インタビュー
想像したことは大体起こる“ベタ”な物語であることにこだわった。スマホ向けRPG「VALHAIT RISING」(ヴァルハイトライジング)インタビュー
本作は,ドット絵のグラフィックスが採用されたシミュレーションRPGで,主人公の「カイト」とその仲間達が世界を救うべく旅に出るという王道のストーリーが展開する,“古き良きレトロRPG”を彷彿とさせるタイトルだ。「ライズ」と呼ばれる魔獣を使役する戦略性が高いバトルや,最大4人のマルチプレイなどが特徴となる。
「VALHAIT RISING」公式サイト
今回4Gamerは,そんな本作のエグゼクティブ・プロデューサーを務める下岡聡吉氏と,プロデューサーの世良規裕氏にインタビューを行い,開発の経緯やゲームの見どころなどを聞いてきたので,その内容をお届けしよう。
下岡聡吉氏 |
世良規裕氏 |
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは開発をスタートした経緯からお聞かせください。
下岡聡吉氏(以下,下岡氏):
僕が初めて触れたRPGは「魔界塔士Sa・Ga」でした。もう20年以上,諸先輩方の制作されたRPGを楽しませていただいています。最近のゲームの表現はリッチになり,遊びも複雑になってきていますが,僕らがかつて楽しんだゲームを,たとえば今,若い人達が遊んでもきっと面白いと思ってもらえるだろうという想いはあって,そういったゲームをたくさんの人に届けるなら,今ならスマホしかないと常々考えていました。
でも僕の好きな「アークザラッド」や「タクティクスオウガ」のようなシミュレーションタイプのRPGって,スマホ向けのUIを作るのがすごく難しいんです。「最近,僕らを夢中にさせてくれたようなRPGってないよね」なんて話をしながら,僕と同じような境遇の知り合いと飲んでいるときでしたが,その人からすごく良いアイデアをもらって,ヴァルハイトライジングの企画を立ち上げるきっかけとなりました。
ちゃんとしたRPGを作りたいと思っていたので,コンセプトをしっかりと決めて,最初は1人でスタートを切りましたね。
4Gamer:
では,世良さんはどういった経緯で開発に参加したんでしょうか?
世良 規裕氏(以下,世良氏):
僕は新卒でバンダイナムコゲームスに入社後,ずっとコンシューマゲームを作っていたのですが,元々はPCオンラインゲームが好きで,いつかはオンラインゲームを作りたいと考えていたため,一昨年からバンダイナムコオンラインに移籍しました。
下岡とはBNOに入る以前から面識があったのですが,最近になって一緒に仕事をする機会が増えて,あるとき下岡に「ヴァルハイトライジングで人手が足りない」と言われ,ヘルプのメンバーとして参加することになりました。ヘルプといっても,すでに動いているものがあったので,あくまでユーザー視点の要望を下岡に伝えるという,とても楽しいお手伝いという内容です。
そして去年の12月くらいから,下岡に頼まれてヴァルハイトライジングの開発を見ています。自分はヘルプメンバーのつもりだったのですが,下岡に開発後の運営について聞いてみたところ 「じゃあ,あとは任せるね」と言われて,いつのまにかヴァルハイトライジングの企画プロデューサーになっていたんです……(笑)。
下岡氏:
ヴァルハイトライジングの基本的な機能は,世良を迎えたときにほぼ完成していたんです。しかし全体としては及第点というレベルで,改善の余地が残っていました。そこでブラッシュアップする期間を設けて,世良にも参加してもらい,開発元のスティングさんと綿密な打ち合わせを行いました。
4Gamer:
具体的にどういった内容を打ち合わせたんですか?
