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「メトロ」シリーズは,文学好きゲーマーがオススメしたい“読み進めるFPS”だ。過去作品を振り返り,最新作「メトロ エクソダス」の魅力に迫る
国内ではスパイク・チュンソフトよりPS4版とXbox One版がリリースされた「メトロ エクソダス」では,モスクワのメトロ(地下鉄網)でさまざまな経験を重ねた主人公のアルチョムが,仲間達と地上に出て広大なロシアを旅するというストーリーが描かれる。これまで基本的に一本道だったマップは,チャプターごとに分かれたオープンワールド型となり,探索やサバイバル,そして戦術性の高い戦闘が楽しめるのも特徴だ。
さて「メトロ」シリーズといえば,Dmitriy Glukhovskiy(ドミトリー・グルホフスキー)氏の小説「Metro 2033」が原案になっていることもあり,その重厚な物語も特徴となっている。さらにその物語性や世界観がゲームシステムに落とし込まれており,子どものころからゲーマーであると同時に文学好きである筆者にとって,“ゲーム好きと文学好きのどちらにもオススメしたい作品”だ。
ということで本稿では,「メトロ」シリーズが持つ“読み進める文学系FPS”という魅力を,最新作「メトロ エクソダス」を中心に「メトロ 2033」「メトロ ラストライト」という過去2作品も振り返りつつお伝えしていこう。
「メトロ エクソダス」公式サイト
目に映る風景や人々との会話から伝わる
深く作り込まれた世界観と物語
まずは「メトロ」シリーズの世界観と物語に触れていこう。
第1作「メトロ 2033」の物語は,ロシアのモスクワで幕が開ける。2013年に起きた大規模な核戦争で世界は“核の冬”を迎え,20年近くが過ぎても地上は汚染されたまま。さらに突然変異によって生まれた異形の生物(ミュータント)が地上を跋扈し,人類はメトロ構内での地下生活を余儀なくされている。
主人公のアルチョムは,地上での生活を知ることなくこの地下世界で成長した若者だ。大きな疑問を抱くことなく,エキジビション駅での地下生活を送ってきたアルチョムだったが,人類の脅威となっている,ダークワンと呼ばれる新種のミュータントに対抗するための使命を背負うことで,自身の運命と向かい合うことになる。
その1年後の世界を描いた第2作「メトロ ラストライト」では,故郷を離れ,メトロ最大の駅であるポリス駅でレンジャーとして活動するアルチョムの視点で物語が始まる。
1年前の旅路で出会った謎の男・カーンから,殲滅したはずのダークワンに生き残りがいること,その生き残りこそが人類が生き延びるための希望であると告げられたアルチョムは,新たな冒険へと旅立つ。やがて生き残りのダークワンや軍事施設「D6」を巡る大きな争いに巻き込まれることになるのだ。
そして最新作の「メトロ エクソダス」では,タイトル名にある「EXODUS」に従い“出メトロ記”と呼んでもよいであろう,アルチョムと仲間達がメトロを出て,地上の世界を旅する物語が描かれる。
世界には自分達以外にも生存者がいると信じるアルチョムは,妻・アンナの父でメトロの治安を守る組織「オーダー」の司令官であるミラーから「危険でほかの人の迷惑になる行為だ」と咎められながらも,たびたび地上に出ては無線機で生存者からの信号を探していた。
そんな日々が続いたある日。アンナとともに蒸気機関車が地上を走る姿を目撃したアルチョムは,命の危険にさらされながらも機関車が停留している拠点にたどり着き,モスクワ以外の土地でも生存している人達がいること,そしてこれまで隠されてきた世界の真実を知る。
こうしてアルチョムは新たな人類の可能性を信じ,アンナとミラー,オーダーの仲間達とともに,蒸気機関車「オーロラ号」で広大なロシアへの旅に出ることになるのだ。
「メトロ」シリーズをとおして描かれるのが,多くの過酷な出来事や闘い,さまざまな思想や考え方を持つ人達との出会いを経験し,自身が進む道を見出していくアルチョムの姿だ。この物語がプレイヤーとしてはもちろん“読者”としても楽しめるくらい緻密に作られており,そしてそれが自然に伝わってくるゲームシステムとなっているのだ。
「メトロ」シリーズでは,チャプターが切り替わる際にモノローグが入るものの,基本的にアルチョム自身が話すことはない。主にほかの登場人物の会話で物語が展開するという受動的な進行ではあるが,一方で「人を助ける」「盗みを働く」といったプレイヤー自身が選択した行動が物語に影響を与えるという要素もあり,プレイヤーは物語を読み進めると同時に,アルチョム自身となって行動する楽しさも味わえるのだ。
また,アルチョムを中心とした「メトロ」シリーズの物語をより重厚にしているものの1つに,細かいところまでこだわり抜かれた世界設定がある。
