レビュー
第8世代CoreのデスクトップPC向け6コアモデルはどれだけ速いのか
Core i7-8700K,Core i5-8400
Intelは最近,HEDT(High-End DeskTop)市場向けに最大18コア36スレッド対応のCore Xシリーズを発表しているが,あちらは最上位の「Core i9-7980XE」で1000個ロット時単価が1999ドルと,まったくもって一般ゲーマー向けではない。Coffee Lake-Sは,一般的なデスクトップPC向けのIntel製CPUで初めて6コア12スレッドに対応する点で,歴史的な製品となる。
残念ながら国内発売はまだ先で,流通筋の情報によれば11月下旬とのことだが,4Gamerではそれに先立ち,発表時点におけるシリーズ最上位モデルとなる6コア12スレッド対応製品「Core i7-8700K」(以下,i7-8700K)と,6コア6スレッド対応のミドルクラス市場向け製品「Core i5-8400」(以下,i5-8400)の,それぞれ性能評価用エンジニアリングサンプルを入手できたので,2回に分けて,その実力をチェックしてみたいと思う。
今回のテーマは,ゲームなどの常用環境における性能だ。
パッケージはLGA1151ながら後方互換性を持たないCoffee Lake-S
だが重要かつ残念な仕様として,Coffee Lake-Sは,既存のZ270やZ170マザーボードと組み合わせて利用することができない点は,押さえておく必要があるだろう。Coffee Lake-Sを使うには,IntelがCPUと同時に発表した「Intel Z370」(以下,Z370)チップセットを搭載するマザーボードが必須になるというのがIntelの立場だ。また,Z370チップセット搭載マザーボードにKaby Lake-SやSkylake-S世代のCPUを差すことはできるものの,やはり利用はできないという。
筆者が記憶する限り,IntelのデスクトップPC向け主力製品で,物理形状が同じにもかかわらず後方互換性を完全に排除した例は,今回が初めてだ。なので市場では相応に混乱を生む可能性がある。
「なぜ物理形状が同じなのに後方互換性がないのか?」という疑問はもっともだが,その点についてIntelからの明快な説明はない。巷ではいろいろ噂されているものの,いずれにせよ,非常に迷惑な仕様であることは間違いない。
さて,CPUのピン数が変わらないというところで想像できた読者もいると思うが,Coffee Lake-Sの基本仕様は,置き換え対象であるKaby Lake-Sとほぼ同じだ。CPU側に統合するPCI Express(以下,PCIe) Gen.3レーン数は16で,それとは別にチップセット接続用としてPCIe Gen.3 x4相当の「DMI」(Direct Media Interface)も持つという構成は,何も変わっていない。
オンダイで統合するグラフィックス機能(≒GPU)は,ブランド名が「Intel UHD Graphics 630」。「Core i7-7700K」(以下,i7-7700K)の「Intel HD Graphics 630」と比べるとブランド名の「HD」が「UHD」に変わり,GPUの動作クロックがi7-7700Kの最大1.15GHzからi7-8700Kで最大1.2GHzに上がっていたり,OpenGLのサポートが4.4から4.5に変わっていたりという微妙な違いはあるものの,演算ユニットの数が24基である点などをはじめ,仕様上の違いはほとんどないように見える。
オンダイで統合するグラフィックス機能(≒GPU)に至っては,ブランド名が「Intel UHD Graphics 630」で,「Core i7-7700K」(以下,i7-7700K)に代表されるKaby Lake-S世代の上位モデルと同じである。ただし,動作クロック等はi7-7700Kの最大1.15GHzに対してi7-8700Kでは最大1.2GHzに上がっていた。比較対象があるわけではないが,i5-8400だとクロックは最大1.05GHzだ。
また,共有L3キャッシュの容量がKaby Lake-S比で増えているのもポイントだ。Intelはコア数を増やすとき,同時に足回りの性能を補うべくL3キャッシュの容量も増やすのだが,今回,6コア12スレッド対応のi7-8700Kは12MB,6コア6スレッド対応のi5-8400は9MBで,置き換え対象となるKaby Lake-S世代のCPUと比べていずれも1.5倍――CPUコア数と同じ比率――の容量となった。
また,Coffee Lake-Sがオンダイで統合するメモリコントローラがデュアルチャネルDDR4-2667となった点も押さえておきたい。Kaby Lake-SはDDR4-2400まで対応だったので,対応できるメモリクロックが引き上げられたわけだ。
