インタビュー
[インタビュー]Skyとそのコミュニティ運営について,Jenova Chenが語る―――コミュニティは家族です。良かれと思ったことがうまくいかない時でも、お互いが愛し合っているということは変わりません
僕を何度もディズニーランドに呼び戻すのは,やはり“エモーショナルな体験”の部分なのです
4Gamer:
では……真面目な話,そんな素晴らしいコミュニティを抱えたゲームは,いまやとんでもなく大きな規模になったわけですが,このあとSkyの世界をどういう方向に持っていこうとしてますか?
以前のあなたとのインタビューでも言ったかもしれませんが,我々は「すべての人」に提供できるゲームを作りたいと思っています。それこそが,ゲームが社会に受け入れられ,ちゃんとリスペクトしてもらえる唯一の方法だと思っているからです。
ゲームが子供向けだけだったら,もしくは男性向けだけだったら,もしくは女性向けだけだったら……社会はきっと,ゲームというメディアをリスペクトしてくれません。すべての人に同時にアピールすることができて初めてーーー例えば映画がそうですがーーー人々にちゃんとリスペクトされるのだと思うのです。
4Gamer:
はい。あなたのゲーム作りの根幹がそこにあることはよく存じてます。
Chen氏:
そうやって頑張ってきましたが,Skyは……なんて言うんでしょうか,言葉を選ばずに言うなら,ちょっと失敗しました。結果としてあまりたくさんの男性プレイヤーには遊んでいただけないゲームになってしまったんです。でも我々は,コンテンツを差別せず,幅広い人たちが楽しめるようにしてきました。
4Gamer:
ええ。失敗と言うと言葉が強いですが,言わんとしていることはよく分かります。
Chen氏:
Skyをライブゲームだと考えると,すごくテーマパークに近いですね。現実で僕が行ったことのあるテーマパークの中で,長く残る力があると思ったのはディズニーランドだけでした。どこかの有名なパークでカーニバルを鑑賞しても,時間が経ったら忘れてしまいます。
ユニバーサルスタジオにも行きましたが,大きく心が動かされることはなかったです。もちろん,アトラクションはとても目新しいものばかりでしたが,大ファンになるくらい心をつかまれるには至りませんでした。
4Gamer:
ディズニーランドは,存在がそもそも別格ですから。
Chen氏:
ええ。唯一ディズニーランドのみ,彼らが表現したい“モラル的な価値”に共感できると思えたので,ディズニーブランドの忠実なファンになりました。そして長い間ずっと考えているのは,それは一体どういうビジネスなのか,ということです。
Skyはオンラインのスペースで,多くの人が行ったり来たりして,少しテーマパークに似てるかもしれません。Skyの長期運営を考えるとき,実は我々はテーマパークの運営方法の研究に時間をかけています。
4Gamer:
じゃあちょっと短絡的ですが,Skyの中に,ディズニーランドで言うところのアトラクションのようなものが増えていくような感じを考えてるんですか?
