プレイレポート
[プレイレポ]ビジュアルノベル「十三月のふたり姫」を紹介。月の女神とふたりのヒロインにまつわる物語が,鈴木大司教らしい解釈で描かれていた
本作は鈴木一也氏がシナリオを,増子津可燦(増子司)氏がBGMとSEを手がけている。
鈴木氏は「女神転生」「真・女神転生」シリーズのテキスト周りを担当し,以後も続く基本的な世界観を確立した人物で,“鈴木大司教”の異名でも知られる。印象深い「こんごとも よろしく・・・」「アクマを ころして へいきなの?」などの名文句も鈴木氏が生み出したものである。
増子氏はこのプロジェクトの発起人であり,テーカン(現コーエーテクモゲームス)のアーケードゲーム「ボンジャック」「アルゴスの戦士」などのBGM・SEでキャリアをスタート。その後は「女神転生」「真・女神転生」シリーズなど多数の作品に携わり,近年はフリューの「Caligula」シリーズにも参加している。
そしてグラフィックズとキャラクターデザインを担当するのは,わずか20分の制限時間内にデジタルアートを制作する競技大会「LIMITS」の初代世界チャンピオンとして知られるイラストレーター・アオガチョウ氏。本作のおどろおどろしくも耽美な世界観を描き出す。
本稿では,そんな本作を紹介する。核心となるネタバレには配慮するものの,気になる人は注意いただければと思う。
本作のベースとなる物語は「茨姫」「眠り姫」「眠れる森の美女」として,バレエの演目や映像作品にもなっているヨーロッパの古い民話だ。
月の女神の祝福によって生まれた「イバラの姫」は,出生時に十二人の月の巫女(仙女)によって加護を授けられる。しかし,唯一祝宴に呼ばれなかった「忘れられた月の巫女」により,紡錘(ぼうすい)に刺され永久の眠りに落ちる呪いをかけられてしまう。最も年若き巫女,十二月の巫女によれば「永久は真の愛によって打ち消される」というが果たしてイバラの姫の運命は――というのが物語の導入だ。
導入は「茨姫」の童話とほぼ同じだが,「十三月のふたり姫」はその流れをそのままなぞるわけではない。確かに眠りについたイバラの姫の元には王子様がやってくるが,それで「めでたしめでたし」というわけにはいかないのだ。
また,城で眠るイバラの姫の傍らには,呪いをかけた張本人であるウルウヅキ(閏月)が留まり,月の女神の命により城と姫を守護する。これも「茨姫」とは異なる点だろう。
ちなみに閏月とは古代の暦にある月のこと。現在では地球の公転周期と暦のずれを約4年に1度,2月29日の1日で調整するグレゴリオ暦が使われている(※)が,かつては月の満ち欠けの周期を「ひと月」としていたため,1年は現在より約11日短かった。そのため3年に1度閏月をもうけて1年を13か月にすることで,地球の公転による季節変動とのずれを調整していたのである。これを太陽太陰暦と呼ぶ。
※正確には各世紀の最後の年は2月29日のない平年となり,かつ400の倍数の年だけはうるう年となる。それでも約3200年につき1日ずれる
イバラ姫が生まれた時代には,太陽太陰歴が使われなくなっていたため,「忘れられた閏月」は誕生の祝宴に呼ばれなかったのだ。
閏月は,月と月の間に生じる狭間の時間。それは現世と幽世の境界にも等しく,そこでは何が起ころうと不思議はない。茨に囲まれた城は時空の狭間を漂い,さまざまな時代,場所にその姿を現すようになるのだ。
物語は,イバラの姫とウルウヅキのもとに,姫を目覚めさせるかもしれない「運命の王子候補」が次々にやってきて,「真の愛」を捧げ呪いを解こうとするという形で進行していく。
城に訪れる王子候補の一例を挙げていくと,ベルナール・ギーやジル・ド・レエ,アレイスター・クロウリーなど,いずれもヨーロッパの各世紀を代表する,一癖も二癖もある貴公子(?)たちばかりなのだ。ウルウヅキが彼らをイバラの姫にふさわしい王子なのか見定めていく。
この曲者たちがどのように「真の愛」を捧げようとするのか,ここが本作の見どころの1つだろう。彼ららしい思考・方法・哲学で眠れるイバラの姫にアプローチしていくのだが,そのやり取りが非常に味わい深い。美しく育った姫と結ばれるために多くの貴人が奮闘するところは,「竹取物語」を思い起こさせるものでもあった。また,物語を進めるにつれ,イバラの姫,そしてウルウヅキとはどんな存在なのかが明かされていく構成もじつに楽しめるものだった。
ちなみに,筆者は本稿を執筆するにあたり「とりあえず作品の大きなテーマがわかるであろう中盤までは進めようかな」という軽い気持ちで始めたのだが,ついついぶっ続けでエンディングまで読み進めてしまった。
「茨姫」を題材にしつつも,神と悪魔が本質的には同じであることや,それら超自然の存在を自ら生み出しつつ,それに向き合ううちに翻弄される人類の姿など,タイトルの設定から鈴木氏らしさがにじみ出ている。荘厳かつ残酷だが,どこかユーモアも漂うムードを増子氏のBGMがさらに強調する。
題材も描き方もまったく異なる作品ではあるのだが,筆者は幼少期にファミコン版「デジタル・デビル物語 女神転生II」のエンディングを迎えたときの気持ちを思い出した。まさに「茨姫」の物語を鈴木大司教らしい視点で描いたタイトルだったと言える。
ビジュアルノベルとしてはほどよいボリューム感で,文字を追うだけならおよそ一晩で最後まで読み進めることができる。読み物的なゲームが好きな人は,この年末年始にぜひプレイすることをオススメしたい。
「十三月のふたり姫」公式サイト
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(C)Aogachou/Tsukasa Masuko/Kazunari Suzuki/Kodansha Ltd./Kobayashimaru LLC
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