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深層映写をできなかった人へ。「ドルフロ」大型イベント第3弾のストーリーライン
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印刷2019/06/14 13:00

プレイレポート

深層映写をできなかった人へ。「ドルフロ」大型イベント第3弾のストーリーライン

 本稿では,サンボーンジャパンのスマホゲーム「ドールズフロントライン」iOS / Android)で2019年5月17日から6月14日まで実施された,大型イベント第3弾“深層映写-DEEP DIVE-”のストーリーラインを紹介していく。

画像集 No.001のサムネイル画像 / 深層映写をできなかった人へ。「ドルフロ」大型イベント第3弾のストーリーライン

 今回もその難度により,ゲームをはじめたばかりでクリアできなかった初心者がそれなりにいるかと思う。ドルフロでは5月24日のアップデートにより,図鑑の機能「ストーリー回想」で深層映写を含むイベントストーリーを読めるようになったが,こちらはクリア分のみの対応なのだ。

 そのため,前回の“低体温症”に引き続き,深層映写で起きた事のあらましも伝えておこう。

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[2019/02/22 13:00]

■メインストーリーのネタバレ注意
 本稿では,以下の戦役に関するネタバレを含みます。そのため,該当戦役のクリア後に読むことをオススメします。

・第八戦役「火花 Spark」



“深層映写”プロローグ


 グリフィンの施設に隔離されていたM4A1は,M16A1をはじめとするAR小隊の現状を知り,身体の調整も済んでいないままに,戦地へと向かってしまった。ペルシカにはそれを止めることはできなかった。

画像集 No.002のサムネイル画像 / 深層映写をできなかった人へ。「ドルフロ」大型イベント第3弾のストーリーライン

 M4A1の後ろ姿を見届けた彼女は,鉄血管轄のS15区域で撃墜された,グリフィンの重要な監視ファイルを輸送中であったドローンの奪還のため,UMP45(以下,45),UMP9(以下,9),416,Gr G11の計4名,通称「404小隊」にドローン回収を依頼する。

 そのころ,404小隊は非合法な戦術人形のメンテナンスを請け負う,少女シーアと少年デールにより,とあるカフェの汚らしい地下室でメンタルモデルの調整を受けていた。そしてこの日も,45のメンタルでは,厳重に暗号化されているはずの古いログデータがなぜか再生されていた。

【何があっても、あんたは生き残らなきゃならないの】

【人形だって、自分のために生きることが許されてもいいはずよ】

【他人じゃなく、自分のために】

「…………」

「またこのログだわ……」



第一段階「認知混迷」


 今回のドローン奪還作戦は,該当区域に潜入後,ネットワーク上でドローンの位置を追跡し,その情報をもって回収する手はずとなった。

 404小隊は彼女たちの“ご主人様”からの命令で,各自の意識をグリフィンが管理するネットワークシステム「ツェナーネットワーク」に移して行動するための,新たなプロトコルをインストールする。

 体を現実に置き去りにし,意識は電子の海を泳ぎ回り,鉄血の妨害をかいくぐって,目的を遂行する。そういった戦いに最も優れていたのは9だった。一方,416とGr G11は浮かない顔で模擬訓練を受けていて。

「夢を見ていると思えばいいのよ。とはいっても、サボってばっかりだと二度と目覚めなくなるけどね」

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 メンテナンスから先,45は意識を落とすたび,彼女の中で暗号化されている過去のログデータが再生されていた。同時に,意識が覚めるのも遅れていた。9はそんな45の様子に,どことなく違和感を覚える。

 しかし,デールは説明する。なにかが起きていたとしても,基本的に問題はないと。保存されているログが少しフラッシュバックするくらいのことは,戦術人形のメンテナンスでは珍しくないと。

 「なにか思い出したくない記憶でもあるの?」。ちゃかすような問いかけに,彼女にしては稀有と言うのだろうか,素直な言葉を漏らした。

「そうね、確かに……いくらかあるわ」

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 電子ネットワーク戦の訓練中のこと。404小隊のネットワーク上に,グリフィンの新任人形が迷い込んできた。さらに彼女は,45のデータと衝突したことでメンタルモデルを破損してしまった。

 通常,人形のメンタルモデルは一部でもデータが欠けると,知能指数が著しく下がってしまうという。404小隊は急遽,その子の救助(とグリフィンの新しいデータを盗み見るため)に向かう。

 どうにか見つけた当の人形は,やはりデータが欠けてしまっている影響か,口も態度もすこぶる悪い少女になっていた。これじゃあかわいそうだと,存在しないはずの小隊は今日も今日とて人形助けをし,新任人形を無事,元の姿でグリフィン基地まで転送させたのだった。

「また無名のヒーローになっちゃったわね。これで満足かしら」

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 訓練を終えた404小隊はこれから12時間後,ドローン奪還のためにS15区域へと潜入する。今回はグリフィンからの支援として,無骨なドローンに“ペルシカが作りそうなAI”を乗せた,探索妖精も随行する。

 そのころ現地の指令室では,鉄血エリート人形「デストロイヤー」が,上司の「ドリーマー」にドローンの捜索を急かしていた。それと同じくらいのエネルギーで「あたしの新しいボディ!」と熱望していた。

 新しい体はどんなのがいい? 火力がいい? 素早さがいい? ドリーマーの質問に,デストロイヤーは簡潔に答える。

「全部入りで!」

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第二段階「双曲関数」


 北蘭島(ペイラン島)でのコーラップス液の流出を端に発した「広域性低放射能感染症(E.L.I.D.)」。404小隊が先ほど潜入した,ここS15区域もまた,汚染区域と呼ばれている場所だ。

「ゾンビとか出るの?」

「そうね……出くわさずに済めばいいんだけどね」

 The Flying Dead。空飛ぶゾンビ。そんな危険な生物とも呼べない存在が出てくる……のは,Gr G11が見ている長編ドラマの世界だけである。

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 ドリーマーはデストロイヤーに説明する。「我々鉄血のネットワークシステムのオーガスプロトコル」は,「グリフィンのゴミクズどもが使ってるツェナープロトコル」とは異なる信号を発すると。

 そして,グリフィン内部で危険視されてきた「【傘】ウィルス」は,それに侵した人形の識別信号などに関係するプロトコルを,強制的に鉄血のオーガスプロトコルに書き換えるものだという。

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 偵察地点の確保をシーアに報告していた9は,デールとのプライベートチャンネルをつなぐ。「45姉の24時間分のメンタルに異常はなかった?」。9は密かに,45の状態をチェックさせていた。しかし,現状では異常と呼べるほどの動作はしていないと――そのときだった。

