インタビュー
「拡張少女系トライナリー」で見せた,ガストと東映アニメの新たな挑戦――すべては少女たちを実在させるために
又聞きであれば首を傾げてしまいそうな文面だが,このコンセプトに真正面から立ち向かったのが,コーエーテクモゲームスのガストブランドと東映アニメーション(以下,東映アニメ)の協業作品である,スマホアプリ「拡張少女系トライナリー」(iOS / Android)だ。
今回は作品制作の中心人物にあたる,原案・プロデューサーを務めるコーエーテクモゲームス ガストブランドの土屋 暁氏と,東映アニメーション 企画製作本部 映像企画部 メディア企画室 プロデューサーの本川耕平氏に,本作がどのような考えをもって作られたのか,さまざまな話をうかがってきた。
2つのメディアの融合から生まれる新しいアプリ体験とは? 制作者たちの挑戦への気概を感じ取っていただきたい。(※本作の概要について知りたい人は,こちらのプレイレポートを参照してほしい)
「拡張少女系トライナリー」公式サイト
「拡張少女系トライナリー」ダウンロードページ
「拡張少女系トライナリー」ダウンロードページ
2つの会社が,1つの作品を作るため
4Gamer:
今回は「拡張少女系トライナリー」のインタビューということで,土屋さんと本川さんに同席いただきまして,ありがとうございます。本日は東映アニメ本社での実施となりましたが,いやー入り口から映画館みたいでテンションが上がります。会議室もそれぞれテーマカラーが分けられていて,とてもオシャレな雰囲気ですね。
本川氏:
いえいえ,こんな朝早くからお越しいただいて,すみません。
4Gamer:
まあ,午前10:30を早いと感じるのは,この場ではメディアの私だけかと思いますが。
本川氏:
ああ,そういうのあるかもしれませんね。私も紙媒体の編集部に友人がいるんですが,あの人たちはほんと(※一身上の都合によりカットさせていただきます)。
4Gamer:
ごほん。それではあらためて,本日のインタビューよろしくお願いします。まずはそれぞれの軽い自己紹介からお願いできますか。
土屋氏:
コーエーテクモゲームスのガストブランドの土屋です。本作では原案とプロデューサーを担当しています。これまでディレクションしてきた作品でいうと,「アルトネリコ」シリーズや「サージュ・コンチェルト」などがあります。
4Gamer:
ほとんどの読者は存じていることでしょう,イオンちゃん(「シェルノサージュ〜失われた星へ捧ぐ詩〜」のヒロイン)の生みの親として。では続いて本川さん,お願いします。
本川氏:
はい,東映アニメーションの本川です。私は社内では新規企画を考えたり,既存の企画の内部に入ってお手伝いをしたり,弊社にとっての今後の課題である新規事業の立ち上げなどに携わっております。本作に関しても,お手伝いをしろとのお達しで参加することになり,黒子的な役回りを続けて,今に至ります。
ということは,土屋さんと本川さんは元々面識があったわけではないと。
土屋氏:
そうですね,本作からの付き合いになります。
4Gamer:
そうなんですか。私はてっきり,土屋さんか本川さんが「こういうの作るから一緒にやろうぜ!」とでも掛け合っただろうと想像していました。ほら,やっぱりゲームとアニメって同じエンタメ業界ではありますが,現場レベルではそれほど接点がないじゃないですか。
土屋氏:
企画の立ち上がり自体は,そういう流れから始まりましたよ。そのとき私は関わってはいませんでしたが,当社と東映アニメさんの我々ではないプロデューサー同士が,一緒にメディアミックス作品を作ろうと掛け合っていたのが最初なんです。そこから実際に何をやれるのかを考える段階で,我々にお鉢が回ってきたわけです。
本川氏:
弊社側のその人は,本作においてもプロデューサーを担当していますが,彼は元々ガストブランドの大ファンなんです。社内の席が隣同士なのですが,毎朝席に座るたびに「新作のアトリエ……どう思う?」なんてよく聞かれています。
4Gamer:
企画ありきの要請から始まったわけではなく,人と人との結びつきから始まったんですね,「拡張少女系トライナリー」は。
本川氏:
ええ,彼にとっての憧れであるガスト作品を,ガストさんと一緒に作れるということで,本当に張り切っています。もちろん,私もですが。アニメ業界ではクリエイターの誰誰さんの作品が好きだから,その人と一緒に作品を作りたいと考え,一緒に仕事しようとオファーを出したりすることが結構多いですからね。
4Gamer:
ほー,アニメ畑ではそのような制作の成り立ちもあるんですね。
本川氏:
もちろん,ビジネス的な視点をしっかりと持ったうえでですけど。
4Gamer:
ゲーム業界でも「豪華スタッフが結集!」を押し出した作品はよく目にしますが,(デベロッパとはまた違う)企業間を飛び越えてのクリエイティブというのは,あまり耳にしないので新鮮に思えます。
土屋氏:
ゲーム業界でよく聞くのは,最初に誰誰さんと誰誰さんが一緒に飲んで,そこで一緒に仕事をしよう,といったきっかけでしょうか。どこの業界でもこういう逸話は聞けますよね。
4Gamer:
やはり肩書きじゃなくて人なんですよね――なんて言うと話の方向が逸れそうなので,次の質問です。本作では企画当初,2つの異なる媒体をどのように展開していこうと考えていましたか。
土屋氏:
企画段階から,これから先はよりスマートフォンにいろいろな情報が集約されていくだろうと考えていました。一時期は「PCは1人1台」などの考えも世間に広まっていましたが,今の若い人はPC自体を持っていないと聞きますし,一般の方々もスマホでネットに接続する時代です。
4Gamer:
聞いた話だと,若い人の中ではノートPCですら物理的に重く,使い勝手も悪い,との声が上がっているようです。それだけスマホが万能で,身近なものになってきたことは,誰しもが知ってのとおりですが。