なお,Kaby Lake-SではDDR4-2400とともにLPDDR3-2133にも対応していたが,Coffee Lake-SでDDR3Lメモリの対応は落ちている。DDR4が十分に普及したことを受けて,DDR3系のサポートを打ち切ったようだ。
微妙な違いとして,SSDをHDDのキャッシュとして設定するSmart Response Technologyがなくなり,代わりにOptane Memoryのサポートが入っているので,その点は「新しくなっている」と言えるものの,基本的にはほとんど同じという理解でいいのではなかろうか。
というわけで,Coffee Lake-Sへのアップグレードを考えるPCゲーマーが押さえておくべき点をまとめるなら,「CPUと同時にマザーボードの交換が必要になる」ことに尽きるだろう。
同じCPUパッケージなのにマザーボードの交換が必要というのは釈然としないが,ともあれここは導入にあたってのハードルになるはずだ。
5製品でその性能を比較
Coffee Lake-Sに関しては,CPUコアの数が増えたことと後方互換性のなさくらいしか語るべき内容もなかったりするので,テストのセットアップに入ろう。
今回,i7-8700K&i5-8400の比較対象として用意したのは,Kaby Lake-S世代の最上位モデルとなる7700Kと,市場においてi7-8700Kのライバルとなるであろう8コア16スレッド対応CPU「Ryzen 7 1800X」,そしてi7-8700Kおよびi5-8400とCPUコア数が同じ6コア12スレッド対応CPU「Ryzen 5 1600X」の3製品だ。
以上5製品の主なスペックは表1のとおりとなる。
Coffee Lake-SはDDR4
また,表には入れていないが,CPUクーラーはサイズ製のサイドフロー型である「MUGEN 5 Rev.B」を共通して用いているので,この点もあらかじめお知らせしておきたい。
さて,冒頭でもお伝えしたとおり,レビューは前後編の2回に分けてお伝えしたいと思うが,前編となる今回は,ゲーマーが常用するPCとして,CoffeeLake-Sがどの程度の性能を持つかを検証しようと思う。そのため常用状態を想定し,Intel製CPUでは「Enhanced Intel SpeedStep Technology」(以下,EIST)および「Intel Turbo Boost Technology 2.0」,AMD製CPUでは自動クロックアップ機能にあたる「Precision Boost」および「XFR」をいずれも有効化する。
また,Windowsの電力設定は「高パフォーマンス」で統一。AMDは独自の電源設定である「Ryzen Balanced」を推奨しているが,Intel製CPUと条件を揃えるため,今回はRyzen Balancedと同様に最大性能を期待できる高パフォーマンスを選択した次第だ。
テストに用いるアプリケーションは,大きく分けてゲーム系と一般アプリケーションの2種類である。
ゲーム系では,4Gamerのベンチマークレギュレーション20.1から「3DMark」(Version 2.3.3732)と「Prey」,「Overwatch」,「PLAYER
さらにゲーム系ではもう1つ,Overwatchと「Open Broadcaster Software」(Version 20.0.1,以下 OBS)を用いたゲーム録画のテストも行う。
一方の一般アプリケーションでは,Futuremark製の総合ベンチマーク「PCMark 10」(Version 1.0.1275)と,CPUベースで3Dのレンダリングを実行する「CINEBENCH R15」(Release 15.038),ファイルの圧縮解凍を行う「7-Zip」(Version 16.04),フォトレタッチソフト「DxO OpticsPro 11」(Build 12373),動画変換を実行するトランスコードソフト「ffmpeg」(Nightly Build Version N-86691-gc885356)でテストを行うことにした。各テストの方法はそれぞれ考察の直前に紹介したい。
ライバルと拮抗したゲーム性能を持つCoffee Lake-S
以下,Ryzenの2製品は,グラフ中に限り「R7 1800X」「R5 1600X」と表記することをお断りしつつ,3DMarkの「Fire Strike」の「Ultra」,「Extreme」,そして“無印”からテスト結果を見ていこう。
グラフ1は総合スコアをまとめたものだが,GPU性能がスコアに占める割合の大きいFire Strike UltraとFire Strike Extremeでは,i5-8400のスコアが気持ち低めなのを除くとほぼ横並び。一方,CPU性能がスコアを左右しやすくなる無印だと,i7-8700Kが頭ひとつ抜け出している。i5-8400もi7-7700Kに迫るスコアを示し,Ryzenの2製品を引き離している。
