましたが,ターゲット層の拡大を目指してジャンルを追加してきたこともあり,今では男性にも幅広く楽しまれています。現在は3分の2が女性で残りが男性となっています。
──そもそも何故ストーリーゲームを作ろうと思ったんでしょうか。
当時はモバイルゲームの競争力が高まり,大きなブランドに対してのライセンシングが盛り上がった時代でもありました。「ガーフィールド」のライセンシングに成功したのですが,やはり大企業には勝てず,私達に残された手は,ほかとは違う試みでした。
大きなブランドなどとの差別化においてポイントとなるのは,内容がユニバーサルであることです。結果としては高校をテーマとしました。同じテーマのTVドラマなどはたくさんありましたが,ゲームは全然存在しなかったからです。とても有効なジャンルだと思いました。そして最初に制作したのが「Surviving High School」というゲームです。
もともとはRPGを想定していましたが,高校生活は何が重要なのかを考えたとき,戦闘ではなくストーリーだと気づきました。高校入学のドキドキする初日や,友達との出会い,いじわるな同級生にどうやって仕返しするか。もちろんロマンスも。パーティーなんかも楽しいイベントです。これらはまだ高校生ではない若い層にとっても,高校を卒業して数十年が過ぎた人にも,有効なジャンルだとひらめいたわけです。それが私たちの最初のステップでした。以来,ストーリーゲームを作り続けているというのが現状です。
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Choices: Stories You Play
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