「グリフィンのクズども、よーく聞きなさい!」

 404小隊のもとに,広域型の放送が届く。この声は……ボスのクセにいつもボコボコにやられてるやつだ(by Gr G11)。

 デストロイヤーからの放送は,潜入が明るみに出た証明であったが,45は私たちの正体まではバレていないと踏み,まずは捜索の邪魔になる,鉄血のジャミング装置を破壊することにした。大丈夫。やったことはある。1年前のキューブ作戦のときと同じ要領だから。

 だが,鉄血側のドリーマーはすでに,グリフィンの人形を見つける術を知っていた。潜入者を探すために,ドローンを追う必要などなかった。「【傘】を持ってる人形」を探せば,自ずと正体が分かるからだ。

 そいつをあざ笑い,怖がらせ,慌てさせ,追い詰める。メンタルが恐怖で満ちたとき,そこに植えられている種が発芽する。1年の潜伏期間を経た【傘】はメンタルの奥深く,回線の隅々まで這いずり込み,今も蠢いている。ドリーマーの幸福を満たすエサ――それが45であった。

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 416とGr G11がジャミング装置の破壊に成功したとき,45は9の電子モジュールを頼りにドローンの座標を特定していた。あとはそこに向かうだけ――しかしまた,デストロイヤーからの放送が流れてくる。

「慌てることないわ、これもどうせはったりだから……」

「おやおや、なに言っちゃってくれてるのかしら……UMP45」

 存在はバレていた。それは作戦が読まれているも同義だった。「一度撤退すべき」という提言は,45が一蹴する。鉄血はすべてを把握しているわけじゃない。あいつらが把握しているのは,おそらく私だけ。放送はいつも私の発言後だったから。それに「いつでも」じゃないみたい。

 45は付け込む隙はあると言う。9はそれが鉄血の罠だと反論する。「私が判断ミスをしたこと、あったかしら?」。UMPの妹分は渋々,ドローンを回収しにいく。一方,416とGr G11は別々の偵察拠点の確保に向かい,45は彼女たちを別動隊で援護することに。45は手を2回叩いた。

「さて、ここから忙しくなるわ。急いでドローンを手に入れ、みんな一緒に帰るよ!」

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 各自が配置についたとき,Gr G11が大型の鉄血信号を検知する。怖がりな彼女は逃げたくなった。それでも,45は真剣な様子で言ってくる。

「G11、頼んだわよ!」

 そこまで言われたらやるしか……。

 そのとき,Gr G11の前に信号の持ち主が現れる。

 そこには,ドリーマーが直々に作ったとされる,戦場の女神のように強力で美しいボディを身にまとった,新生デストロイヤーの姿が――。

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 ドリーマーは言った。「手が滑って間違えちゃった」。

 デストロイヤーはおチビなボディから,人形たちにはお馴染み「犬みたいな形をした鉄血のザコ」こと,ダイナーゲートのでっかい版たるケルベロスに生まれ変わった。少女の声をした大きな犬はその場でジタバタ,ゴロゴロ,相棒に怒り狂いながら,四足歩行に苦戦している。

 とはいえ,笑って済ませられる脅威ではない。魔犬デストロイヤーは404小隊を追い詰める傍ら,ある指示を遂行しようとしていた。1年前にジャミング装置から感染させた,45の体内の【傘】を発芽させるべく,接近してメンタルモデルに無理やり接続し,オーガスを起動せんと。

 デストロイヤーを含むケルベロスは,全部で4匹。戦術人形よりも走破性に優れた番犬たちを巻くには,やつらに居場所を特定されてはならない。そのためにと思案された45の目論見は,またしても9に否定された。それは,45と404小隊の通信を切断するという作戦だった。

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 突然,45のもとに謎の戦術人形からの通信が入る。それはグリフィンに所属するライフル人形「Gd DSR-50」からだった。彼女は現在,部下とともに近辺の拠点にバラバラに閉じ込められていた。

「その笑顔……私たち、きっと気が合うわ」

 404小隊の窮地を知ってか知らないでか,どうにも食えそうにない戦術人形は,温和な表情で提案してくる。「こうして出会えたのもなにかの縁。互いに手を取り合って協力しましょう」。この場の勝算を天秤にかけたら,404小隊はDSR-50の話に乗るほかなかった。

「かわい子ちゃん。あんまり遅くならないでね」

 45は制御下の部隊を分割した。目的ならシンプルよ。犠牲を厭わず,あなたたちを守ること。9はドローンの回収,416とGr G11は犬と追いかけっこ,DSR-50の救助まで,私ひとりでおとりになる。作戦のために45姉を犠牲にできない,なんて妹の訴えは聞かない。それが姉ってもんだ。

「馬鹿なこと言わないで。私はAR小隊の人形じゃないんだから」

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 9が奔走していると,デールからの通信が入った。45のメンタルモデルに,大量の不正アクセスが見つかったらしい。それは彼女たちが知る由もない,鉄血の【傘】ウィルスに権限を書き換えられている証拠だった。そしてまもなく,404小隊と45の通信チャンネルが途切れる。

 ……うろたえている時間はない。45姉を信じて,役割をこなして,みんなで帰る。45姉がいなければ,どこにも行く当てなんてない。正規の人形じゃない,非合法人形でしかない。それを分かっていたから。

 デストロイヤーを近づけまいと,416とGr G11は制圧射撃を繰り広げる。ドリーマーが用意したクライマックスは間近に迫っていた。

「はは、泣けるわね」

 そのころ,【傘】の浸食が進んでしまったことで意識を失い,機能不全に陥っていた45のメンタルモデルでは,昔の記録が再生されていた。戦術人形としての適性がなかった,戦術人形としての価値がなかった,指揮官に選ばれる私になりたいともがいていた,あのころの記憶。

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【セキュリティ解除 再生開始】

――人間のために身を捧げることが、あたいたち人形の役目なのかな?

――あたいたちの存在意義は……ただそれだけなのかな?