続いてグラフ2は,総合スコアから,「Bullet Physics」を用いたCPUベンチマーク「Physics test」の結果である「Physics score」を抜き出したものだが,ここで注目できるのはi7-8700KとRyzen 7 1800Xのスコアが拮抗しているところだろう。6コア12スレッド対応のi7-8700Kが,マルチスレッド対応のベンチマークであるPhysics testで8コア16スレッド対応のRyzen 7 1800Xに肩を並べることができるのは,Ryzen系に比べてCore系のIPC(Instructions Per Clock,クロックあたりの命令実行数)が高いことと,定格動作クロックが高いことが理由と見ていい。
Ryzen 7 1800Xが「負けていない」のもなかなか興味深いが,ではなぜ総合スコアが今ひとつなのかと言えば,GPU性能ベンチマークが振るわないからである。Ryzen系でグラフィックス性能が振るわない理由は断言できないものの,Coreプロセッサと比べてRyzenでメインメモリへのアクセス遅延が大きい点はAMDも認めているので(関連記事),そのあたりが原因となっている可能性はありそうだ。
一方のi5-8400は,今回テストした5製品中最低スコアとなった。6コアCPUのライバルに対しては72〜73%程度,4コアCPUであるi7-7700Kに対しても約87%という結果で,「Intel Hyper-Threading Technology」(以下,HTT)の非サポートという足枷(あしかせ)は,マルチスレッド処理に最適化されたアプリケーションを前にすると重いことが分かる。
同じく3DMarkから,DirectX 12テストである「Time Spy」の総合スコアと,そこからCPUベンチマークテストの結果を抜き出した「CPU score」をまとめたものがグラフ3だ。
ここではi7-8700KとRyzen 7 1800Xが拮抗。一方でi5-8400のスコアはi7-7700Kと同等レベルになった。
続いては実際のゲームタイトルから,実プレイを伴うPreyのテストである。ここではレギュレーション20.1に準拠する「最高」プリセットと,それよりも負荷の低い「中」プリセットを選択しているが,最高プリセット選択時におけるスコアをグラフ4,5にまとめてみると,平均フレームレートはほぼ横並び。最小フレームレートはRyzen 5 1600Xで一段落ちる傾向にあることが分かる。
プリセットを「中」に下げて描画負荷を大きく落としたときのスコアであるグラフ6,7だと,i7-8700Kのスコアは2560
一方,Ryzen 5 1600Xだと解像度を問わず最小フレームレートが一段低いので,こちらはブレではないはずだ。総じて,Ryzen 5 1600Xを除く4製品で,スコアに大きな違いはないとするのが正しい評価であろう。
グラフ8,9はOverwatchを「ウルトラ」プリセットで実行したときの結果だ。
平均フレームレートはPreyと同様,ほぼ横並び。最小フレームレートは,2560
CPUの特性を示すような結果は出ていない,と言い切ってしまっていい。
同じくOverwatchから,グラフィックス設定のプリセットを「NORMAL」へ落としたときの結果がグラフ10,11となるが,グラフィックス描画負荷を落としても平均フレームレートはほぼ横並び。強いて言えばi7-8700Kのスコアが気持ち高めだが,これが「i7-8700Kの特性によるもの」か,ブレによるものなのかは判然としない。
続いてPUBGである。グラフ12,13は描画負荷の高い「高」プリセットにおける結果だが,ここで断言できるのは,i7-8700Kとi5-8400における最小フレームレートの落ち込みが比較対象と比べて有意に大きいことである。いずれの解像度条件でも相応に落ちているため,偶然とは考えにくい。
PUBGでプリセットを「低」に下げたときの結果がグラフ14,15で,こちらでもi7-8700Kとi5-8400は最小フレームレートが大きく落ち込んでいる。
ではなぜ落ち込んでいるのか。残念ながら断言まではできないのだが,最も可能性が高いのは「PUBG側の問題」だ。Coffee Lake-Sはまだ店頭に並んでもいないCPUなので,ゲームのコード側で何か問題が生じていても不思議ではなく,そうであれば,いずれ解決する問題ということになるはずである。
レギュレーション20世代で取り上げているタイトルの中でも描画負荷が高めなWildlandsから,レギュレーション20.1に準拠する「ウルトラ」プリセットのテスト結果がグラフ16,17だ。GPU性能が前面に出てくる2560
