プレイレポート
1990年代の雰囲気を漂わせる「LOST SPHEAR」をプレイしながら,古き良き名作RPGに思いを馳せてみた
開発を手がけるTokyo RPG Factoryは,「あの頃のRPGを取り戻す」というコンセプトの下に設立されたスタジオで,国産RPGの伝統的なスタイルと,現代のプレイ感を融合したタイトルを作り続けている。もちろん「LOST SPHEAR」もその流れを汲んでいるのだ。本稿では,そんな同作のプレイレポートを,ところどころで目にした古き良き名作RPGの面影とともにお届けしよう。
「月」が世界の全てを創ったという伝承が残る世界。主人公・カナタと仲間たちは,人や街,山などが消え去る「ロスト」現象の謎を追い,世界中を旅していく。敵を倒したり,人々の言葉に耳を傾けたりすることで集めた「記憶」でロストした人や物を再生し,世界を取り戻していくのだ。
“ネオ・トラディショナルRPG”である本作のコンセプトを色濃く反映しているのが「ATB2.0」をベースとしたバトルシステムだろう。
ATBは「Active Time Battle」の略で,「FINAL FANTASY IV」(1991年)で初登場したものだ。分かりやすく言えば「コマンド選択型バトルにリアルタイム性を融合させたもの」となるだろうか。
コマンド選択型バトルは「ターンの開始時にパーティメンバーのコマンドをまとめて入力し,あとは結果を見守る」という流れだが,ATBの場合は「キャラクターごとに用意されたゲージが時間の経過と共に溜まり,満タンになるとコマンド入力」となる。つまり,コマンド選択型バトルに,敵味方が入り乱れて戦況が変化していく面白さが加わるわけだ。
「LOST SPHEAR」のバトルのベースになっているのが,「クロノ・トリガー」(1995年)で採用された「ATB2.0」。ATBの進化版で,マップ上で敵と遭遇すると,画面が切り替わることなく,そのままバトルが始まるようになった。
ただ,「LOST SPHEAR」のバトルはATB2.0をベースとしつつも,キャラクターの移動が可能になっているという点で「クロノ・トリガー」とは大きく違う。これにより,戦術性が増しているのだ。
キャラクターの攻撃範囲は武器やスキルによってさまざまなので,うまく移動することが効率よい戦い方につながる。例えばシェラの「弓」による攻撃は,射線上に存在する敵全てを貫通するため,できるだけ多くの敵を打ち抜けるような位置に移動すればいい。また,カナタの「オーラ」は周囲にいる仲間のHPを回復するため,使用時はカナタの周りに仲間を集めればいい……といった具合だ。
見下ろし型のフィールドでキャラクターをボードゲームの駒のように操作し,その位置関係が戦いに影響を及ぼすというバトルシステムは「ウルティマIII」(1983年)や「ファンタジアン」(1985年)を思わせる。
しかし「LOST SPHEAR」のバトルは,移動できる距離や範囲に制限がないのが特徴的だ。敵味方が文字通りフィールド上に入り乱れるので,「まずは前衛で敵の攻撃を受け止め,後衛が魔法で攻撃」といったセオリーは通用せず,バトルは毎回異なった様相を見せる。
そして,このバトルシステムには,「キャラクターの特徴を際立たせる」という効果もあると感じた。格闘技で戦うルミナはゲージの増加スピードが速く,コマンドを入力する機会も多い。とにかくあちらこちらと動き回って戦う様子は,元気な女の子という人物像そのままの活躍だ。
ヴァンは貫通ビームを放つ「ビット」という武器を使っており,攻撃時は多くの敵を巻き込める位置を求めて思案することになる。思慮深さがバトルの中でも表現されているのだ。
物語が進むと,キャラクターたちは「機装」と呼ばれるロボットのような古代兵器を手に入れる。これに搭乗するとパラメータが強化されるうえ,特殊コマンド「パラダイムドライブ」で,仲間との連携攻撃やスキルの連続使用など,パワフルな攻撃が可能になる。
機装で一気に敵を蹴散らしていくのは爽快だが,攻撃にはEN(エネルギー)が必要。足りないと機装を降りて生身で戦うしかないため,使いどころが重要だ。また,ボス戦では機装自体が使えない場合もある。
ロボットで戦えるRPGといえば「ゼノギアス」(1998年)が思い出されるが,こちらでもギア(ロボット)が行動するたびに燃料が消費され,プレイヤーの頭を悩ませていた。ロボットがいつでも使えては生身で戦う意味がなくなるので,キャラクターの成長を主眼に据えるRPGとしては必要な制限といったところだろうか。
さて,前述したように,主人公であるカナタの目的は,世界各地で発生した「ロスト」の謎を探り,世界を再生することなのだが,ゲームスタート時点はワールドマップのあちこちがロストしていて,まるで虫食いのような状態になっている。
そしてロストしているエリアは通行できず,これによってプレイヤーの行動範囲が制限されているのだ。
