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「Detached」で知られるAnshar Studios・CEO,ルーカス・ハクラ氏トークセッション。「もうVRゲームの開発は懲り懲りだ」と話すワケ
筆者自身,試作中だったデモをgamescom 2015で体験したが,ヘッドマウントディスプレイを付けて数分もしないうちにVR酔いしてしまい,記事にするのを断念した記憶がある。このVR酔いは2年後に発売された完成版をプレイした人からも多く報告されていたが,「究極的な無重力遊泳」を実現すべく開発を進めていたということで,賛否両論が起こることは予想していたとハクラ氏は話す。
40万ドルという低予算で開発したという「Detached」だが,先んじてリリースされていたReady at Dawnの「Lone Echo」には,クオリティ面でまったく歯が立たなかったというハクラ氏。「あの作品は,私たちがVRで実現したかったことをすべて盛り込んでいた」と素直に白旗を上げていたが,同時に「Lone Echo」はプラットフォームホルダーからの支援を有り余るほどに受けてリリースされていたことも事実であり,プラットフォームホルダーとパブリッシャの関係の重要性を認識したと語っていた。
なお,現在に至るまでの「Detached」の販売本数は2万5000本,収益は41万ドルに収まる結果となったが,マーケティングをほとんど行わなかったにも関わらず,PlayStation VRプラットフォームで意外にも健闘していたことが評価につながり,次回作となる「Telefrag VR」を開発する後押しとなったようだ。
「Telefrag VR」は,2019年7月にローンチされたばかりのVRタイトルで,「Detachedにはシューティング要素がない」というユーザーの声を取り入れて,テレポート要素とシューティングを取り入れ,対戦モードにフィーチャーしたものだ。
マーケティングにも力を入れ,50万ドルの開発予算を費やしたと話す「Telefrag VR」だが,期待とは裏腹に現在までに2500本ほどしか売れていないとハクラ氏は告白する。収益にすると,3万1000ドルしか回収できていないという,惨憺たる結果だ。
その理由として,ハクラ氏は「ヒット作のSUPERHOTに無料クーポンをバンドルしてもらう契約を早くから取り付けたが,SUPERHOTが売れまくったのでタダで配ったようなものだった」と笑い飛ばす。実際,発売から3か月ほどしか経過していないものの,ユーザーの購入額を平均してみると,半額以下の12.4ドルになってしまっているという。また,「Detached」が健闘していたPS VR市場でも低調であり,この理由についてはまったく想像もできないとのことだった。
ちなみに,ハクラ氏が「Telefrag VR」の競合タイトルとして見ていた同ジャンルの「Space Junkies」も,Anshar Studiosの独自調査によると3万本ほどしか売れておらず,「Ubisoft EntertainmentでもVRゲーム市場で利益を上げられない状況なのだから,良いゲームを作るだけでは誰も満足はしない。完璧で独創的なゲームに仕上げなければならない」と心中を語る。VRゲーム市場は「VR元年」と言われた2016年から期待されたスピードで拡大していない一方,ユーザーが求めるクオリティは非常に高くなっており,開発者70人を抱えるAnshar Studiosでも,もはや手を出しずらくなっているようだ。
ハクラ氏のトークセッションは「VRゲーム市場で成功しなかった開発者の不平不満」的な内容になっていたものの,このセッションに参加していた後続の開発者たちには,「VRゲーム市場がなくなると言っているのではありません。IndexやQuestのように,ハードウェアは恐ろしいほどのスピードで進化しており,我々の表現したいことができやすいプラットフォームになっている」と念を押す。
その上で,「今の段階ではゲーム以外のVRコンテンツにも目を向けることで,自分たちの開発力を伸ばすという手もある。なるべく低予算で小さなことに集中して開発するのも悪くはない」と語り,VRゲーム市場での成功の難しさについて持論を展開していた。
「Game Industry Conference Poznań 2019」公式サイト
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