面白いのは,そのテスト傾向が,描画負荷を下げた「中」プリセットでも出ていることである(グラフ18,19)。WildlandsではAMD製CPUよりもIntel製CPUは有利なのだが,それとは別に,Intel製CPUだと9スレッド以上に対応すると若干不利になるようだ。
Intelの「4コア8スレッド対応CPU時代」は長らく続いたため,ゲーム側もそれを前提に最適化してあるケースがあり,その場合,i7-8700Kが若干ながら不利になっても不思議ではない。Wildlandsはその分かりやすい例ということではなかろうか。
Wildlandsと似たような傾向を示す例として挙げられるのが,グラフ20に総合スコアをまとめたFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチである。
ここでは最も描画負荷の高い「最高品質」の解像度2560
一方でWildlandsと異なるのは,i5-8400のスコアが落ち込んでいる点だ。FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチの場合,8スレッドを実行できるのが「ちょうどいい」塩梅で,6スレッドだと足りないということなのだろうか。いずれにしても,Coffee Lakeより古い世代のIntel製CPUへFFXIVが最適化されているとはっきり分かる結果である。
グラフ21〜24は4つのテスト設定における平均および最小フレームレートをまとめたものだが,総じて総合スコアと同じ傾向が出ている。
WildlandsやFFXIV紅蓮のリベレーターのように,現行世代のIntel製CPUへ最適化されたタイトルはおそらく少なくない。そういうタイトルが,とくにオンラインゲームだったりする場合,Coffee Lake世代の登場後は,それこそ6コア12スレッドなど,より多コア多スレッドのCPUで効率よく動作するよう改善する必要が出てくるということなのだろう。
ゲーム系テストの最後は,OBSを用いたゲーム録画ファイルのチェックである。
今回は,Ryzen Threadripperのレビュー時と同じOBS側の設定を用いることにした。というのも,1920
結果として,すべてのCPUでフレーム落ちが見られる結果となってしまった。それをまとめたのが下のムービーだが,再生してもらうと「i7-8700KよりもRyzen 7 1800Xのほうが動画はスムーズ」ということは分かる。i5-8400とRyzen 5 1600Xとの比較でも後者に軍配が上がるので,「録画処理ではやはり対応できるスレッド数が快適さに直結している」という理解でいいようだ。
以上,Coffee Lake-Sは,純然たるゲームプレイでは従来同様,競合に対して優勢だが,4コア8スレッドへ最適化“されすぎている”タイトルを前にすると,6コア12スレッド対応のi7-8700Kはスコア面で不利になる傾向がある。また,ゲームの録画系では8コア16スレッド対応のRyzen 7が依然として優勢といったあたりがここまでのまとめになるだろう。
一般アプリケーションでもライバルと拮抗したスコアを示すCoffee Lake-S
予告どおり,ここから先は一般アプリケーションを用いたテストになるが,まずはPCMark 10から見ていきたい。
今回はCPUのテストなので,「PCMark 10 Extended」を選択し,「Custom」タブからOpenCLアクセラレーションを無効化したうえで実行している。そのため,総合スコアは得られない点に注意してほしい。
というわけで,テスト結果はグラフ25のとおりである。Webブラウジングなどを含む日常作業の快適さを見る「Essentials」と,コンテンツ制作アプリケーションにおける性能を見る「Digital Content Creation」,そして3DMarkのFire Strikeをウインドウモードで実行する「Gaming」でi7-8700Kがトップを取った。
ビジネス系アプリケーションを前にしたときの性能をチェックする「Productivity」だとi7-7700Kがトップだが,i7-8700Kとのスコア差はわずかなので,ほぼ互角と見ていい。i7-8700Kは,日常作業やビジネスアプリケーションにおいて,i7-7700Kと同じか,若干高い性能が得られるというわけだ。
一方のi5-8400はいずれのテスト項目でもi7-7700Kに届かなかった。定格動作クロックの低さと,実行できるスレッド数が6に止まるのがその原因だと思われる。
グラフ25では,CPUコア数がスコアを左右しやすいDigital Content CreationでRyzen 7 1800Xが2番手のスコアを示したのも目を惹くところだが,i7-8700KはそんなRyzen 7 1800Xに対して約9%高いスコアを示している。
