プレイレポート
トランプとヒラリーの戦いを通して,アメリカの現在が見えてくる? 「The Political Machine 2016」でサクッと学ぶアメリカ大統領選挙
自分も最近まではそんな気持ちでした。でも,友人(アメリカ在住)のFacebookを眺めていると,ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの風刺画像や動画が投稿されていて,何やら楽しそう。彼の地ではオリンピック同様に,4年に1回のお祭り騒ぎとして楽しんでいる感じなんですよ。
なんだかちょっと羨ましいなー,と思っていたら,Steamでナイスなゲームを発見。アメリカ大統領選挙のシミュレーションゲーム「The Political Machine 2016」です。
本作は,2004年の第1作以来,2008年,2012年と,アメリカの大統領選に合わせて発売されている人気シリーズの最新作。プレイヤーが大統領候補となり,選挙戦での勝利を目指すという内容で,オリジナルキャラはもちろん,実在の候補者でもプレイ可能です。つまりトランプやクリントンになりきれるというわけ。
実在候補者のパラメータをはじめとするさまざまなデータは,実際の世相や政治背景,世論調査の結果などが細かく反映されているので,今回だとトランプとクリントンのパラメータが高くめちゃくちゃ強い,という感じ。
政策を訴えるよりも,資金を集めて広告を打つほうが効率的だったり,有権者の注目トピックに候補者のスキャンダルがあったりと,なかなか皮肉が効いた感じになっていますが,現実のアメリカ大統領選挙も冒頭で触れたように半ばエンターテイメントなので,そういう意味ではかえってリアルかも。
ということで,今がまさに旬である本作のプレイレポートをお届けしましょう。
本題に入る前に,アメリカ大統領選挙の仕組みをざっくりと紹介しておきます。
大統領になるには,まず民主党か共和党の候補者に選ばれる必要があります(厳密に言えば違いますが,事実上この2党どちらかの候補者にならないと勝利は目指せません)。
で,党の候補者に選ばれるための選挙(予備選挙)の投票が,大統領選挙がある年の2月から6月くらいまで全米各州で行われ,それに勝利した候補者2人が7月から全米を周って演説したり,テレビ討論会で直接対決したり,スキャンダルをうまく切り抜けたりという選挙戦を繰り広げて,11月に雌雄を決するという流れです。
そして,The Political Machine 2016は,7月からの本選挙をゲーム化したものとなってます。
選挙は金と体力! のドナルド・トランプで挑戦
というわけで,まずはゲームの流れをつかむために,強キャラのトランプでプレイすることに。相手はヒラリー・クリントン……と言いたいところですが,それは後のお楽しみということで,民主党予備選挙でクリントンを最後まで苦しめたバーニー・サンダースをチョイス。ターン数は21,難度はイージーで小手調べです。
スタミナと資金力が高いトランプですが,信頼度は低め |
サンダースはカリスマ性と信頼度が高いという,トランプとは対照的な能力 |
選挙戦がスタートしたら,まずは画面左上にあるアメリカ国土の形をした「POLLING DATA」アイコンを押して,どの州がどちらの党を支持しているかをチェック。赤が我が共和党トランプ,青が敵陣営である民主党サンダースを支持している州で,グレーはどっちつかずの州,という色分けです。
まぁ,最初はイーブンでしょ……と思っていたら,なんだこの世論調査結果は? 162対376って,選挙戦が始まったばかりなのに,ダブルスコアで負けている。おかしいだろ,トランプは強キャラじゃなかったんかい!
