インタビュー
田中公平氏インタビュー:舞台「新サクラ大戦 the Stage 〜二つの焔〜」と「サクラ大戦」への思い,そして作曲家としての生き方
「新サクラ大戦 the Stage 〜二つの焔〜」公式サイト
そんな新作舞台について,「サクラ大戦」シリーズのゲームおよび舞台で一貫して音楽を担当してきた,作曲家の田中公平氏に話を聞いた。
「サクラは普通の2.5次元の舞台とは違うんですよ」
4Gamer:
本日は,舞台「新サクラ大戦 the Stage 〜二つの焔〜」について,いろいろと聞かせてください。「新サクラ大戦」としては2回目の舞台になりますが,前回公演からキャスト陣の様子に変化はありましたか?
実は去年の3月に予定されていた公演(※)のリハーサルを見ていたときは,「役者さんが演じてるな」という感じだったけど,それが中止になって,結果的に11月まで8か月の延期になったんですね。その期間,キャストの皆さんには作品世界の勉強やボイストレーニングをいっぱいしてもらい,さらにこちらからもいろんな話をして,台本も読み込んでもらっていたんです。
※去年3月の公演
「新サクラ大戦 the Stage」。2020年3月5〜3月8日に行われる予定だったが,中止となった。その後,2020年11月19〜11月23日に上演された
4Gamer:
キャストの皆さんはあの当時の先の見えない状況下でも,きちんと準備をされていたんですね。
田中氏:
彼女達も片手間にやってるんじゃなくて,新サクラに命がかかってるぐらいの気持ちでいてくれるんです。だから11月の公演では成長した姿を見せてくれました。それでもシンクロ率はまだ40%ぐらいだったけど,今回の公演ではさらにアップして80%くらいになるはずですよ。
寒竹君(寒竹優衣さん)のあざみはもう本人だし,沖さん(沖なつ芽さん)のクラリスは,動きまですべてがクラリス(笑)。関根(関根優那さん)の天宮さくらは「ああ,これが天宮さくらなんだ」と感じられるくらいだし。
天宮さくら役の関根優那さん |
望月あざみ役の寒竹優衣さん |
クラリス役の沖なつ芽さん |
4Gamer:
それは舞台を見るのが楽しみになる情報ですね。
田中氏:
歌に関しては,あざみ(寒竹優衣さん)がむちゃくちゃ上手になっていますね。ぐっと実力がアップして,オーケストラと一緒になった公演(※)でも完璧に歌っていたくらいで。シャオロン(本条万里子さん)とアーサー(楓さん)も本来は歌わないキャラだけど,今回の公演では歌ってもらいます。とくに本条さんは踊りもすごくも上手だから,ぜひ注目してほしいですね。すみれ(片山萌美さん)の歌のレベルも上がっていて,今回は「あっ,これがきたか!」という曲を用意しているので,こちらも楽しみにしていてください。
ヤン・シャオロン役の本条万里子さん |
アーサー役の楓さん |
神崎すみれ役の片山萌美さん |
※オーケストラと一緒になった公演
2021年6月に行われた「サクラ大戦25周年オーケストラコンサート〜田中公平作家生活40+1周年記念〜」
4Gamer:
では,今回からの新キャストの皆さんはいかがですか?
田中氏:
ユイ役の西田さん(西田ひらりさん)は平成27年度の「民謡民舞少年少女東京大会」中学生の部で優勝した人だし,ランスロット役の小松さん(小松穂葉さん)もまだ18歳とは思えない迫力があります。
前回も今回も本当にいいキャストが選ばれているので,期待を裏切ることはないでしょう。
ホワン・ユイ役の西田ひらりさん |
ランスロット役の小松穂葉さん |
4Gamer:
シンクロ率も上がったことですし。
田中氏:
そうそう。その背景には,彼女達が舞台サクラのお客さんの温かさに触れたというのもあるでしょうね。もう温かすぎるんですよ。拍手一つとっても,身を乗り出してものすごい勢いで手を叩いてくれるし,こんなの普通の舞台では見られない光景ですよ(笑)。
もちろん,彼女達の努力もあります。数ある仕事のうちの一つとしてこなしているんじゃなくて,ちゃんといろいろと考えてくれていますから。こちらが驚かされることもあるぐらいで。
4Gamer:
そうした姿勢も観客に伝わるからこそ,それが大きな拍手につながるんでしょうね。
田中氏:
だから,サクラは普通の2.5次元の舞台とは違うんです。例えば,事情があって役者さんが舞台を一時降板するときも,舞台上で引退の物語を作ったし(※)。新サクラのみんなも,替えの効かない声優さんと俳優さんになりつつあるから,これはすごいことだよね。
※引退の物語
2002年の「サクラ大戦 新春歌謡ショウ 神崎すみれ引退記念公演 春恋紫花夢惜別」。神崎すみれ役の富沢美智恵さんは,この公演で一時降板することに。通例だと代役を立てるところだが,それをせずに“神崎すみれが華撃団を引退する”物語が描かれた。なお,富沢さんは後の公演で舞台に復帰している
4Gamer:
以前からアットホームな舞台でもありますよね。観客席と舞台上に連帯感があるというか。
田中氏:
それこそ昔は広井王子さんと2人で,並んでくれている2000人のファンの方と握手して回ったりしていましたしね。なぜかというと,単に嬉しいからなんですよ。どうしてほかの人達はこういうことをやらないのかと思っていました。「ありがとうございます!」って言いに行けばいいのにって。まあ,人がやらないことだからいいんだけど(笑)。
「人とは違った,ユニークなものを書き続けることが大事」
4Gamer:
今回は新曲も用意されたそうですが,どんな曲なんでしょう?
