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NHK「ゲームゲノム」第5回「バイオハザード」視聴レポート。受け継がれ進化するバイオハザードの“恐怖の正体”に迫る
MCを務めるのはこれまでの放送と同じく本田 翼さん。番組のゲストとして,歌手でありダンサーの三浦大知さんと,「バイオハザード7 レジデント イービル」(以下,バイオハザード7)でエグゼクティブ・プロデューサーを務めた竹内 潤氏を迎え,バイオハザードを構成する“恐怖の正体”が掘り下げられた。
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バイオハザード
「バイオハザード」は,1996年にPlayStation向けに発売された記念すべきシリーズ1作めのタイトル。2022年現在まで続くシリーズの礎を築いた作品であり,当時主流ではなかったサバイバルホラーというジャンルを開拓した。その後登場するさまざまなホラータイトルに多大な影響を与えた作品であることは,誰もが認めるところだろう。
第1作めで描かれるのは「洋館事件」とも呼ばれる最初の事件。アメリカの特殊部隊隊員S.T.A.R.S.と,洋館に溢れるゾンビをはじめとするクリーチャーとの戦いが描かれる。
本作を考えるうえで重要な要素となるのが「リソース管理」だ。ゲーム中に獲得できる弾薬や回復アイテムに限りがあるため,プレイヤーは常に戦うか,避けるかの選択を迫られることになる。これがサバイバルホラーを構成するための重要なカギとして,その後の作品にも受け継がれていく。
バイオハザード7 レジデント イービル
初代バイオハザードとともに番組で紹介されたタイトルが,2017年に発売された「バイオハザード7」だ。シリーズの原点であるサバイバルホラー要素が強く押し出されたタイトルで,より没入感を高めるために,シリーズ初の1人称視点(アイソレートビュー)が採用されている。
また,本作のために開発されたカプコン独自のゲームエンジン「REエンジン」が採用された1作めのタイトルでもあり,フォトリアルなグラフィックスが実現されている。
バイオハザード7で描かれるのは,シリーズ初の一般人主人公であるイーサン・ウィンターズの物語。ある日,3年前に消息を絶った妻のミアからビデオメッセージを受信したイーサンは,メッセージを頼りに捜索に出かけ,ルイジアナのとある邸宅に辿り着く。邸宅で待ち受けるベイカー家の住人の襲撃を退けつつ,ミアを救出し脱出を目指す,というのが大まかなストーリーラインだ。
好奇心かきたてる“謎”
バイオハザードを構成する“恐怖の正体”として,1つめのキーワードに挙げられたのは「好奇心かきたてる“謎”」だ。番組では,バイオハザード7の序盤,イーサンがベイカー家に到着して,邸内を探索する様子が紹介されたが,とくにクリーチャーが出現するといったプレイヤーを驚かせる演出はなく,緊張を高めるための謎が散りばめられる構造は一貫していた。
このシーンを見て三浦さんはプレイした当時を思い出し,何も起こらないのに何かが起こる予感だけはずっと続いている。恐怖に心を鷲掴みにされているような感覚だったと話す。竹内氏曰く,クリーチャーが出るのか,出ないのか,分からないから恐ろしいという心理状態をどこまで長く続けられるかが,バイオハザード7の大きなチャレンジだったそうだ。
バイオハザード7では謎を積み上げることに注力した。人間は謎を解くことで,恐怖を与える対象を恐れなくなる。だから恐怖心と好奇心が行き来するようにバイオハザード7を組み立てた。
なるほど。そう言われてみるとバイオハザード7のストーリーは謎が多い。ミアが失踪した理由も,数年度にビデオレターを送った理由も,ベイカー家にいる住人が不死身のような力を持っているのも,はじめは何もかもが分からない。本当に現実の出来事なのかを疑うほどだ。
そしてその“謎を解き明かしたい”という好奇心が歩みを進める理由になるのも間違いない。圧倒的に恐怖心が勝ってしまうとゲームをやめてしまうかもしれないが,この謎と好奇心のバランスが,ゲームを続けて知りたいプレイヤーを恐怖体験へと誘う。
息つかせぬ敵との距離感
続くキーワードは,「息つかせぬ敵との距離感」だ。番組では,ベイカー家の主であるジャックに追いかけ回されるシーンが紹介されたが,この“迫りくる恐怖”には初代バイオハザードからの伝統が受け継がれているという。
初代バイオハザードを制作するうえで三上氏がこだわったポイントは,「ブラインドに潜む恐怖」だという。初代バイオハザードは固定カメラだったため,視点移動はできなかったが,これを逆手に取って曲がり角や物陰などに,キャラクター視点では見えているのに,プレイヤー視点では見えないクリーチャーが配置できた。
クリーチャーがいることは分かっているのに距離感が掴めない。これが恐怖を感じることにつながっている。
バイオハザード7でジャックに追いかけられるシーンも同様で,ベイカー家は扉の多い迷路のような構造になっていて,視界外から突然ジャックが現れることも多い。壁をぶち破って登場するのも似たような演出と捉えていいだろう。