i7-8700KがRyzen 7 1800Xを上回った理由を探るため,Digital Content Creationを構成するテストから,とくにコア数が“効く”レイトレーシングソフトウェアである「POV-Ray」を含む個別スコア「Rendering and Visualizations score」を抜き出してみた。それがグラフ26だが,ここでi7-8700KはRyzen 7 1800Xに対して約16%高いスコアを示している。ここまで差が付くと,総合スコアで1割近い違いが出るのも納得といったところだ。
POV-Rayと同様にCPUで3Dレンダリングを行う,マルチスレッド性能検証の定番,CINEBENCH R15の結果がグラフ27だ。ここではすべてのCPUコアとスレッドを使い切る「CPU」(以下,総合スコア)と,1コア1スレッドの性能を見る「CPU(Single Core)」のスコアを掲載しているが,ここでトップに立ったのはRyzen 7 1800Xだった。
総合スコアでi7-8700KはRyzen 7 1800X比で約94%。「やはり勝てなかった」と見るべきか,「6コア12スレッド対応のCPUとしては大いに健闘している」と見るべきかは判断が分かれそうである。
一方,i5-8400の総合スコアは今回用意した5製品中最下位で,i7-7700Kにも届かなかった。
ちなみに,i5-8400の総合スコアとCPU(Single Core)のスコア比を見ると約5.58倍。シングルスレッド性能を単純に6倍した性能には届いていないが,HTTが有効なi7-8700Kは7.04倍,同じくSMT(Simultaneous Multi-Threading)が有効なRyzen 7 1800Xは10.07倍,Ryzen 5 1600Xは7.77倍だ。マルチコア構成において,HTTやSMTの利用がCPUの効率をいかに高めるかがよく分かる結果とも言えるだろう。
続いては,ファイルの圧縮および解凍ツール「7-Zip」を用いての性能チェックだ。テストにあたっては,7-Zipの「7-Zip File Manager」から「ツール」→「ベンチマーク」を開き,いったん[停止]ボタンを押したうえで,「辞書サイズ」を「64MB」に設定。その後,[再開]ボタンをクリックして圧縮&解凍の総合スコアを示す「総合評価」が算出されるまで待つ。
7-Zipのベンチマークは手動で停止しない限りテストを繰り返す仕様で,圧縮,展開の個別評価欄の数字はテストするたびに更新されていく。なので,個別評価欄に大きなゆらぎがないことをテスト回数5回になるまで確認したうえで,その時点における総合評価をスコアとして採用することにした。
総合評価の単位は,1秒間に何回の命令を実行できたかを示すMIPS(Mega Instruction per Second)だ。結果はグラフ28で,ここではi7-8700Kがトップで,2位はRyzen 7 1800Xとなった。7-Zipのベンチマークは整数演算が主体のテストなので,8コアのRyzen 7 1800Xに対してi7-8700Kが互角以上に立ち回っているところからは,コアあたりの整数演算性能の高さが感じ取れる。
一方のi5-8400はプラットフォーム中最下位。i7-7700Kにも届かないのは残念と言わざるを得ない。
続いてDxO OpticsPro 11のテストでは,クリエイター系アプリケーションとしては避けて通れず,また,ゲーマーにとっても,イベントでのコスプレ撮影やフィギュア撮影などを楽しんでいるなら重要なポイントとなる「デジタルカメラによる撮影データのRAW現像性能」を見ることになる。
テストには,Ryzen Threadripperのレビュー時に作成した,「処理負荷の高い『ノイズ除去』→『PRIME』を含むベンチマーク用プリセット」を利用。ニコン製デジタルカメラ「D810」を用いて撮影した,解像度7360
結果はグラフ29のとおりだ。
グラフの横軸は300秒(=5分)刻みにしてあるが,ご覧のとおり,ここでトップに立ったのはRyzen 7 1800Xである。もっとも,次点であるi7-8700Kはわずかに15秒遅れているのみであり,かなり肉薄していると言っていい。
一方のi5-8400は,i7-7700Kよりわずかに速いという結果だ。6コア6スレッドのi5-8400がi7-7700Kを上回れた理由は何とも言えないが,DxO OpticsPro 11の処理がHTTと相性が良くないことは考えられる。ただ,競合のRyzen 5 1600Xにはまったく歯が立たないところを見ると,AMDのSMTとの相性は悪くないようで,CPUアーキテクチャの違いが出ているのかもしれない。
