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[SPIEL’17]暗号通信のジレンマをボードゲームに。「Decrypto」のプロトタイプを遊んでみた
IELLOブースで試遊できた「Decrypto」も,そんなプロトタイプ作品のひとつだ。状態としては「ルールなどは完成しているが,コンポーネントは手作り」といったところ。このため,例えば外箱は「プリントアウトしたボックスアート(の候補)を白箱に張りつけた」状態だし,チットや各種ギミックも手作り感満載だ。
しかしながらルールは完成しており,ユニークな面白さを感じる作品となっている。2018年2月に発売予定という本作がどんなゲームなのか,紹介しよう。
キーワードをもとに,「読みやすいが解読しにくい」暗号を作れ!
「Decrypto」は,2人ずつの2チームに分かれて行われる対戦型のゲームだ。プレイヤーは無線で暗号を送り合う専門家となって,味方の間では正確な通信を行い,かつ敵チームの暗号を解読しなくてはならない。
「CLUE」系の謎解きゲームなのかと言われると,それは半分正解である。だが,本作には謎解きゲームにありがちなパズル的な消去法といった要素は,あまり強く現れてこない。実際にそのルール構成を見てみよう。
本作には「暗号を作って送信する役」と「暗号を受信して解読する役」があり,チーム内では,手番ごとにこの役割を交互に行う。
ゲームに勝利するためには,敵チームの暗号を2回解読するか,敵チームが正確なコミュニケーションに2回失敗するか,いずれかの条件を満たさねばならない。つまり敵チームの暗号を解読するだけでなく,味方に対してはなるべく無理なく解読できる暗号を送らねばならないわけだ。
しかし味方間での情報伝達が失敗するのを恐れて「分かりやすい」暗号を送れば,それだけ敵チームがその暗号を解読してしまう可能性が高まる。リアルかつ面白いジレンマである。
さて,「Decrypto」が面白いのは,本作において暗号化して通信すべきデータは,驚くほどシンプルな内容だということだ。具体的に言えば,送信する元データは1〜4で構成された3つの数字(1.4.2とか2.3.1とか)でしかないのである。
そのうえで本作は意外と本格的で,各チームには「暗号を生成・解読するための鍵(キーワード)」が与えられる。実際にどのような「鍵」が与えられるかは,下の写真を見てほしい。
この写真の場合,1の数字は「MICROSCOPE(顕微鏡)」,2の数字は「CORPSE(死体)」,3の数字は「MUSEUM(美術館)」,4の数字は「PROTEST(抗議)」が入っている(当然ながら,この情報はチーム内でしか見られない)。次に「暗号を作る側」は,送信すべき元データを受け取る。
さて,「3.2.1」というデータを送るには,単純に「美術館」「死体」「顕微鏡」という言葉を仲間に伝えれば良いのだが,これには2つの問題がある。
1つは,この「暗号」で送信すれば,これを傍受した敵チームはこれ以降の暗号送受信において,相当な確率でこちらの暗号を解読してしまうだろうという問題。
もう1つは,キーワードをそのまま伝達するのはルールで禁止されているという問題だ(これ以外にも暗号生成に関しては「辞書で調べたら出てくるような単語でなくては駄目」「数字を直接示すようなもの(三銃士とか)は駄目」といったルールがある)。
というわけで暗号を生成するプレイヤーは,ここで大いに悩むことになる。今回の場合,暗号作成者は「公共」「荒野」「鏡」という暗号を生成し,それをゲーム参加者全員に伝えた――暗号は無線で送られているので,敵対陣営もラジオでそれを「聞く」ことは簡単にできるというわけだ。
さてこの暗号通信を傍受した敵チームは,2ターン目以降,暗号を解読するチャンスを得る(1ターン目はノーヒントなので,「まぐれ当たり」を防ぐためにも解読する権利が与えられない)。
前のターンの通信では,「1.2.3」というデータが「微生物」「ハゲタカ」「パリ」という暗号で送られていることが分かっている。そこで敵チーム(敵の暗号を解読するときは相談してよい)は以下のように考える。
少なくとも「ハゲタカ」と「荒野」は,同じ単語から連想された可能性が高いのではないか。だとすると,元データは「不明」「2」「不明」といった感じになるだろう。
それから,もし「微生物」が衛生関係のキーワードから連想されているなら,「公共」と共通点があるのではないか。だとすると元データは「1」「2」「不明」ということになるだろう。
最後に「パリ」だが,これは「公共」「荒野」「鏡」のいずれからも遠い(あえて言えば「公共」か)ので,前のターンに使われていないキーワードから連想された可能性がある。ならば元データは「1」「2」「4」だ!