土屋氏:
現在はTVチャンネルを見るのもスマホ,動画サイトを見るのもスマホと,スマートフォンの役割がより広義なものへとシフトしています。それを予想していたので,本作ではすべてのコンテンツを,スマホで利用できる1つのアプリの中だけに集約させたんです。
本川氏:
土屋さんの仰ったとおり,弊社にとってはそこが重要でした。新しいビジネスモデルに挑戦したかったんです。
4Gamer:
これはプレイレポートにも書いたことですが,本作のスゴイところは“アプリ内でゲームとアニメが楽しめるところ”にあると思っています。露出面はさておき,ゲームはやるけど,アニメは観ない。その逆もしかりという既存のメディアミックスの課題を完全に克服しているなと。
土屋氏:
他媒体を含むメディアミックスでは,仮にアニメをTVで放送したとしても,そこからすべてのアニメユーザーさんがアプリに移ってくることはありません。媒体が違うと,それだけで作品を楽しむためのエネルギーが必要になってくるので。
4Gamer:
正直,本作のビジネスモデルに目をつけるほかの企業さんは,結構出てくるのでは。
土屋氏:
当社としては,それも狙いの一つですね。
4Gamer:
今後の業界の動向が楽しみです。そんな「拡張少女系トライナリー」では,ゲーム部分とアニメ部分の制作物のすり合わせはどのようにして行われてきたのでしょう。
土屋氏:
私は原案を担当していますが,そこから原作を仕上げていったのは,我々を含むガストと東映アニメさんのスタッフたちです。その道程で両社では,積極的に話し合いの場を持ってきました。
4Gamer:
本作では発表時から,ガストというパブリッシャがアプリを作り,その中にアニメが入っている。制作しているのは東映アニメ。みたいな,いわゆる上下関係の構図ではなく,一貫して「ガストと東映アニメがタッグを組んだ!」的な情報の出し方をされています。これは両社が同じ目線で作品を作り上げている,そういうことなのでしょうか。
土屋氏:
そこが制作面における大きなポイントです。本作ではどちらの会社も作品のことを考えられ,意見を出し合えます。それぞれの制作物が齟齬なく提供できるのは,2つの会社が同じ立ち位置にいるからです。例えばですが,アニメが主体にあって,それが売れたからアプリを作るという形だと,ゲーム会社とアニメ会社の間に上下関係が生まれる場合があるんですよ。
本川氏:
アニメは原作付きの作品が多いですが,原作が存在すると,どうしても制約が多く出てきます。しかし,今回はガストさんと一緒に原作から作る形ですので,過剰な制約に縛られることもなく,一緒に考え,一緒に作る,そういう仕事の仕方ができています。ガストさんのようなパートナーの存在は,本当に重要だと思いました。まあ,現場では文化の違いからいろいろとあったようですが(笑)。
4Gamer:
ああ確かに。ゲーム業界とアニメ業界の“当たり前”はいろいろと勝手が違いそうですね。
本川氏:
でも,それらは良い悪いではなく,双方がすり合わせをしていく中で,より面白い表現につながったり,「こんなことができるんだ」なんて発想に至ったりと,大半が面白い刺激になっています。ゲーム側のやり方や技術は,アニメ側のそれとは大分異なっていましたので。
土屋氏:
業界が違うと,こうも違うんだなってのはいろいろありましたね。多くのことを学ばせていただきました。
それでは本川さんにうかがいますが,本作の世界観を最初に聞いたとき,どう思われましたか。
本川氏:
設定の語り方というんでしょうか――いやはや驚きました。
アニメや映画などの映像作品のお話は,キャラクターの感情や動きに沿って,作品内の時間を飛ばしていくのが一般的な作り方ですが,今回は普段「ここまで描く必要ないだろう」と思っていた部分まで描いています。
4Gamer:
なんとなくそうじゃないかと思い,質問させていただきました。
本川氏:
こういうのは土屋さんの独自性というか,作家性というのでしょうか。土屋さんは作品内で“飛ばされた時間”に非常に興味を持っていらっしゃるんです。そのため本作では細やかな場面も含めて,アプリ内で描かなかった部分と,アニメで描かなかった部分を,相互の媒体で見せる作りになっているんですよ。
土屋氏:
アニメってどうしても尺の都合があるので,1話の中でさまざまな描写の取捨選択が求められます。それをいかに見せるかは制作陣の手腕でもありますが,本作ではもう一方の語り口を取り入れ,物語の楽しみ方を両面で支えています。
4Gamer:
一方のメディアで描かなかったことを,もう一方のメディアで描くというのは,メディアミックスとしては一般的なやり方とも言えますが,本作はそもそもの濃さというか,切り口の深さからして明らかに違いますよね。
本川氏:
昨今のアニメ作品の数はとても多いので,制作側もどうしても“プロダクトとしてのアニメ”の枠に収まりがちな傾向があります。でも,ところがどっこいでした。本作に関わったことで,これが土屋ブランドであり,ガストさんが人気を得てきた理由なのだと,作品を通して納得できましたから。こんなに変わった物事を考えている人は,今まで知りませんでしたしね(笑)。
4Gamer:
正直,土屋さんの手がける作品はアニメ業界はもとより,ゲーム業界にあっても非常に珍しい試みをされてきたと思います。
本川氏:
これは記事でぜひとも伝えてほしいのですが,「拡張少女系トライナリー」には本当に驚きがあります。僕はビックリしました。世界観の作り方がほかのタイトルとは一線を画しています。もちろん,アニメも川崎監督(監督・川崎逸朗)や兵頭さん(シリーズ構成・兵頭一歩)をはじめ,スタッフの皆さんが全力で取り組んでいるので,全部合わせて楽しんでもらいたいです。よろしくお願いします!