一般アプリケーションを用いた性能検証の最後は,ffmpegを使った動画のトランスコードである。ここでは,FFXIV紅蓮のリベレーターで実際にゲームをプレイした,計7分25秒,ビットレート437MbpsのMotion JPEG形式,解像度1920
実のところこのソースファイルはRyzen Threadripperのレビュー時に用意したものと同じだが,今回は,「libx264」を用いたH.264/AVC形式のトランスコードに加えて,「libx265」を用いたH.265/HEVC形式へのトランスコードもテスト項目に追加している。
参考までにテストに使用したバッチファイルを下のとおり掲載しておきたい。バッチファイルを実行すると,処理後,その所要時間をテキストファイルに書き出される仕掛けだ。
del avc.mp4
del hevc.mp4
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx264 -b:v 8000k -preset slow -tune animation -crf 18 -threads 0 avc.mp4} >MPEG4_score.txt
powershell -c measure-command {.\ffmpeg -i Diademe.avi -c:v libx265 -b:v 8000k -preset slow -crf 20 hevc.mp4} >HEVC_score.txt
※2017年10月6日15:50頃追記
ffmpegのオプションについて「-crf(Constant Rate Factor:量子化スケール)指定と-v:b(動画ビットレート)の指定は両立しない」という指摘を読者からいただいた。筆者は-crfを指定した場合でも,ビットレートも調整してくれていると長らく思いこんでいたが,実際にエンコードされたファイルをチェックしたところ,たしかにビットレートの指定は無視されているようだ。というわけなので,本稿のffmpegのオプションで指定している「-v:b」の指定は無意味であり,トランスコードは画質の指定優先で実行されている,ということを付け加えておきたい。なお,すべてのプラットフォームで同じバッチファイルを使っており,筆者の思い込みは相対的なスコアの上下関係に影響しないので,その点はご安心を。
結果はグラフ30にまとめたが,ここでトップに立ったのはまたしてもRyzen 7 1800Xだった。i7-8700Kは次点で,1800Xとのスコア差はここでも15秒である。i5-8400は5プラットフォーム中最下位で,やや厳しい結果というのも変わらない。
興味深いのは,H.265/HEVCだとトップが入れ替わり,i7-8700Kが先頭に立ってRyzen 7 1800Xに対して4分ものスコア差を付け,i5-8400もRyzen 5 1600Xを逆転しているところだ。Ryzenが苦手としているAVX-2やFMA命令セットをlibx265が多用しているので,おそらくはその影響が出たのだと考えられる。
以上,一般アプリケーションの性能を見てきたが,i7-8700KはライバルのRyzen 7 1800Xに対して勝ったり負けたりといったところで,総合的には拮抗した実力を持つCPUと評価していいように思われる。アプリケーション次第では8コアCPUより高い性能を見せる場合もある,くらいに考えておくのがよさそうだ。
一方のi5-8400はH.265/HEVC(libx265)という条件のffmpegを除けばi7-7700Kにも届かない。このクラスのCPUコア数になると,マルチスレッド処理においてHTTは重要ということになるだろう。
i7-8700Kの消費電力はやや高め。i5-8400の電力性能比はi7-7700Kに及ばず
前編最後にCPUの消費電力と発熱を見ておこう。
ベンチマークレギュレーション20.1で規定しているとおり,CPUレビューにおいては,アプリケーション実行中にEPS12Vの電流を測り,12を掛けて電力換算することにしている。ただ,過去のテストから,この方法だとピークの異常値を拾いやすいことも分かっているため,今回はピーク値だけでなく,テスト結果の「中央値」も併載することにした。中央値というのは,データの中の真ん中の値を抜き出した値のことだ。
ただし,集計にMicrosoft Excelの関数「median()」を使っている都合で,現状のデータ件数には制限があり,5分を超えるテストでは600件までのデータ抽出としている。
さて,まずはピーク電力を見てみよう。システムをアイドル状態で30分放置した時点の電力値を「アイドル時」として,アプリケーション実行時の最大値ともどもまとめたものがグラフ31だ。
