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[CEDEC 2018]「MONSTER HUNTER: WORLD」のフィールドやモンスターはどのように作られたのか。ゲームデザインを紹介したセッションをレポート
「MONSTER HUNTER: WORLD」公式サイト
登壇者は,「MONSTER HUNTER: WORLD」(PC/PlayStation 4/Xbox One。以下,MHW)のディレクターを務めたカプコン 第二開発部の徳田優也氏。徳田氏は,フィールドとモンスターの制作事例を交えて,同作のゲームデザインを解説した。
「モンスターハンター」に携わり続けて,
MHWの着想を得た
徳田氏は2004年にカプコンに入社し,2005年発売の「モンスターハンターG」以来,「モンスターハンター」シリーズの開発に携わってきた人物だ。ラージャン,ティガレックス,ナルガクルガ,ラギアクルス,ジンオウガなど,シリーズの主要なモンスターの制作を手がけてきたという。
とりわけ水中バトルの設計では,浅瀬と水中でのモンスターの動きの違いや,地上と水中のバトルを同じ手触りにすること,さらに縦方向の移動や回避など,さまざまことを考えた。その過程で徳田氏は,「モンスターを最大限活かすためには,フィールドと一緒に設計したほうがいい」と感じるようになってきた。
さらに,モンスターの出現フィールドやモンスターの強さの序列,モンスターの骨格の区分などをまとめていくうちに,「『モンスターハンター』のゲーム体験は,モンスターが軸になっている」ということにも改めて思い至ったそうだ。
序盤には,基本的な狩り方を教えるようなモンスターを配置し,慣れてきた頃にプレイヤーの壁になる変化球のモンスターを登場させ,その次に正統派のモンスターを持ってくるといった時系列を組み立てていくうち,徳田氏はクエストの設計にも興味が湧いてきたという。
以上のことから徳田氏は,通常のクエストの達成条件とは関係なく,特定のモンスターを一定数倒すことで報酬がもらえるサブクエストを提案した。このアイデアは,“「モンスターハンター3」のコンセプトに一致していない”といった理由から見送られてしまったが,MHWで復活し,コンテンツの1つ「バウンティ」として登場している。
また,注射器などの特殊なアイテムでモンスターのエキスを持ち帰るといった提案も行ったという。こちらはまだ実現していないが,「いつかやります」と徳田氏は意気込みを見せた。
徳田氏はその後,携帯ゲーム機向けシリーズのプランナーを経て,「モンスターハンター4」のメインプランナーを務める。「高低差のあるフィールド」と「高低差を活かしたアクション体験」をコンセプトに掲げた同作の開発で徳田氏は,モンスターとクエストの全体監修やフィールドルールの設定などを担当した。
クエストのルールについては,基本的にシリーズ従来作を踏襲したが,メインストーリーに関わるクエストを「任務」として分かりやすい形にするというMHWのシステムは,この時点ですでに考えていたという。
メインプランナーの立場で徳田氏は,直接担当していない部分にもアイデアを出していった。
会場では,高低差を活かすアクションの案として,射出したアンカーを支点にしてジャンプする武器が紹介されたが,ここにほかのスタッフのアイデアが加わり,のちに操虫棍として完成することになる。こうしたことを繰り返しながら,徳田氏はゲームの根幹に迫る「コンセプト作り」に関心を寄せていく。
プロジェクトミッションを踏まえたコンセプト設計
MHWの開発で徳田氏は,ディレクターとしてゲームのコンセプトを提示し,スタッフが制作した成果物のチェックや判断,さらにディレクションなどを行うとともに,ゲーム全体のクオリティ維持と納期に対する責任を負うことになった。
ディレクターだからといって,自分の好きにゲームを作れるわけではない。従うべきミッション,具体的にはプロデューサーである辻本良三氏が示した「据え置き機向けの次世代『モンスターハンター』を開発する」「日本と海外,双方のプレイヤーが楽しめるタイトルにする」「発売目標時期は2017年末」の3つが存在した。
それらを踏まえ,開発最初期の2014年に徳田氏は,MHWのイメージビジュアルを発注した。それには,生態系を重視することを示す大型モンスター同士の食い合いや環境生物の存在,3体以上の大型モンスターの登場,オトモアイルーなどの要素が含まれていたという。
商品コンセプトとしては,「据え置き機で世界最高品質の『モンスターハンター』」「次の10年間の土台となる『モンスターハンター』」「初めて触れる人がすぐに楽しめる『モンスターハンター』」の3つを掲げた。