Chen氏:
僕は,彼らのビジネスモデルを理解するために,ディズニーの友人とたくさん話す時間を作ってきました。
言うまでもありませんが,ディズニーランドはすでに60年以上の歴史※があります。彼らがどう人を楽しませているのか,そしてどうやってその人たちにまた来てもらうのか。
ディズニーランドの収益の半分はチケットで,残りの半分はグッズとかフード,お酒とか,そういう社交的な消費です。人々にまた来てもらうために,もちろんジェットコースターなんかのアトラクションもアップデートします。それらを新鮮で,新しく,映えるものにしてくれるように。
※ディズニーランド(カリフォルニア)の開園は,1955年7月17日なので67年経っている。ちなみに東京ディズニーランドの開園は,1983年(昭和58年)4月15日なので,39年。そろそろ40年だ。
4Gamer:
そうですね。でもたぶんそういうこと以外にも相当手が入ってますよね。
Chen氏:
そうですね。彼らとて,ストーリーを随時刷新していかないといけないわけです。ディズニーの映画だったり,マーベルやスター・ウォーズなどの新しいストーリーなしでは,アップデートできる要素が限られてきてしまいます。ディズニーが何度も人を呼べるパワーを見ていると,理由が3つくらいあると思います。
1 パーク内のエンタメをアップデートして,改善すること
2 人々がエモーショナルなつながりを感じられる,新しいIPを導入すること
3 ディズニーが提供する,感情的なモラルの価値は何かということを,時代に合わせて再解釈すること
それらが,僕をディズニーに何度も行かせる理由だと思っています。
4Gamer:
あぁ,3番目の理由はなるほどという気分です。ちゃんと考えないと気付きませんが,確かにそうかもしれません。
Chen氏:
僕が初めてアメリカのディズニーランドに行ったのは観光でした。その次は,当時デートしてた相手と一緒に行きました。そのあとは,自分の家族がアメリカにいる僕を訪ねてきたときに連れて行きました。それから家内を連れて行ったし,同僚達とも行きました。今は,子供たちを連れて家族で行きます。
……僕はなぜ,毎度毎度同じところに行ってるのか。
4Gamer:
その理由こそが,ディズニーの真髄ですよね。
Chen氏:
たぶんですが,僕がテーマパークに何かを感じて,彼らが提供している「内なる価値観」に共感して,その価値観を僕の周りの人と一緒に体験したいと思っているからです。もちろん,僕はパーク内のすべてのアトラクションに乗りましたが,でも僕を同じ場所に呼び戻してくれるのは,やはり“エモーショナルな体験”の部分です。
僕が思うに,エモーショナルなストーリーこそが,ディズニーランドの最終的なコアとなっているのです。アトラクションは,あくまでもフレーバーチェンジ(風味を変えるもの)でしかありません。
4Gamer:
なるほどアトラクションは脇役であると。そういう話で言うなら……ちょっと前の話題で申し訳ないんですが,さっきの話の「3番目の理由」は,すごく納得したんですが,それを意図的に作るのはすごく難しくないですか。
Chen氏:
確かにそうですね。
去年の話ですが,コロナ禍で閉園していたディズニーランドが再開したので,家族で久しぶりに行きました。コロナ禍の間に,ディズニーランドは大半のスタッフを解雇※したので,再開するときに,多くの新人を雇用しなければならなくなりました。我々が行くときには,まだ再開して1,2週間ぐらいのときだったので,まだトレーニングが完了していない人もたぶん大勢いたと思います。
※コロナ真っただ中の2021年前半に,3万2000人の解雇を発表していた(Reuters)
4Gamer:
ディズニーといえどもさすがに解雇したんですね。
Chen氏:
さすがにしてましたね。それで僕らが行ったときに,掃除しているスタッフがいました。一般的に,ディズニーランドはどのスタッフも素晴らしく,来場者を助けてくれるイメージがありますよね? なので,その掃除をしている男の子に「ここは掃除済みでしょうか。ここに座ってもいいですか?」と聞いたら,テーブルを拭いていた彼が「さあ知りません。わたしには答えられません。マネージャーに聞かなきゃ」と答えました。
僕はその瞬間,そこだけディズニーランドからどこか普通のレストランに移動したかのような気がしたんです。
4Gamer:
急に現実世界に引き戻された,みたいな?
Chen氏:
ええ。ディズニーランドに行ったら感じ取れる,あの“ディズニーの魔法”がその瞬間に解けました。解けたらそれはもう,僕が知ってるディズニーじゃなくなるんです。
たぶんSkyも同じで,何かを間違えて「エモーショナル」の魔法が解けると,我々はプレイヤーを失うことになります。最初からプレイヤーにアピールできたもの……その初心を保つことがすごく重要だと思います。
その上にイノベーションを乗せ,感動的なものを届け,我々の観客の心をつかんで離さないこと。それを,せめて年に一度はしなくてはならないというのが,僕の原則です。
4Gamer:
年に1度と聞くと少なそうに聞こえますけど,現実には1年はあっという間ですし,さっきも話に出たように1年の間にできることって限られてますもんね。
Chen氏:
そうなんです。でもせめて年に一度くらいは,なぜプレイヤーがこのブランドを好いてくれているのか,自らに問うてリマインドしなければなりません。これはけっこう難しい部分なんです。
ディズニーがPixarを買った理由をようやく理解できました。全年齢対象で設計されてリスペクトされるIPが少なすぎます
4Gamer:
でもその「Skyというブランドが好きな理由」は,さっきの話で言う「ディズニーの魔法」の部分と同じような感じですよね。
Chen氏:
そうだと思います。
4Gamer:
そこについて前から思ってることがあるんですけど,Skyってほかのオンラインゲームと違って……なんていうか,そのエモーショナルの魔法が解けないようなコラボレーションとかが,すごく難しくないですか?