……このような推理をもとに,敵チームは「元データは1.2.4ですか?」と聞くことになった。だが元データは「3.2.1」なので,ハズレである。暗号作成者は「ハズレです」とだけ解答する。
敵が解読に失敗しても安心はできない。今度はチームワークが問われる場面である。「公共」「荒野」「鏡」という暗号を受け取ったチームメイトは,目の前にあるキーワードをもとにして,元データを推理する。推理は以下のようになるだろう……
「公共」は,ほぼ疑いなく「美術館」からの連想だろう。「死体」という可能性はゼロではないが,さすがに普通は「美術館」を考える。なので最初の数字は「3」。
「荒野」は,即座に断言はできないが,「顕微鏡」「死体」「美術館」「抗議」から選べと言われれば「死体」だろう。なので2番めの数字は「2」。
「鏡」は,「顕微鏡」ないし「美術館」の可能性が高いが,どちらかと言えば「顕微鏡」だろう。よって3番目の数字は「1」。
……このような推理をもとに,暗号解読プレイヤーは「3.2.1」とシートに書き込む。それを受けて暗号生成側は「正解です」と答えることになる。
そしてこの段階で,敵チームは「公共」「荒野」「鏡」という暗号が「3.2.1」を意味することを知った。よって,いまや敵チームの暗号は以下の情報を元に推理できる。
・「微生物」「ハゲタカ」「パリ」=1.2.3
・「公共」「荒野」「鏡」=3.2.1
そして上と同じように自分達の暗号通信を終えた敵プレイヤー陣営は,新たに「恵比寿駅近郊」「ルター」「うじ虫」という暗号を傍受した。さて,敵チームは見事この暗号を解読できるだろうか。ちなみに正解は「3.4.2」である。
暗号通信の持つジレンマを体験
本作の面白いところは,なんといっても「味方は正確に暗号を解読できなくてはならない」ところと,「敵に簡単に解読される暗号ではマズい」という,ゲーム構造に存在する根源的な――そして暗号通信というものが抱える根本的な――ジレンマである。誰にも解読できない暗号を作ることはいたって容易だが,それは暗号通信文としては意味がないのだ。
このため謎解きゲームにありがちな「分からん! まったく分からん!」的なイライラを感じることは,ほとんどない(敵の暗号を解読するにあたってはチームで相談しても良い,というのも大きい)。
もちろん,コンポーネントも凝っている。解読すべき暗号が書かれたカードは3.5インチのフロッピーディスクを模しているし,キーワードは赤色セルロイドを使った「透かし」で提供される。ある程度以上の世代にとっては懐かしさ満点のギミックと言えるだろう。
前述の通り「Decrypto」は,2018年2月の発売となる。キーワードが英語なので>肝心要なところで言語依存度が高い(しかも「翻訳シール」で解決できない)という弱点はあるが,逆に言えばそれ以外に言語依存する要素はない(推理や情報伝達は全部日本語でプレイすればいいのだ)。
また,今の我々にはスマートフォンという心強い味方がいる。キーワードとして提供される単語の意味をスマホで調べて,敵チームに見えないようにメモし,そのメモをもとに暗号作成・暗号解読を行えば,英語版のまま本作を楽しむことも可能だ。
チームワークと創意工夫,そしてちょっとした推理(実際のところ,たいしてしっかり推理しなくても,2ターン目には敵チームのキーワードが漠然と想像できる)が組み合わさった本作は,カジュアルに楽しめるゲームとして完成している。それでいて「暗号通信」が持つジレンマの本質はしっかり体験できる,良質なゲームだと言える。個人的には,発売が待ち遠しい作品だ。
「Le Scorpion Masqué」パブリッシャ公式サイト
- 関連タイトル:
Decrypto
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