フィールド設計については,広さではなく「密度の高さ」を目標とし,プレイヤーが環境を利用してモンスターから隠れたり,モンスターを罠にかけたりなどができるようにした。また,エリア移動でロードをなくしたことにより,例えばアプトノスを刺激して隣のエリアに移動させ,そこに大型モンスターを誘導するといった遊びも可能になった。
徳田氏は以上ををまとめて,「プレイヤーに味わってもらいたいゲーム体験があって,それが開発チームがやりたいことにつながっている」と語った。
フィールドとモンスターの設計
会場では,MHWのフィールドおよびモンスターの設計方法が具体的に披露された。
プレイヤーが最初に訪れるフィールド「古代樹の森」は,生態系重視という方針に沿って設計されている。例えば,難度が低い開けた場所には草食モンスターのアプトノスが配置され,森に一歩踏み込むと肉食のドスジャグラスや,最初にプレイヤーの壁として立ち塞がるアンジャナフなどがいる。さらに中央部には,このフィールドの生態系の頂点に立つリオレウスがいる,といった具合だ。
続いて,プレイヤーが利用できるギミックを振り分けていく。痺れガスを出すカエルや,モンスターを流すためのダムなどを,フィールドやモンスターの難度を踏まえて配置していくのだ。徳田氏は,「これまで以上に配置するものが増えたので,要素を分解して設計していった」と述べていた。
プレイヤーがある程度ゲームに慣れた頃に登場する「瘴気の谷」は,徳田氏が長らく作りたかったフィールドだったという。「象の墓場」や「鯨骨生物群集」からヒントを得たという瘴気の谷には,古龍の死骸を中心に形成された生態系があり,MHWのストーリーや新大陸全体の生態系の根幹ともなっている。
また,ゲーム初期に登場する「大蟻塚の荒地」は,開放感がありつつも水や泥といった制限を設けたこと,終盤の「龍結晶の地」はモンスター自体が強いので,フィールドとしては遊びやすくしたことなど,フィールドとモンスターを一体としてデザインしたことが紹介された。
モンスターの役割について徳田氏は,「プレイヤーを適度に追い詰め,倒される存在」と説明した。
また,「何度も同じモンスターと戦う」「プレイヤーのできることが多い(武器種が多い)」「序盤から終盤まで多くの種類のモンスターが出る」といった「モンスターハンター」シリーズの特徴から,「何度同じモンスターと戦っても面白い」「どの武器種で戦っても面白い」「単体としてだけでなく,序盤から終盤までの全体構成でも面白い」ことが重要だったという。
それらを実現するために必要なのは,モンスターの個性や特徴からくる「インパクト」と,プレイヤーの遊びを促す「攻略」の2つだ。
インパクトは,大きな石を持ち上げたり,姿に似合わず飛んだりといったことで,それを見たプレイヤーを驚かす要素になる。そして「こんな相手に,どうやったら勝てるんだろう」と思ってもらうことで,実際に倒したときの感動を増幅するのだ。
徳田氏は「アーティストに左右される部分も多い」としつつ,「ゲームデザイナーやプランナーが常に意識していないと,インパクトに欠けたモンスターができあがってしまう」と述べた。
攻略については,モンスターに対するプレイヤーの行動の選択肢が多いことが重要だという。例えば,最初はガードするしかないと感じていても,実はモンスターに向かって回避することで攻撃のチャンスが生まれることにプレイヤーが気づけば,モンスターを狩るのがより楽しくなる。徳田氏は,「そうしたパターンが多いほど攻略性の高いモンスターとなり,何度戦っても楽しいという部分に結びつく」とした。
そのほか,ゲームに登場させるモンスターの立ち位置やコンセプトは設計の早い段階で決めておくとバランス調整などがやりやすくなることや,設計者が自分の考えたとおりのモンスターに仕上がっているかをチェックしたうえでチューニングチームと連絡を密にし,さらにクオリティを上げていくことが重要であることなどが説明された。
セッションのまとめで徳田氏は会場に向けて,企画を提案するときの心得を紹介した。それは「前提条件/コンセプトの確認」「インパクトと攻略」「アイデアを諦めない」の3つだ。
また,ゲームデザイナーやプランナーを志望する人に向けては,「ルールを作る,あるいは改変して人を楽しませた経験は強みになる」と述べ,自身が学生時代にTRPGのルールを作っていたことを紹介した。そして,「ぜひ自分で作ったもので人を楽しませるという経験をしてください。そこには難しさとともに,やりがいもあります。それを分かったうえでゲーム業界に入ると,あとがやり易くなります」と語ってセッションを締めくくった。
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