サン=テグジュペリ※はもうイメージどおりのコラボレーションでしたけど……中国だと配信はNetEaseでしたっけ。
※アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ。名著「星の王子」さまの作者。本業はパイロットで,第二次世界大戦中に出撃後,消息不明。のちに戦死と確定。
Chen氏:
はい。※
※中国でのSkyのパブリッシングは,NetEaseが担当している。
4Gamer:
NetEaseといえば日本では「荒野行動」ですが,まぁさすがにSkyと荒野行動は絶対コラボできないですよね,世界感的に。コラボ相手をすごく選ぶタイトルだから,それによってプレイヤーを繋ぎ止めていくのはすごく難しいだろうなぁ,と以前から思ってました。オンラインゲームとコラボは,基本的に相性がいいはずなのに。
Chen氏:
あはは。相応しいコラボ相手を探すことがすごく大変なのは気づいてました。それもあって,僕はようやくディズニーがPixarを買った理由を理解できたんです。全年齢対象で設計されて,リスペクトされるIPが少なすぎます。
4Gamer:
「全年齢」ってゲーム業界は簡単に言いますけど,現実にはびっくりするくらい難度高いと思うんですよね。
Chen氏:
そう。ディズニーランドがどのIPをパーク内に入れるべきかを選ぶとき,必ず家族団らんで楽しめるストーリーでないとなりません。ワイルド・スピードシリーズをディズニーランドに入れるなんて,想像できないでしょう? だからワイルド・スピードはユニバーサルスタジオです。一方でビデオゲームの歴史上,ゲームIPがPixarとかディズニーIPのようなものであることは極少数です。
4Gamer:
うーんそうですね。ほとんどのゲーム作品は,どこかのニッチなターゲットに向けてるものが多いですから。
Chen氏:
そうですね。だから僕がコラボ相手を探すときには,ゲームの中からはあまり考えません。文学作品や,もしかしたら映画作品から考え始めます。最近,日本のプレイヤーで,どのIPとのコラボしてほしいかというアンケートをしていた方がいまして,実は僕も,今日ここにいる人達の意見をすごく知りたいです。※
……あなたが一番Skyに組んでほしいIPはなんですか?
※6月ごろから,Twitter上で,どんな作品がSkyに来るのかのアンケートを取っていたようで,その結果がここにまとまっている。3分30秒あたりからが,結果報告だ。
4Gamer:
実はそれ考えたことがあって……3つくらい候補があるんですよね。
Chen氏:
3つあるんですか!
4Gamer:
まず「ムーミン」。
Chen氏:
おぉー! それは投票結果の2位でした。
4Gamer:
おお,やはり! 次に「ピーターラビット」。
Chen氏:
なるほど,ピーターラビット。
4Gamer:
あとは僕が好きな「リサとガスパール」。
Chen氏:
その作品は知らなかったです。(検索して)……なるほどこれですか。僕が学ばないといけないものが一つ増えました(笑)。
4Gamer:
フランスの作品で,絵本もアニメもあります。可愛いですよ!
Chen氏:
そのアンケートの上位にあった文学作品は,「銀河鉄道の夜」でした。日本文学はちょっと僕も知らなかったんですが,Ritsuには「星の王子さまと共に,絶対読むべきですよ」と言われました。
4Gamer:
なるほど確かに銀河鉄道もいいですね。あとピーター・パンとか。
Chen氏:
ピーター・パンもありましたね!
まだ整った考えではないんですが,それらの作品やIPの共通点が何なのか,すごく興味深くて知りたいです。どうして人々は,100年経っても変わらずにそれを大切にしてくれるのか。
例えばピーターラビットは100年以上前の作品だし,星の王子さまだって80年くらい※経ってます。過去10年,20年の中での作品やIPを見渡すと,我々がすごく組みたい相手がなかなか見つからないのが,すごく驚きです。
※ピーターラビット(1902)も,星の王子さま(1943)も,イメージよりもはるかに古い作品だ。
4Gamer:
でもそれを逆に考えると,100年の古典とSkyは肩を並べてるということでは?
