レビュー
ゲームを日常に取り込む最強の「積みゲー崩しPC」
GPD GPD WIN 3
近年,片手でも持てるくらいのゲーマー向け超小型PCが人気だ。主に中国の小さなメーカーがこうした製品を手がけていたが,今ではDellやNECパーソナルコンピュータなどの大手メーカーもゲーマー向け超小型PCのコンセプトモデルを公開しており,活気づいている(関連記事1,関連記事2)。
こうしたゲーマー向け超小型PCの流れを牽引してきたShenzhen GPD Technology(以下,GPD)が,Indiegogoで,クラウドファンディングを3月6日までの予定で実施中の新製品が「GPD WIN 3」だ。本体の形状を,従来のGPDシリーズで採用していたクラムシェル型からスレート型へと変更したうえで,液晶ディスプレイの両脇にゲームパッドを備えた外観が大きな特徴だ。また,スライド式ディスプレイの下にタッチ式の小型キーボードを配置するという機構を備えているのもポイントとなる。
今回,2021年5月の発売に向けて,現在開発が進められているGPD WIN 3の評価機をテストする機会を得たので,その特徴と実力を検証したい。
なお,Indiegogoでのクラウドファンディングキャンペーンは3月6日までとなっている。GPD WIN 3を先行して入手したい人は,キャンペーンページを確認してほしい。
IndiegogoのGPD WIN 3キャンペーンページ
小型PCながら一般的な薄型ノートPC並みのスペックを搭載
GPD WIN 3は,5.5インチサイズの小さなディスプレイを採用したゲーマー向け超小型PCだ。CPUにノートPC向け第11世代Coreプロセッサの「Core i7-1165G7」を搭載した上位モデルと,「Core i5-1135G7」を搭載した下位モデルという2種類をラインナップしている。今回評価したのは下位モデルのほうだ。
Core i7-1165G7とCore i5-1135G7は,ともに4コア8スレッド対応製品だが,Core i7-1165G7のほうが高クロックで動作するのに加えて,統合GPUである「Intel Iris Xe Graphics」の実行ユニット(Execution unit,以下EU)の数も多いので,ゲーム用途には上位モデルのほうが適すると言えよう。クラウドファンディングでは,上位モデルが899ドル,下位モデルが799ドルとなっている。
CPU以外の仕様は共通で,メインメモリには容量16GB(8GB×2)のLPDDR4-4266を,ストレージに容量1TBでPCI Express(以下,PCIe)接続のSSDを搭載しており,小型PCといえども一般的なノートPCに引けを取らないスペックを備えているのが見どころだ。とくにゲーマー向けPCとして考えると,1TBのストレージ容量は魅力的で,必要なストレージ容量の大きなゲームでも気にせずインストールしておけるのがうれしい。
通信機能は,Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応の無線LANとBluetooth 5.0を採用している。なお,競合製品のひとつであるONE-NETBOOK Technology製PC「OneGX1 Pro」とは異なり,LTEや5G通信には対応していない点は注意したい。
CPU | Core i7-1165G7(4C8T,定格2.8GHz,最大4.7GHz,共有L3キャッシュ容量12MB) | Core i5-1135G7(4C8T,定格2.4GHz,最大4.2GHz,共有L3キャッシュ容量8MB) |
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メインメモリ | LPDDR4x 4266MHz 16GB | |
GPU | Iris Xe Graphics | |
ストレージ | SSD 容量1TB(PCIe接続)×1 | |
ディスプレイ | 5.5インチ液晶, |
|
無線LAN | Wi-Fi 6(Intel Wireless-AX 201) | |
有線LAN | 非搭載 | |
Bluetooth | 5.0 | |
公称本体サイズ | 198(W)×92(D)×27(H)mm | |
公称本体重量 | 約560g | |
OS | 64bit版Windows 10 Home | |
価格 | 899ドル | 799ドル |
搭載するディスプレイパネルは,解像度1280×720ドットのH-IPS液晶パネルだ。いまどきのPCとしては,物足りないのが正直なところ。GPD WIN 3をしばらく触ったあとに一般的な薄型ノートPCを使うと,ディスプレイサイズはもちろんのこと,画面が広く感じられて戸惑うほど。5.5インチというスマートフォン並みのサイズであることを考えると,スマートフォン用で解像度1920×1080ドットの液晶パネルを採用するという手もあっただろう。ただ,小さなディスプレイで解像度を上げてしまうと,文字などが見えにくくなることが多い。5.5インチというディスプレイサイズとのバランスを取ったのだろう。
