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1990年代の雰囲気を漂わせる「LOST SPHEAR」をプレイしながら,古き良き名作RPGに思いを馳せてみた
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印刷2017/11/04 12:00

プレイレポート

1990年代の雰囲気を漂わせる「LOST SPHEAR」をプレイしながら,古き良き名作RPGに思いを馳せてみた

 スクウェア・エニックスから2017年10月12日に発売されたRPG「LOST SPHEAR」PS4 / Nintendo SwitchPC版は2018年発売予定)は“ネオ・トラディショナルRPG”を謳い,1990年代にリリースされたRPGの雰囲気を漂わせている。人気タイトルのルーツを振り返る連載「ゲームのご先祖様」を担当している筆者としては,少し懐かしい感覚でプレイできるタイトルだ。

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 開発を手がけるTokyo RPG Factoryは,「あの頃のRPGを取り戻す」というコンセプトの下に設立されたスタジオで,国産RPGの伝統的なスタイルと,現代のプレイ感を融合したタイトルを作り続けている。もちろん「LOST SPHEAR」もその流れを汲んでいるのだ。本稿では,そんな同作のプレイレポートを,ところどころで目にした古き良き名作RPGの面影とともにお届けしよう。

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 「月」が世界の全てを創ったという伝承が残る世界。主人公・カナタと仲間たちは,人や街,山などが消え去る「ロスト」現象の謎を追い,世界中を旅していく。敵を倒したり,人々の言葉に耳を傾けたりすることで集めた「記憶」でロストした人や物を再生し,世界を取り戻していくのだ。

持ち物から地形まで,大小にかかわらず,記憶の消失とともに白く消えてしまうのが「ロスト」現象。街ひとつ丸ごとロストしてしまうこともある(左)が,カナタが記憶を集めれば元通りにできる(右)
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 “ネオ・トラディショナルRPG”である本作のコンセプトを色濃く反映しているのが「ATB2.0」をベースとしたバトルシステムだろう。
 ATBは「Active Time Battle」の略で,「FINAL FANTASY IV」(1991年)で初登場したものだ。分かりやすく言えば「コマンド選択型バトルにリアルタイム性を融合させたもの」となるだろうか。

 コマンド選択型バトルは「ターンの開始時にパーティメンバーのコマンドをまとめて入力し,あとは結果を見守る」という流れだが,ATBの場合は「キャラクターごとに用意されたゲージが時間の経過と共に溜まり,満タンになるとコマンド入力」となる。つまり,コマンド選択型バトルに,敵味方が入り乱れて戦況が変化していく面白さが加わるわけだ。

「LOST SPHEAR」のバトルのベースになっているのが,「クロノ・トリガー」(1995年)で採用された「ATB2.0」。ATBの進化版で,マップ上で敵と遭遇すると,画面が切り替わることなく,そのままバトルが始まるようになった。

 ただ,「LOST SPHEAR」のバトルはATB2.0をベースとしつつも,キャラクターの移動が可能になっているという点で「クロノ・トリガー」とは大きく違う。これにより,戦術性が増しているのだ。

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 キャラクターの攻撃範囲は武器やスキルによってさまざまなので,うまく移動することが効率よい戦い方につながる。例えばシェラの「弓」による攻撃は,射線上に存在する敵全てを貫通するため,できるだけ多くの敵を打ち抜けるような位置に移動すればいい。また,カナタの「オーラ」は周囲にいる仲間のHPを回復するため,使用時はカナタの周りに仲間を集めればいい……といった具合だ。

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 見下ろし型のフィールドでキャラクターをボードゲームの駒のように操作し,その位置関係が戦いに影響を及ぼすというバトルシステムは「ウルティマIII」(1983年)や「ファンタジアン」(1985年)を思わせる。
 しかし「LOST SPHEAR」のバトルは,移動できる距離や範囲に制限がないのが特徴的だ。敵味方が文字通りフィールド上に入り乱れるので,「まずは前衛で敵の攻撃を受け止め,後衛が魔法で攻撃」といったセオリーは通用せず,バトルは毎回異なった様相を見せる。

このボスは,息を吸い込んでパーティメンバーを自分の正面に引き寄せ,強力な頭突きを見舞ってくる。引き寄せられたら頭突きが来る前に離れなければならない
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 そして,このバトルシステムには,「キャラクターの特徴を際立たせる」という効果もあると感じた。格闘技で戦うルミナはゲージの増加スピードが速く,コマンドを入力する機会も多い。とにかくあちらこちらと動き回って戦う様子は,元気な女の子という人物像そのままの活躍だ。
 ヴァンは貫通ビームを放つ「ビット」という武器を使っており,攻撃時は多くの敵を巻き込める位置を求めて思案することになる。思慮深さがバトルの中でも表現されているのだ。

 物語が進むと,キャラクターたちは「機装」と呼ばれるロボットのような古代兵器を手に入れる。これに搭乗するとパラメータが強化されるうえ,特殊コマンド「パラダイムドライブ」で,仲間との連携攻撃やスキルの連続使用など,パワフルな攻撃が可能になる。
 機装で一気に敵を蹴散らしていくのは爽快だが,攻撃にはEN(エネルギー)が必要。足りないと機装を降りて生身で戦うしかないため,使いどころが重要だ。また,ボス戦では機装自体が使えない場合もある。

「機装」は各キャラクター専用のものが用意されている
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機装のパワーは強大だが,画面右下に表示されているENの残量に気を配る必要がある
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 ロボットで戦えるRPGといえば「ゼノギアス」(1998年)が思い出されるが,こちらでもギア(ロボット)が行動するたびに燃料が消費され,プレイヤーの頭を悩ませていた。ロボットがいつでも使えては生身で戦う意味がなくなるので,キャラクターの成長を主眼に据えるRPGとしては必要な制限といったところだろうか。