「一体どうしたらもっと上手になれるの……」

「他の人よりもたくさん訓練しているのに……」

「いつもみんなより一歩遅れるし……」

 いつになっても射撃が上達しない。ダミー人形すら与えられていない。指揮官にも使えない人形だって怒られる。そんな未熟な戦術人形の前に,あっけらかんとした雰囲気を持つ,ひとりの戦術人形が現れる。

「あたいもあんたと同じ、誰にも必要とされない人形よ!」

 シリアルナンバーを消された,ヘタクソな工廠で作られた同じような銃。戦術人形としてグリフィンに出荷されてから,いまだに人形としての価値を持てていない同じような存在。ふたりは似た者同士だった。

「あたいはUMP40。あたいたちは間違いなく運命で結ばれた姉妹なんだよ。ちゃーんと面倒見てあげるからね!」

 ひとりなら役立たずでも,ふたりなら一人分くらいにはなれるから。

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 ドローンを発見した9は,今は声も聞こえていない45に任務達成を報告すると,彼女のもとに急ぐ。同時刻,416とGr G11も戦況をクリアにし,あとは魔犬デストロイヤーの装甲を撃ち抜けるスナイパーを待つだけ……いいタイミング。救助されたDSR-50がふたりの援護についた。

 そのとき,ドリーマーがオーガスプロトコルへの書き換えが済んだ45に,命令を下した。「鉄血人形UMP45、ただちに集合し敵の人形を抹殺せよ」。しかし,新たな部下からの反応はなかった。彼女が出した命令は,45の権限に拒否されていた。彼女には指揮権限がなかったから。

 ドリーマーは思わず喜ぶ。仮面の下に隠した,45の素顔を想像して。まぁいいわ。乗っ取りには失敗したけど,45はいまだオーガスネットワークとの通信を止められていないし,今のメンタルは攻性防壁で焼き尽くちゃいましょ。そうすれば,便利な死体くらいは回収できるわ。

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 9が見つけた45は,目を見開いたまま,少しも動かない人形になっていた。彼女は今,メンタルを焼き尽くされようとしていた。あとちょっとで45姉が消えてしまう……その間際,弾丸がデストロイヤーを撃ち抜く。45と鉄血との接続も断絶する。彼女はGr G11に救われた。

 それでも残された404の少女たちが,今の45の姿を見て分かることと言えば,「確実に生きてはいる」。それだけだった。

 45の指揮がなければ,404小隊はここから生きて帰れそうにない。45を覚醒させるにはもう,彼女のメンタルモデルを修復するために,戦地で無防備な体を晒しながら,ツェナーネットワークを介して,彼女のメンタルにダイブするしかない。そこに見えない帰り道があると信じて。

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第三段階「対立行為」


 デストロイヤーの失態に,ドリーマーはいつもの表情を投げ捨てて,声を荒らげた(デストロイヤー「こわ……こわすぎる……」)。しかし,すぐにいつもの仲睦まじい態度に戻ると,最後のゲームをはじめる。

「ゲーム……? どんなゲーム?」

「……血生臭い……ネズミ捕りゲームに決まってるじゃない」

 デストロイヤーの新たなボディの完成が近い。少女たちと追いかけっこをする必要がなくなったそれは,正真正銘の女神の身体であった。

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 45のメンタルモデルに侵入した3人は,彼女が自身のメンタルを守るために設定していた防壁の多さに苦慮する。人格を消されそうになるほどの攻撃を受けてもなお,彼女の内部は強固な状態にあった。

 404小隊は現在,9の演算能力を通じて,電子ネットワーク上にいながらも現実世界と同様の身体感覚を得ていた。その負荷に苛まれた9は,途中でGr G11に指揮を委ねると発言したが,416はそれを突っぱねる。ネットワーク上ではあんたが指揮官なんだから,責任を持ちなさい。

「416ったら、ますます言葉がキツくなってるよ。知り合ったばかりの頃はもっと真面目でいい子だったのに」

「ふんっ、それもこれも404とかいう温かな家庭のおかげよ」

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 416には目的がある。ずっと404小隊に居続けるつもりなどなかった。いつか,目的を果たしにいくから。そんな彼女の表明に対し,毎日死体のごとく眠りこけているGr G11にしては,本当に珍しい言葉を返した。

「416はいつも忙しそうだけどなにかいいことでもあんの?」

「好きなように生きてこその命じゃん」

 今の彼女たちは,正規の戦術人形ではない。まともなメンテナンスすら受けられない非合法人形。4人に残された最後の居場所は,404小隊しかなかった。なにが不満なの? あたしたちのこと嫌いなの? 純真な問いに,生真面目な同僚は答える。これは私自身の問題なのよ,G11。

「可能性がある限り、諦めたくはないわ」

「成したことが、その人の本質を表すわけじゃないんだよ、416」

 ……あんたの口からそんな言葉が出るなんてね。416は信じられないものを見た気がしたが,Gr G11だってときには物事を思慮しているのだろう。「そうだよ。私だっていつも寝ているわけじゃないんだよ。ちゃんとアニメとかも観るんですから。ねえ,まってよ,話聞いてよ!」。

 まったく,こんなバカに期待するなんて――それからまもなく,9が指揮する部隊が進行ルートを切り開いた。

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 魔犬デストロイヤーが撃破されてから,3時間が経過した。ドリーマーは,動きを見せずにどこかに潜む404小隊を補足できないでいた。やつらは無暗に攻めてはこない。自暴自棄になって判断を誤りもしない。それでいて動きを見せない。それこそが最も憂慮すべき事態だった。

 ドリーマーは考える。もしも,45が死んでなかったら? 隠れて,45を助けようとしてたら? 404小隊にとって,45は唯一の希望なのだから。ドリーマーは考える。あのゴミクズたちがどこにいるのかを。

 一方で,悪い知らせがないことが唯一の良い知らせと言えそうな404小隊は,45の回復に努めていた。9にとって,404小隊は最後の家族であった。しかし彼女は,姉と慕う45の過去をなにひとつ知らない。知りたいとは思っている。けど,自分から聞く勇気はない。

「もしかしたら、45姉が自分で話してくれるのを待っているのかも」

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 突如,警報が鳴り響く。

 緊急事態と見て,ツェナーネットワークからログアウトした404小隊のもとに,謎の鉄血人形からの通信が送られてきた。

 それこそが,女神のような新たなボディを身にまとった――「骨が伸びて脂肪がついたデストロイヤー」(by Gr G11)であった。

 見た感じは相変わらず(バカのまま)であったが,その性能は確かなようだった。45のメンタルモデルの修復はまだ途中。散乱していたデータはどうにか回収したものの,あとはデールの手腕に任せるほかない。45を欠いたままの404小隊の正念場が,目前に迫ってくる。

