プレイレポート
「Marvel’s Spider-Man」は,原作を知らなくても楽しめるオープンワールドアクション。ビルの谷間を飛び渡り,華麗なバトルに血がたぎる
原作を知らなくても,オープンワールドアクションとして楽しめる
スパイダーマンは,マーベルコミックのスーパーヒーローだ。誕生は1961年なので,実に57年もの間,世界中の人々から親しまれていることになる。
主人公であるピーター・パーカーは,ひょんなことからクモの能力を手に入れる。当初は慢心していたピーターだが,犯罪者に伯父を殺されたことから,大いなる力に伴う大きな責任を自覚。クモをモチーフとしたスーパーヒーロー・スパイダーマンとなって,人々を助けるために活動することになる。
壁にはりつき,アクロバティックなアクションをこなし,怪力を発揮し,自分に迫った危機は「スパイダーセンス」で察知する。こうした能力に,自ら作ったハイテクガジェットを組み合わせ,悪党どもと戦うのだ。
スーパーヒーローの生活と聞くと,華麗なセレブライフを想像しがちだが,スパイダーマンの別名は「親愛なる隣人」だ。ピーターの私生活は実に庶民的であり,本作でも家賃を払えずにアパートを追い出されたり,元カノとの復縁チャンスにウキウキしたりする。誰もが憧れる超人的な力と,誰もが共感できる日常の悩み。そのコントラストが,ピーターとスパイダーマンの魅力なのである。
……といっても,本作を遊ぶ分には「主人公の名前はピーター」「ピーターはスパイダーマン」「スパイダーマンは壁にはりつける」「スパイダーマンは人工のクモの糸(ウェブ)を発射して敵を捕まえたり色々する」というくらいのことが分かっていればいい。オープンワールドアクションとしての完成度が高いため,予備知識ゼロで遊んでも楽しめるくらいだ。
そんなスパイダーマンを操れる「Marvel’s Spider-Man」。本作を語るうえで欠かせないのが“移動の爽快さ”だろう。スパイダーマンは卓越した運動能力を持っており,ウェブをロープにしてビルの谷間を飛び渡る。
その動きこそ超人的だが,操作はシンプルだ。[R2]ボタンを押すと手近なビルに自動でウェブが発射され,振り子運動が始まる。前方への勢いがついてるうちに[R2]ボタンを離すと勢いよく前に飛び出すので,そうしたらすぐに[R2]ボタンを押してウェブをビルにはりつける。こうした振り子運動を繰り返すことで,ターザンのように移動できるというわけだ。
[R2]ボタンは地上で押すとパルクールになる。壁に向かって押すと壁走り(ウォールラン)になるため,極端な話,操作に慣れない内は[R2]を押したり離したりしているだけで,街を駆けたり飛び渡ったりできる。勢いが付いたところでウェブを切り離し,虚空に放り出された時の解放感は格別だ。ここに加速(ウェブ・ジップ)や急降下,トリックを組み合わせると,縦横無尽の空中機動が楽しめる。
垂直のビル壁を駆け上がり,屋上から一気にダイブ。落下しつつビルにウェブをつなぎ,振り子運動から空中へ飛んだところで,ウェブ・ジップで加速をかけ,次のビルへと飛び移り,壁面を回り込みつつ再びダイブ。空中でくるくると回転トリックを決め,急降下しつつ地上すれすれで別のビルにウェブをつなぐ。慣れてくると,映画などで見るスパイダーマンの動きをそのまま再現できる。
どんなに加速がついていようが,地上や海に落ちようが,ペナルティはないので安心。さらに慣れてくると,空飛ぶ鳩と追いかけっこすることだってできてしまう。前述したテクニックのすべてを駆使し,不規則かつ気ままに飛ぶ鳩を追うのはスポーツゲームっぽい感覚だ。
華麗な立ち回りから,クレバーなステルス戦まで。バトル要素もてんこ盛り
本作の爽快さを支えるもう1つの要素がバトルだ。原作のスパイダーマンと同じく,アクロバティックな動きで,華麗な戦いができる。操作は移動ほどシンプルではないが,複雑なコマンドや同時押しがほとんどないため,ボタンそれぞれの役割を理解すれば,やれることがどんどん広がっていく。
バトルは複数の悪党どもを相手取るため,常にスリリング。正面の敵に攻撃を決めつつ,ほかの敵の動きにも気を配り,怪しい動きがあればターゲットを変えたり回避したりというように,アドリブを効かせつつ戦うのだ。
とはいえ,最初からすべてを駆使する必要はなく,段階的に覚えていけばいい。最も基本的なルールは,「[□]ボタンで攻撃,スパイダーマンの頭に白い光が出たら[○]ボタンで避ける」ということだけだ。頭が光るのは,特殊能力「スパイダーセンス」によるもので,ピーターに迫るあらゆる危機を教えてくれる。回避は,地上でも空中でも前後左右好きな方向へ可能だ。
これに,ブランコのように空中を移動して攻撃するスイングキックや,壁を蹴った反動で攻撃するウォールアタックを加えると,空間をフルに使った立体的な機動が可能となる。戦場となる空間は上下左右に結構広いうえ,敵が銃を装備していることも多いので,多少間合いを取っても安心はできない。例えば,形勢不利と見てビルの屋上へ登っても,地上から執拗に撃たれたりもする。