Chen氏:
子供向けの作品……という部分で何か関連があるんでしょうか。共通点は,子供向けに書かれていて,それでいて同時に成人の中にある「子供の心」のために書かれた作品……とか。ということはもしかしたら,子供向けに作られて,それでいて同時に「成人の中の子供心」を満たすビデオゲームはなかなかないのかもしれません。
4Gamer:
なるほど確かに,そういう視点でゲームを見たことはなかったかも……。
あとはまぁベタですがジブリとか。
Chen氏:
そうですね。ジブリは,現代作品の中で唯一100年以上残る作品だと思います。そしてそれは僕の夢でもあります。我々もいつか,100年経っても残っているゲームを作りたいですね。
あと「不思議の国のアリス」はどう思いますか?
4Gamer:
いやあ……あえて出さなかったですが,実は僕大好きなんです。
Chen氏:
男性としてはなかなか珍しいと思うんですが,なぜアリスが好きなんですか?
先日,妻と一緒にアリスの展示会※を見に行きましたけど,そこにいた人のほとんどすべては女性でした。その瞬間は,僕がその場にいる唯一の男性でした。僕が男の子から大人になる過程で,不思議の国の内容は忘れてしまっていました。でもすべての女の子は覚えています。なので,どうしてあなたにとって「不思議の国のアリス」が特別なのか,すごく興味がありますね。
※2022年7月16日〜10月10日,森アーツセンターギャラリーで開催されていた「特別展アリス ― へんてこりん、へんてこりんな世界 ―」
4Gamer:
そう,やはり珍しいですよね。なのでちょっと名前を出すのを躊躇しました(笑)。4つめのお勧めでアリスを出そうとしてたんですけど。僕の家の近くに「不思議の国のアリス」をモチーフにした専門ショップがありますけど,確かにお客さんのほとんどは女性ですね。
Chen氏:
ですよね。
4Gamer:
アリスは要するに,作者……あの数学者のおじさんルイス・キャロルが,近所の小さい女の子をただただひたすらに楽しませてあげようと思って作った空想と妄想の“夢物語”なわけです。ある意味,すごく動機がピュアなんですよね。一旗あげてやろうとか,有名になってやろうとか,印税で稼ごうとか,誰それに対抗するために書いてやろうとか,そういうことが一切ない。なんなら,本人の内なる衝動とかで書いたわけでもありません。
だからこそ,すごくサービス精神が旺盛だし,でもそれでいて書いているのがいい歳のオトナなので,キャラクターがいちいち大人の感性にも耐えるものになってます。
Chen氏:
なるほど。
4Gamer:
大人が読んでも違和感のない,癖のあるキャラクターがたくさん出てくるわけで,さっきの話ではないですが,子供向けではあるんですけど,大人でも楽しい作品になっているところが好きですね。
かばん語※なんかを筆頭に,ませてるアリスのセリフや,脇役達の哲学的な言葉を読み解くのもなかなか面白いですし。
※始まりは「鏡の国のアリス」でハンプティ・ダンプティが言った「2つの意味が1つの言葉に詰め込まれたこの言葉は「旅行かばん」みたいだろう」というセリフ。日本でも使われてるものとして「ブランチ(breakfast+lunch)」や「スモッグ(smoke+fog)」などがある。「カドワンゴ」などもその一種?