4Gamer:
はい,締めの挨拶みたいですが,まだまだ続きますよ(笑)。続いてはそのアニメについてですが,アプリでアニメを配信するということで,見せ方に気を付けたことはありますか。
本川氏:
川崎監督は作品の細かいところにまで気を配られる方なので,土屋さんの意図するアーバンスタイリッシュっていうんですかね,デザインのコンセプトにより合った色味については,とくに工夫されていたようです。モバイル向けに圧縮された画質で,一番ビビッドに映える色味はどれか,かなり研究されていたと聞いています。
4Gamer:
このアニメの制作はどのようにして行われているのでしょう。1本30分(※便宜上,本稿ではアニメ1話を30分とします)のアニメを作って,それを編集で切り分けているのですか。
本川氏:
基本は1本30分のアニメを制作し,それを編集して,モバイル環境でも視聴しやすい複数のショートムービーに仕上げています。
4Gamer:
1本のショートムービーは,オープニングとエンディングを除けば約5分ほどの尺になっていますよね。最初からショートアニメの骨格で作るなら,その数分に“オチ”を用意できると思いますが,1本30分のアニメを分割し,それぞれ盛り上がりを仕掛けていくのは結構至難ではありませんでしたか。
土屋氏:
そこはアニメで最も議論を交わしたことの1つです。アニメは1話30分ごとに大団円を迎える構成になりますが,ショートムービーにおいても川崎さんや兵頭さんらが,この映像ではこれを見せ場にして,この場面は次につなげよう,などをしっかりと考えてくださいました。それなので,ショートムービーで見ても内容が充実していますし,1話丸ごとでも破綻のない物語に仕上がっています。
4Gamer:
通常のアニメ制作とは異なる瞬発力が求められそうですね。もちろん,世の中のアニメ作品を手掛ける人達も,1話といわず毎分飽きさせないような物語を目指していることと思いますが。
土屋氏:
まあ,これについては川崎さんたちの頭を大分悩ませてしまいましたが(笑)。
4Gamer:
ゲーム部分とアニメ部分は物語の大枠は同じで,描かれる場面や方向性が違っていますが,制作時にはどのように線引きされているのでしょう。
土屋氏:
そういった部分も,アニメスタッフを交えて何回も話し合っています。「第〜話のこの要素は,アニメではガッツリと触れてください」と事前に取り扱いを決めることで,2つのメディアで異なる体験を生み出すことができ,同じ展開でも2度美味しい物語にしました。
4Gamer:
アプリ内で体験できるストーリーはいわば,アニメに対するバックグラウンド物のような描かれ方をしていますよね。
土屋氏:
アニメが表側の視点だとすれば,アプリ内の物語は裏側の視点といえます。アニメのあの場面でしょんぼりしていた彼女は,本当のところはどんな思考をしていたのか。これらはアニメ単体だと物語の大体の流れや,想像にお任せすることになりますが,アプリ側でそれらを補完することで,細かな心理描写を表現できるようになりました。
作品の中には,これらをコメンタリーや資料で補うことがありますが,私はそういった情報を取りまとめて,最初から1つの作品としてユーザーの皆さんに楽しんでほしかったんです。異なるメディア同士での作品作りがこういう仕組みになったとき,物語の描き方というのは根底から変わりますし,何より皆さんに新しい体験を提供できるようになります。
4Gamer:
では,これも川崎監督たちアニメスタッフを悩ませたんじゃないかというところで。アニメのAct2では“SNSの世界を表現したフェノメノン”が発現しました。おそらく本作ではこれからも,可視化しづらい物事や概念をビジュアル化していくのだろうと予想していますが,それらのイメージは土屋さんとアニメスタッフとで,どのように打ち合わせされているのでしょう。
土屋氏:
発案はガスト側で,その制作のイメージを東映アニメさんと共有しています。ですが,基本的にアニメはアニメの制作陣主導で作ってもらっています。だから,映像になったときに私自身にも驚きがありますね。フェノメノンの題材については今後も,「攻めてるなー!?」「この媒体でこれやる!?」みたいなものをたくさん出していく予定です。
4Gamer:
それら未配信分も含めて,アニメは現状ですべて制作済みなのでしょうか。
本川氏:
いえ,すべて完パケしているわけではありません。ですが,アニメのアフレコについてはすべて終了しています。
4Gamer:
アプリ内における,アニメの提供の仕方についてはいかがでしょう。ダウンロードとは違い,ストリーミングで視聴していると,人によっては通信量の問題に直面しそうだなと。
土屋氏:
一度はダウンロードも考えましたが,ダウンロードにかかる通信の負担は小さなものではないので,より手軽に試聴できる方法としてストリーミングを採用しています。
それに,今はYoutubeをはじめとする動画共有サイトで,動画をストリーミング視聴する時代です。これに慣れている方も多くいると思います。そのため,スマホで動画を見るという現代の文化に合わせました。あと,バンダイチャンネルさんのご協力により,確実なインフラで,安定してアニメを楽しめる環境が整えられたことも大きいです。
本川氏:
“スマホでアニメを見る”という様式ですが,本作ではネットワークを通して楽しむこと自体が作品の世界観につながっていますし,プレイヤー自身の立ち位置にも大きく関わっているので,これが合っていると思いますね。
4Gamer:
プレイヤーもアプリもアニメも,さらには彼女たちや世界観,そしてそれらの遊び方を含めて,すべてが作品の楽しみ方につながっているんですよね。設定が設定のまま置いてあるのではなく,それぞれのアクションがかみ合っているといいますか。
土屋氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
個人的には「(彼女と)一緒にアニメを見る」の項目を見たときも衝撃的でした。内容だって,世の中でいうオーディオコメンタリーとも違っていましたし。このコンテンツはいつ発案されたのでしょう。
土屋氏:
それはもう,一番最初の企画書の時点で書いてあったものですよ。私は本作の世界観やコンセプトを誰にでも分かりやすく感じてもらうため,“彼女と一緒にアニメを見る”という概念を絶対に取り入れたかったんです。むしろ,このプロジェクトはこれありきで進んだようなものです。
4Gamer:
それを聞くと,本作がいかにアニメと強い結びつきを持っているのかがあらためて分かります。ただ,個人的にはもうちょっとだけ,ゴキゲンポイントの必要ポイントが引き下げらればと期待しておりますが(笑)。
本川氏:
僕も1つ,提案していることがあるんですよ。あのエンディングを彼女たちと一緒に見たいって。
土屋氏:
今はエンディングになると,(彼女たちが)追い出されちゃいますからね(笑)。
本川氏:
これが検討します,検討しますって言われてて,いまだに音沙汰ないんです。個人的に強く期待しています。土屋さん,よろしくお願いします!