みんなの前回からの成長を見て書いた,難しいけど迫力のあるミュージカル仕立ての曲です。私は演者さんのレベルギリギリを見極めて曲を書くのが得意だから,レッスンに入ったらLINEで苦情が来るだろうね。難しいのは分かるけど,まあ頑張れというしかない(笑)。
4Gamer:
実力を信頼したうえで書かれた曲となれば,きっとキャスト側としても嬉しいでしょう。
田中氏:
簡単に歌えても面白くないしね。最初は難しいと思うだろうけど,何か月後かには曲に合わせてレベルアップした自分に気付くはずだから。
4Gamer:
演者さんの力量というのは,どのように見極めているんでしょう?
田中氏:
そこはプロですからね。例えば「ウィーアー!」や「ウィーゴー!」は,きただにひろし君の力量を見て書いた曲で,当時は苦労したみたいですが,今は楽々と歌うようになって,ちょっとつまんない(笑)。そのあと,「もっと汗かけよ!」と思ってさらに難しい曲を書いたら,やっぱり最初は大変そうだったけど,今では軽々歌えるようになっているんです。
こういうのは本人も私もスキルアップできる機会でもあるんですよ。過去の自分からの盗作は簡単。みんなもOKを出してくれます。そういうときに,もっと高いレベルのものを書くとNGを食らうこともたくさんあります。
4Gamer:
発注する側が,「前の○○みたいな感じの曲が欲しい」と思っていることはあるでしょうし,それと違うものだとなかなかOKは出しにくいという事情はありそうです。
田中氏:
実際,多くの曲でNGを食らったこともあります。だけど,制作陣だけが幸せになるんじゃなくて,聴いてくれる方達を含めてみんなで幸せにならないといけないんです。制作陣の趣味やその瞬間の好みだけが基準になったとして,果たしてそれでみんな幸せになれるのか? ということを考えるんです。
だから私はいつも自分の才能のすべてをぶつけて,「私はこういうことを考えています!」と曲を作り,最終的にはそこを押し通すことでうまくいったりもするんです。
4Gamer:
その強い意志の背景には,どんな思いがあるんでしょう。
田中氏:
そりゃもう,「消えた作曲家」になりたくないという思いですよ。「発注どおりに書けば,みんなが喜ぶだろう」という気持ちで書き続けていたら,ただの御用聞きになってしまうし,いくらでも代わりがいるんです。
だけど,誰も考えていないような視点で,やり過ぎと思えるくらいに自分なりのもの書き続けていれば生き残れるはず。人とは違った,ユニークなものを書き続けることが大事なんです。
4Gamer:
確かに「檄!帝国華撃団」をはじめとしたサクラの曲は,ユニークであるからこそ今も色あせない魅力があります。
田中氏:
サクラの曲は元々メロディが太いけど,最近のものと比べるとなおさらユニークですからね。「千本桜」以降,世の中の音楽は変わっていって,ノリが良くて,速くて,詰め込んだ感じの曲にみんなが走ってるところがあると思うんです。
私はYOASOBIとかずとまよ(ずっと真夜中でいいのに。)なんかも大好きでチェックしているし,ああした曲の良さも分かってるけど,私が行くのはそっちじゃない。だから私は,“古くなくて太いメロディ”という誰もやっていないところに行きたいんです。これができているからこそ,サクラは愛されるんじゃないかと思いますしね。
「サクラって,世界に向けた私の宣伝部長なんですよ(笑)」
4Gamer:
ここで一つ教えていただきたいのは,田中さんがなぜここまで「サクラ大戦」というコンテンツに強い思い入れを抱いているのか,ということなんです。
私は関わった作品すべてに真摯にエネルギーを注いでいますが,サクラに関してはプロジェクトを始めるときに,広井さんが「音楽のことは2人で全部やりましょう。いろんな人に口出しをさせないようにしましょう」と言ってくれて,実際にそうできたことが大きいですね。