また,視野角についても1人称視点のゲームはふつうであれば120度くらいを採用することが多い中,バイオハザード7では80度が採用されたという。死角が多いというのは,敵との距離感に対する緊張を生み出す余地がそれだけあるということなのだ。
初代バイオハザードから受け継いだこととして,そのほかに通路の幅へのこだわりもあるという。初代バイオハザードを制作するうえで三上氏は,クリーチャーとすれ違う距離を決めるため,通路の幅にこだわり続け,一時期は巻き尺を常に持って過ごしていたそうだ。その結果,三上氏が出した答えは90cm――人とすれ違うときに緊張する距離が一番怖いと結論を出した。
ゲームをつくるときの単位はキリがいいほうが望ましいとのことだが,三上氏は90cmにこだわり,100cmではなく90cm,その10cmが大事と話していたという。なので,バイオハザード7においても,その通路幅は90cmの設定は守られているそうだ。
また,プレイヤーのオアシス的な存在であるセーフルームも初代以降の作品に踏襲されている。初代バイオハザードにセーフルームを取り入れた理由として三上氏は,「恐怖心と諦めない心のバランスを保つため」と話していた。
竹内氏曰く,セーフルームにはさらなる恐怖心を掻き立てる効果もあるという。ホラーゲームは緊張と緩和でプレイヤーのテンションを管理することが重要で,恐怖心を掻き立てられているシーンはジェットコースでいう昇っているところだと表現した。頂点に位置するのがクリーチャーが襲い掛かってくるシーンで,倒すことでテンションは一旦落ち着いてしまう。
このテンションの落差が大きいほど,恐怖心と安心感が比例して大きくなるとのことで,セーフルームで一旦テンションを落ち着かせることで,次につながる,さらなる恐怖を演出できるそうだ。
時代とともに変化する敵
番組で紹介された最後のキーワードは,「時代とともに変化する敵」だ。初代バイオハザードの代表的なクリーチャーはゾンビで間違いないが,バイオハザード7にゾンビは登場しない。
バイオハザード7で初めて遭遇する敵は,理性を失い,見た目も豹変してしまったイーサンの妻であるミアだ。このシーンでプレイヤーは,助けるべき対象であるミアに襲われる恐怖心を抱くとともに,最愛の妻を攻撃していいのかという葛藤にも苛まれる。
妻という存在は夫にとって一番身近な他人。自分の最も身近な人が自分の知らない姿になって襲ってくる。その恐怖はものすごいものになる。
竹内氏はこのシーンについて,バイオハザード7以前の技術では,表現するのが難しかったとも話す。このシーンでは,ほんの少し前まで美しかったミアが,突如醜く豹変し,イーサンに襲い掛かってくる。細かい表情の変化なども重要になるシーンだが,竹内氏は最新ハードであればうまく表現できると確信し,バイオハザード7の最初の敵にミアを設定したそうだ。
“恐怖の正体を解剖する”というお題で語られた今回の放送だが,それぞれのキーワードに対し提示された内容は,プレイヤー視点でも納得できるもので,とても興味深いものだった。シリーズのファンであり,怖くてもつい遊んでしまうという三浦さんも,「怖さは人間の知識欲に深くつながっている魅力的な感情。そこをエンターテイメントに昇華しているのがバイオハザードシリーズ」と評した。
バイオハザードは恐ろしい対象を打ち破れるゲームであり,そこで勇気や快感,達成感を味わえる。プレイヤーが恐怖を乗り越えることでバイオハザードは完結すると考えており,その思いを受け止めて,楽しんでもらいたい。
個人的に一番印象に残ったのは,番組の最後に竹内氏から贈られたこの言葉だ。バイオハザードは恐怖から逃げるゲームではなく,恐怖に立ち向かうゲームだ。操作する主人公はみな勇敢で,「そこは逃げようよ……」とついついプレイヤーのほうが弱気になってしまうことも多々ある。
「まあそう怖がるなって」,バイオハザード7のジャックの台詞だが,正直なところ,撃っても死なない不死身のおじさんが,スコップを振り回して襲い掛かってきたら,怖がらないほうがよっぽど不自然だろう。
しかし語られたようにバイオハザードシリーズは,恐怖を乗り越えることで達成感を得られるエンターテイメントだ。言い換えればビビリなほど楽しめると言ってもいいかもしれない。
昨今は,ホラーゲームの実況配信が流行しているが,個人的には自分でプレイし恐怖を乗り越えてこそ,ホラーゲームを100%楽しめるのではないかと思う。この番組を見て,興味が湧いた人はぜひ自身の手でプレイしてみてほしい。個人的には「バイオハザード7」はかなり怖い部類なので,「バイオハザード RE:2」または最新作の「バイオハザード ヴィレッジ」からの入門をオススメしたい。オススメとは言っても,どちらも恐ろしいシーンがてんこ盛りだが。
2022年10月5日 放送開始(全10回)
毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で同時配信・1週間見逃し配信あり
※ NHK オンデマンド配信あり
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