Chen氏:
あなたみたいな40代とか50代の人が,自分たちの子供にゲームを作ることをイメージして作ったら,ゲームが本当に社会に尊重されるタイミングが来るかもしれませんよね。
4Gamer:
あの時も話したけど,まだリスペクトされてないですもんね。もうちょっと,アートとしてとか,文学としてとか,評価されてもいいと思うんですけど。
僕はいまになってようやく,世の作家たちが書いたストーリーの真意を理解できるようになりました
Chen氏:
しばらく日本にいた知り合いがいるんですが,彼にゲームがまだここ(=日本)で尊重されない理由を聞いてみました。彼には,面白い持論がありましたよ。
4Gamer:
ぜひ聞かせてください。
Chen氏:
彼は,日本では文学作家が一番尊重されると感じていて,その次は漫画と漫画作家。彼の解釈では,そういった作家が一番尊重される理由は,彼らが作った世界やIPがエンタメ業界全体を養う(コンテンツがエンタメ業界全体をリードする)ことになるからです。それは,アニメになったり,映画になったり,ゲームになったり。
日本のエンタメ業界にはこういった関係があって,ゲームはただの媒介でしかないんです。文学または漫画がオリジナルで作ったIPをベースに作られているだけ。そこにヒエラルキーが生まれるというわけです。
4Gamer:
なるほど……。確かにそうだなぁ,と思える部分も多いですね。
Chen氏:
この話を聞く前にはそういう発想はなかったですけど,興味深い見解だと思いました。つまりその関係を逆にして,ゲームオリジナルのIPを作って,ゲームを元にした映画やアニメが作られて,ゲームをエンタメ業界全体へと影響させられたら,その階層構造を反転できるかもしれません。そしたらゲーム業界がリスペクトされるかもしれません。
いまこういうことをやっているゲームはすでにありますし,あと10年たったら,もっと多くのサンプルがみられるかもしれません。ちょっと楽しみです。
4Gamer:
「バイオ・ハザード」や「トゥームレイダー」,あと「アンチャーテッド」なんかがすでに先駆者ですよね。よく考えたらSkyもすでに似たようなことをやってませんか?
Chen氏:
いやいや(笑)。僕たちは自分でお金を払ってやっているので,ノーカウントです。人々が正門を叩いて「このIPと一緒にやりたいです」とか「映画にしたいです」とか,そういうのじゃないとダメです。
僕たちの場合は,自分がアニメが好きなので,自分で出資してやっているだけで,そこは全然違います。僕たちのこれはズルです(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。
Chen氏:
(嘆きながら)あと20年ですかね,変わるのは。
4Gamer:
でもそれは,あなたの言葉を借りるなら,いま30歳のプレイヤーが50歳になるだけですよ。
Chen氏:
そうでした!(笑) いやまったくそうですね。
次の世代のためのゲームを作るということが,鍵になると思います。今振り返ってみると,自分が20代の頃はこの世界はどんなものかを認識できてなかったです。いま自分は40代になり,「カーペットの裏」を見始めています。世の中というものは,本当はどう動いているのか。それは醜すぎて,僕は子供に話すことはしないと思います。
4Gamer:
あなたはいつも切れ味鋭い言葉を選びますけど,「カーペットの裏」とはいい表現ですね。
Chen氏:
ありがとうございます(笑)。でももし本当に自分の子供にカーペットの裏について話すとしたら,僕はきっとメタファーを使います。いまになってようやく,作家たちが書いたストーリーの真意……どうしてああいう物語を書いたのかを理解できるようになりました。
彼らは子供に世間の本当の姿を教えたいけれど,それと同時に子供にその醜さを見せたくなかったんだと思います。
4Gamer:
そういう解釈はしたことがないかもしれないです。確かに世の中は,意外とひどいことであふれてますから(笑)。
でもちょっと話が戻っちゃうんですが,さっきの話で言うならゲームを産業にすることばかり考えるっていうのも,あんまり楽しくないですよね。エンターテインメントの本質は,人に夢や楽しさを与えるものなので,あまり産業産業言ってもどうかな……と最近ちょっと甘ったるいことを考えています。ゲーム業界も,ここ最近はお金の話ばっかりだし。
Chen氏:
さっきヒエラルキーの話をしてくれた友人から,日本のゲーム産業についてもう一つ聞いてます。それは,日本のゲーム産業は1980年代に起こったもので,ゲームを作る会社はもともとパチンコとかギャンブルのマシンを作ってたところだったので,人々のゲームに対する第一印象が非常に悪い,と。
