プレイレポート
ナチス政権が支配するベルリンにおける反政府運動をテーマとしたストラテジーゲーム「Through the Darkest of Times」を遊んでみた
Poznań Game Arenaのインディーズホールに出展されていた,2人のドイツ人による作品「Through the Darkest of Times」(以下,TtDoT)もまた,そんなゲームの1つである。ナチス政権下におけるベルリンで反政府運動を行っていた人々をテーマとしたストラテジーゲームという,もはや「野心的」という言葉では追いつかないこのゲームを,紹介したい。
「最も深い闇の時代」の,レジスタンスとして
TtDoTは,既に説明したように,ナチス政権下のベルリンで反政府運動を行っていた人々をテーマとした作品だ。
ゲームのジャンルとしてはターン制のストラテジーゲームに分類され,アクション要素は(今のところ)加味されていない。
プレイヤーは最大で5人の「チーム」を作り,活動のための資金を集めることから,大掛かりなところでは破壊活動のための爆弾を調達するところまで,様々なスタイルの「反政府運動」(テロとしか言いようがないものもあるが)に従事できる。
ゲームは1933年2月1日から始まるようになっており,制作者曰く「ゲームは1945年まで続く」という。
1ターンは1週間で,チームに属する各キャラクターは1ターンごとに1つの「活動」に従事できる。
選択できる活動には様々な種類があるが,中には実行のために複数人が必要となるもの(反政府的なスローガンを落書きするなど)や,複数ターン必要となるもの(爆弾を盗み出すなど)もある。
また活動ごとに難度や危険度が設定されており,場合によっては活動をしたメンバーが逮捕されてしまうといったことも起きる。
同様に,メンバーにも能力値が設定されている(グラフィックス・名前・職業・能力値などは自動的に生成される)。
能力値にはConspiracy(陰謀)・Empathy(共感)・Propaganda(宣伝)の3つがあり,例えばEmpathyが高いキャラクターであれば,活動資金集めをより効率よく行える。
また,各メンバーには政治思想が設定されているのも興味深いポイントだ。政治思想にはリベラルや共産主義者といったところから無政府主義者まで幅広く含まれており,チームはときに個々の政治的信条を乗り越えて協力しなくてはならない――あるいは政治的信条の違いからメンバー内で衝突を起こすこともあるという。
ゲームは基本的に,
- その週に,それぞれのメンバーが何をするかを決める
- 週を進める
この繰り返しで進行する。
ただしこの「週を進める」間に,様々な歴史的イベント(PGA展示バージョンでは2月27日に国会議事堂が放火されるイベントが実装されていた)や,個人的な体験を元にしたイベント(ユダヤ人排斥運動の現場に出会う,など)が発生することがある。これらのイベントは,いずれも実際に起こったことを元に作られているという。
カネとやる気がなくては何事も始まらない
さて,TtDoTは非常に刺激的なテーマであるがゆえに,ゲームというよりは一種の表現のように見えてしまう部分もあるかもしれない。
だがTtDoTの制作者(たった2名で作っている)は,いずれも世界的に有名なタイトルの制作に関わっており,そのなかには「Dead Island 2」のように日本でもよく知られている作品も含まれている。また2人ともゲーム制作歴は13年を超えており,十分にベテランと呼ぶべき経験を積んできている。
そしてそのキャリアを裏切ることなく,まだ「ギリギリのαバージョン」とでも呼ぶべきTtDoTは,既にストラテジーゲームとして面白くなりそうな雰囲気を備えている。
TtDoTは,ストラテジーゲームであり,歴史をシミュレーションするゲームでもある。
このためTtDoTにおいては,歴史において彼ら反政府活動家たちが苦しんだであろう問題が,それぞれ数値化されて取り込まれている。カネ・士気・支持者だ。
カネについては,実に分かりやすい。
TtDoTでは,何をするにしても基本的にカネが必要だ。反政府活動は,無料では行えないのである。従ってメンバーのうち誰か1人には高いEmpathyを持った人物を迎えて,その人物に活動資金を集める仕事を一任したい(今後バランスは大きく変わっていくと思うが,個人的には資金集めができる人材は2人ほしいと感じた)。