もっとも,負けてもペナルティはない。どうしても進めない場合は,レベル上げに勤しむといいだろう。スパイダーマンは,戦闘に勝ったり,ストーリーを進めると経験値を獲得できる。一定値に達するとレベルが上昇し,得られたポイントを使ってさまざまなスキルをアンロックできるといった具合だ。敵の小火器を奪う「ピストル&バトンプル」,敵を投げる「スロー」など種類もたくさんあり,1つ習得するごとに戦術の幅も広がっていく。
ある程度バトルを理解したら,いろいろなコンボも狙っていきたい。スライディングで敵の股ぐらをくぐり,背後からアッパーを決めて空中に打ち上げ,空中コンボで追撃。別の敵が投げ込んだ閃光手榴弾をウェブで投げ返し,ひるんでいるところにスイングキックで切り込む。壁に飛んで銃弾を回避し,そのまま三角跳びで体当たり。戦闘のたびに,原作のスパイダーマンにも負けないくらいの動きで戦えるが面白く,ついつい自ら面倒事に飛び込んでしまいがちになる。
スーツの特殊能力「スーツパワー」を活用すればバリエーションはさらに広がる。ドローンを呼び出す「スパイダーブラザー」,分身を呼び出す「ホロ・デコイ」など,役立つものばかりなので,いろいろなスーツを集めておきたい。
周囲の環境を利用できるのも面白いところだ。ドラム缶やゴミ箱はウェブで掴んでぶつけられるし,工事現場ならクレーンを落としたり,積み上げられた建材を崩して敵を下敷きにしたり,配管を壊して水浸しにしたりと,バトルにアクセントを加えられる。
敵の攻撃は一撃のダメージが大きいうえ,銃やロケット砲といった飛び道具を持っていたり,剣や盾を持つ者はこちらの攻撃を防御してきたりと,一筋縄ではいかない。少しのミスが命取りになりかねないだけに,アドリブをうまく利かせて敵を倒せたときの満足感は高い。
オープンワールドのニューヨークでは,さまざまなな事件が四六時中発生しているため,バトルの練習相手には事欠かない。強盗,カーチェイス,事故,撃ち合いなどバリエーションも豊かだ。とはいえ,すべての事件に関わっていては,メインストーリーがなかなか進まない。私生活とスーパーヒーロー業を両立しようとするピーターの苦労が身に染みて分かる。
正面切っての殴り合いだけでなく,身を隠してのステルス戦闘もできる。柱や梁の上などを密かにウェブで移動しつつ,敵を1人1人倒していくのだ。ただ,敵同士が近くにいると,1人を仕留めても残りの敵に気づかれてしまい,乱闘になってしまう。ステルスに徹するのであれば,いかにして複数の敵を分断・孤立させるかが重要だ。
例えば,オブジェクトにウェブを撃つと,物音を怪しんだ敵が様子を確認しに行くので,その隙に残った敵を倒すという手もある。また,地面に地雷のような働きをする「トリップ・マイン」を仕掛けて,そこに敵をおびき寄せるのも有効だ。殴り合いからステルスまで,まさにアクションがてんこ盛り。バトル好きの人もきっと満足できるだろう。
オープンワールドアクションの優等生
フォトリアルなニューヨークの街並みをウェブ・スイングなどの超人アクションで散歩しつつ,あちこちで起こる事件を解決し,アクティビティに精を出す。「Marvel’s Spider-Man」は完成度の高い,正統派のオープンワールドアクションといえるだろう。
とくに魅力的なのがニューヨークのマップだ。いろいろな名所が存在するのはもちろんのこと,ビルの部屋や店の中まで作り込まれているうえ,ウェブで配電盤を引っぺがすと,裏側にはちゃんと電機部品が詰まっているのが見える。
名所の撮影や,隠されたバックパックの回収,敵の拠点潰しなどのアクティビティも多く,達成で得られた「トークン」で新たなスーツが開発できるため,あちこちと寄り道をしたくなってしまう。
もちろん,原作を知っている人に向けたネタも多い。ネタバレになるので詳しくは書けないが,ファンならピーターの恩師が出てきたところで度肝を抜かれるはずだ。
ホロ・デコイで呼び出された分身は本体同様にいろいろと無駄口を叩くのだが,中にはグダグダに終わった「クローン・サーガ」を自虐したと思しきネタや,東映特撮版の名乗りが入っていたりしてニヤリとさせられる。
ニューヨークを散策しているとドクター・ストレンジが住む神秘の館「サンクタム・サンクトラム」が建っており,あの特徴的な天窓も再現されている。また,スパイダーマンの仇敵であるJ・ジョナ・ジェイムソンのポッドキャストが流れており,延々とスパイダーマン叩きをやっていてうんざりさせられる(オプションでOFFにできるので安心)。
また,金に困ったピーターの恩師が見つけてきた仕事はなんと「A.I.M.」(※)絡みのものだったりして,見ているこちらがハラハラさせられたりもする。このように,大から小までいろいろなネタが満載なので,ファンも満足できるはずだ。
※「MARVEL VS. CAPCOM 3」でおなじみの巨顔サイボーグ「モードック」を作った悪の組織
簡単な操作とアドリブ重視のゲーム性で,初心者から上級者まで遊ぶことができ,スパイダーマンのファンだけでなく知らない人でも楽しめる。「Marvel’s Spider-Man」は実に優等生的なゲームと言えるだろう。
「Marvel’s Spider-Man」公式サイト
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