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[Unite 2018]中国で大ヒットしたスマホゲーム「旅かえる」の裏側で起きていた混乱とは。その解決と収益化のポイントが語られたセッションをレポート
「旅かえる」ダウンロードページ
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登壇したのは,本作のデベロッパであるヒットポイントのプロジェクトマネージャー 高崎 豊氏と,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンのUnity Ads ディレクター 金田一 確氏の2名だ。
「旅かえる」は,日本各地に旅に出たカエルからお土産や写真をもらうという内容のタイトルだ。カエルの帰りをほぼ待つだけという,いわゆる放置ゲームの一つなのだが,その放置っぷりはかなり振り切っており,カエルは数日間帰ってこないこともある。
そんな「旅かえる」は2017年11月の配信開始以来,3800万ものダウンロード数を記録し,うち78.1%が中国とのこと。さらに本作は,Unityが提供する動画広告サービス「Unity Ads」を利用しているタイトルとして,世界中のヒット作を抑え,ゲーム別月間収益額世界1位を記録している。
この事例について金田一氏は,圧倒的なダウンロード数と,中国における広告収入の高さを理由として挙げつつ,「他人事だと思ってほしくない。日本の野球選手が続々とメジャーリーグに行っているように,世界で愛されるゲームを作るデベロッパが身近にいる環境をUnityは支援していきたい」と語った。
では「旅かえる」の何がそこまで中国の人達の心を捉えたのかというと,「シンプルな答えはない」とのこと。金田一氏は,やはりヒットした「どうぶつタワーバトル」(iOS / Android)と「TIMELOCKER」(iOS / Android)を例に挙げ,「ありそうで,ないゲーム」であること,そして女性や普段ゲームを遊ばない人,海外プレイヤーなど「楽しめるユーザー層の広さ」が掛け合って出てくるものではないという見解を示した。
すなわち,これらのタイトルのヒットには再現性はなく,ヒットさせるためのヒントもないというわけだが,金田一氏は本セッションの意義を「皆さんが“ありそうでない”というエッジを立てたゲームの可能性を追求するうえで参考になるのではないか」と説明。本セッションを通じて伝えたいこととして,「『旅かえる』で起きていたこと」「口コミの力」「ゲーム作りそのもの以外でやるべきこと」の3点を挙げた。
まず「『旅かえる』で起きていたこと」では,本作の成功がヒットポイントにとって予期せぬ出来事だったことが高崎氏から明かされた。例えば前作「ねこあつめ」(iOS / Android)も2000万ダウンロードを記録したヒット作だが,こちらは3年かけて達成したものであり,また北米でのヒットに関しても英語版を出してからと,ある程度予想ができていたという。
その一方で,「旅かえる」は配信開始から2か月程度で,多いときには1日380万ダウンロードを記録するほどになり,ヒットポイント側の準備がまったくできていない状態で急激にプレイヤーを伸ばしていった。そのため,ヒットポイントの業務にもさまざまな支障が生じ,当時社内に一つしかなかった電話回線が,国内外から問い合わせによって1〜2週間塞がれてしまったそうである。
また当初の「旅かえる」には一つ大きな不具合があり,それに関する問い合わせメールが大量に寄せられたため,メールサーバーがパンクした。さらには中国メディアからの大小さまざまな取材依頼が殺到。中には,突然訪問してくるメディアもあったという。もちろんヒットポイントも急遽ヘルプを増員するなどしてそれらに対応したのだが,社内は相当大変なことになっていたのだそうだ。
同時に問題は社外でも発生した。まず,中国における海賊版「旅かえる」の横行である。それら海賊版は,名前だけ流用した別物からシステムを模倣したものまでさまざまだったという。また勝手なコラボレーションの実施や,グッズの商品化も行われた。これらはあまりにクオリティが低く,ヒットポイントのデザイナーが文句を言うほどだったとのこと。
そうした問題に,ヒットポイントは「ユーザーに関わる問題」「権利に関わる問題」「収益に関わる問題」の順に優先順位を付けて対応していった。「ユーザーに関わる問題」では,不具合の修正と,簡単な質問に回答するFAQの作成で対応。「権利に関わる問題」には中国におけるパブリッシャを,「収益に関わる問題」には中国におけるライセンス事業パートナーをそれぞれ探すことで対応し,現在は解決に向かっているとのことである。
以上を振り返り,高崎氏は配信前にやっておけばよかったこととして,「ゲーム名のローカライズだけでもしておけばよかった」と語った。というのも「旅かえる」は日本語の名称しか用意していなかったため,中国のSNSなどでは「旅行青蛙」という通称で広まってしまったのだ。多くの人はその通称をもとに検索をかけたため,偽物を台頭させやすい状況ができ上がってしまった,というわけである。
またユーザーが電話やメールで問い合わせる前にチェック可能なシステムも,あらかじめ用意しておくべきだった。さらに「ハードルが高いので現実的ではないが」と前置きしつつ,「中国におけるパブリッシャを探しておく」「商標登録,著作権登録をしておく」なども反省点として挙げられた。
