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[SPIEL’17]アレクサンドリア図書館の炎上をテーマにした良作「Alexandria」のファーストインプレッションをお届け
史実で何度も焼失しているアレクサンドリア図書館を舞台にした本作「Alexandria」もその1つだ。炎上を続ける大図書館からの脱出という,いかにもボードゲーム向きの題材を,デザイナーのBabis Giannios氏はどう料理したのか。「SPIEL’17」の会場で短時間ながらプレイできたので紹介したい。
「Alexandria」公式サイト(英語)
「Alexandria」キックスターターページ
炎上するアレクサンドリア図書館で,キャラクター個別の目標を目指して勝利しよう
プレイヤーの目的は,焼失しつつあるアレクサンドリア図書館から脱出できた唯一の生き証人になることだ。そのためには,炎上する図書館からできるだけ多くの人や物を救出し,ほかのプレイヤーよりも多くの勝利ポイントを集めなければならない。
ここで面白いのは,プレイヤーが担当する「ヒーロー」達は,それぞれ勝利ポイントの獲得方法が違うということだ。
例えば,エジプトの建築家Neferhotepは,地元の偉大な図書館の消失を遅らせると共に,そこから「所蔵品の救出」と称した持ち逃げが起こるのを防ぐ立場にある。彼は,主にほかのプレイヤーを妨害することで,勝利ポイントを獲得できる。
また,マケドニア出身の国王警備兵Ptolemy,パルミラ出身の書記Tabithaは,それぞれ図書館の中にいる人物や所蔵品を救出することでポイントを獲得する。
少し特殊なのが,ローマの秘密工作員という設定のOctaviaだ。彼は,エジプトの栄光の象徴であるアレキサンドリア図書館の破壊を願う立場にある。このため,図書館にどんどん火をつけていくことで,勝利に近づいていく。
このように,各ヒーローの目標は歴史的な背景を踏まえたものになっている。それは,各々が扱えるヒーローカードやヒーローボード上の特殊アビリティについても同様だ。
ガイドを担当してくれたスタッフからも「自分のキャラクターができることは,すべて把握しておいた方がいいよ」というアドバイスを受けたが,確かにこれらのカード,そしてキャラクターのアビリティは,どれもクセがあると同時に効果は強力。うまく使えると,非常に爽快な気分が味わえる。
時間制限が絡んだ複雑なアクションマネジメント
プレイヤーに与えられたゲーム内の時間は5ラウンド。これが終了すると図書館が焼失するため,のんびりしてはいられない。セットアップでランダムに作り出された迷宮のようなアレキサンドリア図書館の中で,ほかのプレイヤーに先んじて動き回り,所蔵品を収集していこう。
各ラウンドは次の3種類のフェーズで構成されている。
- アクションフェーズ
- 炎上フェーズ
- クリーンナップフェーズ
ここでは,図書館内部を移動したり,自分のヒーローカードデッキからカードをドローしたり,手札やヒーローボードのアクションを起こすことが可能だ。
これらのアクションのうち大半は,時間を消費して行う。例えば,移動やドローにはそれぞれ1時間使うので,自分の砂時計トークンを1マス動かさなければならない。また,ヒーローカードやヒーローボードでのアクションを行うことによる時間消費は,その効果に応じて異なる。
ちなみに勝利ポイントを獲得するには,書物,本,人物の3種類のレスキューカードを集めるのが一番手っ取り早い。しかし,そうするには,タイル上に設置された最大4枚の家具カードと関連したヒーローカードが必要になることが多い。そして,こうした行動にも,少なからず時間を消費しなければならないということは,容易に想像できるだろう。
本作では,ほかのプレイヤーとちょっとした協力関係も築ける。いくつかのヒーローカードは,ほかプレイヤーに対して時間消費の一部を肩代わりしてもらえるだ。もちろん肩代わりするかどうかは任意だが,引き受けるとそのプレイヤーは勝利ポイントを1点獲得できるため,助けた側と助けられた側,双方にメリットがある。