あのときに私から,「じゃあ,曲は私がすべて書きますから,広井さんはほかの人に作詞を頼まないでちょうだい」とお願いしたんですよ。ほかの作品だと主題歌だけがタイアップ曲になったりするけど,サクラは広井さんと私だけで完結していました。ここがサクラのすごさです。こんな幸せな環境ってなかなかないんですよ。なんせ2人で「サクラ大戦」という世界観を作り上げて,勝負をかけられたわけだからね。
4Gamer:
お互いを信頼し合って,共に世界を作り上げてきた,と。
田中氏:
とはいえ,曲を書く私の引き出しが少なかったら,すぐに飽きられてしまってファンもいなくなるから,サクラのために,ものすごく勉強したんです。例えばサンバを書くとなったら,タワーレコードに行ってサンバの棚にあるCDをひととおり買ったりね。「ここからここまで全部ください!」って。
4Gamer:
サンバ大人買いですね(笑)。
田中氏:
そのおかげで,自分の幅も情報量も書ける曲もめちゃくちゃに増えたんです。サクラがなかったら,私はここまで幅広いジャンルを書ける作曲家になれなかったかもしれません。大好きなクラシックとミュージカルと映画音楽とロボットものに特化した作曲家になっていたかもしれない。
4Gamer:
それでも十分幅広いと思いますよ(笑)。
田中氏:
だけどサクラでさらに幅を広げようと,いろいろやったことが評価してもらえるようになったんです。例えば「氷菓」では京アニさんからもお話をいただけるようになったけど,これはロボットアニメの作曲だけしていたら,きっと来なかった仕事でしょう。サクラのおかげで作曲家としての幅が広がり,サクラのおかげでその後の仕事の幅も広がった。そういう意味ではサクラって,世界に向けた私の宣伝部長なんですよ(笑)。
4Gamer:
確かにそうなると思い入れも深まりますよね。しかも楽曲を提供して終わり,ではなかったそうですし。
田中氏:
飲み会から声優さんの人生相談まで,全部やっていたからね(笑)。
4Gamer:
そうしたスタンスは「新サクラ大戦」でも変わっていないのでしょうか?
そこは全然変わってないですね。コロナ禍とあって以前のように頻繁に飲みに行ったりはできないけど,私に言いたいことはいろいろとあるだろうから,LINEグループを作って言いたいことをすべて書き込んでもらうようにもしてますし。緊急事態宣言などが出ていないようなときは,お店を貸し切りにしてもらって少人数でじっくり話を聞いたりもしてます。
4Gamer:
舞台に関しては,制作陣も代替わりした印象がありますが,そのあたりで何か違いは感じましたか?
田中氏:
脚本・演出の伊藤マサミさんはまだ30代なんだけど,仕事ぶりを見て「天才ってのはこういうもんだな」と思いますし,刺激を受けますね。こういう仕事に関わらないと,ああいう人とは密に付き合えないんだって。
作曲家の中には,家で曲を書いて,完成したものを渡して終わり……っていう人も多いですが,それだと刺激を受けられないし,自分の成長にもつながらないんですよ。だから私はなるべく,アフレコやリハーサルにも顔を出して,人と話すようにしているんです。「絶対無敵ライジンオー」のときなんかは毎週アフレコに行って,松本梨香(※)さんの餌食になってたよ(笑)。
※松本梨香さん
声優。「絶対無敵ライジンオー」で初主演,主人公・日向 仁の声を担当した。ゲームファンには,「ポケットモンスター」シリーズのサトシ役でおなじみ
4Gamer:
そうした現場にも顔を出されると,かなり時間もとられると思うんですが,作曲をする時間はどうやって捻出されているんですか?
