2022年9月15日から9月18日まで開催されていた東京ゲームショウ2022にて,
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」 (
iOS /
Android /
Switch )で知られるthatgamecompanyのマーケティング・ディレクター,
Mark Madsen 氏の単独インタビューを行う機会があった。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は,2019年7月18日にiOS向けアプリとしてリリースされたオープンワールドアドベンチャーゲームだ。2019年12月にはAndroid版,2022年6月にはNintendo Switch版が登場し,同年12月にはPlayStation版のリリースが予定されている。
本作は2022年3月の段階で,累計1億6000万回ものダウンロード数を記録しており,シーズンイベント「砕ケル闇ノ季節」も終わったばかり。今後はコンシューマ機向けの本格的なサポートも行われることで,その人気を持続していくのは間違いないだろう。
そんな「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は,ゲームシステムからビジネスモデルに至るまで“異なる考え”のもとでデザインされ,多くの人に支持されている。
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今回は,thatgamecompanyにマーケティング・ディレクターとして参加しているMadsen氏の視点から,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のミッションやチームの舞台裏を語ってもらった。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まず,Madsenさんの経歴を聞かせてもらえますか。
thatgamecompanyのマーケティング・ディレクター Mark Madsen 氏
Mark Madsen(以下,Madsen)氏:
マーケティング・ディレクターとして,thatgamecompanyに参加したのは1年と少し前です。
マーケッターとしての経歴はもう15年ほどになりますが,最初はTHQで「Homefront」などのハードコアなゲームの担当をしており,その後はThe Walt Disney Companyのゲーム部門で「Disney Infinity」,モバイルゲームの「Disney Emoji Blitz!」などを担当していました。
私はサンノゼ生まれで現在サンディエゴに住んでいるんですが,大学を卒業してからはずっと(thatgamecompanyと同じ地域にある)ロサンゼルス近辺で仕事をしている感じですね。
4Gamer:
thatgamecompanyとはどのような出会いだったのでしょう。
Madsen氏:
thatgamecompanyが私を見つけてくれた形です。もともと「風ノ旅ビト」は,高く評価されていたので私もプレイし,その成功を目の当たりしていました。
ただ,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」については,thatgamecompanyから声をかけられるまで知らなかったんです。プレイしてみて,Jenova(CEO兼クリエイティブ・ディレクターのJenova Chen氏)らが,「風ノ旅ビト」から10年経った今でも自分たちの掲げる“ミッション”を続けていたことに驚いたんです。
その10年の間に私は3人の子供を授かっていたのですが,彼らがゲームを通してゲーマーたちをつなげようとしていることに,父親としても非常に感銘を受け,何かお手伝いできればと思ったのです。
4Gamer:
先ほど話にあった“ミッション”というのは,どのようなものなのでしょう。
Madsen氏:
我々が優先しているものは,収益ではなく,プレイヤーの皆さんのゲーム体験であり,ゲーム通して体験できる感情を感じ取ってもらうことです。1人でも多くのプレイヤーに実際の皆さんの人生において,心を動かしたり,心の癒しを得たりできる作品を提供したいというのが我々のミッションなんです。
4Gamer:
Madsenさんが参加したタイミングで,「Sky」はすでにローンチしてから2年近く経過していたわけですよね。すでに相当数のプレイヤーが本作を楽しんでいるという状況で参加するのは,難しいことだったのではないでしょうか。
Madsen氏:
そうですね。ただ,thatgamecompanyがほかとは違うマーケティングをしようとしている,というのはすぐにわかりました。
言うなれば,我々のゲームが常に注目されているという状況を維持しようと努める「上から下へのマーケティング」ではなく,人々がお互いにつながりあえるコミュニティ作りをサポートしていく「下から上へのマーケティング」です。
Skyはプレーヤーから感動的な話を聞くことが本当に多いです。例えば親子が「Sky」を通して心のつながりを持てる関係になったというストーリーがありますが,これは非常にパーソナルなもので「Sky」で出会う素敵で魔法のような話の1つです。
我々のチャレンジとしては,こういったことが起きていることを世の中の人に知ってもらいながら,同時に個人のプライバシーを守る事ができるか,という点があげられます。
Skyプレイヤーのコミュニティー内にこういった感動的な話を積極的に話してくれる人がいることは重要だととらえていて,それは「ゲームができること」の可能性と潜在能力を広げる事につながると思っているからです。
4Gamer:
パーソナルなエピソードは強力な一方で,thatgamecompany主導でやるのはセンシティブすぎると。
Madsen氏:
はい。なので,我々は「thatskystory」(https://thatskystory.com/)という,ゲーム用公式サイトとは別のサイトを立ち上げて,皆さんが自発的に送ってくれたストーリーを掲載しているんです。
ゲームをプレイすることで変化した,彼らの人間関係,心境,世界観がベースになった日記やエッセイのようなものを読めるのですが,それは我々が色をつけているのではありません。また,アクセスしてくる読者の全員が「Sky」をプレイしているわけではない点もユニークなところです。投稿者も読者も「自分はこの世界で1人ではないのだ」ということを共有してほしいですね。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」で得た体験をゲーマーたちが投稿できる「thatskystory」。現時点では英語のみの対応となっているようだ