 さて,前述したように,主人公であるカナタの目的は,世界各地で発生した「ロスト」の謎を探り,世界を再生することなのだが,ゲームスタート時点はワールドマップのあちこちがロストしていて,まるで虫食いのような状態になっている。
 そしてロストしているエリアは通行できず,これによってプレイヤーの行動範囲が制限されているのだ。

 このように,マップを通行不能の地形(関所や溶岩,険しい山など)で区切ることによって,ゲームの進行を管理する手法も,1980年代や1990年代のRPGの特徴だ。
 2000年代に入るとオープンワールドのRPGが台頭しはじめ,やがては「最初からプレイヤーの好きなところへ行ける」という正反対の作りが主流になっていったので,若いプレイヤーが本作をプレイすると,新鮮に感じるかもしれない。

 カナタたちは旅するなかで手に入れた「記憶」によって,ワールドマップに「アーティファクト」と呼ばれる建造物を作成することで,広範囲に発生しているロスト部分を再生し,世界を元通りにしていく。
 その「記憶」を入手する手段の1つに,人々との会話がある。会話の中に重要なキーワードが現れたときに[□]を押し続けると「記憶化」できるのだ。会話から手に入る記憶は,ストーリー上重要なロスト部分の再生に必要になることが多い。
 これはおそらく「FINAL FANTASY II」(1988年)で採用された「ワードメモリーシステム」へのオマージュではないだろうか。

会話の中に重要なキーワードが現れることがあり,[□]を押し続ければ「記憶化」することができる。手に入れた記憶はアーティファクトを建てる素材になる
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 前のプレイから少し時間が空いて,次にやることが分からなくなっても心配ない。「パーティートーク」コマンドを使えば,パーティの仲間同士が会話をしてヒントをくれるからだ。RPGの大作化に伴い,やるべきことを忘れてしまうという問題は1980年代から指摘されており,「エメラルドドラゴン」(1989年)では既にパーティートークとほぼ同様の機能を持つ「相談」コマンドが登場していた。
 PlayStation向けのリメイク版「テイルズ オブ ファンタジア」(1998年)でも,キャラクターが雑談する「フェイスチャット」が登場。これは「スキット」と名を変え,人物像の深彫りやプレイヤーの気分転換に貢献するテイルズ オブシリーズの名物機能となっている。

「パーティートーク」を使えば,パーティの仲間同士が会話をしてヒントをくれる
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 ワールドマップでロストしているエリアを再生するために作成する「アーティファクト」には「状態異常の時間が長くなる」「回復効果が上昇する」など,バトルに影響を及ぼす効果もある。一部のアーティファクトは複数建てることで効果が重複する上,一度建てたアーティファクトを別のものに変えることもできる。
 つまり,障害となる地形を越えることでバトルが有利になるうえ,カスタマイズの幅も増えていくいうわけで,面白いシステムだと感じた。

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「賢者の宮殿」は,スキルの回復効果をアップさせるアーティファクト。同じものを3か所に作れる(左)。また,アーティファクトによって機装のパラダイムドライブの封印が解除されることもある(右)
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 RPGというジャンルの性質上,詳しくは書けないのだが,もちろんストーリーにも1990年代RPGの雰囲気がある。
 とくに,ジガン帝国の近衛騎士団長であるガルドラの苦悩には,「FINAL FANTASY IV」の主人公・セシルがオーバーラップした。また,当時のRPGを知らない人であっても,世界を救うために敢えて茨の道を行くカナタと,その魅力に惹かれて集まった人々の物語には,感情移入できるはずだ。

 このように,1990年代テイストを持った要素が散りばめられている「LOST SPHEAR」は,プレイ感も当時を思い起こさせるものになっていた。普通にゲームを進めると,ボス戦が「数人の死者を出しつつギリギリで勝てるかどうか」という絶妙のバランスなので,勝てばディスプレイの前で快哉を叫び,負ければ装備の買い換えや,雑魚敵とのバトルを繰り返してのキャラクター強化にいそしむことになる。所持金や経験値を稼ぐのにうってつけのモンスター(しかも逃げ足が速い)もいて,この過程がまた懐かしいのだ。

物語が進むと船が手に入り,海上を進めるように。見下ろし型のワールドマップで船を動かす,というのも一定の年齢以上のプレイヤーには懐かしい感覚かも
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 斬新なシステムや驚くほど広大なフィールドといったものはないが,その分シンプルにうまくまとめられている本作。ロード時間にもストレスを感じることはなく,プレイしやすいタイトルだ。

 筆者の場合,凝りに凝ったシステムや壮大なストーリーの大作と比べると,本作は勝手知ったる安心感があるというか,リラックスしてプレイできる。逆に1990年代のRPGを知らない若いプレイヤーにとっては,当時の雰囲気を手軽に感じられるタイトルになるだろう。

 誤解を恐れずに言うと,本作は「ハードウェアを買ったら真っ先にプレイすべき」タイトルではないと思う。むしろそういった最新の大作をプレイした後に触れると,より魅力が高まるタイトルだ。そういう点で,“ネオ・トラディショナルRPG”としての目的は達成しているのではないだろうか。

剣と機械文明が共存するスチームパンク的世界観も,「FINAL FANTASY」をはじめとしたRPGの人気パターン
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ゲームの進行状況に応じてタイトル画面が変化していくのも印象的だ
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