士気は,「やる気」とでも表現したほうがよりゲームに即しているかもしれない。
ゲームは士気100の状態でスタートするが,どんな活動であっても,実行すれば幾ばくかの士気は減少する。反政府活動であっても,「仕事をすれば疲れる」というのは絶対の真実というわけだ。
しかるに活動が成功に終われば,士気はやや回復する。これもまた実に直感的なデザインである。
ところがこの「士気の減少」と「士気の回復」の収支は,基本的に赤字となる。ひたすら活動に邁進しているのでは,どこかで士気の限界が訪れてしまうのである。従ってメンバーは交代で休養を取り,「反政府活動に従事しない時期」を作っていく必要がある(集金能力の高いメンバーが2人ほしい最大の理由はこれ)。
「同志を集める」アクション。100マルクが必要なだけでなく,士気が5下がる |
結果はまとめて報告される |
そしてさらに困ったことに,メンバーが逮捕されようものなら,士気は大幅にダウンする。実に「そりゃそうですよね」としか言いようのないシミュレーションなのだが,まかり間違って集金役が逮捕されようものなら,士気はガタ落ちなうえに収入も激減と,チームの致命傷になりかねない。
スローガンを書いているところを見つかったメンバーが逮捕されたところ。士気がガックリと落ちる |
ゲームとしては「まず支持者を100人以上にすること」が求められるが,状況が進むにつれ,支持者の数がチームの活動に対して大きな影響を与えていくようになるのだろう。
またこれらのパラメータとは別に,「名声」というパラメータもある。
デザイナーいわく「名声はゲームの進行には原則として影響しない。このゲームにおいては,1945年までチームを維持するのが極めて困難なのは明白なので,一種のスコアとして『名声』を用意した」とのこと。
エンディングではメンバーがその後どうなったかが語られるほか,名声の値に応じて「後世の歴史家」の評価が変わってくる予定だという。
来年夏のリリース(予定)を待て!
TtDoTの拘りは,これだけではない。
キャラクターにはそれぞれ異なる政治信条があるということは既に述べたが,この政治信条はゲーム内における選択肢にも影響してくるという。
例えば,チームがドイツ軍の秘密計画を盗聴することに成功したとしよう。このとき共産主義者は「この情報をソビエト軍に伝えよう」と提案し,民主主義者は「この情報を連合軍に伝えよう」と提案し,人道主義者の場合「どちらにも伝えるべきではない。その密告によって死ぬのはドイツ人ではないか」と主張する。
ここにおいて彼らが決死の覚悟で得た秘密情報をどう扱うべきかは,ただ単にゲーム上の選択というだけでなく,そのチームにおける,ある種の物語ともなり得る。
また,TtDoTでは1ターン(=1週間)が経過するごとに,画面に新聞が大写しになる。この新聞は当時の新聞をもとにしているとのことで,「あの時代がどんな時代だったのか」を間接的に体験できるギミックと言えるだろう。
TtDoTは,制作が始まってからまだ5か月程度ということで,随所に未完成な部分が残っている(なにせPGA展示バージョンにすら,「このイベントは未実装です」と書かれた画面が出て来るくらいだ)。
とはいえゲームの骨子としてはよく作られており,このまま順調に進めば面白いストラテジーゲームになるだろう。制作者は「完成まで最低でも1年必要。2018年の夏にSteamでのアーリーアクセスを開始し,それから3か月くらいでリリースしたい」と語っていた。
果たして本物のナチスと本物のヒトラーに対する,ときに暴力を伴った反政府活動は,どこまでが許容され得るのか? 反政府活動の支持者たちは,どこまでこちらの活動を支持してくれるのか? イデオロギーがバラバラなチームを,いつまで1つの組織としてまとめ上げ続けられるのか? ゲシュタポを相手に,素人の群れがどこまでやれるのか?
歴史ストラテジーゲーム好きとして,完成を心待ちにしたいタイトルである。
- 関連タイトル:
Through the Darkest of Times
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