またゲーム展開次第では,協力して第三者のプレイヤーを妨害することも必要だ。そのような場合,ほかのプレイヤーのアクションを支援することで,一時的に連係することも必要なのだ。
また雷のマークが表示されたヒーローカードは時間消費が不要で,自分のターンかどうかに関係なく使用できる。使いやすいのでいつ使ってもいいが,ほかのプレイヤーの行動を妨害する形で使うのも面白いだろう。
このようにして各アクションを済ませてパスを宣言したら,ランドトラックに置かれた砂時計トークンが,次に10に近いプレイヤーにターンが移る。この手順を繰り返して,全プレイヤーの砂時計が0のマスに移動したら,アクションフェーズは終了だ。次はいよいよ,恐るべき炎上フェーズである。
火災による延焼を表現した炎上フェーズを乗り越え,劇的な勝利を目指そう
炎上フェーズにより,図書館を構成するタイルは徐々に焼け落ち,ヒーローの行動範囲が狭まり,レスキューのチャンスも減っていく。1度に焼け落ちるタイルの枚数は,プレイヤーの数と同数となるため,5ラウンド目の炎上フェーズではすべてのタイルが焼け落ちることになる。
ちなみに,このフェーズで強制的に除去されるタイルは優先順位が決まっており,それは以下のとおりだ。
- ヒーローのアクションにより,出火しているもの
- ヒーローが存在せず,隣接するタイルが1枚のもの
- ヒーローが存在し,隣接するタイルが1枚のもの
- ヒーローが存在せず,隣接するタイルが2枚のもの
- ヒーローが存在し,隣接するタイルが2枚のもの
最終ラウンド後にゲームの勝者を判定する場合を除いて,炎上したタイルにヒーローがいてもゲームオーバーにはならないが,ヒーローボード上の対応するテキストの指示(ペナルティであることが多い)に従わなければならない。このため,袋小路などの火災が発生しそうなタイルでアクションフェーズを終わらせないようにすることは重要だ。
プレイヤーは図書館中を隈なく探索しつつ,火災にも気をつけなければいけないため,炎上フェーズの存在はプレイに適度な緊張感をもたらしてくれる。
炎上フェーズと,手札の廃棄などを行うクリーンナップフェーズが終わったら1ラウンドの終了だ。そして次のラウンドの開始時には,参加人数次第で「ドラマチックエンドカード」を1枚ドローする。
このドラマチックエンドカードも,ヒーローカード同様,それぞれのヒーローに異なった影響を与える。4ラウンド目までにドローされたこの種類のカードは,その後のラウンドで対応したヒーローに特殊能力を与え続けてくれるし,5ラウンド目にドローされた場合には,まさに最後の劇的などんでん返し(もちろんゲームが「壊れない」程度に)を演出し,最終的な得点計算に多大な効果を与えてくれる。
タイル焼失の順番がある程度予測できるのに対し,このドラマチックエンドカードのように運の要素が絡んだ展開も待ち構えている点も,本作のやり応えを高めているように感じられた。
本作「Alexandria」は,アレキサンドリア図書館の炎上というテーマを,その歴史的背景までしっかりとフレーバーとして加味しながら,うまくゲームに落とし込んだタイトルだ。史実を元にしたボードゲームを求めている人には間違いなくお勧めできるし,ヒーローのさまざまな能力を駆使しながらプレイヤー間で競い合うのは,そうでない人でもきっと楽しめるはず。
なお余談だが,AlexandriaのパブリッシャであるLudiCreastionsは,昨年のSPIEL’16で一日の売り上げを盗まれるという大きなハプニングに遭遇したが,これに対する寄付も兼ねたクラウドファンディングを利用して「ボードゲーム見本市の出展者対泥棒」という形式のゲーム「Steal This Game」を製作。今年のSPIEL'17来場者に無料配布を行っていた。逆境にも負けずに創造性を発揮した彼らの精神には,心から敬意を表したい。
「Alexandria」公式サイト(英語)
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