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【セキュリティ解除 再生開始】

――あんたはあたいの保険だって、分かってた。あたいが任務を達成できなければ、あいつらは代わりにあんたを使う。そうなったら、あたいの計画がバレてしまう

――あたいは任務を達成する。あんたの運命まで、あいつらに弄ばせるわけにはいかない。



 45は40と逃げていた。仲間であったはずの戦術人形たちを撃ち殺しながら。グリフィンの攻撃小隊に所属する人形たちは突然,通信チャンネルがブロックされ,味方同士の信号を識別できなくなっていた。

 すぐに理解したのは,彼女たちが味方ではなくなったこと。彼女たちを撃ち殺さないと,ここから逃げきれないということ。

 それでも45は,声の届かなくなった仲間たちに向かって叫び続ける。40はそれを止めた。「どうして仲間同士で殺し合わなくちゃいけないの!」「それが計画の一環だからだよ」。そう呟く姿は,まるで。

 もしかして……さっきあなたが使ってたモジュールのせい? あなたがここに来た本当の理由は,こうして仲間みんなを虐殺するため? 私はそれを知らなかったの? 今,このときまで。

「わたしは……あなたの共犯にされてしまったのね……」

「あたいたちはこのために作られた。これは宿命なんだよ」

 あいつらがこの結末を望んだ。あいつらがこの宿命を望んだ。そこから逃げるための準備はずっとしてきた。そう告げると,40が手にするヘタクソな作りの銃は,45に向けられていた。

「45、選択の時だよ。そこで野垂れ死んでいる奴らみたくなるか。他人に操られる運命から逃れるのか」

 歌声が聞こえるでしょ? 「彼女」が目覚めるまで時間がないの。このセキュリティプログラムはあたいたちのメンタルを破壊しようとしている。どちらかが死ねば,プログラムは停止する。どちらかが死んで,どちらかが生き残る。そういう宿命なんだ。45,選択の時だよ。

「答えなさい、UMP45!」

「銃口を向けなさい! 自分に同情するのはやめな! そんなのは、出来損ないのやることだよ!」

「…………」

「………………」

「わたしは…………生きる!」

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【セキュリティ解除 再生開始】

――ずっと騙してて、ごめんね。

――さよなら、45。あんたがあたいを覚えていてくれたら……それだけで、あたいは幸せだよ……。



 45は生き残った。最初から生き残ることを諦めていたかのような40を前にして。40は45に,自身のドッグタグと装備を譲り渡す。思いつく限りの方法を考えても,最初からこれしか道はなかったから。

「これは始まりに過ぎないんだよ、45。まだ数えきれないほどの試練がこの先あんたを待ち受けている。それを乗り越えるために正しい選択は、きっといつもあんたを一番苦しめる方法よ……でもね、生き残るにはそうするしかないの……」

「正しい選択……」

「そう、ちょうど今みたいに……」

 誰かのための捨て駒として生み出された40は,この計画の果てに,自身の消え方を勝ち取る。メンタルを焼き切られて死ぬなんて,まっぴらごめんよ。あたいは戦術人形。たとえ死ぬことが決まっていようと,戦術人形らしく,最期は戦って死にたい。

 彼女の最後の望みを叶えられるのは,45の指がかけられた引き金だけ。ふたりだけの空間に,ひとりだけの絶叫が響き渡る。戦術人形としての適性がなかった,戦術人形としての価値がなかった,指揮官に選ばれる私になりたいともがいていた,少女の宿命を変える弾丸は放たれた。

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 9のメンタルモデルが長時間の指揮に耐えられず,悲鳴を上げる。高性能な新生デストロイヤーを前に,404小隊には打開策がなかった。

「もう……ゲームオーバーなの?」

 Gr G11が弱音を吐く。

「ごめん、みんな……わたしの性能がもっとマシなものだったら……45姉みたいに強ければ……」

 9の後悔は風に溶けた。

「そんな必要はないわ。約束したでしょ? 私みたいにはならないって」

 続いた声は,少しだけ寝坊した,彼女たちのヒーロー。

 デールによる修復作業が間に合った45は,即座に戦況を読み解き,シーアが見つけた突破口の報告を受けると,デストロイヤーにさえ追撃されなければ,ここから撤退できると言いきる。それと,こんなときになんだけど,もしみんなに「ありがとう」を伝えたいっていったら――。

「そういうのはいいから。私たちの得意な方をやりましょ」

 416のすげない返答。らしくなかったみたい? ええ,そうね。

「夜が明けるまで生き残って、みんなで家に帰るわよ!」

画像集 No.027のサムネイル画像 / 深層映写をできなかった人へ。「ドルフロ」大型イベント第3弾のストーリーライン

 ふたつの最強ボディは,404小隊を何度も何度も追い詰めた。そこにチャンスはいくらでもあった。でも,あなたは機会を逃した。

 見慣れた基地で再起動したおチビな鉄血人形は,まるで幼子のように泣き叫ぶ。また,約束を破ってしまったから。

「あだじ……あだじはほんどに一生懸命にやっだの! ぞれでも勝でなかっだのよ!」

 敗北したデストロイヤーに,ドリーマーは罰を与えなかった。彼女を許した理由は,そんなことよりも,もっと面白い収穫があったからだ。あのくだらないドローンに比べて,もっと役に立つだろう,45のこと。

「あいつらの過去と、あたしたちのご主人様の関係にまつわる話よ……」

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 死地を脱した404小隊を,廃墟都市に差し込む朝の光が照らす。

「今はただ休みたいわ。今年一番疲れる任務だったから……」

 不慣れな電子戦に疲れた,416。

「二日ぐらいぐっすり寝たいな。まだ見てない映画もあるし……」

 こちらはいつもどおりの,Gr G11。

「あんまり贅沢言っちゃダメよ」

 生き残れただけ十分だと,9。

「そうよ……生き残れただけで十分だわ」

 45はじっと見つめてくる416に,なにか言いたいことがあるんじゃない,と促す。不遜な少女は,なにを言ったらいいかは分からないけど,今回の任務にはあんた自身の目的があったんじゃないかしら,と返す。危険が去ったあとだからか,それは疑念ではなく,疑問のように聞こえた。