田中氏:
それは簡単な話で,私は曲を書くのが人の3倍速いんですよ。夕方に打ち合わせをして「締め切りは一週間後で」って決まったあと,その日の夜に曲ができちゃったこともあった。相手としては,酒を飲んで家に帰ってパソコンを起動したら,夕方に依頼した曲がもうできているんだから,驚いたろうね(笑)。
「ジョジョの奇妙な冒険」の「ジョジョ〜その血の運命(さだめ)〜」は期限が1週間あったところに2日で曲を作ったし,「鬼平」の「そして・・生きなさい」は1日,「檄!帝国華撃団」は15分,「ウィーアー!」はちょっと時間がかかって2日くらい,「新サクラ大戦」の「檄!帝国華撃団<新章>」はいろいろ考えたから1週間くらいかかったかな。
4Gamer:
いろいろ考えても1週間なんですね。なぜそこまで速く書けるのでしょう? しかも,曲のそれぞれがファンの心に強い印象を残しています。
田中氏:
日頃から,みんなが遊んでるときも,ものすごく勉強していますから。とにかく「消えた作曲家」になりたくないんですよ(笑)。
譜面も歌であれ劇伴であれ,レコーディングの2週間前に全部書き終えておけば,その間にいろいろと手直しをしてクオリティも上げられるし,メリットも大きいですから。
4Gamer:
スピーディな作曲が,クオリティアップにもつながるわけですね。
田中氏:
昔はもっとアバウトなのが当たり前の業界だったんですけどね。締め切りを守らなかったり,約束の時間を守らなかったりというのが当たり前の空気で。だけど私はそういうのが大嫌いだから,時間も守ろう! 曲のレベルも上げよう! と,一人でいろいろ戦ってたんです。そうしたら面白いもんで,徐々にきっちりした業界になってきましたね。これは家内からも褒められました(笑)。
サクラに20年以上も付き合ってくれてる人がいるのも,こうしたプラスのエネルギーがファンの皆さんに伝わっているからじゃないかな?
4Gamer:
ちなみに,新旧の舞台で客層に違いなどは生まれていますか?
劇場の入り口に立っていると,昔からのファンの方がお子さんを連れてきてくれているのを見かけたりしますね。お子さんに「サクラのファンになってくれてありがとう!」って言うと,ゲキテイを踊ってくれたり(笑)。
4Gamer:
世代を超えて愛されるコンテンツになっていますね。
田中氏:
いつも台湾から来てくれている人も,高校生ぐらいの若い新しいお客さんもいたしで,昔からのファンにも新しいファンにも,ちゃんと幅広く受け入れてもらえているようです。
4Gamer:
それは理想的ですね。どちらかが置いてけぼりになっていないわけですから。
ところで,広井さんとは連絡を取っていらっしゃるのでしょうか?
田中氏:
ええ,メッセンジャーとかで連絡を取り合っていますよ。彼が今手がけている,少女歌劇団ミモザーヌを「いいね!」って伝えたら,「ありがとう!」って。機会があったらミモザーヌのために曲を書くよ,なんて話もしていますし。
ただ,彼とは飲みに行ったりする仲ではないんです。というのも,私はタバコを吸えない酒飲みで,広井さんは逆だから,そういう意味で全然合わないんですよ(笑)。
4Gamer:
ああ,それは合わないですね(笑)。
田中氏:
だから広井さんとは仕事だけの付き合い。それがお互いに一番良いんです。いつでも仕事をしたい相手ですよ。
4Gamer:
またお二人で何かを作られる日を楽しみにしています。
では最後に,読者に向けてメッセージをお願いしたいのですが……
田中氏:
そういう「システム」はもうやめようって,新庄監督も言っていたじゃない(笑)。
4Gamer:
確かに……! ここまでたっぷりお話しいただいていますしね。ありがとうございました。
「新サクラ大戦 the Stage 〜二つの焔〜」
■スタッフ:
原作:「新サクラ大戦」(株式会社セガ)/シリーズ原作:広井王子/音楽:田中公平/演出/脚本:伊藤マサミ/制作:Office ENDLESS ほか
■キャスト:
【天宮さくら】関根優那【東雲初穂】高橋りな【望月あざみ】寒竹優衣【アナスタシア・パルマ】平湯樹里【クラリス】沖なつ芽
【ヤン・シャオロン】本条万里子【ホワン・ユイ】西田ひらり【アーサー】楓【ランスロット】小松穂葉
【神崎すみれ】片山萌美
【神山誠十郎】 阿座上洋平(声の出演)
【芽組】
山田せいら 矢澤梨央 本宮光 飯嶋あやめ 石田彩夏
小太刀瑞姫 永井毬絵 牧野澪菜 三島 依 山下由奈
※出演者は変更になる可能性がございます
■公演スケジュール:
2021年12月17日(金)〜12月19日(日)全6公演
■劇場:
シアター1010
■主催:エイベックス・ピクチャーズ株式会社
※公演内容は変更になる可能性がございます。
■公式Twitter:@ShinsakuraStage(https://twitter.com/ShinsakuraStage)
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