i7-8700Kで最大値を記録したのはPCMark 10で,135.5Wとなった。この値はRyzen 7 1800Xなど比較対象を含め,今回のテスト中の最大だ。ただ,それ以外のテストだとi7-8700KはRyzen 7 1800X以下のピーク値に収まっており,全体で見るとRyzen 7 1800Xより扱いやすそうな印象は受ける。
一方,i5-8400のピーク値はi7-7700Kに対して大きかったり小さかったりで,総合的には同程度と言っていいかと思う。多くのテストでi7-7700Kに及ばないスコアを出していたことを考えると,i5-8400の電力性能比はさほど高くないという見方もできそうだ。
i7-8700Kとi5-8400で感心したのはアイドル時の消費電力で,両CPUはアイドルに入ると速やかに10W以下の消費電力に落ちる。アイドル時の電力制御周りはKaby Lake-Sと比べてさらに優秀になったと言っていいのではなかろうか。
次にアプリケーション実行時の中央値を求めたものがグラフ32である。
i7-8700Kが最も高い消費電力ピーク値を示したPCMark 10では,中央値も高めだ。ただ,PCMark 10は1つのワークロードが5分以内で終わり,すぐに負荷も低下するタイプのテストなので中央値自体はかなり小さい。
i7-8700Kの中央値が大きかったのはゲーム録画時で,113W。一方,連続した負荷が続くDxO OpticsPro 11やffmpegではRyzen 7 1800Xのほうが大きい……というわけで,中央値を見てもi7-8700KはおおよそRyzen 7 1800X並か,やや低い程度の程度の消費電力と見ていいのではなかろうか。
一方のi5-8400は,ここでもi7-7700Kに対して勝ったり負けたり。ただ,Ryzen 5 1600Xよりは消費電力が低いようだ。
最後に,ffmpeg実行時のCPU温度の推移を見ておこう。
テストのセットアップ時にお伝えしているとおり,今回はCPUクーラーをMUGEN 5 Rev.Bで揃えている。また,同クーラーのファンを+12V直結とし,ファンの温度制御を行わない状態にしている。なので全プラットフォームで冷却システムの熱抵抗をほぼ一定にできているはずだ(※熱抵抗はグリスの塗り方1つで簡単に変わってしまうため,完全に一定とすることは不可能だが)。
今回は,トランスコードテスト時にシステム情報収集ツールである「HWiNFO64」(Version 5.58)を常駐させておき,ログに記録されたCPUのサーマルセンサーの値をグラフ化することにした。トランスコードはH.264/AVCとH.265/HEVCを連続して行っているので,どのCPUでもおおよそ50分前後はCPUがフル稼働する形になる。
注意してほしいのは,「CPUのサーマルセンサーが拾ってくる値の性質はIntel製CPUをAMD製CPUとで異なる」ということだ。今回はRyzenの結果も参考として併載しておくが,絶対値を比較することに意味はないので,そこは押さえておいてほしい。
さて,結果はグラフ33のとおりとなる。i7-8700Kはおおむね70℃前後で推移し,グラフが右肩上がりになることもないので,冷却システムが発熱を十分に処理できているわけだ。ただ,サーマルセンサーの値はi7-7700Kより10℃程度高めで,CPUコア数が増えただけ発熱が増えていることも窺える。
一方のi5-8400Kは,i7-7700Kに比べて1〜2℃程度低い温度で推移していた。i7-7700Kとおおむね同程度という消費電力からすると,まずまず妥当な結果ではなかろうか。
テストしていて少し面白かったのは,すべてのCPUで途中から温度が少し跳ね上がる様子を観測できた点だ。ここでH.265/HEVCのトランスコードがスタートしているので,H.264/AVCへのトランスコードより,H.265/HEVCのトランスコードのほうがCPU負荷は高いようである。
いろいろな意味でもモヤモヤするCoffee Lake-S
i7-7700Kは,単純なゲーム性能で圧倒的な性能を示す一方,マルチスレッド処理を前にするとRyzen 7 1800Xに対しては分が悪い。その点において,シングルスレッド性能は文句なしに速く,かつマルチスレッド性能でも競合と十分に戦えるi7-8700Kが(近い将来)発売になるというのは,Intel,そしてIntel派のPCゲーマーにとって,相応に大きなニュースということになるはずだ。
付け加えるなら,Kaby Lake-SとZ270のプラットフォームが立ち上がってから,まだ1年も経っていない。その状況で同プラットフォームが見捨てられ,ユーザーが救われないというのも,個人的にはたいへんもやもやするところだ。Ryzenに対抗するのはもちろん大切なことだが,それ以上に大切なこともあったのではないだろうか。