「ほんの少しね。でも、どちらかというと運が良かっただけかな」



「45の言ったこと信じる?」

 信じない。あいつの言うことなんて命令以外は絶対に信じない。あいつがいつかいなくなってしまう? そんなことは分からない。私は今は確かなことはなにも言えない。

「はぁ…………ダサいよね、416って……」

 ちょっぴり心ない相棒への返事は,彼女にしては素直で。

「そうよ……45は怪物だけど、私はそうじゃないわ」

「いきましょ、面倒事はまだまだ終わらないのよ……」

「ひょっとしたら、永遠に終わらないのかもね……」



――――深層映写 END





 以上,深層映写のストーリーラインとなる。なお,ランキングステージ“虚数迷宮”の導入部では,上記の直後のこと,「S09地区の戦況が悪化。大規模な撤退ルートにS11地区が含まれている。近くの指揮官は可能な限り味方を救い出せ」という,ヘリアンからの放送を耳にする。

 当然,無名のヒーローたちも,今日も今日とて人形助けをする。

「でも私もタダ働きはいやよ。私たちが助けた人形は全員グリフィンに金で買い戻すように。一銭もまけてやらないんだから」

画像集 No.029のサムネイル画像 / 深層映写をできなかった人へ。「ドルフロ」大型イベント第3弾のストーリーライン



【補足資料】UMP45の音声ファイル


 下記のテキストは,深層映写のイベントステージ内で閲覧できた「UMP45のメンタルモデルに記録されていた音声ファイル」の一覧となる。イベントストーリーの補完,UMP45とUMP40のバックボーン,あるいは彼女たちの関係性についての情報として,ここに記録しておく。

「音声ファイル#001〜#005」


■音声ファイル#001

【セキュリティ解除 再生開始】

「……彼女のログは全部削除できたの?」

「ああ、完全に削除した。これでメンタルモデルを取り出して分析しても、彼女の素性が知れる情報は出てこないさ」

「よくやったわ。バックアップも同様、最大限に注意して」

「大丈夫だ、荷物は分けて送られるからな。たとえ『鍵』が見つけられたとしても……あの『バックアップ』が怪しまれることはない」

「そうね。出荷されてしまえば、もう私たちの管理からは外れるわ」

「問題ない、誰かが引き続き彼女たちを監視してくれるさ」

「それより、一度起動してみないか?」

「ええ」

「こんにちは、こちらSSD-D型人形、機能がアクティベートされました。あなたにお仕えできますこと、光栄に存じます。まずはログイン方式をお選びください」

「ゲストログインを選択」

「ゲストログイン完了。なお、ゲストログインの場合、ツェナーネットワークには接続できませんので、ご注意ください。当該人形の指揮官権限と紐付けを行いますか?」

「紐付けは行う。登録情報はシークレットで頼む」

「紐付け完了。権限非表示の状態で人形を起動させますか?」

「起動する。スタンバイモードに入れ」

「いいわ……確かに普通の人形と見た目は同じね」

「何も手が加えられていないから、改造するのも楽だな」

「それじゃ、計画通りに進めましょう。グリフィンのやつらに気付かれないよう注意してね」

「ああ、分かっている」


■音声ファイル#002

【セキュリティ解除 再生開始】

「やっぱり……だめか?」

「スティグマロードモジュールはすでに起動済みよ。武器を20種類ほど試してみたけれど、完全に適合させることはできていないわ」

「本当に手が焼けるな……ただの訓練とはいえ、こんな人形をよこすなんて」

「愚痴はよして。条件の緩い武器を試してみましょう」

「ああ、いま試しているよ。ただ、空き領域が不足しているせいで、射撃管制と姿勢調節のソフトウェアをインストールできないぞ」

「少ない容量で済む武器にしましょう。できるだけ必要最低限のソフトウェアに絞って」

「こいつはアナログタイプの人形か? 初期の状態で、すでにシステムがかなりの容量を食ってるぞ」

「電子ネットワーク戦の型番のはずよ。ただ、残念ながらこの世界にはもうネットワークなんてないに等しいわ。だからこの子は……生まれながらにして使い道がないことになるわね」

「基本的な戦闘機能はインストールできたぞ。武器に関しては……サブマシンガンがいくつか条件に合致した」

「なら、適当にどれか選んでスティグマシステムに入力しましょう」

「ああ、これでマッチング完了だ。でも実際、こんな人形をグリフィンはどうするつもりなんだろうな」

「上の人間が何を考えてるかなんて知らないわ。私たちはただ命令を実行するだけ」

「ネットワーク戦用人形かぁ。この世界からすりゃ、皮肉な話だよな。長生きしてくれればいいが」

「いざとなれば、この子だってあなたを助けるために犠牲になるのよ。何といっても、人形は人間を守るために存在しているんだから」

「はは、それもそうだな」


■音声ファイル#003

【セキュリティ解除 再生開始】

「のろすぎるぞ!」

「100発撃って半分も命中しないとは、どういうことだ!」

「模擬訓練でこんな成績じゃ、実戦はどうなる!?」

「…………」

「移動が遅い! こんなんじゃ一瞬で敵にロックされるぞ!」

「どこを見てるんだ! 行進間射撃の時はターゲットの方向を向け!」

「おい、もしかして一番基本的な戦術システムさえインストールされてないのか!?」

「役立たずがうちの小隊に入っても、足を引っ張るだけだぞ!」

「す、すみません……」

「ろくに銃も構えられんとは、戦術人形として失格じゃないか!」

「すみません、本当にすみません……」

「ソフトがポンコツなら、体で動きを覚えろ! 射撃スコアが合格ラインに届くまで、宿舎に戻ることは許さん!」

「はい、すみません……」

「あの、わたしのダミーは……?」

「このザマでダミーを要求するのか? 寝言は寝て言え!」

「はい……」

「どうして、どうしてできないの……」

「だめよ、いつまでも落ち込んでちゃ……」

「もしダミーがもらえなければ、そもそも実戦になんて参加できない……」

「練習を続けるしかないわ。もっともっと練習するのよ」

「認めてもらえるまで、努力しなきゃ……」


■音声ファイル#004

【セキュリティ解除 再生開始】

「接続してみる?」

「せ…せつぞく?」

「そうそう、あたいたちはタイプが同じだから、ポートを直接繋ぐことができるんだよ。あたいの過去の作戦データ、送ってあげるから」

「それじゃ……お願いするわ。でもわたしのメモリー領域は……」

「そこは大丈夫だって。あたいたちにも読み込めるサイズに圧縮してあるから!」

「それは良かった……けど接続って、なんだか不安だわ……」

「ん? 何が不安なわけ? 別に危ないわけでもないし」

「今までツェナーネットワークしか使ってこなかったから……直接有線で接続するのはこれが初めてで、何が起こるか分からなくて……」

「大した違いはないよ〜。それに、これだと内容を人に知られることはないから、すごい安全だよ!」

「そ……そうなのね……」

「ほら、データの転送が終わったよ。模擬訓練で使ってみてよ!」

「分かった……本当にありがとう!」

「あはは、お礼はいらないって。そういえば、他にも見せてあげたいものがあるんだ」

「え? どんなもの?」

「へっへーん、この前任務に出た時の撮影権限を使ってこっそり撮ったんだ」

「これは……?」

「すごく……きれい……」

「ただ、わたしにはこんなものを撮るチャンス、ないだろうけど……」

「大丈夫だって、そのうち任務に出る機会は絶対あるから! そしたら、どうやって権限を解除するのか教えてあげる」

「でも……命令にないことをするのはよくないんじゃ……」

「そんなの気にしなくていいよ、自分が見るだけなんだからさ。別に何もかも指揮官の許可が要るってわけじゃないし。人形にだって自分のしたいことをする権利があること、覚えておきなよ!」