そうそう,一番大切なルールを伝えるのを忘れていました。このゲームも現実の大統領選挙も,アメリカ50州に合計538人いる「選挙人」の過半数(つまり270人)を獲得したほうが勝利者となります。厳密に言えば,一般の有権者による投票によって決まるのは,“その州の選挙人が誰に投票するか”で,最終的に大統領が決まるのは,この選挙人による投票なんです。
ただし,選挙人の数は50州で均等ではなく,人口に応じて割り振られています。さらに,ほとんどの州では,有権者による投票数の多い候補者が,その州の選挙人を総取りというルールになっているんです。
なので,基本的には選挙人が多い州にリソースを割き,選挙活動を行なうのがセオリーです。が,州によって共和党/民主党支持が強いところがあるので,望み薄の地盤に見切りをつけて,選挙人が少ない州を拾っていくのも戦略の1つ。
そしてこのルールが怖いのは,一般有権者投票での総得票数で上回っても,負ける場合があるということ。これは実際の大統領選でも何回か起こっていて,最近では2000年に共和党のジョージ・W・ブッシュが総得票数で下回りながらも,民主党のアル・ゴアを下して第43代の大統領になりました。
どうですかこのルール。戦略性が高くて,不謹慎ながらゲームとして見ると,すごく面白いです。The Political Machineのようなゲームが生まれたのも,このせいかもしれません。
ちなみに,538人いる選挙人のうち,一番多いのはカリフォルニア州の55人。次いでテキサス州の38人,フロリダ州とニューヨーク州の29人,イリノイ州とペンシルべニア州の20人と続きます。
対照的にバーモント州,デラウェア州,モンタナ州,ノースダコタ州,サウスダコタ州,ワイオミング州,アラスカ州,コロンビア特別区は,わずか3人というショボさ……。全部を取っても24人にしかなりません。
というわけで,いきなりの劣勢から始まったトランプの選挙戦ですが,まずはいちばん金と票が集まるカリフォルニア州へGO!
カリフォルニア州に到着したら,画面下のメニューバーから「Build HQ」を選択。HQとはヘッドクォーター(本部,司令部といった意味)の略で,ここでは選挙事務所などの施設を指します。
このBuild HQでは3種類の施設が建設可能。「CAMPAIGN HEADQUARTER」を建てると資金が,「CONSULTING OFFICE」だとPC(政治点)が,「OUTREACH CENTER」だとPR Clout(影響点)が,毎ターン手に入るようになります。また,一度建てておしまいではなく,さらに資金を投入して施設のレベルアップが可能。
資金は何かと必要になるので,そのありがたみは分かる。でも政治点と影響点がどう関わってくるのかがいまいち分からん……。ゲームを中断してじっくり確認しようかとも思ったけれど,トランプなら「細かいことはいい! 金さえあれば勝てるだろ!」ぐらいは言いそうな気がするので(個人の感想です),CAMPAIGN HEADQUARTERを,「State Wealth」の数値が高い州,つまり金持ち州に建てまくり,限界のLv3までアップグレードさせ,そこで手に入れた資金で広告を打ち,それと並行してスピーチという作戦で行くことに決定!
カリフォルニアでの支持率は民主党50パーセントに対し,我が共和党は39パーセントと劣勢なので,「Give Speech」コマンドでスピーチを行い支持率アップを狙います。スピーチや広告の指標となるのが「State Details」。このなかの「Top State Issues」が,その州で注目される政治トピックです。
カリフォルニア州で最も注目されているのは「Addressing Climate Change」(地球温暖化への対応と環境保全)。意識高いですなぁ。
スピーチでは任意の政策について,賛成か反対かを表明できますが,トランプが属する共和党は,環境保全よりは経済その他を優先する,という方針なので,ここでいきなり「やっぱ環境保全大事! ストップ温暖化!」と,正反対のことを言い出すと支持率が落ちます。まぁ当然ですね。
なのでここは共和党候補として「環境も大事だけど,まず経済が回らないと大変でしょ?」ということを真摯に訴えます。そうして熱弁を振るった結果,支持率が2ポイントアップ。相手の地盤をこうやって少しずつ切り崩していきます。
続いては2番目に金と票を持つテキサス州に移動。カリフォルニア州と同様に,まずはBuild HQでCAMPAIGN HEADQUARTERを建て,「Cerate Ads」コマンドで広告を打って……そうそう「Fundraising」で政治資金パーティーを開くのも忘れないようにしないと! これ,お金持ちの州でやるとけっこうな額が入ってくるんですよねー。
上で少し触れましたが,Build HQ,Cerate Ads,Fundraisingといったコマンドを実行するには,資金のほかにスタミナが必要です。ただ,スタミナのステータスが高いトランプは,これらを1ターンですべて実行してもスタミナが残る! さすがトランプ!