とはいえ,縦720ドットという解像度は,ゲーム用途にはちょっと気になる仕様だ。たとえば,レトロゲームは,アスペクト比が4:3で,縦方向の解像度に768ドットや1024ドット以上を求められることがある。そうした場合に,GPD WIN 3ではゲームをフルスクリーンで表示できない。ウインドウモードでプレイすればいいのだが,せめて2020年に国内発売した「GPD WIN Max」と同じ,1280×800ドットのパネルを採用してほしかったというのが正直なところだ。
ディスプレイの発色は,わずかに青みがかっているが,写真編集に使うようなPCではないので気になるほどではない。ディスプレイ表面はグレア加工が施されており,ある程度映り込みはあるものの,GPD WIN 3は本体の角度や使う態勢を変えやすいので,大きな問題ではないだろう。
スマートフォンやタブレットと同様に,ディスプレイ面がむき出しなので,持ち運ぶときに気になるのだが,GPDによると別売りのキャリングケースを用意する予定だという。
VAIO type Uに着想を得た筐体デザインとスライド式キーボード
続いてGPD WIN 3の外観をチェックしよう。
前述したとおり,GPD WIN 3は従来モデルからデザインを大幅に変更し,スレート型の筐体を採用したのが特徴だ。GPDによると,GPD WINシリーズのユーザーから寄せれたフィードバックにおいて,クラムシェル型筐体よりも,スレート型筐体を採用したゲーマー向けPCを求める声が多く,大幅なデザイン変更に踏み切ったという。
スレート型筐体の開発にあたり,GPDは,ソニーが2006年に発売した小型PC「VAIO type U」を参考したことを明らかにしており,スライド式キーボードの採用もVAIO type Uに習ったものだという。たしかにスライド式キーボードを備えたスレート型筐体と,ディスプレイの両脇に配置した操作ボタンという特徴は,VAIO type Uを彷彿とさせるもので,当時を知る人は懐かしさを感じるのではないか。2000年代に盛り上がった小型PCの文化やノウハウが,最新製品に受け継がれているのも興味深い。
GPD WIN 3の本体サイズは,実測値で約197(W)×92(D)×28(H)mmだ。競合製品となるOneGx1 Proと比べた場合,横幅と厚みはGPD WIN 3が,奥行きはOneGx1 Proが大きい。ただし,OneGx1 Proに外付けの専用ゲームパッドを装着した状態で比べると,GPD WIN 3の小ささが際立つ。ゲームパッドを内蔵したGPD WINシリーズならではのポイントだろう。
GPD WIN 3(左)とOneGx1 Pro(右)のサイズ比較 |
ゲームパッドを内蔵しているため,横幅はGPD WIN 3のほうが大きい |
折りたたんだ状態でもOneGx1 Proのほうが薄く仕上がっている |
一方で,OneGx1 Proに専用ゲームパッドを取り付けると印象が変わり,GPD WIN 3がかなり小さく見える |
GPD WIN 3とNintendo Switch(以下,Switch)の大きさも比較してみた。GPD WIN 3は,Joy-Conを取り外したSwitchのディスプレイ部分と似たようなサイズ感になっている。
重量は実測で560gと,10インチクラスのタブレットよりも少し重い。実際に持つと見た目から想像する重さよりも,ずっしりとしている。
とはいえ,デスクや膝のうえに肘を固定できる状況であれば,1時間程度ゲームをプレイしてもそれほど疲れはないし,長い時間にわたって使用するのでなければ,それほど気にならない重さだ。
インタフェース類はディスプレイの奥側にUSB 3.0 Type-Aポートとヘッドセット接続用の4極3.5mmミニピン端子を,手前側にThunderbolt 4ポートを備える。USB 3.0 Type-Aポートは,コネクタ部分が浅めで,USBメモリやマウスといった接続したデバイスの端子部分が見えてしまう。ぐらつきはないが,つけっぱなしは避けたいところだ。
左側面にはmicroSDXCカードスロットと,アナログスティックでマウスカーソルを操作できるようにする,マウス入力モードへの切り替えスイッチが並ぶ。なお,右側面には何もない。
GPDは,GPD WIN 3用の周辺機器として別売りの専用ドッキングステーションを用意しており,Thunderbolt 4で接続して,HDMI 2.0bポートと3基のUSB 3.1 Gen1ポート,有線LANポートが利用できるようになる。ディスプレイとマウス,キーボードを接続すればデスクトップPCのように使うことも可能だ。
窮屈さはあるものの必要十分な内蔵ゲームパッド
従来製品ではキーボードの奥側にゲームパッドを搭載していたが,GPD WIN 3ではディスプレイの両脇にスティックやボタンを配置するレイアウトに変わったのだ。
