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[GDC 2022]「The Last of Us Part II」の“誕生日プレゼント”シーンから見る物語の作り方。鍵は,日本ではお馴染みのセオリー“起承転結”
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印刷2022/03/23 19:08

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[GDC 2022]「The Last of Us Part II」の“誕生日プレゼント”シーンから見る物語の作り方。鍵は,日本ではお馴染みのセオリー“起承転結”

現在は,「The Outer World 2」の開発に関わるエヴァン・ヒル氏。「The Last of Us Part II」ではコントラクター(1作のみの契約社員)という立場ながら,「誕生日プレゼント」のレベルデザインを任された
画像集#002のサムネイル/[GDC 2022]「The Last of Us Part II」の“誕生日プレゼント”シーンから見る物語の作り方。鍵は,日本ではお馴染みのセオリー“起承転結”
 日本時間の2022年3月22日に開幕したゲーム開発者会議「Game Developers Conference 2022」(GDC 2022)にて,サバイバルアクションアドベンチャー「The Last of Us Part II」についてのセッション「Designing the Museum Flashback: 'The Last of Us Part II'」が行われた。
 セッションには,当時,Naughty Dogのレベルデザイナーとして関わっていた,Obsidian Entertainmentのエヴァン・ヒル(Evan Hill)氏が,「The Last of Us Part II」のストーリーの作り方を紹介した。

 本講演は,ヒル氏が開発に携わったチャプター「誕生日プレゼント」を例に進められた。「The Last of Us Part II」をプレイしていない人にとってはネタバレになるが,本チャプターは,シアトルにたどり着いたばかりのエリーが,ギターを弾きながらジョエルとの思い出を回想するというものだ。
 エリーは,3年前の16歳の誕生日にジョエルに誘われる形で,荒れ果てた博物館に潜入し,これまで本の中でしか見たことのなかった恐竜や天文学の展示を目の当たりにする……という記憶が追想されていく。

 ヒル氏が,「誕生日プレゼント」のチャプターをデザインするにあたり参考にしたのが,「起承転結」という日本人なら誰でも知っているであろう作文のセオリーだ。
 意外に思うかもしれないが,欧米においては,オペラを起源にする「三幕構成」といったセオリーはあるものの,この起承転結にあたる方法論はないのだという。

日本では馴染み深い作文のセオリー「起承転結」は,日本のゲームやアニメーションなどクリエイターたちの基礎になっているのは,改めて言及するまでもない。研究熱心な海外のクリエイターたちも,そのセオリーを利用し始めているという
画像集#003のサムネイル/[GDC 2022]「The Last of Us Part II」の“誕生日プレゼント”シーンから見る物語の作り方。鍵は,日本ではお馴染みのセオリー“起承転結”

 「ゲーマーが体験するものすべてがストーリーである」と言うヒル氏は,1つのストーリーの中での起伏ではなく,1つ1つのシーンで起承転結を考慮したストーリーテリングの手法を実践していくべきと考えているようだ。
 講演の中では,Gamasutra誌に掲載されたブログ記事をベースに2015年に作成された「スーパーマリオ3Dワールドの起承転結のステージデザイン」(動画リンク)という動画や,海外でも翻訳出版された荒木飛呂彦氏の著書「荒木飛呂彦の漫画術」などで,起承転結について学ぶことを,ヒル氏は集まった開発者たちに促していた。

ゲームの主役はキャラクターではなくプレイヤー。プレイヤーがエリーの行動を制御しつつ,エリーの感情を共有できるように,デザイナーは「裏で糸を引くのではなく,促していくような形でレベルデザインをしていくべき」であると語る
画像集#004のサムネイル/[GDC 2022]「The Last of Us Part II」の“誕生日プレゼント”シーンから見る物語の作り方。鍵は,日本ではお馴染みのセオリー“起承転結”

 「誕生日プレゼント」の場合では,「ジョエルが何やら隠し事をしている様子を見せ,エリーが森の中を進んでいくシーン」が“起”,「博物館の中でジョエルとエリーがふざけ合いながら,アポロ11号打ち上げの録音テープをプレゼントするシーン」までが“承”,「2人が離れ離れになり,暗がりで不安な中をエリーが進んでいくシーン」が“転”,そして「エリーが“嘘つき”という落書きを見つけ,やはり2人には決して埋まらない溝があることを再確認するシーン」が“結”になるというわけだ。

