インタビュー
「Age of Empires」はこれからも歴史のストーリーを描いていく。待望のシリーズ最新作を手がけたナラティブチームにインタビュー
ナンバリングの新作としては16年ぶりの登場となるので,まずはシリーズについて簡単に説明しておこう。
第1作「Age of Empires」は1997年にリリースされている。1990年代半ばには,さまざまな“リアルタイム戦略ストラテジー”が誕生したが,歴史をベースとした同作は世界中のゲーマーから支持を受けた。
開発を担当したのはテキサス州を拠点にしていたEnsemble Studiosであり,ゲームデザイナーには「Railroad Tycoon」や「Sid Meier’s Civilization」を手がけたことで知られるBruce Shelley(ブルース・シェリー)氏が起用されていた。
1999年に続編「Age of Empires II」,2002年に神話の世界をテーマにした外伝「Age of Mythology」,そして2005年には「Age of Empires III」がリリースされた。
開発のEnsemble Studiosは,2001年にMicrosoftの傘下に入っていたものの,3DアクションゲームやRPGへとプレイヤーの嗜好がシフトしたこともあり,2009年に閉鎖となる。現在,Age of Empiresシリーズの知的財産権は,Microsoftが2019年に設立したWorld’s Edgeに委ねられている。
ナンバリングの新作となる「Age of Empires IV」がアナウンスされたのは,2017年8月のこと。2019年11月にようやくゲームプレイ映像が公開されたものの,ゲームのディテールが本格的に明らかになったのは2021年に入ってからだった。
そしてご存じのとおり,この最新作が10月28日に正式ローンチを迎えた。Steamではハロウィンセールと重なっていたにもかかわらず,本稿執筆時点でもセールスランキングの上位に位置している。
World’s Edgeの任を受けて最新作の開発を手がけているのは,カナダのバンクーバーを拠点とするRelic Entertainment。1999年にリリースされた「Homeworld」をはじめ,「Company of Heroes」や「Warhammer 40,000: Dawn of War」など,20年以上にわたりRTSを開発し続けているスタジオだ。
「Age of Empires IV」に登場するプレイアブル勢力はイングランド,中国,フランス,神聖ローマ帝国,モンゴル,ルーシ,デリースルタン国,アッバース朝。舞台としては,10世紀から14世紀あたりまでの約500年だ。
また,丁寧なチュートリアルシステム,さまざま難度で挑めるキャンペーンモード,最大8人のプレイヤーによる対戦モードや協力プレイを収録している。
こうしたコンテンツをさらに重厚にしているのが,キャンペーンモードに採用されている実写映像だろう。歴史ドキュメンタリー番組のような凝った作りになっており,ゲームをプレイしながら中世の軍事史に興味を持った人も少なくないと思う。
今回,話を伺ったナラティブチームは実写映像でも重要な役割を務めており,その意図や狙い,歴史をテーマにしたRTSにおける「物語のデザイン」について,さまざまな質問に答えてもらった。
16年ぶりのナンバリング新作「Age of Empires IV」がリリース。往年のシリーズ作品を彷彿とさせる,奥深いやり込みがたまらない
2021年10月29日,いよいよ「Age of Empires IV」がリリースとなる。歴史上の文明を題材とするRTSシリーズに,待望の最新作が登場するのだ。16年ぶりのナンバリング新作は,果たしてどのようになっているだろうか。
「Age of Empires IV」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
「Age of Empires IV」はプレビュー版を始めたばかりなのですが,実写映像によるストーリーの描き方は興味深く感じました。キャンペーンモードのミッションに,さまざまな映像コンテンツが用意されていますね。
はい。映像には2つのタイプがあります。1つは各勢力のミッションのストーリーを紹介し,とある戦争から次の戦争へと移るキャンペーンにおいて,歴史上の英雄が何を考え,どのように行動したのかを伝えるものです。
