連載
「異世界Role-Players」第6回:獣人〜毛並みの良さは伊達じゃない!
ある日のダンジョンの奥底で
語り部:今日も今日とて,きみ達はダンジョンにもぐっているわけだが
魔術師:依頼によれば,この洞窟には人型のモンスターがあらわれるそうだ
戦士:今さらゴブリンでもないだろう。いったい何がいるんだ?
魔術師:遺体には犬っぽい噛み跡が残っていたそうだ。ゴブリンが狼を飼うこともあると聞くぞ
語り部:などと話しながら進んでいると,君達の声を聞きつけたのか,行く手に人影があらわれたね。背丈は子供くらいだが,頭がこういう(手を影絵の犬の形にする)
戦士:なんだ,コボルドじゃねーか
魔術師:ちょうどいい情報源だ。手加減して,生かして捕まえてから尋問しよう
戦士:まかせとけって。近づいて,剣の峰で殴るぞ
語り部:瞬時にその姿は消えて……ふむ,惜しいところで喉笛は噛み裂きそこねた。きみの肩から血が噴きあがる
戦士:げえ? なんだ? 強いぞ,こいつ
激闘の末,どうにか敵を仕留めた。
魔術師:いったいなんだったんだ? 死骸から正体を鑑定できるかね?
語り部:ああ,分かるとも。ワーウルフだよ。狼に変身する,呪われた存在だ
戦士:高レベルのモンスターじゃねえか。道理で……。ちょっと待てよ。背丈がこ,子供って……
語り部:人間のワーウルフとは言ってない。ホビットのワーウルフだ
戦士:なるほど,素早さの二乗……
魔術師:そんなことよりっ! お前,噛まれたよな? 人狼に噛まれたら……(汗)
人間とそれ以外の動物が融合した異人種というのは数限りないパターンがありますが,今回はモフモフとした毛皮を備えた,哺乳類系動物と融合した獣人にスポットを当てていきたいと思います。
一口に獣人と言っても割とバラエティに富んでいまして,大きく分けて3つのパターンがあります。
まず一つめは,人間の姿と動物の姿を行ったり来たりするタイプ。自由意志では変身できない,という事も多いですね。代表的なのは人狼=ワーウルフです。ゲームの世界には,人虎(ワータイガー)や人鼠(ワーラット)なんかもいますな。人間が動物に〜ではなく,動物が人の姿になるのもいますけど,こちらは「獣人」と呼んでいいか微妙なところかもしれません。
二つめは,体の何割かが人間で,残りが別の動物,というタイプ。これ系でぱっと出てくるのはケンタウロスでしょうね。馬の首の部分に,人間の腰から上が生えている種族です。頭部が牛のミノタウロスも有名です。
最後の三つめが,人間と動物の特徴が融合しているタイプ。猫耳で尻尾があって,ヒゲなんかも生えているけれど,全体のシルエットは人間というような。昨今では,説明なく獣人というと,このタイプがイメージされるのではないでしょうか。ただルーツを探ると,これもけっこう古いように思います。
こうした獣人種族において「共通する」といえる特徴は多くありません。一つめは「共通する」点と言えるのか,やや疑問ですが……。
- 自分達の半身である動物に近いふるまいをする。
あ,最後のはちょっと違いました。違うはずなんですが,「ウォーハンマー」のスケイブン族やら海外作品に登場するものを含めて,ネズミの獣人族は雑魚系の不遇な扱いが多いようです。「ガンバの冒険」のガンバみたいなネズミの獣人も,もっと多くていいじゃないかと思うのですが。この「ガンバの冒険」,獣人ではなくネズミそのものを主役にした傑作動物ファンタジーでして,冒険児童小説の必読書でもあります。アニメ版も素晴らしいですが,まずは原作の「冒険者たち―ガンバと15ひきの仲間」を……っと,これは脱線。いつもの悪い癖ですね。
あともう一つ。割と多くの獣人族に共通しているのは,
- 技術文明の発達は遅れているが,精神的な文化や芸術などは独自の発展を遂げている。
という点でしょうか。独自の哲学や倫理感を持っており,物語の中で主流となっている文明や文化のアンチテーゼとして登場することも多い気がします。
汝は人狼なりや? いいえ,狐です
ということで,まずは一つめの“行ったり来たりするタイプ”です。
動物に変身する人間という伝承は,とても古くからあります。古代ローマの詩人・オウィディウスが「変身物語」としてギリシャ・ローマの伝承をまとめていますが,この成立はキリストが生まれた頃でありました。
当時の変身は,神々の力として描かれることが多かったようです。ギリシャの主神・ゼウスが,いろんなものに変身しては女をくどいたり,くどかれた女性がゼウスの嫁の女神・ヘラさん(ローマではジュノーとされ,6月を意味するJuneの語源でもあります)のジェラシーで動物に変身させられたり,とか。ヘラさんは結婚の守護神でもありますし,仕方ないとは思いますけど。でも,怖い。