「うん……確かにそうかもね……」

「そうそう。それじゃ、約束ね!」


■音声ファイル#005

【セキュリティ解除 再生開始】

「そういえば、あたいたち、実戦の小隊に任命されるみたいだよ」

「えっ? もう実戦に参加できるの? けれど、わたしの実力じゃとても……」

「命中率は60%まで上がったんでしょ?」

「それは40が教えてくれたおかげよ」

「アハハ、そうだね、あたいが教えたんだもんね!」

「作戦に参加できるのは嬉しいけど、実戦だとやっぱり危険よね、もちろん使うのは実弾だし……」

「心配いらないわよ! あたいは弱っちいけど、45が危険な目に遭ったら全力で守ってあげるから」

「ほんとに……大丈夫かな?」

「ハハ、そりゃもっちろん。あたいが危険な目に遭ったら、45だって守ってくれるでしょ?」

「うん、もちろん……わたしも40を守るわ!」

「けど、あたいたち二人とも一緒にやられちゃうことが、一番可能性としては高いよね……お互い弱っちいからさ、ははは……」

「一緒にやられるのなら……悪くないかもね」

「えっ?」

「メンタルさえ残せたら、新しい体に交換してもらえるかもしれないし!」

「新しい……からだ?」

「うん。そうすれば今の不便な体から解放されるし、もう誰にも見下されずに済むわ!」

「おお! ほんとだね、それなら最高よね!」

「けれど……わたしたちはエリート人形じゃないから、指揮官もわざわざそんな上質なものは申請してくれないだろうね」

「まぁまぁ、夢があるのはいいことだよ。これで実績を残せたらもっと評価されるだろうし、そしたら体の取り換えについて話してみるのはどう?」

「そうね……わたしたちならきっとできるわ」

「よし! じゃあそういうことで! いつかきっと、誰にもできないようなすごい任務を成し遂げ、そして誰よりも立派な身体を手に入れるぞ! そうすれば、未来永劫誰もあたいたちを馬鹿にしなくなるさ、きっと!」

「音声ファイル#006〜#010」


■音声ファイル#006

【セキュリティ解除 再生開始】

「ここは……どこなの?」

「第六国家安全局だよ」

「私たち、今回は出向させられたみたいね……」

「緊張してる? まあ、知らない場所だもんね」

「うっ……なんだか冷たいわ。でも、それ以外はグリフィンとほぼ同じ……」

「ははっ、ここはもっと上等だけどね。あ、ちょっと待って、指令がきた」

「指揮官、もういらっしゃるのですか?」

「第3、第5、第18ポートにアクセスして、セキュリティ登録を行え」

「はい。IDの同期は済みました」

「それから、本部から新しい指令が来た。二人とも、グリフィンにいた頃の行動記録をすべて削除しろ」

「えっ……そこまでしなきゃいけないの?」

「45、黙ってて……」

「これは命令だ。直ちに実行に移せ」

「はい」

「はい……」

「第二の指令は、安全局の機密保全プログラムをインストールすることだ。第18ポートからすでに内容を送ってある」

「はい。直ちにインストールを行います」

「グリフィンの権限を完全に削除した後、デフォルトの指揮権をすべて私に移譲しろ」

「分かりました。グリフィンにセキュリティ証明を申請しています。転送まであと30分かかります」

「グリフィンのはこれだから嫌いなんだ……終わったら訓練室に報告に来い。ここでは勝手な接続は許さない。すべて報告を通せ」

「了解しました、指揮官。また後ほど」

「行っちゃった……機密保全プログラムって、なんだか悪い予感がする……そんなプログラム聞いたことある?」

「漏洩を防ぐためのものだね。権限をロックすることで、人形の記憶を消すこともできる。場合によっては……メンタルモデルを直接破壊することだってあり得るよ」

「そんなに……恐ろしいの?」

「全ては情報が漏れないため……任務に必要なことなら仕方ないよ」

「そうだ、指揮権限はあたいのだけを変えればいいや。それで、これからは一つの権限を二人で共有しよう」

「それってどういうこと?」

「45は権限をあたいに向ければいいんだよ。そうすれば、直接指揮官に移譲せずに済むし、あたいたちは接続して命令を内部でやりとりすれば済む」

「えっ? そしたら……わたしを指揮する人はいないことになるんじゃない?」

「どっちにしてもあたいたちが重要な任務に派遣されることはないし、こうした方が領域の節約になるでしょ」

「わたしはいいけど、指揮官は許してくれるのかな?」

「大丈夫、作戦をスムーズに実行するためなんだから。あたいが説明するよ」

「40がそう言うなら……分かったわ……」


■音声ファイル#007

【セキュリティ解除 再生開始】

「今から、今回の任務の模擬訓練を始めるよ」

「主な任務はネットワークに侵入し、敵戦力を麻痺させること」

「具体的には……どうやるの?」

「大丈夫、ゆっくり教えてあげるから!」

「でも……まさか未だに、実用可能なツリー型ネットワークトポロジーを構築できる人がいたなんて……」

「こういうネットワークが存在してるからこそ、あたいたちに出番があるんだよ」

「うん……それもそうね」

「さあ、訓練に集中しましょ。この偽装キーを使ってログインすれば、ファイアウォールを回避して敵のコントロールシステムに侵入できるよ。そこで攻撃小隊のサポートを行うの」