ディスプレイの左側には左アナログスティックとD-Pad,[SELECT]ボタンと[START]ボタンを,右側には右アナログスティックと[A/B/X/Y]ボタン,[Xbox]ボタンがある。加えて,本体の奥側に[L1/R1]のショルダーボタンと[L2/R2]のトリガーボタン,[電源]ボタンと[音量調節]ボタンが並ぶ。ショルダーボタンは,新たにアナログ入力に対応しており,レースゲームをプレイするときに重宝しそうだ。
ディスプレイ左側にアナログスティックとD-Pad,[SELECT]ボタンと[START]ボタンを配置 |
右側にはアナログスティックと[A/B/X/Y]ボタンを搭載する。その下側にあるのは,指紋認証センサーと[Xbox]ボタンだ |
一方で気になる点もある。それは[A/B/X/Y]ボタンが右側ショルダーボタンから離れていることだ。[R1]ボタンや[R2]ボタンと[A/B/X/Y]ボタンに距離があるため,たとえば[R1]と[B]ボタンを同時に押すようなときには,かなり手を開かなければならない。
右スティックと[A/B/X/Y]ボタンの位置を逆にしたXbox型のレイアウトであれば操作しやすいと思うのだが,そうすると[A/B/X/Y]ボタンを操作するときに,アナログスティックと干渉してしまうという判断による配置なのだろうか。慣れるまでは,左側と右側で持ち方を変えるといった工夫が必要となるかもしれない。それを除けば,スティックやボタンの操作に大きな問題は感じなかった。
本体の背面には「Custom key」と呼ばれる拡張ボタンを備えており,ボタンや機能の割り当てを行えるとのことだ。
ただ,評価機にプリインストールされていた独自の設定用ソフトウェアと見られる「GPD Assistant」には,Custom keyに関する項目は見当たらなかった。製品版では追加されるのかもしれない。
タッチ式だけど意外に打ちやすいキーボード
GPD WIN 3における大きな見どころが,前述したスライド式キーボードだ。ただ,GPD WIN 3は,物理キーではなく,タッチ式キーボードを採用している点が,デザインの原点となったVAIO Type Uとの違いである。GPDによると,物理キーを搭載すると筐体が厚くなるのに加えて,内部の設計が複雑になることからタッチ式のキーボードを採用したそうだ。
GPD WIN 3のキーボードは,[Space]キーを除いて,実測7mm×10mmのキーが格子状に並ぶ英語配列で,[+]キーや[ー]キーを矢印キーの横に配置していたり,[ESC]キーの右横に[〜]キーがあったりと,小型PCにありがちな特殊配列となっている。
配列には慣れが必要な一方で,タッチ式キーボードにしては意外にも入力しやすいと感じた。というのも,GPD WIN 3のキーボードは,キーに触れると振動して入力していることをフィードバックする仕組みで,キーを押しているという感覚が得られるからだ。もちろん長文の入力は難しいが,ユーザーアカウントとパスワードの入力や,短文のチャットといった用途向けと割り切ってしまえば十分だと感じる。なお,ディスプレイ部分をスライドしている途中は,キー入力が無効になっており,ディスプレイを動かすときにキーを誤タッチすることはない。
ただ,評価機の個体差によるものなのかは不明だが,右上の[7]キーや[i]キー周辺で,ときおり振動はするがキー入力が漏れるのが気になった。
ベンチマークテストでGPD WIN 3の性能を検証
ここからはGPD WIN 3の性能を簡単にテストしてみよう。冒頭でも触れたとおり,今回の評価機はCPUにCore i5-1135G7を採用している。ノートPC向け第11世代Coreプロセッサのミドルレンジモデルが,どの程度の実力を備えているのか,ベンチマークテストで検証してみる。
なお,GPD WIN 3は,UEFI設定の「Configurable TDP Boot Mode」から,「Power Limit 1」(以下,PL1)と「Power Limit 2」 (以下,PL2)を以下の3段階で切り替えられる。PL1とPL2の数値が大きほど,高い動作クロックで駆動するという理解でいい。テストでは,設定を標準設定である「Nominal」と高クロック動作モードである「Up」を切り替えて検証を行った。
○Up
- PL1:25W
- PL2:28W
- PL1:20W
- PL2:25W
- PL1:15W
- PL2:20W
まずは,グラフィックスベンチマークの定番である「3DMark」から,DirectX 11テスト「Fire Strike」と,統合GPU向けのDirectX 12テスト「Night Raid」,Vulkanベースのクロスプラットフォームテスト「Wild Life」で測定を行った。グラフ1は,総合スコアの結果をまとめたものだ。Fire Strikeでは,UpとNominalの差はほどんどなかった。それに対してNight RaidとWild Lifeのスコアは,Upのほうが約5%上回っている。
次は,「CINEBENCH R23」でCPU性能をチェックした。CINEBENCHでは,マルチスレッドでの性能を検証する「CPU」テストと,シングルスレッドの性能を見る「CPU