そうこうするうちに迎えた10ターンめ。「Candidates choose their running mates this week」(ランニングメイトを選べ)というメッセージが。なにコレ? とランニングメイトを調べてみると……ほうほう,米大統領選挙では,当選後に副大統領となる人物を選挙中に指名して,一緒に選挙戦後半を戦うルールがあるんですね。
ゲームでは,副大統領候補を配置した州と,その隣接州に,自陣営に有利な効果が働くらしいので,テキトーなキャラを選んで我がトランプ陣営の本拠地であるニューヨーク州に配置。東海岸は任せた,誰か知らんけど(後で調べたら,実際に共和党の副大統領候補となっているマイク・ペンスでした)。
その後も,金とスタミナにものを言わせた選挙活動を続けて,いよいよ選挙戦も佳境の17ターンめ。ついに世論調査で291対247と,我がトランプ支持が過半数を占めるように。これは勝てる!
18ターンめ,サンダース陣営が「National Association For Women」からの支持を受けたとのニュースが。ほうほう,人工中絶権や同性婚の保護を訴える団体みたいね。でも,いちばん重要なのは金,マネーですよ。
へー,19ターンめにサンダースは「National Civil Liberties Union」からの支持を受けたんですか。言論の自由を守ることを目的としていて,アメリカで最も影響力を持つ団体の1つだとか。ま,まぁこっちには金の支援があるから!
そして迎えた最終ターンひとつ前の20ターンめ。全米支持率が46パーセント対44パーセントでひっくり返った……。しかし,重要なのは得票数ではなく,どれだけ選挙人を確保できるか。大票田はキッチリ押さえてあるし,こちらの勝利は揺るぎませんよ。
そして,21ターンめ,選挙活動終了。いよいよ全米50州での投開票開始!
東海岸の開票が終わった時点で,大票田のニューヨーク州を押さえたのに88対157と,ほぼダブルスコアで負けている……。いやいや,フロリダ州とテキサス州はバッチリだから,って両方獲ったのに157対229……。カリフォルニア州で一発逆転だ!
あれ? なんか,カリフォルニア州が青い……。ディスプレイが滲んで良く見えないんですけど……。
最終結果は210対328の大敗。これイージーモードじゃなかったんかい。トランプは強キャラじゃなかったんかい……。
嘆いたところで負けは負けなので,次なる戦いのため,自分の中で反省会を開催します。まず,最大の敗因はトランプの資金力とスタミナに頼り過ぎたこと。そして,多くの人はお気づきかもしれませんが,「CONSULTING OFFICE」と「OUTREACH CENTER」の建設を軽視したことです。この2つを建設することで毎ターン入手できるPCとPR Cloutポイントは,やはり重要だったんですよ。
選挙戦終盤でサンダース陣営が得たNational Association For WomenとNational Civil Libertiesからの支持は,このCloutポイントを使って得たもの。この2つは全米規模の団体なので,支持を得ると全土にその効果が発生する,言ってみれば“強バフ”だったのです。
ちなみにPCポイントでは,支持率や集金力アップなどの効果を発揮するエージェントを,特定の州に派遣することができます。本作には対戦モードもありますが,そこではエージェントをどう使うかが重要になりそう。
あと,最強キャラだと思っていたドナルド・トランプは,現実のアメリカ大統領選挙の展開が反映された10月のアップデートでかなり弱体化していたみたいです。そんなにタイムリーに細かく調整が入っているとは……。
選挙は根回し! 初の女性大統領を狙うヒラリー・クリントンでリベンジ
1回プレイしたことでいろいろと見えてきたので,その経験を踏まえて再挑戦。今回は10月末のデータならおそらく最強であろうと思われるヒラリー・クリントンでプレイしてみます。相手には先ほどプレイしたドナルド・トランプを選択し,まんま今年のアメリカ大統領選挙をシミュレート。ターン数は21,難度イージー……と書くと「ぬるい」と言われそうですが,さっきイージーで負けてるから……。
ヒラリーの能力で一番高いのは「Fund Raising Ability」で,トランプ同様に政治資金パーティーで金をガッポリ稼げそうな感じ。そして,最初のプレイではあまり気にしていなかったのですが,候補者には政策の向き不向きもあるんです。ヒラリーの場合「Abortion Rights」(人工中絶の権利)や「Addressing Climate Change」(地球温暖化への対応と環境保全)のステータスが高く,これらの広告を打つとより効果があるので,この2つで押していくことに。