ミッションを達成したときには,もう1つのタイプの映像がアンロックされます。我々は「ハンズオン歴史ビデオ」(Hands on History)と呼んでいるのですが,約2分半の尺があり,その時代の軍事要素を紹介するものだったり,当時の生活様式に焦点を当てたものだったりします。
ハンズオン歴史ビデオはプレイヤーのゲーム体験に深みを与え,どのような形であれ我々の歴史を動かすに至った彼らの偉業を称えるような内容になっています。ゲームでは何千本もの矢が飛んでいますが,この矢が作られるまでには,どれほど多くの人の試行錯誤や発明を経ているのかを知ることができるのです。
4Gamer:
映像のクオリティが非常に高く,BBCやナショナルジオグラフィックのドキュメンタリー番組を鑑賞しているような感覚になります。
ありがとうございます。映像の制作にあたっては,イギリスの制作会社であるLion Televisionに協力してもらっています。彼らは実際,BBCの子供向け教養番組「Horrible Histories」を制作しており,最近もエジプト文明を扱った「Secrets of the Saqqara Tomb」をNetflixで配信しています。歴史ドキュメンタリーに関して,極めて高いノウハウを持っているチームですね。
実写映像は4K画質で撮影されており,中にはハイスピードカメラを使った秒間1000コマのスーパースロー映像も含まれています。
4Gamer:
「Age of Empires IV」の制作発表は,2017年8月に行われました。当時,リアルなCG映像でストーリーを紹介するというのが,ゲーム業界の半ば常識的な手法だったと思います。実写映像をふんだんに使うというアイデアはどのように生まれたのでしょうか。
Relic Entertainmentのクリエイティブディレクターであるアダム・イズグリーン(Adam Isgreen)とWorld’s Edgeの間では,制作発表の以前から決めていました。
例えば,BBCの番組「トップ・ギア」が自動車文化に貢献しているように,ゲームとして面白いものでありつつ,実写映像で歴史に興味を持ってもらうことはできないかと考えました。これが,新作のコンセプトの原点だったとも言えます。
従来のRTSではCG映像,もしくは2Dアートによる絵本や史書といったナラティブ手法しかありませんでした。歴史に没入してもらうために,ゲームを遊びながらも歴史ドキュメンタリーを見ているかのようにしたかったのです。
Boulle氏:
実写映像のクオリティにこだわったのは,もし中途半端に作ってしまえば,すごく安っぽくなってしまうからです。だから,Lion Televisionのように熟練したパートナーと連携する必要があったんです。高いクオリティを実現するために,2017年時点で実写映像を収録することを決定し,時間をかけて撮影を進めてきました。
「Age of Empires IV」にはフランスとイングランドが戦った百年戦争のキャンペーンがありますが,ノートルダム大聖堂が火災に遭う前に撮影した映像を用意することができました。学ぶものが多い歴史的要素をゲームに集約していると思います。
Smith氏:
我々にとって幸運だったのは,ほとんどの映像はCOVID-19が拡大する前に撮影が終わっていたことです。ゲームには28人の専門家が出演していますが,それらも2020年以前に撮影しています。
4Gamer:
綿密に計画されたプロジェクトですが,タイミングも味方してくれたということですね。
Wood氏:
28種類のハンズオン歴史ビデオには,複数の専門家が出演しているものもあり,同じ専門家が何度が出演しているものもあります。基本的には4つのキャンペーン(ノルマン人,百年戦争,モンゴル帝国,モスクワの台頭)をプレイすると,プレイヤーがクリアしたミッションにまつわる内容の歴史考察が見られます。
4Gamer:
中世軍事史の専門家はどのようにして選ばれたのでしょうか。
Smith氏:
ハンズオン歴史ビデオの脚本は,Lion Televisionの監督でもあるMike Rose(マイク・ローズ)氏に委ねている部分が多く,彼らによって専門家が選ばれました。なお,権威のある人に集中することなく,エネルギッシュな新進気鋭の人も選考してもらいたいとを伝えています。
ちなみに,Rose氏は古代兵器に関するエキスパートとして知られる人物で,他社の有名なゲームにも協力しているんですよ。
4Gamer:
歴史の専門家だけではない点もユニークに感じました。
Boulle氏:
例えば,衣類のクラフティングに関して,現代のクラフト専門家は中世の技術や美術に何を感じるのか。こうした過去と現在をつなぐような視点も意識してもらいました。