続いて,FFXIV漆黒のヴィランズ ベンチの結果をまとめたのがグラフ3だ。外部ディスプレイに接続して,1280×720ドット以上の解像度でもテストを試みたのだが,途中でテストが落ちてしまい完走できなかったため,内蔵ディスプレイでのスコアのみの結果となっている。
最高品質では,Upでスクウェア・エニックスが「非常に快適」の基準とする「7000」をかろうじて上回った。ただ,「4Gamerベンチマークレギュレーション」で快適に遊べる基準とした「9000」を下回っている。一方で,「標準品質(ノートPC)」では,UpだけでなくNominalでも1万を超えている。
最後は「Fortnite」だ。ゲーム内メニューの「画面」にある「グラフィッククオリティ」の「品質の自動設定」を利用して,描画設定を行った。
ここではNominalと比べて,Upは平均フレームレートが約20%,最小フレームレートで約30%も高速になった。過信はできないが,負荷の大きな画質設定でゲームをプレイするときは,動作モードをUpにするとよさそうだ。
ゲームでの実力をFall GuysとFortniteで試す
ベンチマークテストに続いては,実際にGPD WIN 3でゲームをプレイして,どの程度快適にプレイできるかを確かめてみたい。今回は,「Fall Guys: Ultimate Knockout」(以下,Fall Guys)とFortniteでテストを行い,プレイの様子を動画でも示そう。なお,動画の撮影にはAVerMedia Technologies製のビデオキャプチャユニット「Live Gamer EXTREME 2 GC551」(国内型番:GC550 PLUS)を,別のPCで使用して録画を行った。また,GPD WIN 3側では,NVIDIA製のベンチマークツール「FrameView」でゲーム画面上にフレームレートを表示している。
続いてはFortniteだ。ベンチマークテストで利用した自動設定では,60fpsには届かなかったため,Intelのゲーマー向け情報サイト「gameplay.intel.com」にあるCore i5-1135G7用の最適設定を試した。バトルバスから降下したときや建物などのオブジェクトが密集する場面ではフレームレートが落ち込むものの,それ以外は基本的に60fps近くでプレイ可能だった。
ただし,問題なのは解像度のほうで,1280ドット×720ドットでのプレイは思った以上に遠くが見えにくいというか,ちょっとボケたように見えてしまう。
専用ドック経由で外部ディスプレイに接続して,高解像度でプレイすることも可能だが,その場合は描画設定をさらに落とす必要があるため,あまり現実的ではないように思う。
また,上記の2タイトルは問題なく動作したが,GPD WIN 3のテストにおいて,いくつかのゲームで画面が激しくちらついたり,プレイ中のゲームが落ちるといったケースがあった。筆者が遭遇した限りでは,ここ1〜2年で発売となった新しめのゲームで起きており,グラフィックスドライバがまだ対応していない可能性がある。心配な場合は,前述したgameplay.intel.comで対応ゲームを確認するといいだろう。
GPD WIN 3でPCゲームをプレイするという感覚を取り戻す
GPD WIN 3は,ゲームに特化したデザインと仕様の割り切りによって,従来製品よりもよりゲームを楽しみやすい製品に仕上がっている。性能面もひと昔の小型PCとは比べ物にならないほど高く,eスポーツの対戦で勝ちたいという場合は別として,アドベンチャーゲームやRPGで,ストーリーを楽しむ分には,多くの場合で問題ないだろう。
なによりも,携帯ゲーム機のように手軽であるのがうれしい。筆者の場合,このところ起き上がって机に向かうまでが果てしなく遠く感じていて,PCや据え置き型ゲーム機で遊ぶ機会が減っている。ついつい,枕元に置いてあるSwitchやスマートフォンに手を伸ばしてしまっていたのだ。SteamやEpic Games Storeでセールがあるたびに,何かしらゲームを買うのだが,動作確認しただけやベンチマークテストに使っただけのゲームがライブラリに積み上がっていた。
ところがGPD WIN 3のテストを始めてから,2Dアクションゲームやアドベンチャーゲームなど,3本くらい平行でプレイするようになった。また,しばらくログインしていなかった「FINAL FANTASY XIV」にも久々に入り,日課をこなすようになったのである。GPD WIN 3で積みゲーを崩す中で,PCゲームがまた身近になったという印象だ。
下位モデルで799ドル(約8万5300円)からという価格は,決して安いわけではない。もう少し出せば,外部GPUを搭載したエントリー市場向けのゲーマー向けノートPCが買えそうである。ただ,人の習慣を変えるような製品はあまりない。「最近,PCゲームをプレイするのが億劫だ」と感じている人や,Steamのライブラリに遊ぶあてがないゲームが積み上がっているような人なら,GPD WIN 3を検討してもいいかもしれない。
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