「口コミの力」については,高崎氏によると「旅かえる」は中国で“仏系ゲーム”と称され,SNSを通じて拡散されていったという。中国は日本よりもSNSによる拡散力が高いとのことで,一人のプレイヤーの発信が人を呼んだ結果,一気に広まったのではないかと分析しているという。
一方で,「旅かえる」自体にもSNSで話題になりやすい仕掛けが施されており,例えばカエルから送られてくる写真はプレイヤーによって少しずつ異なる仕組みになっている。もちろん,それらのスクリーンショットはゲーム内から直接SNSに投稿できるので,ほかのプレイヤーとの違いを見つけて話題にすることが容易なのだ。さらに,カエルは自分がどこに行ったのかを直接プレイヤーに伝えないため,お土産や写真のスクリーンショットをほかのプレイヤーに見せ,カエルがどこにいったのか探るというようなコミュニケーションが生ずるという。
「ゲーム作りそのもの以外でやるべきこと」では,最初にUnityが「皆さんが作ったゲームが,より多くの人に遊ばれることを支援する」というミッションを掲げていることを,金田一氏が紹介した。では,ゲームがより多くの人に遊ばれるためにはどうすればいいかというと,もちろんまず「ゲームそのものの面白さ」が必要だ。それをコアとしつつ,「ダウンロードを増やすための取り組み」「継続してもらうための取り組み」「シェアしてもらうための要素・取り組み」「収益を上げるための取り組み」といった,さまざまな“やるべきこと”が存在するという。
Unityでは,そうした“やるべきこと”のいくつかをサポートするべくサービスを提供している。金田一は「ダウンロードを増やすための取り組み」と「収益を上げるための取り組み」をUnity Adsが,「継続してもらうための取り組み」をUnity Analyticsがサポートするとし,それらサービスが「開発者が,ゲーム作りに最大限の時間を投下できるよう,周辺のやらなければいけないことをサポートする」と紹介した。
「ダウンロードを増やすための取り組み」では,「自然流入」と「広告流入」の二つがあり,前者の,とくに「基本流入の間口を増やす」ことについて解説がなされた。
金田一氏によると,基本流入の間口を増やすためには,「最初から海外を視野に入れてゲームを作る」ことが重要だという。Unity Adsの「日本のデベロッパによる収益額 2016年下半期累計」というデータによると,収益額Top20のゲームのうち半数は,海外収益が20%以上を占めている。とくに文化的な理由で,台湾での成功例が多いそうだ。
では海外に向けて具体的に何をすればいいのかというと,「ゲーム内のテキストによる説明をアイコン化,または省略できないか」「ゲーム名やストアの紹介文だけでも複数言語対応」といった取り組みやすい部分から始めて,手応えのあった国や地域に向けて本格的にローカライズを進めるといいとのこと。
「継続してもらうための取り組み」では,大手スマホゲームパブリッシャのVoodooが「継続率がいいと判断したタイトルしかリリースしない」と明言していることを金田一氏が紹介した。それによるとVoodooは,Unity Analyticsを導入してβテストなどの継続率をチェック,さらにゲーム内容などにVoodoo独自のチューニングを加えて数字が高くなるタイトルだけを本リリースしているのだとか。
金田一氏は,継続率を上げるためにUnity Analyticsを活用する上でのポイントとして,「改善アクションを取ることがない数値は見る必要がない,設定しなくていい」ことを挙げた。必要なのは,まず「やりたいことを明確にする」ことで,継続率と因果関係や相関関係がありそうな指標だけ気にすればいい。そして次に,「現状を把握する」。現状の継続率がどのくらいであるか把握し,それを「悪くないといえる数値」と比較して,対策を講じればいいとのことである。
「収益を上げるための取り組み」においては,まず「旅かえる」では「ゲーム内課金」と「広告収入」の双方を入れていることが紹介された。高崎氏によると,薄利多売タイプの本作では,プレイヤー数に比例して継続的な収益を期待できる広告収入に重きを置いているとのことで,実際にUnity Adsを導入したことにより広告収益が増加したというデータが示された。
一方で,アプリ内課金も用意しているのは「ゲームの進行でフレンドに追いつきたい」「より短い時間でゲームを楽しみたい」といったニーズに応える必要があるからとのこと。
セッションの終盤には,あらためてゲームのコアである「ゲームそのものの面白さ」を高めるために,「開発者がゲーム開発に最大限時間を取れるか」が重要であること金田一氏は言及。そのためにUnityは「ゲームを作ること,面白くするための時間を奪ってはいけない」とし,「Unity AdsやUnity Analyticsで,ゲーム開発そのもの以外のやらなければならないことをサポートしていく」と語った。
また高崎氏は,ゲームを作るうえで自身が大切にしていることとして,「遊ぶのはユーザーであることを意識する」「いかにゲームやデータをユーザー自身のものと思ってもらえるかどうかを重視する」「コミュニティに干渉しない」の3点を挙げ,「開発者はあくまでもエンターテイナー側。大切なのはユーザーをいかに楽しませるか,いかに楽しんでもらえるかを考えながらゲームを作っていくこと」とまとめていた。
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(C)2017 Hit-Point Co.,Ltd.
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