例のあのシーンは,ほのぼのとした青空のようで
4Gamer:
続いては,本作のスマホアプリとしてのコンセプトを教えてもらえますか。
土屋氏:
“現実代替”とでもいいましょうか,実在感のある少女たちの姿を,ユーザーの皆さんに見せることです。彼女たちを本当に実在しているかのように感じてもらうため,今後の運営も含めて頑張っています。
4Gamer:
私はアプリの開始時,チュートリアルに要する時間が計33分と表記されているのを見て,かなり強気に来たなと感じました。アニメという飛び道具を有しているとはいえ,スマホゲーム市場は5分のプレイで見切りをつける人から,ダウンロードするだけ派の人も多いと言われていますので。
土屋氏:
チュートリアルは全部省略すれば,5分で終わらせることもできます。ただ,アニメを見ることって,やっぱりお楽しみじゃないですか? その楽しみを一番最初に体験してほしかったんですよ。最初に所要時間を提示していることで,手短にやりたい人は5分で,じっくりとやりたい人は33分でと,状況に応じて選ぶこともできます。この所要時間の提示は,ユーザーの皆さんにも高く評価していただけました。
また,情報の提示をシステム的に行うと,無機質な作品に思われてしまいがちなので,本作ではナビゲーターの千羽鶴(ちはる)にさまざまな情報を代弁させ,かつ面白おかしい掛け合いで進行させています。
4Gamer:
実際,内容がとても濃厚でしたので,チュートリアルからして作品の体験になっている印象です。
土屋氏:
私は個人的にさまざまなスマホアプリをプレイしてきましたが,チュートリアルをネックに感じることが多かったんですよね。アプリを起動しても,チュートリアルがいつまでたっても終わらないと,そこで投げてしまいます。実際,そこでの離脱率はとても高いんです。そのため,チュートリアルがチュートリアルとしてあるから苦痛なのではと考えました。
4Gamer:
つまり,チュートリアルの時点で遊びが始まる。そういうことですか。
土屋氏:
そうです,チュートリアル自体が遊びになるようにと心がけました。
近しい話だと,アニメ業界では俗に“3話切り”と呼ばれる視聴スタイルがありますが,本川さん的には本作の導入部はいかがでしたか。
本川氏:
3話切り……辛い言葉ですね(笑)。続き物のアニメは途中からの参入障壁が大きな課題になりますので,視聴者に見てもらうのがとても難しいコンテンツです。ただ,アプリにしても,アニメにしても,ハードルの高さというのは人それぞれです。何より,本作ではチュートリアルもアニメもいつでも体験できますので,土屋さんの言うように,チュートリアルを飛ばした方も,後々に振り返って体験してもらいたいですね。
4Gamer:
それではチュートリアルから先に進み,作品の華である各ヒロインたちについてお聞きします。まずは,つばめちゃんについてです。
土屋氏:
逢瀬つばめは,根が素直で健気な女の子です。チュートリアルの中で千羽鶴も言っていますが,世間知らずなところがウザかわいいですね。とにかくいろいろと物事を教えたくなっちゃうんです。また,アプリでは女の子たちとのコミュニケーションが主となりますので,1つ1つのやり取りでかわいいと思ってもらえるようにしました。なんでも信じちゃいそうな子なので,思わずからかってみたくなるところがポイント高いです。
本川氏:
まあ,つばめに関してはやっぱりキャストですよ。
土屋氏:
確かに(笑)。
4Gamer:
キャストというと,たけだまりこさんのことですか。
本川氏:
はい,つばめのボイスを担当しているのは新人声優のたけだまりこさんなんですが,アフレコ収録時は現役中学生だったという,リアルにお若い方なんです。当時は小走りで息を切らせながら「学校終わりました!」と,制服姿で収録現場に来ていました。僕はアニメ業界の人間なんで,アフレコ現場に足を運ぶことはままありますけれど,たけださんに関してはなかなか新しい体験でしたね(笑)。
4Gamer:
つばめは正直,たけださんの声との親和性がめちゃくちゃ高いですよね。それこそ,ボイスだけでどんな子なのかが分かってしまうほどに。
本川氏:
現場ではいつも「消しゴム落としちゃったー!」って言ってましたね(笑)。
土屋氏:
なぜか毎回落としていましたね(笑)。
4Gamer:
本人の名誉のために削るべきエピソードかもしれませんが,ファンのためにはぜひとも残すべきかと(笑)。では次に,綾水さんの紹介をお願いします。
土屋氏:
アーヤ(國政綾水)は規律を重視する,表面上は堅物に見える子です。普遍的な立ち位置でいうと,優等生キャラが近いですね。ですが,本作ではそんな優等生キャラの内面の,さらに裏側の弱いところも描きます。彼女も人間ですから,周りから見える部分だけがすべてではありません。そういうところとのギャップに可愛さを感じてもらいたいです。
4Gamer:
アーヤに関しては,初っ端のココロスフィアに出てくる欲求人格がすごかったですね。人によっては,一発で心を持っていかれるんじゃないかと。
土屋氏:
かもしれません。そういう意味では(心の中の鬱憤やストレスが)一番爆発しそうなのはアーヤだと思っています。彼女が普段から抱えている問題を,いろいろと解消してあげてください。
4Gamer:
ギャップの振り幅が大きすぎて,もはや卑怯です。綾水さんが一番いいと思います。
本川氏:
僕は本作のクリエイティブには直接関わっていませんが,アーヤを初めて見たとき,土屋さんにお礼を言いましたよ。「土屋さん。このアーヤって子,素晴らしいですねえ……」って。
4Gamer:
というと,本川さんもイチオシですか?
本川氏:
超イチオシです! 今はまだ配信前ですが(※インタビューの実施日は2017年4月26日),今後配信するアニメに僕のイチオシのエピソードがあるので,ぜひとも皆さんには見ていただきたいんです。あまり上品な言い方ではありませんが,男性的な視点から見て,僕は「(アーヤが)なんていい女なんだ」と思いました。
4Gamer:
その熱いアピール,アーヤ好きのプレイヤーにも届くことでしょう。さて続いては3人め,ギャヴィに関してです。
土屋氏:
ギャヴィ(ガブリエラ・ロタルィンスカ)は,記号的な表現でいうならば,ツンデレですね。本人にツンデレと伝えると,「ツンデレ言うな!」と返ってくる,それも含めて典型的なツンデレです。しかし,彼女は5人の中では最も人格の表裏が激しい子です。そのギャップは,物語の序盤から分かってもらえることと思います。
4Gamer:
ギャヴィは一見,ちっちゃいマスコット系キャラクターの立ち位置に見えますが,彼女が抱えているであろう問題は,甘いものではなさそうですよね。
土屋氏:
はい,そのとおりです。ギャヴィはとくに影の部分が濃いといいますか,いわば爆弾を抱えています。序盤はプレイヤーとのやりとりもぞんざいなので,見かけによらず接しにくいところもあります。さらにこれから先,彼女にはさまざまな試練が降りかかります。プレイヤーにもさまざまな難題がのしかかると思いますが,彼女のことが好きな人は,ぜひとも最後まで支えてあげてください。
4Gamer:
ヒロインたちは全員,第一印象だけでは語れないキャラクターに仕上げられているので,いい意味で印象を裏切られた感じです。
土屋氏:
本作に登場する女の子たちは,画一的ではありません。これは最初から最後まで,素直な子を,素直な子として描くわけではないということです。そういう変化にも着目してみてください。
本川氏:
ちなみに土屋さんの中で,小さな女の子が大きな銃を持つみたいな,そういうフェチズム的な考えってあったんですか?