「動物に変身する人間」は,神話以外に民間伝承でも多く見られる存在です。中でも有名なのが人狼=ワーウルフでしょう。人狼がメジャーになった原因の一つには,「狼男」がハリウッド映画の題材となり,20世紀の前半にヒットしたことが挙げられます。「ドラキュラ」「フランケンシュタイン」に続く形で,シリーズものとして定着したのです。映画で付け加えられた設定もいろいろあって,今ではそれも一般化しています。銀の武器でないと死なないというのも,映画由来ですね。
人狼の源流を東欧とする記述をしばしば見かけますが,類似した妖怪や魔物のお話は,世界中のあちこちにあります。人を襲う肉食獣は,だいたい魔物化するものなのです。その肉食獣が土地によって異なるだけで,東洋で虎,北方で熊,南米で豹などに変身する伝承が残されています。その原因もさまざまで,魔術だったり呪いだったり。ときには狼の足跡にたまった水を飲んだから,なんて無茶なものもあるようです。
こうした野獣へ変身する種族をひとまとめにして,ゲームではよくライカンスロープやシェイプシフターと称します。前者は制御不可能,後者は制御可能なタイプが多い印象ですね。変身するにあたっては,一定の条件が設けられていることも多いですね。“毛皮をまとう”などで任意に変身できることもあれば,“満月の夜”など強制される場合もあります。「人間から動物」の変身は,「秘められた野性を解放するぜっ!」ってことなのかもしれません。毛皮や月は,そのための暗喩というわけです。
一方,プレイアブルな種族として登場する場合は,魔術的に体系づけられた,制御可能な特質として表現されることが多いようです。
動物に魂を宿した神々――神獣に支配された世界が舞台のテーブルトークRPG「クリスタニアRPG」では,プレイヤーは神の加護により,眷属たる動物に姿を変えることができます。神獣が司る動物はさまざまで,その姿も能力も多種多様です。
「ワールド・オブ・ダークネス」に連なる「ワーウルフ:ジ・アポカリプス」では,そのタイトルどおり,プレイヤーは全員がワーウルフです。本作ではフランス系の呼称であるルー=ガルーにちなんでgarouと自称しています。餓狼,と漢字をあてたくなりますね。世界の自然な営みを守る戦士として,それを脅かす敵と戦うのです。ときには人間が敵となることもありますが,ワーウルフにはワーウルフなりの正義があり,それがまたかっこいいんですよ。
あと「動物が人の姿になる」タイプについてもちょっと言及しておくと,こうした伝承では人間への恩返しとか,あるいは恋をしたとか,ポジティブな目的である場合が多いです。そして,不思議とその恋で生まれる子供は普通の人っていう。
この手の伝承で日本人が思いつくのは,やはり狐や狸,化け猫/猫又の類でしょう。とくに狐は,大物悪役の金毛九尾の狐から,人間側では安倍晴明のお母さん・葛の葉まで,バリエーションが豊富です。化け猫も半世紀ほど前までは,日本の夏の風物詩としてたくさんの映画が作られたものです。古くは歌舞伎の題材にもよく登場していました。日本伝統の萌え要素と言えましょう。
半人半獣――変身しない獣人達
二つめの,変身するわけではないが,体の一部が動物というパターンの場合,まず多いのは,頭部だけがまるまる特定の動物に置き換わっているというタイプです。4000年以上前から存在する,古代エジプトの神々がまさにこれですね。猫神であるバステトをはじめ,ワニやトキ,ジャッカルなどなど,さまざまな動物がモチーフになっています。古代エジプトでは,こうした異形の姿は人間を超える力の象徴だったのかもしれません。
インドの神,ガネーシャも古い存在です。こちらは息子の首をうっかり切り落としてしまったシヴァが,あわてて手近な象の頭をくっつけて間に合わせたため,象の頭になったとされています。お父さん,ちょっと手を抜きすぎでは? 頭以外に,腕の数も多かったりしますし。
「ミノス島の牡牛」という意味のこの怪物は,ミノス島の王妃が牛に恋慕の情を抱き,作ってしまった子供とされています。いろいろあって殺すわけにもいかず,迷宮に閉じ込めて,ときどき遊び相手(仲良く遊ぶとは言ってない)を送りこむことにしたわけです。迷宮のラスボスの元祖ですね。
とはいえ彼の迷宮には,本人以外のモンスターはおらず,迷路以外の罠もありません。特性といえば怪力のみですが,それだけでも充分強く,多くのゲームで中ボスクラスの敵として登場します。
同じくギリシャ神話から,ミノタウロスと並んで有名なのが半人半馬のケンタウロスですが,種族として多く登場するからか,あまりモンスターというイメージはありません。基本的には粗暴とされますが,中には医術の達人がいたり,独自の毒で陰謀をめぐらせて英雄ヘラクレスを死においやったりと,いろんなところで顔を出しては,けっこう渋い脇役を務めています。
ところで,下半身動物タイプでケンタウロス以外に定着している種族って見かけないですね。「マジンガーZ」のゴーゴン大公は下半身が虎ですけど,あれは種族というわけではなさそうですし。個人的には,下半身が象とかキリン,カバの種族を作ってデータ化したことがありますけど。
耳と尻尾があればいいの?