文明崩壊後のモスクワでは,メトロの各駅で小さな都市国家が形成されており,地域ごとに異なる背景や街の成り立ちがある。そういった街の特色や,この時代を生きる人達の考え方と生き方などが徹底したこだわりを持って作られていることが,賑わいを見せる市場や退廃的なショーが行われているステージといった街の風景,何気なく聞こえてくる街の人の会話などで視覚的にも聴覚的にも伝わってくるのだ。
街ですれ違う人達だけではなく,物語の主要人物達の人間描写も,作品の奥深さを感じられるポイントだ。
メトロには民主的な政治体制を取る組織もあれば,それぞれが信じる思想を掲げて過激な行動を取る組織も存在する。中には独善的な考え方や残虐な手段を用いて人の心を支配しようとする人間や,良好な関係を築きながら組織の論理で裏切る者なども登場するが,そんな彼らも,単純な“悪人”としてではなく,それぞれが自身の考えを持って行動している人間として丁寧に描かれているのだ。
「メトロ エクソダス」でも,各地方によって異なる“地上の人々”の生活や慣習が緻密に描かれている。
例えばオーロラ号の旅で最初にたどり着く,ヴォルガ川で出会う宗教団体。科学を悪と考え,技術者や自身の思想に与(くみ)しない人物を迫害するという悪しき面を持つ一方,戦うすべのない弱い人間にとっては,ミュータントや略奪者がはびこるこの土地における救いの場にもなっている。
プレイ中にそういった一面が見えてくるところも,ゲームの作り込みと世界観設定の奥深さを感じられるポイントだ。
団体で行動することも多い今回の旅路では,仲間達との会話が重要なものとなっている。この旅に抱く思いや不安という話から,酒を飲みながら盛り上がる取り留めのない話まで,そのどれもが作り込まれており,さらに状況によって内容も変わるためボリュームもかなりのものだ。
中立や和平を重んじるアルチョム一行だが,行く先々の土地で暮らす人々にとって,秩序を乱す集団として映ることもあれば,略奪の対象となることもある。そういった状況を迎えた仲間達の心境が感じ取れる会話は,物語をより深いものへ昇華してくれるのだ。
ゲームシステムに落とし込まれた“文明崩壊後の生き方”
「メトロ エクソダス」は,1つ1つのチャプターが小規模のオープンワールドのマップとなり,探索やサバイバル面が進化したことも,より「メトロ」シリーズの世界観や物語に没入できる要素となっている。
過去2作では,この時代の貴重品である銃弾を通貨代わりに,メトロ各駅の店でアイテムの購入や武器のカスタマイズを行えたが,「メトロ エクソダス」では,倒した敵から手に入れた武器を分解して得た部品や廃墟で拾った素材を使い,自分自身でアイテムの製作や武器のカスタマイズをすることになる。
限られた物資をやりくりしながら戦いに挑むという面は変わらないが,このシステムによって,これまで以上に“文明崩壊後の自給自足な生き方”が体験できるようになったのだ。
昼夜のサイクルが加わったことも大きい。例えば悪党の拠点に潜入する際,日中であれば警戒網が厳重で見つかりやすく危険度が高いが,夜ならステルス行動がしやすくさらに見張り以外の人間が寝ているため制圧しやすい。一方で,夜行性のミュータントの活動が活発になるため,拠点に近づく際のルートに気を配らなければならない。
これがゲームとしての新たな楽しさを生んでいるのはもちろん,「実際にこの世界で人間やミュータントが生きている」ということが感じられるという,緻密に作られた世界への没入感を高めてくれる要素にもなっているのだ。
注目してほしいのがサブクエストだ。といっても「○○を制圧せよ」「○○を何体退治せよ」といったものではなく,基本的には「○○を探してきてほしい」といった軽めの“頼まれごと”で,ゲーム進行中の会話をとおして自然な形で発生する。
サブクエストというと,報酬として貴重なアイテムや武器などがもらえるものを思い浮かべるかもしれないが,「メトロ エクソダス」で主に得られるものは「仲間からの感謝の言葉」や「関係性を感じられる会話」である。このように,物語を深く楽しむことが重視された新要素としてサブクエストがあるところも「メトロ」シリーズらしい。
「メトロ」の世界をより現実的に感じさせる要素として忘れてはいけないのが,前作から格段に向上したグラフィックスだろう。雪が積もる市街地はもちろん,砂嵐が舞う砂漠地帯,廃墟マニアにはたまらないであろう朽ちた建築物や工場跡など,季節や天候,地域によって変化する風景描写は格別だ。とくに北国の生まれの筆者には,強風吹きすさぶ冬のモスクワの街や水面に大小の氷が浮かぶヴォルガ川の寒さが,まるで実際にその地にいるかのように伝わってきた。