土屋氏:
ありました,ありましたね。絶対こうしようと決めていたことです(笑)。
4Gamer:
属性と言ったら安易かもしれませんが,そういうのも含めて,好きな人は間違いなく好きですよね。ギャヴィは。
土屋氏:
ネット上の意見を見ていると,(作品に対する)熱量の高い人ほどギャヴィ好きが多い印象です。
4Gamer:
分かる気がします。その嗜好の業の深さ……。それでは次の子,編集部内でも同僚がイチオシしている,みやびはいかがでしょうか。
土屋氏:
おっ,やはりそうですか。
4Gamer:
えっ,はい。ええと,その,「胸がいい」と言ってました。
本川氏:
ああ,そこでしたか(笑)。恋ヶ崎みやびはローンチ前からユーザー人気が高く,5人の中では最もフックが多い少女です。スタイルがよく,不思議ちゃんなところや,悪ふざけにも乗り気なところ,PC関連に強いというキャラクター性もあり,最初のうちは一番目立つと思っていたんです。アプリ内でも一緒にいて楽しい子なんですよね。
4Gamer:
確かに,いきなり友達になれそうなタイプに見えます。
土屋氏:
しかし,みやびは深入りできそうに見えて,実際は浅いところでしか他人と関わらない少女なので,彼女としばらく付き合っていると,段々と「えっ?」と思うような事態に出くわすと思います。
4Gamer:
そうなんですよ。のらりくらりといいますか,なんとなく一筋縄ではいかなそうなんです。
土屋氏:
そういう点はギャヴィと対照的に作ってあるんです。みやびは最初から積極的にモーションをかけてきますし,発言にも裏表がないので,話しやすい女の子として選ばれやすいはずです。でもそこから先に,さっき言ったような瞬間がプレイヤーに訪れるんですよね。
4Gamer:
彼女は口調も独特ですよね。土佐弁しかり,ネットスラングなども織り交ぜていて。
土屋氏:
土佐弁にした理由は結構単純で,自分が土佐弁を大好きだからです。土佐弁辞典とか普通に持ってますし。実は前作でもとあるキャラを土佐弁にしたかったのですが,スタッフからの猛反対に遭い,謎なオババチックな台詞回しになりました。なので,今回晴れて起用できて感無量です。個人的には日本一萌える方言だと思ってます。
4Gamer:
そんな念願の秘話が隠されていたとは。しかし,担当声優さんは演技のディレクションが大変だったのでは?
本川氏:
演技指導には現場でもかなり力を入れられてましたよね。萩原さん(CV.萩原あみ)の出身は大阪府ですので,土佐弁のイントネーションにはかなり苦労されたと思います。
土屋氏:
みやびと萩原さんの土佐弁の監修は,3重くらい入っています。まず,担当ライターが四国出身なので,アプリ内の台詞の監修をやってもらっています。それと萩原さんの演技の方言指導の方がいて,さらに社内の高知県出身のスタッフにも,アニメの脚本などのチェックをしてもらっています。みやびの土佐弁に関しては,ものすごい厳密にやっていますね。
本川氏:
近年で言うところの“バブみ”を一番感じたのは,みやびでした。
4Gamer:
ああ,5人の中で母性を感じさせるのは,みやびかもしれません。
本川氏:
彼女についても,後々配信するアニメのとあるエピソードが最高なんですよ。ぶっきらぼうで,いろいろと言動がぶっ飛んでいる女の子なんですが,「あ,優しいんだな」って思えるところが多々垣間見えまして。僕の魂が“オギャる”といいますか。
4Gamer:
立て続けにぶちこまれますね(笑)。では最後は誰もが注目しているであろう,神楽についてです。私は前述した4人と神楽を含む,5人のプレイアブルでサービスが開始するものだと思っていましたが,このあたりはいかがでしょう。
土屋氏:
卯月神楽については,まだ多くを語ることはできません。しかるべきタイミングで展開があると思いますので,それまで彼女のことをぜひ応援してあげてください。
4Gamer:
ということはつまり,仮に神楽が参入するとしても,それはストーリーの展開ありきということですか。
土屋氏:
はい,そうです。別の理由でプレイアブルにしていないわけではありません。彼女の参入タイミングに関しては,物語全体のプロットの第1稿から決まっていたことです。サービス展開を鑑みての消去法的な露出ではなく,別の役割を担っているからこそなんです。
4Gamer:
そういう事情があったのですか。ますます期待してしまいます。
土屋氏:
現時点で彼女が出てくる場面はそう多くはありませんが,応援してほしい。彼女のことはすごく応援してほしいと思っています。ホントめちゃ応援してほしい。ぜひ応援してほしい。
あのー,ここで聞くのも無粋なので返答はサラッとで構いませんが,PVなどで目にする,つばめと神楽の“例のシーン”についてのコメントはありますか? 全ユーザーがいろいろと想像力を働かせてしまう構図だと思いますが。
本川氏:
僕からはノーコメントです。
土屋氏:
とても素敵な青空で,ほのぼのとした爽やかな絵だと思います。
4Gamer:
なるほど,ここまでにしておきましょう(笑)。
皆が好きになってしまう,千羽鶴という女の子
4Gamer:
これまで紹介してもらったとおり,トライナリーの5人は赤,青,緑,紫,黄と特徴的な色分けになっています。これらはキャラがあって色を付けたのか,色があってキャラを当てたのか,全体のキャラクター作りの方向性はありましたか。
土屋氏:
そこは微妙なところですね,どっちとも言えます。まず,本作は魔法少女物として,何かと戦う女の子たちを描くことを前提にしていました。そこに5人のキャラクターを登場させるなら,それぞれにカラーをつけることは,作品作りにおいて一般的な手法ですので。
すみません,東映アニメといえば,それぞれカラーのある少女たちが何かと戦う作品を作らせたら,業界内で右に出るものはいませんよね――ということを言いたかっただけでもあります(※「プリキュア」シリーズの意)。
土屋氏:
ああ,なるほど(笑)。
本川氏:
ありがとうございます(笑)。
4Gamer:
あと,キャラクターに関しては忘れてはいけない,千羽鶴がいます。正直なところ,彼女は魅力的に作り過ぎたのでは?