ある日の病を癒すための冒険
語り部:人狼に噛まれた者は人狼になる……という伝説があるねえ
戦士:あるねえ,じゃなくて。どうなの?
魔術師:いろいろな魔術書を調べてみたが,あいにく記述がない
戦士:おまえ,本当にこういう時のダイス目が悪いよなあ
語り部:ひとまず,砂漠の賢者に尋ねればいいってことだけは分かった。でも,次の満月を迎えるまでに,辿りつけるかな?
戦士:森の洞窟から南の砂漠たぁ,俺達も忙しいやね
そして冒険の末,いつもの2人組は白い砂の果て,黒い柱の都市へ辿りついた。
魔術師:賢者とはいえ,こんな砂漠の真ん中に住んでるからには,ただの人間ではないと思っていたが
戦士:せめて美人のスフィンクスくらい期待してたのに,ラクダの爺さんかよ
語り部:おっと,それは禁句だ。ラクダと呼ばれると,「わしゃ立派なケンタウロスじゃ」と怒り出すので,戦闘になる
戦士:なんでだよ! 背中にこぶがあるケンタウロスって言ったじゃん
語り部:そうだよ。ちゃんとケンタウロスって言っただろ。下半身がラクダだとは言ってないぞ
魔術師:では,いったい何なんだ,背中のコブは。脂肪の塊ではないのか?
語り部:魔術師で,優れた人間の脳を背中に移植してるんだよ
2人:……趣味が悪すぎるぞ!
獣人というと,昨今は変身タイプや半人半獣タイプでもない,中間形態のものが主流に感じます。こういう“ケモい”……いや“モフモフ”なタイプの獣人は,神話や伝説,伝承の類には,実はあまり登場しません。とはいえ,この100年あまりにはいろんな先祖がおり,そうしたものが融合して生まれてきたのだろう,という推測はできます。
例えばあまり人間要素がなく,かつ直立した獣人の直接の祖先は,やはりミッキーマウスなどに代表される,デフォルメキャラクターではないでしょうか。そしてその源流はというと,「長靴をはいた猫」「ブレーメンの音楽隊」といった童話にさかのぼれるように思います。まあ獣人というよりは,賢い動物ですけどね。
動物に変身する人間のところで触れ損ねましたが,同じく手塚治虫の漫画(そして若き日の水谷 豊主演でドラマ化された)「ヴァンパイア」も,(とくに日本では)特定の世代にかなりの影響力を持っているのではないかと。
知性化された動物に,肉体的にも人間の特徴を付与するという設定は,ダイレクトなご先祖としてH・G・ウェルズの小説「モロー博士の島」があります。本邦において,こうした「改造され,動物の特性を持った人間」という存在が定着したのは,恐らく昭和40年代。小学生だった筆者に,異形のかっこよさを教えてくれたあいつら――ショッカーの改造人間達でありました。
主人公のバッタ男はもちろん,野獣と化した人間達の姿には血が騒ぎます。思えばワタクシ,ショッカーで怪人を作るか,博士になって怪獣を育てるかで悩んだあげく,テーブルトークRPGに出会いモンスターのデータを作る道を選んだのでありました。
話を戻します。さて,こうしたモフモフタイプの獣人が遊べるゲームとなると,1990年代後半からちらほら現れだし,ゼロ年代になると,多くのテーブルトークRPGでプレイアブルな種族として採用されるようになりました。「ソード・ワールド2.0 / 2.5」のミアキス,リカントもその一つです。前者は猫耳に猫尻尾のついた人間型の種族で,特殊能力を使うと完全な猫の姿になります。後者は狼に似た尻尾と耳を持つ人間型種族ですが,いざというときは頭部と腕が野獣化し,戦闘力を底上げできるのです。ただ,頭が変わっちゃうとしゃべれなくなり,吠え声で同族としかコミュニケーションとれないんですけどね。
犬達は,失われたヒトを神と崇め,良き犬として人類文明の後継者たらんと頑張ります。猫も知性化してるんですが,こっちは「人類? ああ,あたし達を神と崇めていた下僕よね」くらいに思っているらしく。さすがお猫様,さもありなん。なお「パグマイア」が売れますと,続編である猫版「Monarchies of Mau」も出せるので,猫派の筆者もイチ推しです。
語尾の扱いに気をつけて!