基本,移動手段は徒歩となりファストトラベルもないが,マップは徒歩移動がつらくなるほど広くはなく,また場所によってはボートや機関車の牽引車,自動車などで移動できる。ぜひ“文明の残骸”を巡り,かつてその地で営まれていたであろう人々の生活を感じてほしい。
さて,ここまで世界観や物語の魅力を伝えてきたが,サバイバル要素のあるFPSというところで難度が気になる人もいるだろう。
限られた物資をやりくりしながら過酷な戦いに挑むというのは「メトロ」シリーズの醍醐味の1つ。高難度になるにつれて敵が手強くなるのはもちろん,手に入る物資も少なくなり,かなりやり応えあるサバイバルが楽しめるが,物語をメインに進めたい人はそれがハードルに感じるかもしれない。
そういった人向けに「メトロ エクソダス」では,その名もずばりな「ストーリーモード」という難度が用意されている。ストーリーモードのアルチョムはタフで,戦闘も簡略化されているため銃撃戦に苦労することはなく,入手できる弾薬や物資も豊富だ。ほどよいバランスでサバイバル生活が体験できるので,アクションやシューターが苦手な人も,安心して「メトロ」の世界に飛び込めるはず。
とはいえ考えなくクラフトを行うと資源が足りなくなり,無防備に正面から戦いを挑むとハチの巣にされてしまう。「資源を無駄遣いしない」「なるべく戦いは避ける」といったところを意識しつつ,ストーリーとサバイバルを楽しもう。
さて,「3作目からプレイして物語が分かるのか」という点も気になる人もいるだろうが,本稿で紹介した部分を押さえておけば問題なくゲームを楽しめるはず……。とは言いつつ,やはりシリーズのファンとしては「メトロ 2033」と「メトロ ラストライト」もプレイしてほしいという思いも強くある。
それぞれオリジナル版発売が2010年と2013年で,リマスター版となる「メトロ リダックス」(PS4 / Xbox One)も2014年の発売なので,「メトロ エクソダス」プレイ後だとグラフィックスやゲーム性に“時の流れ”を感じてしまうだろう。しかし,過去2作品の出来事を体験することで,「メトロ エクソダス」で描かれる人々の思いがより深く理解できるので,未プレイの人や最新作で「メトロ」シリーズの魅力を知ったという人はぜひ手に取ってほしい。
最後にお伝えしたいのが,「メトロ」シリーズの持つ独特の空気感だ。
緊迫した場面や銃声が響き渡る銃撃戦,旅の仲間との交流など,ところどころに賑やかさはあるものの,全体的に物語は落ち着いた雰囲気で淡々と進み,基本的に1人で行動する文明崩壊後の世界は静寂に包まれている。
この,人気のない雪原にとり残されたかのような静けさを感じる空気感こそ,筆者が何より感じてほしいと思う「メトロ」シリーズの魅力なのだ。
「メトロ エクソダス」公式サイト
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(C)2017 Koch Media GmbH and published by Deep Silver. Developed by 4A Games. 4A Games Limited and their respective logo are trademarks of 4A Games Limited. Metro Exodus is inspired by the internationally best-selling novels METRO 2033 and METRO 2035 by Dmitry Glukhovsky. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners.
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(C)and published 2014 by Koch Media GmbH. Deep Silver is a division of Koch Media GmbH, Gewerbegebiet 1, 6604 Höfen, Austria. Developed by 4A Games. 4A Games Limited and their respective logo are trademarks of 4A Games Limited. “Metro 2033 Redux”, “Metro: Last Light Redux”, “Metro Redux” are inspired by the novels “Metro 2033” and “Metro 2035” by Dmitry Glukhovsky. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners.
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