……と,いろいろミソが付く新製品ではあるが,HEDTではないデスクトップPCの世界で,AMD,そして今回Intelが6コア以上のCPUを市場投入してきたことは,PCの世界,そしてPCゲームの世界を大きく変えるきっかけになる可能性が高い。おそらくゲームデベロッパもこれを機に「4コア8スレッド」の呪縛から解き放たれ,6コアや8コアといったマルチコアCPUへの最適化を始めることになるだろう。
やはり,PC用CPUの世界は,IntelとAMDの「両輪」が回ってこそ,進歩を生むということなのだと思われる。
前編はここまで。
後編では,Coffee Lake-SというCPUの基本特性に迫ってみたいと思う。
Intel,最大で6コア12スレッド対応を実現するデスクトップPC向け第8世代Coreプロセッサ発表
Intel日本語公式Webサイト
■ROG STRIX Z370-F GAMING
本稿でCoffee Lake-Sのテストに用いたZ370マザーボード,ROG STRIX Z370-F GAMINGについて,少し詳しく紹介しておこう。
ROG STRIX Z370-F GAMING
ASUSのゲーマー向け製品ブランド「Republic of Gamers」(R.O.G.)にあって事実上のエントリー〜ミドルクラス市場向けモデルとなる「ROG STRIX」を製品名に戴くROG STRIX Z370-F GAMINGは,第7世代Coreプロセッサ向けの「ROG STRIX Z270-F GAMING」の後継となるミドルクラス市場向けマザーボードだ。
本体背面側
冷却システムはなかあかに充実しており,電源部には容積の大きなアルミ製のヒートシンクを搭載。さらに,40mmまたは50mm角のファンを使い,電源部のヒートシンクに対してアクティブクーリングを行えるようにするための金属製アダプターも付属している。
電源部のヒートシンクを冷却するためのファンを取り付けられる,共締め型アダプターが付属。ファンは別売りだ
また,PCH側には,その近くにあるM.2スロットへ装着したSSDの熱を処理するための冷却機構「M.2 Heatsink」を装備しているのも特徴だ。ちなみにM.2スロットはCPUに最も近いPCI Express x16スロットの近くにも用意されている。
発熱が大きいNVM Express接続型M.2 SSDの熱を受けるM.2 Heatsinkを採用している こちらはPCI Expressスロット構成を確認したカット。写真右上のところにM.2スロットも見える
オーバークロック機能はSTRIXシリーズらしく充実しており,柔軟なベースクロック(BCLK)設定が行えるASUS独自の単体クロックジェネレータ「PRO CLOCK II」を採用する。また,オーバークロックを含めた性能のチューニングを自動的に行う「Turbo V Processing Unit」(以下,TPU)を搭載するというのも見どころで,10+1フェーズという,一見過剰なほどの電源部を活かし,性能の引き上げを手軽に行えるというのが製品コンセプトになっているようだ。
もろもろ基板上のコンポーネントを取り外したところ
電源部は10+1フェーズ構成(左)。右はTPUに寄ったところだ。事故責任を覚悟すれば,専用ソフトウェア「ASUS Ai Suite 3」から,手軽にオーバークロック設定を利用できるようになる
オンボードのLANコントローラは1000BASE-T対応でIntel製の「I219-V」。ASUS製マザーボードの中上位モデルでお馴染みのものだ。通信の安定性を担保するという静電フィルタ「LANGuard」も組み合わせてある。
オンボードのサウンド周りは,ライン出力時120dB,入力時113dBというS/N比が謳われる,「ROG SupremeFX」ブランドの付いたRealtek Semiconductor製HD Audio CODEC「ALC S1220A」を採用している。
I/Oインタフェース部。上位モデルにあるような無線LAN機能などはないが,USB 3.1 Gen.2に対応するType-CポートとType-Aポート各1基など,USBサポートは充実している サウンドCODECには「ROG SupremeFX」ブランドの「ALC S1220A」を採用。OPAMP(オペアンプ)やコンデンサなどもいわゆるオーディオグレードだという
→ASUSのROG STRIX Z370-F GAMING製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
第8世代Core(Coffee Lake,Kaby Lake)
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