ハンズオン歴史ビデオの中には,緊急医療病院に勤める外科医も出演しています。現代に生きる我々が歴史から学べるものを,それぞれの立場で説明してもらっています。
4Gamer:
そうしたドキュメンタリー部分の歴史考証を,ゲームに反映することは難しかったのではないでしょうか。
Smith氏:
アートワークの違いから,ハンズオン歴史ビデオの内容とキャンペーンの映像がうまく交錯しているかといったことまで,すべてが難しくやり甲斐のある作業でした。
私は歴史に関するドキュメンタリー映画のエグゼクティブプロデューサーだった経験があり,歴史をテーマにした小説を書いたこともあります。フィル(Boulle氏)は歴史学の専攻,ローレン(Wood氏)は読書家で,今回のファクトチェックにとても貢献してくれました。
我々は歴史の専門家ではなく,ゲームのナラティブデザイナーですが,Lion Televisionが加入することで,確固たるプロジェクトになり得たのです。
4Gamer:
キャンペーンのストーリーを書くにあたって,曲げられない部分はありましたか。
Smith氏:
我々のモットーは2つ。歴史的に正確であることと,無機質ではない人間的な観点で歴史を描くことです。我々はゲーマーの皆さんが中世の歴史と文化に興味を持ち,いずれ古戦場を旅したり,それまで知らなかった文明や王朝に親しみを抱いたりしてほしいと願っています。
もちろん,ただのシミュレーション(再現)ではなくゲーム(娯楽)ですから,ゲームプレイを重視すべきポイントは少なくありません。それでも脚本においては,可能な限り歴史的に正確であるという視点を大事にしました。
Age of Empiresシリーズを歴史の教材にして,歴史に興味を持ってほしいという声を多く聞いています。我々はその責任を強く感じているのです。
4Gamer:
なるほど。ナラティブデザインとゲームデザインを調整していく工程は,どのようなものでしたか。
Wood氏:
それはもう最初から最後まで大変でした。ゲームの脚本の仕事は,ストーリーとゲームプレイが重なり合い,それぞれが補完し合える状況を作り出すための,片方の作業だと思います。双方の辻褄が合っていて,同等の価値を持っていなければいけません。
ストラテジーゲームの場合,プレイヤーに「戦略を練る」という自由を与えることでゲームとして成立しますから,史実どおりに兵士が動く必要は決してなく,歴史とすり合わせながらも十分な余白が必要になります。
つまるところ,ミッションの目標を達成すればゲームを進められるのですから,ゲーマーの中には史実や歴史考証に関心を持たないという人もいるでしょう。ただ,ゲームが描いている歴史上の人物も,皆さんと同じく試行錯誤を繰り返して戦っていた。それを感じていただけたら嬉しいです。
4Gamer:
ストーリーには多様性を持たせることも必要ですよね。同じような目的のミッションばかりでは,飽きられる心配があります。
Smith氏:
そうですね。面白い目的としては,プレイヤーが勝てないミッションがありますよ。モンゴル軍が大量に襲撃してくる前に,市民を逃がすことが目標になります。
Boulle氏:
このミッションは苦労しました。プレイヤーがミッションをクリアしても気持ちよさを得られないからです。モンゴル軍が押し寄せてくるけれど,負けるとどのような結末を迎えるのかが想像でき,でも勝てないことも分かっている……。何度も何度も脚本とゲームプレイの細かい変更を繰り返し,最も満足できるミッションに仕上がったのではないかと思っています。
Smith氏:
ミッションをクリアすると「勝利しました」(Victory)ではなく,「ミッション達成です」(Mission Complete)と表示されるのは,とても珍しいケースです(笑)。
4Gamer:
ゲームにはヒーローキャラクターが存在しますが,実写映像では役者が歴史上の人物を演じるシーンがありません。歴史ドラマではなく,ドキュメンタリー的な客観性を重視したのでしょうか。
Smith氏:
ゲームが描いている歴史を別の角度で考えてもらうというのは,私たちが意図したものです。一つのミッションの前後に存在する,何百年にも至る大きな流れをゲームで表現することは難しいですから,その瞬間に感じるコンテクストを読み取ってもらえればと思います。