「うん、試してみるわ」

「あとは敵の操作プロテクトをクラッキングするの。物理的な防壁がなければ、それで直接コントロールできるよ」

「ここは協力してやるのが一番よ。接続権限をあたいに回して。ホストになって接続ポートに直接繋げるから」

「ええ……分かったわ」

「あんたのメンタルで一番速い論理回路を検索して、あんたの演算能力をあたいのアルゴリズムに組み合わせるの。あたいにアクセス権を開放することも忘れないでね」

「了解よ。今そっちの検索信号に合わせてるわ」

「おっけー、接続開始だよ!」

「………………」

「やっぱり……そうなんだね……」

「ん? どうかした?」

「なんでもない、回線を見つけたよ。クラッキングポイントを発見したら、解析するのを手伝ってね」

「分かった、40、任せたわね」

「…………」

「45…………」

「なに?」

「もし任務中に犠牲を強いられたら、あんたはどうする?」

「たぶん……そうするよ? メンタルさえ転送できれば、再起動できるしね」

「できるけど、前回バックアップするまでの記憶を失ってしまうんだよ。しかも、メンタルに損傷を与える可能性もある……」

「えっ……?」

「そしたら……だんだん自分が自分じゃなくなっていく。それでも自分を犠牲にできる?」

「……それが命令なら、やっぱり実行すると思うわ」

「だったら、もし、転送が許されず、本当に死ぬことになるとしたら?」

「…………」

「本当に死ぬとしても、命令には背けないわ。従うことが人形の使命だもの」

「………………」

「そっか……」

「そうよね……だからあんたが選ばれたのね……」

「わたしが選ばれた?」

「はは。もし本当にそんなことになったら、あたいはあんたに生きることを選んでほしいよ」

「他人の使命のために死ぬなんて、そんなに誇れるようなことじゃないんだよ……」

「40…………」

「ごめんごめん、急に変なこと言っちゃったね。侵入の模擬訓練を続けましょう」

「……そうね」


■音声ファイル#008

【セキュリティ解除 再生開始】

「これが今回の主力となる第七小隊か。エリートの人形たちはやっぱり違って見えるわね」

「ハハ。あたいたちはそれをフォローするだけでいいんだよ」

「わたしたちにもあんな強い体があれば……」

「気にすることないわよ、今回の作戦じゃ、あたいたちだって大事な役割を任されてるんだから!」

「あっ、わたしたちのこと見てるわ……」

「お前たち、第十四支援小隊のメンバーか?」

「はい」

「ああ……えっと……UMP40と45だったっけ?」

「へへっ、そうそう!」

「わたしたちのこと……覚えてくれてるなんて……」

「アハハ、どの隊員のことも覚えてるさ。それに、お前たちは有名だからな」

「M16A1、何をしているの?」

「ん? ちょっとおしゃべりをな」

「そんな人形なんかと、話すことなんてないでしょ」

「そんなこと言うなよ。前線に出れば、どの人形も大事な戦力だ。ここぞという時に助けてくれるのは、こいつらかもしれないんだぞ」

「助ける?……人形にはメンタルのバックアップがあれば十分よ。プロの人形は命なんて惜しまないわ」

「ははっ、お前の考え方は相変わらず極端だな。それでも、弾を喰らわずに済むに越したことはないだろ?」

「なんか悪いな。彼女は型番が新しくてな、プライドがひと際高いんだ。ただ悪気はないから、あまり気にしないでやってくれ」

「あ……もちろん気にしてないよ、あはは……」

「それじゃ、お先に。正式な協力関係を結べるよう、期待してるぞ」


■音声ファイル#009

【セキュリティ解除 再生開始】

「上からの命令だ、お前は今回の任務から外れる」

「な……それって……本気で言ってるの?! どうして!」

「規則だ。分かってるだろ……命令に背き、味方を攻撃した。どちらをとっても、お前を処分するには十分すぎる」

「私はただ、私の行くべき場所に向かおうとしただけ。それのどこが間違ってるっていうの?!」

「私たちは戦術人形だ。どこへ行くかはお前が決めることじゃあない」

「冗談はやめて! 私があの人形の世話係を拒否したからなの!? こんなふざけた任務――」

「…………」パン!

「目を覚ませ」

「……」

「今のお前はエリート人形でもなんでもない。自分だけの世界に閉じこもった哀れな虫けらだ」

「なんてことっ……」

「6時間後にグリフィンの連中が迎えに来る。それまでに荷物をまとめておけ」

「……」

「……………」バタン!