土屋氏:
そう思われましたか?
4Gamer:
はい。私は5人のヒロインに出会う前,チュートリアルに登場する千羽鶴を見て,ノリの良い親友といいますか,秘密を共有する間柄といいますか,そういうのを感じて,ぶっちゃけトライナリーの皆が霞むくらい,千羽鶴を好きになってしまいました。「私は非攻略対象!」なんて言われたら,普通は好きになるじゃないですか。逆効果すぎますよ!
土屋氏:
正直に言って,ネット上の反応を見ている限り,狙いどおりではありましたが,思ったよりも反響が大きかったなと。
4Gamer:
というと,最初に千羽鶴に好意を持ってもらうことは織り込み済みであったと。
土屋氏:
そのとおりです。彼女にはちゃんと意味があって,魅力的に思ってもらえるような少女に仕上げました。最初に千羽鶴のことを一番好きになってもらうのは思惑どおり……なんて言うと嫌われそうですが(笑),目論見であったのは確かです。
4Gamer:
作品的な立場やナビキャラとしてのいじり易さから,千羽鶴のような立ち位置のキャラクターが,プレイヤーたちに親近感を持って愛される現象はよく見られることです。しかし,千羽鶴はそういったコミュニティ特有の人気の盛り上がりではなく,出会ったときからスタートダッシュをかましてきて,フルスロットルで男心を奪ってきます。真正面からメインヒロインたちを霞ませるほどの魅力をもってです。
土屋氏:
スマホアプリにおいてはキャラ付けの程度はあるものの,プレイヤーや主人公との距離感が最初から近いキャラクターがよく見られます。これはプレイヤーに好印象をもってアプリを始めてもらうための,いわばお約束みたいなものです。
4Gamer:
ふむふむ。
土屋氏:
ただ,ここで本作の序盤を思い返してほしいのですが,ヒロインの4人は各々がしっかりとした人格を持っています。それこそ,最初のうちはプレイヤーをbot扱いしたり,存在を疑ってかかったりと,ぞんざいな立ち上がりですよね?
4Gamer:
ああ,土屋さんの言わんとすることが見えてきましたが,どうぞ続けてください。
土屋氏:
物語を進めていくと,彼女たちそれぞれの内面が見えてきて,親密感を高めれば恋人以上の関係を築くこともできます。ですが,序盤はプレイヤーと登場人物達との関係がまっさらなので,導入間もなくから「誰あなた」「ばーか」「知らない」などの扱いばかりを受けると,人によってはそれだけでアプリから離れてしまうと思います。
その体験のみでアプリに触れる機会を失わせてしまうのはすごくもったいないことですし,私もできれば本作を長く遊んでほしいと思っていますので,千羽鶴にはスペースシャトルでいう,燃料タンクの役割を担ってもらいたかったんです。
4Gamer:
成層圏に突入するまでシャトル全体を一気に加速させるという,アレですね。作品に置き換えてみると,序盤から大きく目立ってプレイヤーの興味をけん引する役割,とでもいいましょうか。実際,その効果は目に見えるほど波及していました。
土屋氏:
私は最初の1か月くらいは,皆さんには千羽鶴が一番好きでいてもらって構わないと考えていました。千羽鶴が新しいことを喋るから,来週のアップデート後もプレイしようと思っていただけたら,それは非常に嬉しいことです。
でも,そうやって千羽鶴とのコミュニケーションを楽しみつつも,ヒロインたちと交流していってもらえると,先ほどお話ししたように「あれ,もしかしてこの子たちって」みたいな興味が生まれてくるはずなんですよ。そこから徐々に,好みの女の子へと意識が向いていくのではと思っています。
だから,皆さんが最初に出会う千羽鶴という少女は,作品全体の盛り上げ役であり,“皆に好きになってもらいたい女の子”として作ったんです。その結果が予想どおりでもあり,期待以上でもあったと(笑)。
4Gamer:
皆に好かれる女の子を狙ってデザインできているところは,手腕というほかないですね。一方で千羽鶴は物語において,いわゆる狂言回しのような役も担っています。作品の世界観を鑑みても,ただのシステム的なナビゲーターでは絶対にありませんよね。
土屋氏:
もちろん,それらは将来的な伏線としてデザインしているので楽しみにしていてください。
本川氏:
ちなみにアニメのAct1のどこかのエピソードに,一瞬だけ千羽鶴が映っているカットがあるので,知らなかったという人はぜひとも探してみてください。
4Gamer:
千羽鶴を含めてようやく女の子たちの情報が出揃いましたので,次は彼女たちとのコミュニケーションに関する設計や考えを聞かせてください。まず,女の子たちとの交流は最初からスマホを通じたチャットで行うことを決めていましたか。
本川氏:
単純な話ですが,LINEなどで誰かと会話しているとき,相手がどのような状況にあるのか気になったことはありませんか?
4Gamer:
はい,ありますね。真面目な顔で馬鹿なことを書いているんだろうかとか,その逆とか。
本川氏:
例えば,気になる異性から「私今お風呂中だよー♥♥♥」なんてメッセージが飛んできたら,普通気になりますよね? 想像しちゃいますよね? でも,「拡張少女系トライナリー」ならそれが見えちゃうんです!