例えば,ノルマン人のキャンペーンでは,征服王ウィリアムがブリテン島中北部にある敵拠点ヨークへと進撃し,反乱軍と戦っていきます。しかし,ヨークの人にとっては反乱ではなく,征服に対する抵抗です。歴史とは善も悪もない,人々の複雑な営みを綴ったものであり,ゲーマーの皆さんには俯瞰的に楽しんでほしいですね。
4Gamer:
双方の視点という意味では,シリーズ作品における十字軍遠征のキャンペーンが強く印象に残っています。「Age of Empires IV」には十字軍のキャンペーンがありませんが,現代ではセンシティブなテーマだからでしょうか。
Smith氏:
いえ,そのような理由ではありません。「Age of Empires II」で十分に描いていることから,優先度が高くなかったのだと思います。
Boulle氏:
歴史を簡単に解釈することはできない,ということが言えますね。特定の歴史イベントを深堀りしていくと,非常に複雑であることが分かり,特定の視点だけでは矛盾が生じてしまいます。英雄的な偉人であっても,別の角度から見ると正反対の人物像になるものです。それはナラティブデザイナーである私にとって,非常に興味を覚えるテーマです。
「Age of Empires IV」が描いている中世の500年,その歴史の流れにおいて4つのキャンペーンはほんの一部でしかありません。これから何年にもわたって,さまざまな歴史ストーリーを描いていくことだけは保証します。
4Gamer:
4つのキャンペーンが収録されていますが,8つのプレイアブル勢力の中にはあまりスポットが当たっていないものがあるのではないでしょうか。
Boulle氏:
我々は,それぞれの文明のストーリーをしっかりと描きたいと思っています。今回のキャンペーンは,ゲーマーコミュニティにとって親しまれており,かつ新しい要素が加えられるテーマを優先しています。
ノルマン朝が誕生する経緯となったイングランド,百年戦争を戦い抜いたフランス。一方,アジアからヨーロッパまで勢力を伸ばしたモンゴル,その支配から立ち上がったモスクワ(ロシア・ツァーリ国)。4つのキャンペーンは,2つずつが対になっていることにお気づきでしょう。
そのうえで,モンゴルのキャンペーンの2/3は中国でのイベントです。このように,各勢力にスポットが当たるようになっています。8つの勢力に対して,4つのキャンペーンは少ないと思われるかもしれませんが,それぞれ10時間,つまりシングルプレイモードとして40時間は楽しめますよ。
4Gamer:
これからもサービスを続けていくことに安心しました。追加コンテンツの開発に着手していると思いますが,日本の歴史ドキュメンタリーも撮影済みでしょうか。やはりテーマは元寇ですか(笑)。
Boulle氏:
ははは(笑)。その質問には答えられませんが,「Age of Empires II」のプレイアブル勢力は13からスタートし,拡張パックによって多数追加されています。確かに「Age of Empires IV」には,まだ描かれていない文明がありますので,もっと多くのゲーマーが楽しめるようにしたいと思っています。
本作には「ストーリーモード」があります。難度がノーマルより下に設定されているため,ストーリーを楽しんでいただけるものです。お子さんと一緒に歴史博物館に行くつもりで楽しんでほしいですね。
Wood氏:
私も教育ゲームとしての要素に注目してほしいですね。自分の子供にゲームを遊んでもらい,歴史の面白さを感じもらえたことを嬉しく思っています。私が学校に行っていた時代の,歴史の授業はつまらないものでした。ただ,教科書の中の出来事でしかなかったからです。「Age of Empires IV」で描かれているのは何百年も前の出来事ですが,それを自分で進めることで,少しでも歴史を身近なものに感じていただたら光栄です。
Smith氏:
とにかく,多くのゲーマーの皆さんに楽しんでいただきたいです。楽しい時間を過ごしてほしい。そのうえで,何か興味を持てる部分を見つけてもらえたら最高ですよ。
私から皆さんへのメッセージは一言,「ようこそ」です。開発者として満足できる仕上がりになっていると感じますが,皆さんと一緒にさらに素晴らしいゲームにしていきましょう。
「Age of Empires IV」公式サイト
- 関連タイトル:
Age of Empires IV
- この記事のURL:
キーワード
Copyright 2021 Microsoft Studios. All Rights Reserved. Age of Empires IV is a registered trademark of the Microsoft group of companies.