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[TGS 2018]「NieR:Automata」「MONSTER HUNTER:WORLD」「仁王」はいかにしてグローバルヒットを成し得たのか。3名の開発者が語ったTGSフォーラムをレポート
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印刷2018/09/22 03:33

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[TGS 2018]「NieR:Automata」「MONSTER HUNTER:WORLD」「仁王」はいかにしてグローバルヒットを成し得たのか。3名の開発者が語ったTGSフォーラムをレポート

 東京ゲームショウ2018の初日(2018年9月20日),TGSフォーラム「日本発グローバル・ヒットタイトルに学ぶ、国産ゲームが世界で勝つ方法 〜いまどきの海外向けマーケティング、開発、プロモーションの戦略とは?〜」が行われた。

 恒例のイベントではあるが,今年は趣を変えて,国内ヒットメーカーのキーパーソン3名が登壇し,日本のゲームが世界と戦うための方向性が語られた。登壇者はスクウェア・エニックスの齊藤陽介氏(「NieR:Automata」プロデューサー),カプコンの辻本良三氏(「MONSTER HUNTER:WORLD」プロデューサー),コーエーテクモゲームスの安田文彦氏(「仁王」ディレクター)である。

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「MONSTER HUNTER:WORLD」のケース


 前半はそれぞれのタイトルがいかなる過程で制作され,グローバルヒットにつながったのか,その分析が紹介された。

辻本良三氏
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 最初に登壇した辻本氏によると,「MONSTER HUNTER:WORLD」PC/PS4。以下,MHW)は当初から「世界で戦えるタイトル」というコンセプトを掲げていたという。そこには「ユーザーの本能的な感覚は,どの国であっても同じ」という大前提があったとのこと。
 とは言え,それは日本版をそのまま海外に持っていけばいい,という単純な話ではない。そのことは,これまでのモンスターハンターシリーズの動向からも読み取れる。

 日本版をそのままローカライズした「モンスターハンターポータブル 2nd G」は販売比率のうち,海外が占める割合は14%だったという。それが「モンスターハンター4G」ではチュートリアルを強化し,オンラインマルチプレイの提供を行ったことで,30%まで上昇した。これを踏まえて,MHWではさらに高い目標に向けて,次のステップに踏み出すことになった。

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 ただし,世界水準のAAAタイトルを目指すためには,いくつかの面で障壁があったという。それらを乗り越えるべく,開発チームは200名規模のプロジェクトに対応できるように,ディレクター2名体制を採用。開発スタッフを役割ごとにユニット化し,作業フローもこれまでとは異なるものにしたそうだ。
 また,これまでのシリーズ作品よりも高い目標を達成するためには,それ相応のコストが必要となる。そうしたリスクを取りつつも,必要なコストを投じることにした。

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 さらに,辻本氏は「開発者も伝えることを意識する」ことが,世界に向けたプロモーションには必要だと語る。開発とプロモーションのスケジュールを合わせて立てることで,プロモーション施策にも予定どおりの対応が可能になったという。
 当初よりグローバル展開を意識していたMHWでは,各地で実施されるイベントに開発スタッフを同行させるようにしたとのこと。その理由として,来場者の反応を見たりすることで,データだけでは見えない生の声を取り入れられるというメリットを挙げた。また,現場の熱を感じ,海外販社の頑張りを間近に見ることで,自身のモチベーションにつなげられるという狙いもあったそうだ。

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 そのほかにも,欧米で何度もフォーカステストを実施し,大会開催によるコミュニティの盛り上げに尽力している。こうした取り組みの結果,MHWの販売比率は,海外が占める割合が71%となり,カプコン史上最高の出荷本数を記録したことはご存じのとおりだ。

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「NieR:Automata」のケース


齊藤陽介氏
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 続いて登壇した齊藤氏は,「NieR:Automata」PC/PS4/Xbox One)の開発にあたっては,前作となる「ニーア ゲシュタルト」「ニーア レプリカント」の反省から入ったという。
 具体的には,前作の「評価された点」と「及第点と考えた点」を分析したうえで,後者の改善を目指したとのこと。

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 そこで,前作では及第点だったという「アートワーク(主にキャラクター)」と「アクションゲームとしての完成度」を引き上げるべく,「NieR:Automata」ではキャラクターデザイナーに吉田明彦氏を起用し,開発をプラチナゲームズに委託することにした。
 こうした手法について,齊藤氏は「続編だからできたこと」だと断りつつも,「NieR:Automata」のヒットの要因を挙げるならば「何か1つが秀でた結果ではなく,全体のバランスが取れた結果の成功だと考える」とまとめた。

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 一方,プロモーション面では目新しいことはしていないとしつつ,「開発者を前面に出した告知」「体験版のリリース」が最も効果があったと考えられると評した。前者は前作で評判が良かったヨコオタロウ氏の世界観を訴求し,後者はプラチナゲームズのアクションの完成度を伝えるための施策だったという。

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 また,発売後にはゲーム実況の配信制限を撤廃したり,声優陣によるネタバレ有りの座談会を実施したりしているが,それらは口コミ効果を上げるという意図があったとのこと。公式が一定の基準を提示することで,プレイヤー同士の交流を促し,コミュニテイの活性化につながったと分析した。
 そのほか,コンサートや舞台公演,関連商品などの展開を充実させたことが,ファン層の拡充や売り伸ばしにつながったと考えているそうだ。

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 さて,「NieR:Automata」の成功理由を分析した齊藤氏だが,その内容をほかのタイトルがトレースしたところで,「確実に成功できるかは分からない」という。さらに,ゲーム開発に数年間を要するのが当たり前になった昨今,「数年後の市場を予測して開発することが成功につながるとも断言しづらい」と続ける。