土屋氏:
先ほど言った「彼女と一緒にアニメを見る」と同じく,チャット形式で会話する「ヒメゴトチャット」は,一番最初にコンテンツ案として挙げていたものです。実在感を表現するためのアプローチとして,現代では当たり前となったスマホを使い,SNSなどのメッセージツールを通して彼女たちと話せれば,それが現実に一番近いスタイルになるんじゃないかと考えたわけです。
4Gamer:
作品内のキャラクターと,リアルなコミュニケーションを取るというのは,これまでもさまざまな作品が挑んできたことです。しかも,本作は架空と割り切るのではなく,実在感というワードを元に詰めています。こうなるとプレイヤーに「俺コンピューターと喋ってるわ」などと思わせてしまう,しらけのハードルが非常に高くなってしまいそうですが――なんとも自然なんですよね。べた褒めですが。
本川氏:
土屋さんの作家としての特徴は,女の子の内面に独特の波を広げていって,そこに分け入っていく体験を作り上げるところにあると思います。だから,“土屋作品ならでは”といった作風になるんですよね。アニメであってもこれに近い楽しみ方をされているファンはいらっしゃいますが,今回のようにアプリとアニメでそれらを表現し,さらに深い結びつきで相互に補強しているケースは稀だと思うので,ぜひ遊んでみてほしいです。
それに「チャット」「夜間」「パジャマ」ですよ。この組み合わせは盛りすぎです。最適解とか,黄金律とか,そういう概念に限りなく近づいてしまっていると思います。
本川氏:
考え得る限り,人が最も無防備な瞬間ですよね。
土屋氏:
それもまあ,最初から考えていた構図です(笑)。
4Gamer:
これまでの話だけでも,企画当初からいかにコンセプトがブレていないのかがうかがえます。
そうだ,コンセプトといえば,私がアプリを始めた瞬間の第一印象って,「すっごいオシャレだな」みたいな感覚でした。この作品は演出面にとても力が入っていますよね。
土屋氏:
オシャレ感もまた,狙っていたことです。本作で目指したのは都会的な雰囲気で,かつベクターイメージのような方向性です。私はなにより,このアプリを遊んでくださるユーザーの皆さんに,このアプリを遊んでいることを,胸を張ってもらいたかったんです。
4Gamer:
遊んでいることに胸を張れる作品,その感覚は私も共感できるものです。
土屋氏:
本作では,かわいい女の子たちが作品のイメージの矢面に立っていますが,実際にプレイしたときにはそれだけにならないよう,細かなデザインを追求し,それらをひっくるめて作品全的をオシャレに思ってもらえることを目指してきました。
4Gamer:
私がふわっと感じたオシャレさというのは,UIのリッチさやチープさといった質の話だけではなく,遊んでいる人が無意識に感じ取るような,アプリへのモチベーションにつながるものだと考えています。形式と事項ばかりのシステム的な画面や,無機質なだけのローディングなどは,普段のプレイ中には意識しないものの,徐々に興味をすり減らしていくものだと思うんですよ。
土屋氏:
画面ごとの切り替えもそうですし,ローディング中にも何かを楽しんでもらいたかった(※デイトラなど)ので,そういう細かい演出にはとくに気を配りました。
例えばですが,グッズにしてもただ絵がペターンと張られているだけのものではなく,しっかりとデザインナイズされているというか,知らない人が見ても「それオシャレだね」と思ってもらえるような物にしたいんです。持っていることがいろいろな意味で億劫にならないよう,持っているだけでその人にとっての付加価値になるようなものを目指したいんです。
それに本作では現実代替を謳っているので,当然リアルな体験ができる施策を行っていきたいと考えています。そのとき,スマホの画面の外に展開している「拡張少女系トライナリー」も含めて,作品の世界観として受け取ってもらいたいと思っています。
本川氏:
オシャレ感といえば,BGMは欠かせませんよね。
4Gamer:
欠かせません!
土屋氏:
サウンド面の反響は,ユーザーの皆さんからも多くの意見をいただいています。
4Gamer:
ちゅっちゅるちゅっちゅっちゅる,ですね!
(一同笑)
土屋氏:
BGMは早いうちから“カフェミュージック”というコンセプトで制作を進めてきました。
4Gamer:
カフェミュージックですか,なるほど。ようやく音楽の雰囲気を言語化できた気がします。
土屋氏:
オシャレな都会像っていうと,私はオープンカフェだと思ったんです。本作ではこういった場所に見合うBGMを使いたかったので,この手の音楽の第一人者であるサウンドクリエイターの中塚 武さんに制作をお願いしました。
4Gamer:
貧困な発想かもしれませんが,サウンドを聴いていると確かに「表参道」「代官山」なんて言葉が浮かんできます。実際の風景はあやふやなのに。
土屋氏:
まさに,表参道系でお願いしますと頼みました。
本川氏:
あのBGMを聞いているだけでも,すごく新しいなと思いました。音楽でこの作品に興味を持つ人もいるでしょうし,作中の女の子たちがこういう音楽を聴いているんだな,なんて思ってもらうのもいいですよね。
4Gamer:
良質なゲーム音楽というのは,さまざまなゲームをプレイし続けていると,いくつも出会うと思います。けれど,“なんとなく好き”以上に能動的にさせるほどの音楽(※楽曲名を覚える,サントラを購入するなど)ともなると,作品での体験があまりに素晴らしかったとか,メロディーの切り口が鮮烈であったとか,付加的な何かが必要になると思うんですよ。ちゅっちゅるちゅっちゅっちゅる,みたいな。
本川氏:
これは雑談なんですが,僕はファミコン世代の人間なんですよね。中でも,「ドラゴンクエストII」のふっかつの呪文の画面で流れる,「Love Song 探して」という楽曲が大好きなんです。子供の頃からこれが好きで好きで仕方ない。
土屋氏:
分かります! あれは当時のファミコン音楽の中でも群を抜いて素晴らしい楽曲でしたよね! こんな旋律がファミコンで作れるんだって。
4Gamer:
それって,土屋さんにとっても,本川さんにとっても衝撃のBGMとの出会いだったとか?