 「The Last of Us」シリーズでは,キャラクターの感情に比重を置いたアクション性がまったく(もしくはほとんど)なく,キャラクターの感情に比重を置いたチャプターが,いくつか用意されている。この「誕生日プレゼント」のチャプターにもアクション要素はないが,物語のうえで重要な,ジョエルとエリーの親子のようで親子になれないアンビバレントな関係を再確認できるものとなっている。
 それでいて,「ゲームとして面白くない」と感じさせないように,新たに泳ぎという移動手段を入れている。プレイヤーを飽きさせないように新鮮な要素を入れつつ,回想している現実のエリーの感情を再確認できるようにデザインされているのだ。

 前作をプレイした人はお分かりだろうが,ジョエルの本当の娘だったサラは,両親に連れられて博物館に行くのが大好きな少女だった。アウトブレイク以後に生まれてサラのような“普通の子供時代”を経験していないエリーも,遺物となっている本を拾っては,恐竜や宇宙についての科学知識に高い関心を寄せており,ジョエルの“父親”としての感情を感じずにはいられないはず。
 しかし,ヒル氏は,ジョエルとエリーがどうしても親子のような感情を抱けないのは,「ジョエルには“病院で何が起きたのかを隠していたい」という思いがあり,エリーには「ファイアフライが自分に何をしたのかを突き止めたい」という正反対の気持ちがあることが理由だと語る。二人の持つ相反する隠れた欲望が邪魔していることを,この“結”の部分で,改めてプレイヤーは認識するのだ。

名場面の多い「The Last of Us Part II」の中でも,多くのゲーマーの印象に残っているであろう「誕生日プレゼント」のシーン。ジョエルとエリーにとっての最高の思い出であり,すれ違いから逃れられないことを思い知らされた切ないシーンでもあった
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 こうしたレベルデザインに生かせるストーリーを構成するうえで,ヒル氏が多大な影響を受けたというのが,京都アニメーション時代に映画「聲の形」や「リズと青い鳥」を手掛けた監督・山田尚子氏だそうで,2分ほどにわたって彼女へのリスペクトをとうとうと語っていた。
 「彼女と嗜好が似ていると感じたのは,影響を受けた人物として,私が好きなもう1人の映像作家であるアレハンドロ・ホドロフスキーの名を挙げていたから」とも話していたが,ホドロフスキー氏は,前衛的な「エル・トポ」や「ホーリーマウンテン」など奇抜な作風で知られる。山田氏の作品や「The Last of Us Part II」との共通性はあまり感じさせないところが何とも興味深い。

 ヒル氏がNaughty Dogで学んだのは,とにかく「何度も何度も考察し直し,作り直していく」というイタレーション意識の高さであったという。ストーリーボードは,いきなり3Dツール「Maya」でラフなマップデザインを作成し,担当デザイナー1人,そして脚本家1人の3人チームでタッグを組んでビジュアライズしていった。

「イタレーション」とは,「反復作業」のような意味を持つIT業界ではよく使われる言葉。ゲームデザインの場合は,何度も何度も一連の開発プロセスを短いサイクルで続けながら,うまくハマるまで改良を重ねていく“アジャイル開発”の概念の1つだ
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 「その恐竜は上に登れるくらいの大きいのか?」という,冗談なのかどうかわからない質問にも答え,実際にゲームでは,恐竜の上に登るという要素が重要なシーンの1つに利用されている。また,うまく作れないと思ったマップは,レベルから一旦除外して作り直すような形で数週間かけて制作し,プレイテストを開始した後は,2〜3週間のサイクルで調整を重ねていったとのこと。
 「とにかくうまく行かないものやダメ出しされたものは惜しまず捨てる」ことで,磨き上げられ,「誕生日プレゼント」という印象深いチャプターが完成したのだ。

「Maya」を使って3Dストーリーボードを作成していたというヒル氏。なんとも可愛らしい恐竜だ
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ヒル氏は,映画「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」の名シーンの1つが,ライアン・ジョンソン監督のラフ過ぎるスケッチを元に生み出されたことを例に挙げ,「とにかく捨てられるのを念頭にアイデアをイタレーションしていくべき」と語った
画像集#008のサムネイル/[GDC 2022]「The Last of Us Part II」の“誕生日プレゼント”シーンから見る物語の作り方。鍵は,日本ではお馴染みのセオリー“起承転結”

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