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 そこで齊藤氏が提言したのが,「その数年間を開発者自身がテンションをキープしつつ,楽しく有意義にできるか。それが成功に近づくための重要な課題ではないか」というもの。もちろん,楽しいものを生み出すには,つらさや苦しさを伴う。それを踏まえたうえで,楽しい現場にすることが重要だと齊藤氏は力説していた。つらさや苦しさだけでは開発者の情熱やモチベーションに弊害が及ぶことは避けられず,それがゲームにも影響するというわけだ。

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 齊藤氏は最後に「アイデアには旬がある」と付け加えた。いいものを作ろうと考えると際限がなくなりがちだが,プロモーション期間も含めたベストな時期でのリリースは重要な課題であり,大前提である,と語った。

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「仁王」のケース


安田文彦氏
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 最後に登壇した安田氏は,「仁王」PC/PS4)がとくに海外で高い評価を得られた大きな要因として「体験版の施策」を挙げた。
 覚えている人も多いと思うが,「仁王」の体験版は3回配信されている。一般的に体験版と言えば,発売が近づいた時期に「製品版の一部を遊んでもらうもの」という位置づけだが,「仁王」のα体験版は発売の10か月前,β体験版は4か月前に配信された。

 これらの体験版は,当初からプレイヤーのフィードバックを得る目的があり,実際にそれらを踏まえてゲームの内容に反映してきた。その際には調整や改善の方針を公開しているが,こうした事実が功を奏したというのだ。
 プレイヤーの立場からすれば,自分の要望によってゲームがさらに面白いものになるということが確認できるわけで,それが「仁王」を応援したくなる気持ちにつながるのだという。これは,グローバルの観点でも大きな話題となり,プロモーションの面でも大きな効果があったと考えているそうだ。

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 体験版によって海外のプレイヤーからアンケートが寄せられた結果,「欧米のプレイヤーに受ける部分,嫌われる部分」が分析できたことで,前者を伸ばしながら,後者を潰していくという開発を行った。その点も,グローバルでのヒットにつながった要因であると分析している。

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 また,安田氏は「仁王」の置かれていた特殊な状況により,「ストーリー」が生まれたこともヒットの要因だったのでないかと語る。ご存じのとおり,「仁王」の正式発表が行われたのは,2005年だった。そこから発売まで12年かかっているが,これはなかなか特殊なケースだ。
 ネットでは「仁王先輩」などと呼ばれることもあったが,いざリリースされてみると国内外で高い評価を受けた。この意外性がストーリーを生み,知名度向上に寄与した。さらに,開発元であるTeam NINJAのカムバックストーリーという面もあったという。


パネルディスカッション


 後半は海外のコアゲーマーを対象に実施したアンケートの結果を受けて,登壇者3名によるパネルディスカッションが行われた。
 中でも,「日本のゲームの短所だと思う点」を選ぶアンケート項目は興味深い結果となった。「操作性とUI」がほかの項目より,頭一つ抜けて高かったのだ。

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 これについて,辻本氏は「海外のゲームはムダなものを表示しない傾向があるためでは」という見解を示している。また,「モンスターハンター」については当初,その独特の操作性が海外のプレイヤーに受け入れられにくいのではないか,と考えていたそうだが,実際には,初めてプレイする人の反応は国内外で大きな差がないと感じたとのこと。

 一方,齊藤氏も「UIに対する考え方の違い」を1つの要因として挙げた。例えば「ドラゴンクエスト」のUIは使いやすさより,ひと目で分かることを重視しているという。複数階層のメニュー操作はボタンを押す回数は多くなるが,初めて遊んだ人にも直感的に分かりやすい。

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 逆に海外のゲームは階層を深くせず,1つのボタンで機能が使える仕組みになっていることが多いとのこと。ただし,これは仕組みを知らない人にはまったく分からないという欠点もある。
 今回のアンケート結果を受けて,齊藤氏は「海外向けにUIの階層を組み直す」ことも状況次第で考慮すべき点ではないか,との見解を示した。

 安田氏は「仁王」を例に挙げて,海外のゲームとの違いを指摘した。「仁王」はアクションゲームだが,RPGの要素も濃く,さまざまな情報を画面に表示する必要があった。しかし,これは画面の情報が少ないFPSに慣れ親しんでいる海外のプレイヤーには好まれにくいスタイルだと感じているという。

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 その後,テーマは「開発やマーケティング&プロモーションにおける改善の余地」へと移った。
 いくつかのやりとりの中でも,辻本氏が強調したのは「効率よく開発するための環境を整えること」。この点は齋藤氏の提言である「楽しい現場にすることは重要だ」に通ずるものがあり,あらためて「ずっと苦しいままでは,面白いものは作れない」と語った。
 安田氏は「変に欧米を真似してもうまくいかない」としたうえで,自分達が好きなものを作る一方で,海外のプレイヤーに嫌われる部分をしっかり潰す,という両方の精度を高めていくことをこれからのテーマとして挙げていた。

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 三者三様,それぞれの見解が垣間見えたパネルディスカッション。グローバルでの成功に向けて,揺るぎない正解が導かれたというわけではないが,それは当然だろう。ゲームの性格はもちろん,時代と共に変わる業界の潮流,新しい技術の波など,さまざまな要因によって正解は異なるからだ。
 それでも,国内ヒットメーカーのキーパーソンがいかにして成功をつかみ,今後に向けてどのように取り組んでいるかが語られた意義は小さくないはずだ。

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