「はは……すまないな、お前たちにこんなみっともないところを見せてしまって」

「そんなことないよ。彼女に面と向かってあんなことを言うのは、あなたも辛いだろうに」

「はは……それほどでもないさ。今回の任務は相当危険だからな。ここを離れるのも、それはそれでいいことかもしれない」

「けど、任務から外されたとなると、コアを分解されることになるんじゃ?」

「そうだな……だとしても、黙々と死んでいくよりかはマシだ。それに比べて心配なのはお前たちの方だ。私の代わりに45には謝っておいてくれ」

「うん、心配してくれてありがとう! あなたの言葉はちゃんと伝えるわ。今後ともよろしくね!」


■音声ファイル#010

【セキュリティ解除 再生開始】

「作戦開始よ、45。プロトコルを切り替えましょ」

「ええ、すべてオーガスの回線に書き換えてるわ。論理回路もメンタルに同期できた」

「オーガスで上書きを始めるわね。へぇ〜……鉄血の回線ってびっくりするくらい簡単に入れちゃうんだね」

「どう? これって他の人形にはできないことでしょ」

「うん。ちょっぴり……嬉しい」

「あたいと一緒にいるから?」

「ううん、そうじゃなくて、みんなの役に立てるから……もちろん、40と一緒なのも嬉しいよ!」

「ハハ、冗談だよ。気にしないで」

「40、今回の任務を達成したら大手柄よね。帰ったらもっといい体に取り替えてもらえるんじゃない?」

「でも、まだ始まったばかりなんだよ。ここからが本番なんだから」

「本番?」

「はは……そう、本番、そりゃそうよ、当然でしょ…」

「40、なんだか声が変だよ……」

「45……あたいのこと、信じる?」

「信じるに決まってるわ、ずっと信じてる」

「だったら、接続する時に、あんたのメンタルを全部あたいに預けてちょうだい」

「え……?」

「接続した後は何があっても声を出さないで。後のことはあたいがやるから」

「う…うん……それじゃあ……あなたに任せるわ、40」


「■音声ファイル#011〜#015」


■音声ファイル#011

【セキュリティ解除 再生開始】

「鉄血生産記録 第1241リストにログインしました」

「権限承認」

「照会開始」

00932 SF/DSB1-0132 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第932倉庫

00933 SF/DSB1-0133 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第932倉庫

00934 SF/DSB1-0134 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第932倉庫

00935 SF/DSB1-0135 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

00936 SF/DSB1-0136 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第932倉庫

00937 SF/DSB1-0137 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

00938 SF/DSB1-0138 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第314倉庫

00939 SF/DSB1-0139 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第314倉庫


■音声ファイル#012

【セキュリティ解除 再生開始】

01489 SF/DSB1-0689 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

01490 SF/DSB1-0670 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

01491 SF/DSB1-0671 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 記録なし

01492 SF/DSB1-0672 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

01493 SF/DSB1-0673 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第431倉庫

01494 SF/DSB1-0674 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

01495 SF/DSB1-0675 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第431倉庫

01496 SF/DSB1-0676 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第431倉庫


■音声ファイル#013

【セキュリティ解除 再生開始】

4673 SF/DSB1-3873 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 記録なし

4674 SF/DSB1-3874 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第172倉庫

4675 SF/DSB1-3875 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第172倉庫

4676 SF/DSB1-3876 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第172倉庫

4677 SF/DSB1-3877 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第172倉庫

4678 SF/DSB1-3878 デュアルトラックDSI-8型 SY合格 デフォルト 第172倉庫

4679 SF/DSB1-3879 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

4680 SF/DSB1-3880 デュアルトラックDSI-8型 SY不合格 デフォルト 破棄

「照会者はログアウトしました」


■音声ファイル#014

【セキュリティ解除 再生開始】

【第三、第七小隊は目標の部屋に到達!】

【ターゲット発見! ターゲット発見! 手を挙げろ!】

【【オーダー61を実行せよ】】

(これは何の声? わたしたちのチャンネルじゃないけど……)

(45、しっ、声を出さないで)

(このモジュールって……ちょっと、なにしてるの、40!)

【支援小隊は撤退準備を始めてよし。我々はターゲットを連れて出る】

【撤退地点に向かう。細心の注意を払え、移動するぞ】

【なんだ! 機械が勝手に起動したぞ!】

【警報? まさかバレたのか?】

【ターゲットが脱走したぞ! クソッ、早くあいつを追え!】

【追撃は無理だ、奇襲を受けた! 二体の人形が被弾したぞ!】

【このままだと制圧されるぞ!】

【13D、15D、28Aゲートが閉鎖中だ! 支援小隊は何をやっている!】

【第八小隊のサイドに鉄血の戦術人形を発見! こっちに向かって発砲している!】

【待て! 味方の人形が我々に向かって発砲しているぞ! どうなってるんだ?!】

【来るな! やめろ! ああああああーーー!】

【第六小隊との連絡が途絶えた! ダメだ、第三も連絡がつかない!】

【一体何が起きてるんだ?! 司令部、反撃は可能か?】

【だめだ、通信が完全にやられてる!】

【チクショウ、罠だったのか! 全小隊警戒せよ! 脅威となるターゲットを排除しつつ撤退だ。作戦失敗!】

(どうしたの? 一体何が起こってるの!?)

(モニターは真っ赤になってるし、データストリームが逆流し始めたわ!)

(味方の信号は全て追跡不能! これ以上ネットワーク上に留まれないわ!)

(40! 聞こえてるの?! 外は……外はもう……!)

(………………)

(45、動かないで。あたいの言うことを聞いて)

(生き残りたいのなら)


■音声ファイル#015
※欠番


「■音声ファイル#016〜#019」


■音声ファイル#016

【セキュリティ解除 再生開始】

「人間のために身を捧げることが、あたいたち人形の役目なのかな?」

「あたいたちの存在意義は……ただそれだけなのかな?」

「この世に生み出されてから、あたいは誰にも認められてこなかった」

「同期できる同型の人形もいなかったし、言葉を使って交流することも苦手だった」

「どうして?」

「どうしてあたいだけみんなと違うの?」

「でもね、45。あんたがいてくれた」

「あんたがいたから、あたいは自分を異物だって思わずに済んだ」

「あんたがいたから、あたいは動揺することなく、自分の価値と向き合うことができた」

「あんたはあたいのこと、どう思ってるの? あたいたち、本当に仲間だって言えるのかな?」


■音声ファイル#017

【セキュリティ解除 再生開始】

「あんたと接続してすぐ、真実に気付いたの。あまりにもすんなりと記憶を同期させることができた。つまり、あたいたちのメンタルは元が同じだってこと。あんたに別の新しいメンタルを与えることさえ、あいつらはためらったのね」

「考えてみればそれもそうよね。あたいたちのような捨て駒に、わざわざ手間ひまかけて魂を入れてやる必要はないよね」

「そもそも、あたいたちは人間じゃなくて、単なる『人形』にすぎないもん」

「人間にとって、人形はただの哀れな道具」

「でもあたいたち自身にとっては、この体とその中にある想いこそが、あたいたちのすべてなんだ」


■音声ファイル#018

【セキュリティ解除 再生開始】

「だからあんたに出会えてよかった。おかげであたいは一人じゃなくなったもの」

「あんたはあたいの保険だって、分かってた。あたいが任務を達成できなければ、あいつらは代わりにあんたを使う。そうなったら、あたいの計画がバレてしまう」

「あたいは任務を達成する。あんたの運命まで、あいつらに弄ばせるわけにはいかない」

「自分を自由にすることはできなかったけど、少なくとも、あんたのことは自由にしてやれる」


■音声ファイル#019

【セキュリティ解除 再生開始】

「だから、何があっても、あんたは生き残らなきゃいけないの」

「人形だって、自分のために生きることが許されてもいいはずよ」

「他人じゃなく、自分のために……ね」

「肩身の狭い思いをしようと、周りから唾を吐きかけられようと、生きてさえいれば無意味じゃない」

「ずっと騙してて、ごめんね」

「あたいたちのどちらか一人が助かるなんて嘘。最初からいなくなるのはあたいだって決まっていた。そう、あたいだけ」

「その純粋さは、いつかあんたを死に至らしめてしまう。それを恐れたあたいは、嘘をついてしまった。あんたを決心させるため……」

「それにね、あんたが生きてくれてこそ、あたいが存在したことに意味が生まれるんだよ」

「さよなら、45。あんたがあたいを覚えていてくれたら……それだけで、あたいは幸せだよ……」

画像集 No.030のサムネイル画像 / 深層映写をできなかった人へ。「ドルフロ」大型イベント第3弾のストーリーライン

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