土屋氏:
衝撃でしたね。当時は牧野アンナさんの歌入りのEP盤が販売されていたんですが,これがどこにも売ってなくて……。いろいろな場所を何度も何度も巡ったのですが,結局見つからず,泣く泣く諦めたことを今でも覚えています。
本川氏:
そうそう(笑)。それに僕はこの曲のおかげで,ゲーム音楽というものはなんて素晴らしいのだと,その当時から感じられるようになりました。
4Gamer:
「Love Song 探して」の存在は,これまでの作品作りにも影響が及んでいると思いますか。
土屋氏:
あると思います。当時のゲーム内には歌は入っていませんでしたが,そもそも歌物をBGMに落とし込むというその発想がスゴイ。この手法はもちろんですし,歌といわずともコーラスを入れてサウンドの表現力を高めるなどは,私もこれまで注力してきたことの1つです。そうですね,こういう音楽作りの源泉は,もしかしたら「Love Song 探して」が一因になっていたのかもしれません。
本川氏:
僕がお手伝いした作品の音楽と出会い,僕のような感動を覚えてくれる人が生まれてくれることは,僕の夢の1つです。僕にとっての「ドラゴンクエストII」の「Love Song 探して」のように,「拡張少女系トライナリー」の音楽が,誰かにとっての素晴らしい出会いになってくれたら,こんなに嬉しいことはないですね。
4Gamer:
私も,(インタビュー的に)なんて素晴らしい雑談を振ってくれたのだろうと感謝しております。
土屋氏:
本川さん,本当に素晴らしい雑談を振ってくれましたね。
本川氏:
いやいや(笑)。
4Gamer:
ちなみに,本作のサントラのリリースは期待していてもいいですか。
土屋氏:
そうですね,何らかの形で展開していく予定です。発表できるタイミングが来ましたら,ユーザーの皆さんにお伝えしていきます(※)。
(※2017年5月1日,Google Play Musicにてオープニング/エンディングの楽曲が先行配信され,ランキングの上位に食い込むなど人気を呼んでいる。詳しい情報は特設サイトで。)
4Gamer:
まだまだ聞きたいことはありますが,時間も時間ですので,締めにいく前に今後の展開について軽く教えてください。まず,これから先のアップデートの方向性はどのようになるのでしょう。
土屋氏:
アップデートは毎週実施を予定しています。毎週水曜日にアニメの新作ショートムービーを配信し,同時にコンテンツ面の拡張を進めていきます。それと,ニコニコ動画さんでは専用チャンネルを設けてアニメの配信を随時行っていきますので,こちらもぜひ視聴してください。
本川氏:
それと「スペシャルクラン」ですね。これはアプリ内で提供する特別なクランのことですが,凪良さんや吉崎観音さん,いのまたむつみさんや,ちょぼらうにょぽみさんなど,キャラクターデザインを人気イラストレーターさんや漫画家さんにお願いしています。
4Gamer:
プレイヤーにはそれぞれ意見や要望があると思いますが,インタビュアーの特権で希望を言ってしまうと,私は「グループチャット」が欲しいです。
土屋氏:
ああ,なるほど。
4Gamer:
複数のヒロインと同時にチャットを出来たら,組み合わせも含めて楽しめそうだなーって。
土屋氏:
女の子たちとのつながり方は,この先いろいろと増やしていきたいと思いますので,いろいろと模索している最中ですね。
4Gamer:
ちなみに,プレイヤーから来ている意見で最も多いのはなんでしょうか。
土屋氏:
ううん,そうですね。やはり「神楽はよ!」でしょうか。あとは「千羽鶴が攻略対象にならない不具合を直してください」ですかね。
4Gamer:
では少し意地の悪い質問ですが,今後フリーズなどの動作不良の改善は見込めるのでしょうか。
土屋氏:
はい,ユーザーの皆様には大変ご不便をおかけしておりますが,現状で改善の見通しが立っていますので,もう少々お待ちいただければと思います。
4Gamer:
あと,本作は今のところ海外配信をされていませんよね。今後は海外でのリリースも予定されていますか。
土屋氏:
詳しくは話せませんが,地域ごとのインフラ状況などを踏まえて検討はしています。Twitterなどでも,海外の方からの本作に対するコメントが見られたりするので。
本川氏:
海外には東映アニメの作品をはじめ,ガストさんとその作品を愛されている方が多くいますので,可能であれば積極的に進めていきたいです。
4Gamer:
そのほか,今後はアプリ外でのイベントは予定されていますか。
本川氏:
現状でお伝えできるものはありませんが,企画はさまざまなものを考えています。とくにキャストさん関連ですね。本作ではフレッシュな声優陣を揃えることができましたので,イベントやタイアップなどを通して,彼女たちと作品の魅力をお届けしていければと考えています。
4Gamer:
あっ,聞いておきたかったことがもう1つ。スマホアプリの運営には隆盛があるものの,現在では数年にわたる長期のサービス提供を実現しているタイトルもあります。しかし,アニメってどうしてもというか,媒体的に最終回がつきものじゃないですか? なので,本作もアニメの最終回をもって……なんてことがあってしまうのかなって。
土屋氏:
作中の時間が進まない類の作品ではないので,どうしても区切りは必要になります。
4Gamer:
つまり,最終回とはいわずとも物語としての一区切りは予定されているということですか。
本川氏:
そういう部分も含めて,ぜひともご期待ください。本作のエンターテイメント体験が,どう新しくて,どう変わっているのかは,これから先の展開で明らかになります。ぜひご自身で驚きの中心に立ち,それらを味わってみてください。
4Gamer:
次から次へと期待が舞い込んでくるインタビューでした。それでは最後に,「拡張少女系トライナリー」への思いをそれぞれ聞かせてください。
土屋氏:
あらためてになりますが,「拡張少女系トライナリー」のコンセプトは現実代替です。スマホの内外を含めて,本当に彼女たちが実在していると思ってもらうため,それを形作る表現をどんどん押し出していきたいと考えています。
そして今話題に挙がりましたが,物語が結末を迎えるとき,そこで彼女たちのことをユーザーの皆さんにどのように思ってもらえるか,私はそこで「かけがえのない出会いであった」と思ってもらうために頑張っています。ぜひ今後ともよろしくお願いします。
本川氏:
土屋さんに考えていただいた「あなたの愛で、私は拡張する。」というキャッチコピーですが,僕はこの言葉がすべてだなと考えています。女の子たちはいろいろな形で,プレイヤーからの愛情を求めているので,男女交際とかそういう間柄以上の感覚で,愛をはぐくんでもらいたいです。これはマジです。
人の内面にこれほど深く迫れる作品というのはほかにないと思います。今後の展開も絶対に目が離せなくなっていきますので,ぜひともご期待ください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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