このように,マップを通行不能の地形(関所や溶岩,険しい山など)で区切ることによって,ゲームの進行を管理する手法も,1980年代や1990年代のRPGの特徴だ。
2000年代に入るとオープンワールドのRPGが台頭しはじめ,やがては「最初からプレイヤーの好きなところへ行ける」という正反対の作りが主流になっていったので,若いプレイヤーが本作をプレイすると,新鮮に感じるかもしれない。
カナタたちは旅するなかで手に入れた「記憶」によって,ワールドマップに「アーティファクト」と呼ばれる建造物を作成することで,広範囲に発生しているロスト部分を再生し,世界を元通りにしていく。
その「記憶」を入手する手段の1つに,人々との会話がある。会話の中に重要なキーワードが現れたときに[□]を押し続けると「記憶化」できるのだ。会話から手に入る記憶は,ストーリー上重要なロスト部分の再生に必要になることが多い。
これはおそらく「FINAL FANTASY II」(1988年)で採用された「ワードメモリーシステム」へのオマージュではないだろうか。
前のプレイから少し時間が空いて,次にやることが分からなくなっても心配ない。「パーティートーク」コマンドを使えば,パーティの仲間同士が会話をしてヒントをくれるからだ。RPGの大作化に伴い,やるべきことを忘れてしまうという問題は1980年代から指摘されており,「エメラルドドラゴン」(1989年)では既にパーティートークとほぼ同様の機能を持つ「相談」コマンドが登場していた。
PlayStation向けのリメイク版「テイルズ オブ ファンタジア」(1998年)でも,キャラクターが雑談する「フェイスチャット」が登場。これは「スキット」と名を変え,人物像の深彫りやプレイヤーの気分転換に貢献するテイルズ オブシリーズの名物機能となっている。
ワールドマップでロストしているエリアを再生するために作成する「アーティファクト」には「状態異常の時間が長くなる」「回復効果が上昇する」など,バトルに影響を及ぼす効果もある。一部のアーティファクトは複数建てることで効果が重複する上,一度建てたアーティファクトを別のものに変えることもできる。
つまり,障害となる地形を越えることでバトルが有利になるうえ,カスタマイズの幅も増えていくいうわけで,面白いシステムだと感じた。
RPGというジャンルの性質上,詳しくは書けないのだが,もちろんストーリーにも1990年代RPGの雰囲気がある。
とくに,ジガン帝国の近衛騎士団長であるガルドラの苦悩には,「FINAL FANTASY IV」の主人公・セシルがオーバーラップした。また,当時のRPGを知らない人であっても,世界を救うために敢えて茨の道を行くカナタと,その魅力に惹かれて集まった人々の物語には,感情移入できるはずだ。
このように,1990年代テイストを持った要素が散りばめられている「LOST SPHEAR」は,プレイ感も当時を思い起こさせるものになっていた。普通にゲームを進めると,ボス戦が「数人の死者を出しつつギリギリで勝てるかどうか」という絶妙のバランスなので,勝てばディスプレイの前で快哉を叫び,負ければ装備の買い換えや,雑魚敵とのバトルを繰り返してのキャラクター強化にいそしむことになる。所持金や経験値を稼ぐのにうってつけのモンスター(しかも逃げ足が速い)もいて,この過程がまた懐かしいのだ。
斬新なシステムや驚くほど広大なフィールドといったものはないが,その分シンプルにうまくまとめられている本作。ロード時間にもストレスを感じることはなく,プレイしやすいタイトルだ。
筆者の場合,凝りに凝ったシステムや壮大なストーリーの大作と比べると,本作は勝手知ったる安心感があるというか,リラックスしてプレイできる。逆に1990年代のRPGを知らない若いプレイヤーにとっては,当時の雰囲気を手軽に感じられるタイトルになるだろう。
誤解を恐れずに言うと,本作は「ハードウェアを買ったら真っ先にプレイすべき」タイトルではないと思う。むしろそういった最新の大作をプレイした後に触れると,より魅力が高まるタイトルだ。そういう点で,“ネオ・トラディショナルRPG”としての目的は達成しているのではないだろうか。
「LOST SPHEAR」公式サイト
- 関連タイトル:
LOST SPHEAR
- 関連タイトル:
LOST SPHEAR
- 関連タイトル:
LOST SPHEAR
- この記事のURL:
キーワード
(C)SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Tokyo RPG Factory.
(C)SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by Tokyo RPG Factory.