かくもいろいろなパターンがある獣人なので,共通したロールプレイのコツとなると,なかなか難しいですよね。皆に「ああ,獣人ぽいなー」と思わせる最も簡単な方法は,「語尾にワンとかニャーとかつける」というヤツですが……いかんせん,安易にすぎるという欠点があります。ミノタウロスだったら「……だモウ」とかね。「私のキャラはこういう動物の特徴を持っています」ということを伝えるのにこれ以上の手はないんですが,どうやってもコミカルな印象になってしまいます。
小説なんかでも,老人のセリフに「〜じゃ」とかの語尾つけてキャラクターの立ち位置を示す「役割語」という概念がありますけど,通りすがりの脇役ならともかく,主役級には厳しいところ。個人的には,猫系のキャラクターが「ニャ」を使うのは許容範囲。でも,「ワン」とつけるとなんだか従者ぽいですし,ガネーシャが「なんとかだゾウ」とかやってると,知恵の神なのに頭が悪そうです。ケンタウロスが「なんとかでヒヒン」なんて,自分は(ギャグとして数回やりましたけど)見たことないです。
ともあれ語尾については慎重に使いましょう,ということで。ほんと,脇役のイメージを一発で伝えるにはいいんですけど。
とにもかくにも,獣人の演技には「元の動物の習性や食餌習慣」を取り入れるのがやっぱりよかろうと思います。食べ物による演出って,使いやすいですよ。肉食の動物,たとえば狼やライオンなどであれば,料理したものより生の肉を好むとかですね。
ただ,これにも例外がありまして。ミノタウロスは牛なのに,元の伝承からして草食じゃなくて肉食ですし,ケンタウロスも基本的に狩猟民です(騎馬の狩猟民族がイメージソースだから,という説があります)。
食べ物以外だと,猫は水に入りたがらないとか気まぐれだとか,狼や犬系は群れのリーダーに忠実だとか(キュウレンジャーのオオカミブルーもこれでした),動物のイメージから引っ張ってくるのもいいでしょう。これも飼ったことのあるなしで,意外にイメージがズレがちではありますが。
肉体が異なる,という点から文化にも影響があるでしょうから,ちょっとした仕草や言い回しに凝ってみるのも楽しいと思います。感情をあらわすのに,耳や尻尾の動きを描写したりするわけです。恋人同士が手をつなぐ代わりに尻尾を絡めてみるとか。慣用句の「聞く耳を持たない」を「鼻で嗅いでもくれない」なんて表現してみるとかですね。こういうの,「異文化」って感じがしません?
また多くの作品世界で,獣人は「技術文明では後れを取っているが,精神的な文化や倫理観では優れている」という設定が見られますが,これは実際の先住民文化をイメージしているケースが少なくないようです。前述の「ソード・ワールド2.5」のリカントも,アメリカ先住民文化が発想の源ですし。
というわけで,それぞれの世界設定をベースに,実在のさまざまな文化を取り入れてみるのもいいかもしれません。ただ,元ネタに詳しい人から見ると,「本当はそうじゃなくって」とか言いたくなってしまいがちなので,そこは架空の設定ということで譲り合っていきたいところ。
さて10月29日掲載の次回は,毛皮ではなく鱗に覆われた異種族のお話をしようかと思います。半魚人のギルマンや深き者ども,あるいはマーマンといった水中種族。はたまたリザードマンやドラゴニュートなど,爬虫人系にも触れていきたいですね。
では,またよろしくお願いします。
■■友野 詳(グループSNE)■■ 1990年代の初めからクリエイター集団・グループSNEに所属し,テーブルトークRPGやライトノベルの執筆を手がける。とくに設定に凝ったホラーやファンタジーを得意とし,代表作に「コクーン・ワールド」「ルナル・サーガ」など。近年はグループSNE刊行のアナログゲーム専門誌「ゲームマスタリーマガジン」でもちょくちょく記事を書いています!(リンクはAmazonアソシエイト) |
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ワーウルフ:ジ・アポカリプス
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