4Gamer:
なるほど,そういう視点ですか。
Chen氏:
欧米でも人々は同じようにゲームのことを嫌いますが,理由はみんながゲームのことを金儲けの道具として話しているからです。でも欧米には,ゲームのことをギャンブルとして考える人はいません。
これが本当なのかどうかは外国人である僕には分かりませんが,興味深い見解だと思います。
4Gamer:
確かに最初……インベーダーの前後のころは,そういう風潮もあったかもしれません。まぁでもそもそもアーケードゲームマシンがあった場所は,薄暗くて不良がたむろしているそういうイメージだったわけで,実際にそういう人達がいっぱいいたわけですし(笑)。
でもやっぱりファミコンが登場してからは,どうしてもテレビとの比較になりますよね。テレビを観たらバカになる,ゲームを遊んだらバカになる。
Chen氏:
子供向けアニメと同じ扱いですね(笑)。
未来のメタバースはWindowsとAndroidの世界ではなくて,Appleとディズニーの世界になってほしい
Chen氏:
じゃあ好奇心ついでなんですが,聞いていいでしょうか。メタバースについて,あなたの見解を聞きたいです。人が作りあげたあの新しい世界をどう思いますか。
4Gamer:
メタバースは……相変わらず言葉だけが突っ走っていて,誰もその本当の姿が分からないですよね。この先色んな姿を見せてくれるのだろうとは思いますが,たぶんなんとなく一般の皆さんの頭の中は,映画の「レディ・プレイヤー1」(2018)の世界を想像してると思うのです。
Chen氏:
言いたいことは分かります。
4Gamer:
でもいわゆる映画でも小説でも,いま世にあるみんなが知っているお手本の“メタバース”というものはすべて,現実世界がどうしようもなくダメだから,みんなが逃げ込んだ場所なわけですよ。
でも少なくともIT化が進んでいる多くの国々にとっては,なんだかんだ言っても現実世界は全員が絶望して逃げ出したいほどダメなものなのかというと,いささか疑問です。最近ちょっと北半球は荒れてますけど……。なのでメタバースの存在価値というものも,いま現在はあんまりないんじゃないかなぁと思う次第です。
Chen氏:
しかしファイナンスビジネスの世界においては,多くの“メタバース”という概念が資金を集めています。個人的には,多くのゲーム開発者がそうであるように,我々にとってメタバースという概念にそもそも意味なんかないと思っていました。でも少しずつ気が変わってきました。
4Gamer:
お,そうなんですね。ちょっと意外でした。どんな風に変わったんですか?
Chen氏:
例えば僕が誰かに「メタバースを作ってます」と話すと,人々はそのバーチャル世界のことを,子供向けアニメと結びつけたりしないで「現実のような世界なんですよね」と言ってくれます。現実世界の延長がバーチャル空間なんですね,と。
4Gamer:
あぁ……なるほど。確かに変に下に見られてる感じはないですね。
Chen氏:
それが,すごく僕の気分をクリアにしてくれます。人々が,オンラインだけに存在するバーチャル社会を想像するときには,そこに何の偏見もないし,「あぁあれね」みたいな感じで何か見くびったりするようなことはないのです。メタバースのことを現実の延長として考えていて,それは子供向けアニメが受ける視線のように,変に矮小化したものではないんです。
4Gamer:
そこは確かにそうかもしれませんね。なんだかまだよく分からないという感覚はあっても,「あぁ子供のやつね」とか「なんかオタクがやるやつね」とか,そういうイメージはないかもしれません。
……でもそういう話で言うなら,実はSkyってメタバースに近くないですか?
Chen氏:
(微笑み)それは僕が投資家達に強く主張したいところです。
4Gamer:
やっぱり(笑)。まあでも昨今のメタバースは,大体NFTとブロックチェーンとセットになって,ゲームと関係ない人達の間で大人気ですから,Skyがそこに入るべきかというとちょっと……。
Chen氏:
それもありますが,そもそも僕はメタバースにしか興味がありません。残りの2つには失望しかありませんし,それがゲームの世界に入ってくるとポンジ・スキーム※にしかならないというか。
※ポンジ・スキーム(Ponzi scheme):投資詐欺の一種。実際には資金運用を行わず,後から参加する出資者から新たに集めたお金を,以前からの出資者に向けて分配する手法。
4Gamer:
そういうものもいずれちゃんと変わっていくとは思います。でも現時点でのイメージとしては,当たらずとも遠からず,といいますか。
Chen氏:
でしょう?