前回は金稼ぎに特化した結果,後半にまくられたので,今回CAMPAIGN HEADQUARTERを建てるのは,金持ち州のみに絞ります。そして,CONSULTING OFFICEとOUTREACH CENTERもしっかり建ててPCやPR cloutポイントを溜め,中盤以降に勝負をかける,という作戦でいくことに。
5ターン終了時点で,票と金を持っているカリフォルニア州,テキサス州,フロリダ州,ニューヨーク州にCAMPAIGN HEADQUARTER,支持率が拮抗しているペンシルバニア州,オハイオ州,ミシガン州にOUTREACH CENTERを建設。ノースカロライナ州にコンサルティングオフィスを置いて,金がある州を訪れたときは欠かさずパーティーを開きます。順調順調。
6ターン目あたりからは,広告で支持率稼ぎ。トランプの地盤であるテキサス州では,ヒラリーのパラメータとテキサス州民の関心がともに高いAbortion Rightsの広告を打って逆転を狙います。
そんな中,突発イベントのTVショウ「60 SECONDS」出演が発生したので,開催地のデラウェア州にひとっ飛び。これはコメンテーターからの質問に対し,適切な選択肢を選んで回答すると好感度が上がるというもの。制限時間があるうえ,失敗すれば逆効果なので,英語が苦手だと少々厳しいかもしれませんが,こういった受け答えこそ大統領選という感じがするので,一度挑戦してみるのもいいでしょう。
TVショウの出演成功で気をよくしていると,あらあらPR Cloutが10ポイントも溜まっているじゃないですか。7ポイントを使い,前回は煮え湯を飲まされたNational Association For Womenからの支持を取り付けて,Abortion Rightsの広告効果がアメリカ全土でアップします。
10ターンめのランニングメイト選択では,しっかりと候補者のパラメータをチェックして,ヒラリーと同じくAbortion Rightsのパラメータが高いジム・ウェッブを指名。ブレない姿勢でさらなる票固めですよ。
佳境の15ターンめ。いろいろと手を打ったものの,いまだにトランプ支持が根強いテキサス州で勝負をかけるべく,PCポイントを使って「Speech Writer」を雇い,カリスマのステータスを10ポイントアップした後にスピーチ。これで49パーセント対44パーセントと拮抗していた支持率を,52パーセント対43パーセントに引き離し,テキサス州を青く染めることにに成功。スピーチ1本で敵の地盤を崩すの,気持ちいいー!
その後もTVショウ「The O’Mally SCENARIO」に出演したり,National Organizationからさらなる支持を取り付けたりして,20ターン経過時点での世論調査からは337対201の大差で勝利という予測が出ました。これは勝てる!
そして,最後の21ターンめが終了し,お待ちかねの投開票タイム。
結果は,フロリダ州,ニューヨーク州,テキサス州,カリフォルニア州といった大票田をことごとく押さえて,373対165の大勝!
とまぁ,こんな感じでプレイしてみましたが,予想外に面白かったのは,プレイしていると,いつの間にかアメリカの現状について詳しくなっているところです。「桃太郎電鉄」をやっていると,知らない間に各都道府県の名産品を覚えている感じに近いです。
選挙活動をとおして州民のご機嫌をとっていると,テキサス州民は銃規制法案に興味があり,カリフォルニア州民は地球温暖化が心配で,フロリダ州ではジカ熱問題が深刻……など,いろいろなことを覚えてしまうんですよね。有権者の関心事に,今日本のニュースなどでも取り上げられる問題があったりして,リアルです。
今回はヒラリー・クリントンとドナルド・トランプという,まさに大統領選を戦っている候補者でプレイしたので,2人がどのような思想やパーソナリティをもった大統領候補なのか? ということもざっくりとですが,知ることができました。
21ターンのプレイなら2時間程度でさくっと終わりますし,それを何回か繰り返せば,“現在のアメリカの姿”もざっくりと見えてくると思います。ネット上の記事を読み漁るよりも,ある意味リアルに大統領選挙とその裏に見え隠れする現代アメリカの問題などを理解できるかもしれません。
「The Political Machine 2016」公式サイト
「The Political Machine 2016」Steamプロダクトページ
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The Political Machine 2016
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