4Gamer:
その中で,マドセンさんが最も感銘を受けたエピソードはありますか。
Madsen氏:
ウクライナとロシアのプレイヤーに強い絆が生まれた事がありました。彼らは戦争というネガティブな要素がお互いの人生にどのようなインパクトを与えたのかという,ものすごくパーソナルな話をしていました。この会話の中身は双方の立場への理解,共感と感情移入で満ちていました。私はゲームという媒体でできる事はこんなにも素晴らしく,このような瞬間が我々に現在と将来への希望を与えてくれるべきものであるとすら思います。
4Gamer:
あと「Sky」でユニークだと思ったのは,シーズンパスを1人分(1220円)買うよりも,ギフトセットで3人分(2440円)購入するほうがお得になるという点です。
Madsen氏:
そう,2人分ギフトしたほうが1つ当たりの価格が下がるんです。これは,thatgamecompanyのアプローチがいかに斬新であるかを感じたものの1つです。
会議で話をしていても,誰も収益という言葉さえ出さないで,「与えるというシンプルな行為を通じて,どうすればプレイヤーの皆さんがさらにつながり合えるか」という話ばかりしているのです。そのような様子をみて,この会社に入社した理由を再確認しました。
4Gamer:
その会議ではどういう話をしていたのでしょうか。
Madsen氏:
「Sky」は,大人から子供までが参加し,異なる国の異なる経済状況の人もいる。現実として,多いお金を持っている人もいれば,お金が少ない人もいるわけです。そうした異なる人々が,プレッシャーを受けない形で一緒に楽しめるのはどうすれば良いかというのが,ギフトセットのアイデアになります。
Switch版のリリースと合わせるかのようにスタートしたイベントシーズン「砕ケル闇ノ季節」も,9月26日にフィナーレを迎えたばかり
4Gamer:
日本のゲーマーたちの印象はいかがでしょうか。
Madsen氏:
驚きの一言ですね。私だけでなくチームを代表し,日本のプレイヤーの皆さんには感謝をしています。先ほども話したように,プレイヤーの皆さんからの愛を感じやすいゲームですが,特に日本の皆さんはさまざまな形で表現してくれますから。
日本人は良くシャイな性格だと言われますが,そんなことはないかもしれません。TGS会場では,自身が描いたアートを手渡しするためにthatgamecompanyのチームメンバーを探していた方と出会いました。
非常に良いコミュニティができているので,我々も継続してサポートしていきたいと考えています。
4Gamer:
「Sky」は女性のゲーマー層が非常に多いと聞きましたが,もともと女性層を取り込むように仕掛けていたのでしょうか。
Madsen氏:
いえ。確かに女性を含めた幅の広い層に共感していただけるゲームやテーマですが,必ずしも女性層を狙ってデザインされたものではないと思います。もともと,thatgamecompanyはポジティブ性を促進するような方法でコミュニケーションを設計してきました。そうした安全で安心できるスペース作りが,より多様な層にアピールできているのでしょう。
4Gamer:
トキシティ(Toxicity/荒らし)をまき散らすゲーマーもいるとは思いますが,どのような対処をしているのでしょう。
Madsen氏:
残念ながら,そうした荒らし目的で参加する人は必ずいます。Thatgamecompanyにはゲームだけでなくソーシャルネットワークにおいても,そうした悪質な言動をモニタリングする専門のチームがいますから,見つけたら早急に対処できる体制にしています。
ただ,私が見る限りでは,どんな作品よりも「Sky」のゲーマーコミュニティは温かい人が多いと思います。我々もしっかり彼らを守っていきたいと考えています。
4Gamer:
「Sky」はローンチから3周年を迎えて,成熟したライブゲームになっていますが,今後5年,10年のサービスを目指すにあたって,どのような展望をお持ちですか。
Madsen氏:
確かに,「Sky」は今後10年,それよりもずっと先までサービスを続けていきたいものであり,1.6億ダウロードはマイルストーンになったとは言え,まだまだ成長していくゲームだと思っています。
普遍的な魅力を備えたものでありながら,ゲーム体験としてはほかにない“ニッチ”とも言えるものですし,まだまだ手つかずのゲーマー層や非ゲーマー層も残っています。彼らに,「Sky」をプレイしてもらえるよう促していくのが,我々マーケティングチームの今後の課題ですね。
4Gamer:
手つかずのゲーマー層というのは,ミリタリーシューターを好むコアなゲーマー層も含むのでしょうか。プレイしている姿があまり想像できませんが。
Madsen氏:
(笑)。ただ,そこまで変な話ではないかもしれませんよ。「Sky」は非常にアプローチしやすいゲームなので,これまでメインストリームのゲームしか体験してこなかったというゲーマーの方がいましたら,ぜひ「Sky」をプレイしてほしいですね。非常に深く豊かな体験が出来ると思います。
「Sky」は,私が今まで携わってきたどのゲームともまったく違うもので,プレイしてみなければ実感はできないかもしれません。心の安らぎを覚えたり,考えもしなかった他人の人生を学べたりするゲームなのです。
4Gamer:
最後になりますが,「Sky」の今後をお聞かせください。
Madsen氏:
今後もシーズンやアニメ化などで新しい「Sky」の形をお見せしていくことになると思いますが,結局のところ,皆さんにとって「Sky」は“コミュニティ”であると思うのです。ゲーマーの皆さんがコミュニティイベントに参加して,ゲームのSkyの世界にいないときであっても,お互いがつながっていくような楽しみ方をしてほしいと思います。
すでに,ニューヨークやカリフォルニア,イタリアやブラジルのような地域では,そうした自主的なコミュニティイベントが開催され始めていますが,我々も皆さんの活動を裏からサポートしていきたいと思っています。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
最後にMasden氏が語ったコミュニティイベントだが,実は日本国内でも9月24日に「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のコミュニティイベントが東京都世田谷区で開催された(
関連記事 )。ローンチから3年を経て,今なお成長を続けていく本作は,今後も多くのゲーマーに親しまれ,“人々をつなぐ”作品へと昇華していくことだろう。
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