4Gamer:
メタバースという概念は,たぶんこのあとは色々なところで,色々な形でfixしていくんだと思います。進んでいくと,知らないうちに現実世界に入り込んでくるでしょうし。
Chen氏:
そうですね。まだまだですし。
4Gamer:
今だとまだ,わざわざアプリをインストールして,面倒くさいのにアバターを作らされて,いちいちそのアバターを操作して,バーチャルワールド中の本屋さんを,バーチャルワールドの中のマップを見て探して,そこまでわざわざ歩いていって,狭い視界で本を探して,クリックしたらポップアップウィンドウで本の説明と,下手したらAmazonへのリンクが出てきたりして……そういうものが「メタバース」と呼ばれていたりしますよね。ただ現実を面倒臭くしてるだけ。
Chen氏:
なかなかの言われようですね(笑)。確かにそういうものが多いですが。
4Gamer:
でももうちょっとしたら,たぶんもっと現実とシンクロしたようなものがどんどん出てくるでしょうから,そういう意味ではメタバースというワード自体は,僕個人はすごく楽しみにしています。
Chen氏:
メタバースの中のエンタメはどうなると思います?
4Gamer:
メタバースの中のエンターテイメントは……今はなんか世間のイメージとして3Dゴーグルとリンクしちゃってるので,なんかイマイチだなと思っています。例えば,うーんそうですね,Robloxなんかがすごくいい感じに動いていると思うので,あのタイプのものがどんどん進化していくのかなぁ,と思ってます。
ああいう概念は,もしかしたらSkyにもそのまま入ったりしませんか?
Chen氏:
逆はもうありますよね。Robloxの中にSkyを作ってる人がいるんです。
4Gamer:
え,ホントですか? ……うわホントだ。すごく雰囲気ありますね。これはすごい(笑)。しかしなるほど,もう作られてるとは……。メタバース内に作られるメタバース……。
Chen氏:
僕個人は,メタバースが「Windows」になるのか「Apple」になるのか,どっち方向に行くのが興味深いです。Robloxは,その真ん中のどこかにいるような気がします。完全にオープンなメタバースで,誰でもなんでも作れますし,作ったものをパブリッシングもできます。
4Gamer:
またいつもどおり面白い例えが出てきました(笑)。
Chen氏:
ふふ。そういう自由度を見ると,RobloxはWindowsと同じです。でも一方で,彼らはまたプラットフォーム全体を制御しています。例えばAppleは,プラットフォーム全体をコントロールしているだけでなく,ディズニーランドのようなやり方をしているわけです。
ディズニーは,庭をメンテナンスするようにパーク内のすべてのディテールをコントロールして,我々に素晴らしい体験を与えてくれています。もちろんAppleのプラットフォームも同様です。
4Gamer:
なんとなく想像はついてますが,あなたはどっちのほうが好きですか?
Chen氏:
もし僕に選ぶ権利があるのなら,未来のメタバースというものは,WindowsとAndroidの世界ではなくて,Appleとディズニーの世界になってほしいです。
4Gamer:
確かにJenovaとその作品には,そんな雰囲気があります(笑)。
Chen氏:
そうかも(笑)。
しかしいま気付いたんですが,いま話してるようなことは自分の好奇心を満たすためのもので,全然インタビューとは関係ないですね。僕がインタビューされているんではなくて,あなたの見解を聞いて,僕があなたをインタビューしているような気がしてきました。
4Gamer:
いやいや,そんなことは。……でも実は,また時間切れなんですよ。
Chen氏:
またですか(笑)。じゃあこのあとの会食で話の続きをしましょう。
よく人に文句を言われるんですが,僕と話をするといつも面倒くさいシリアスな話を持ち出されて疲れちゃうらしいです。ですので,このあとの会食はできるだけ軽い会話ができるようにがんばります。
4Gamer:
いやいや重い話大好きですよ! ぜひシリアスな話しましょう(笑)。
じゃあこの続きはまた……どこかで。1年後かな,2年後かな。ぜひまたお願いします。
Chen氏:
もちろんです(笑)。
――2022年9月13日収録
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