下岡氏:
たとえばですが,マスより大きいキャラクターを制作すると,そのキャラがどこのマスに立っているのか,といったことが分かりづらいんです。そのためマスの中に収まるような四角いドットキャラを置くのが正解かもしれないのですが,僕はそれが嫌だった。
なので,マスより大きいキャラでも分かりやすくするためには,どうしたらいいのかといった内容を話し合いましたね。
この部分に関しては指を置く部分を視認できるような輪っかを表示することにして解決したんですが,そういった細かい部分の調整は世良や安井さん(スティング 安井 光氏,本作のディレクター)とずいぶんアイデアを出し合いました。
ブラッシュアップ前のバージョンでも手触り感の完成度は高かったのですが,僕から見て改善すべきだと感じた点を下岡に提出したり,コンセプトから外れていないかと疑問を呈したりと,約3か月の間,ずっとやり取りをしていました。
下岡氏:
その3か月は試行錯誤の連続でしたが,ここまでブラッシュアップできたのは,スティングさんと世良の力があったおかげですので,とても感謝しています。
4Gamer:
開発元としてスティングを選んだ理由についても教えてもらえませんか?
下岡氏:
1番の理由は,戦略シミュレーションゲーム制作の実績とレベルの高いドット制作技術ですね。ヴァルハイトライジングのコンセプトとして,グラフィックスはドット絵にしたいという思いがありました。スマートフォンは性能が高く3D化も容易なプラットフォームだとは思いますが,リアリスティックな3Dグラフィックスが,プレイヤーの想像力にブレーキをかけることもありますよね。それで,今回はプレイする方の想像する余地を残した表現手法として,ドット絵を選択しています。ストーリーに関しても,ドット絵による人形劇で表現したかったんです。加えて,長期にわたって運営するために,サーバー周りにも信頼のおけるスタジオが良かった。そこで僕が知る中ではスティングさんしかないと思い,山藤社長(スティング 代表取締役 山藤武志氏)に直接ご連絡して,概要を伝えました。
4Gamer:
スティングに話を持ちかけたとき,どのような反応でしたか?
下岡氏:
僕が挨拶して席に着いた瞬間に「やります」というお返事をいただきました。
4Gamer:
早い(笑)。
下岡氏:
お返事をいただいてから企画を説明しましたからね(笑)。
魔獣「ライズ」とは,どんな存在?
本作に登場する魔獣「ライズ」とはどんな存在なんでしょうか。たとえば,個々に性格みたいなものはありますか。
下岡氏:
裏設定としてですが,すべてのライズに用意しています。ヴァルハイトライジングは主人公「カイト」達の物語でもありますが,ライズの物語でもあります。
バトルでは,カイト達が武器を持って……というわけではなく,そのライズを使役して戦います。
4Gamer:
バトルのキモとなっている部分はどういったところでしょうか。
下岡氏:
ライズは通常攻撃のほかに追加行動のスキルを持っているんですが,それぞれ確率によって発動するんです。パラメータが高いライズほど強いとは限りません。バトルのシチュエーションごとに有利なライズは異なっていますので,たとえば攻撃力が高いライズだけで押し切ろうとして,あっさり全滅することもあります。
もっとも大事なことは,コンボを発生させて追加スキルが発動する起点を作ることです。最初は結構難しく感じると思うのですが,そのために範囲の広い必殺攻撃(オーバーライズ)を用意してあり,コンボが発生しやすいような仕様になっています。
4Gamer:
必ずしもレア度で優劣が決まるわけではないんですね。
世良氏:
ここ数年のソーシャルゲームのロジックとして,ガシャでレア度が高いキャラクターを手に入れて育てることが,ある意味スタートラインになっているケースが多いと思います。初めから魅力のあるキャラクターを使用できるという良い面もある一方,コンシューマのRPGが好きだった私としては,このゲームにそのロジックを当てはめることに違和感がありました。現在のソーシャルゲームの流行とは少し異なりますが,ヴァルハイトライジングでは,最初に手に入る主人公達のライズをきちんと育成/進化させれば,ちゃんとエンディングまで到達できるゲームバランスになっています。
要はコンシューマ向けゲームでは当たり前だったことを,スマートフォンというデバイスでやろうとしているんですね。その部分は非常に真面目に取り組んでいますので,プレイされる方に伝わると嬉しいです。
4Gamer:
いわゆる課金前提バランスのゲームもある中で,思い切りましたね。
世良氏:
皆さんが気になるところだと思いますが,ヴァルハイトライジングの「ガシャ」では,ガシャ排出の最高レア度の★4が15%,★3が85%で排出されます。しかしゲームは,どのライズを使ってもきちんと「育てる」「装備する」「アイテムを使う」「食事をする」というRPGのおける“普通の行動”をすることで,必ずエンディングまで到達できるバランスにしています。また,有料ガシャに必要なライズストーンの数も,レア度★1〜2のライズを育成/進化させ,★3にするために必要な労力や時間を計算し,決定しました。
下岡氏:
もちろん「この構成なら」「この戦略なら」というメソッドは存在しています。HPの高いライズを盾にして,攻撃力の高いライズで後方から攻撃するとか,属性の弱点を突く構成にするとか,同じステージでもプレイヤーの方針によって攻略方法は無限にあると思います。
★3でも育て方や使い方によって使い道は必ずあるため,何を持って“当たり”なのか,もはや分からなくなってきて……。プレイする方にとってお気に入りとなったライズが“当たり”です。
世良氏:
やはり我々の思いとしては,ストーリーをエンディングまで見てほしいの一言に尽きるのです。下岡の作るゲームは「アイドリッシュセブン」もそうなのですが,シナリオにすごくこだわっていて,男でも涙が出そうになるくらい素晴らしいものなんです。
下岡氏:
ステージに関しては,「自分の力だけでエンディングに到達した」という達成感を持っていただきたいため,フレンドのキャラを連れて行くというような機能がない“完全ソロモード”を搭載しています。フレンドの強いキャラに任せっきりで,自分のキャラは隅っこに置くだけでストーリーの先に進めるというゲーム性にはしたくありませんでした。
4Gamer:
確かに,自分の力でクリアするからこそ感動があるのかもしれません。
世良氏:
ただ,どうしても今の自分のデッキだけでは勝てないというときや,純粋に友達と遊びたいという欲求に応えるために,フレンドと一緒に遊べるマルチプレイも用意しています。マルチプレイでは「強いフレンドのライズをいかにうまく使えるか」という戦い方もできますので,ぜひチャレンジしていただければと思います。マルチプレイに限らず,ストーリー攻略に行き詰ったときの解決方法は多数用意しています。生活スタイルに合わせて楽しめるというスマホゲームの良いところは失っていませんので,安心してください。
スティングのこだわりが分かる開発エピソード
4Gamer:
ゲームシナリオは内製なんでしょうか。
下岡氏:
いえ,シナリオの制作は,大まかなプロットを弊社で立てて,詳細プロットからはシナリオ工房 月光さんにお願いしています。ご担当の高崎とおるさんと綿密に詰めた物語になっていますね。
……そういえば,こんなエピソードがあって。月光さんから「人が溺れるシーンを入れたい」という要望があったんです。ドットには基本行動表というものがあるので,これをドット絵で表現するとなると,わざわざワンオフを作る専用作業となりますので,非常に大変なんです。しかしスティングさんに伝えたところ,そういうシーンをむしろ入れるべきなんだと言ってもらえて嬉しかったです。絶対大変なのに。
そのほかにも,カイトとレニウスのとあるワンシーンのためだけに,スティングさんがドット絵を起こしてくれたこともありました。すでに完成しているドット絵の基本行動のみを使い,それに合わせてシナリオ側を変更して整合性をとる方法もあったはずですが,その機微こそが感動を呼ぶというスティングさんの強い意志もあり,工程を省かずに相当な数のワンオフシーンを提出しましたが,スティングさんはその要望をすべて聞き入れてくれたんです。
4Gamer:
まさに職人芸を感じさせるエピソードですね……。ドット絵といえば,ライズの形状も独特ですが,こちらにはどういったこだわりが反映されているんでしょうか?
下岡氏:
人間っぽくしないというところですね。「ジョジョの奇妙な冒険」のスタープラチナのように,人間型のライズは存在しますが,まるっきり人間の姿をしたライズはいません。そして,どこか“いびつ”な印象を抱かせるデザインになっています。
4Gamer:
そういったデザインの理由には,ライズの背景に神話などが隠されているんでしょうか。
下岡氏:
ライズのデザインは,それぞれの過去が想像できるようなイメージで描かれていますので,ゲーム内で確かめてみてほしいところの1つです。
4Gamer:
バトルにおけるライズのキモとなる部分についてもお聞かせください。
下岡氏:
ライズには「ラック」という値が設定されていますが,このラックは同じライズを重ねる(合成させる)ことで上昇します。本作におけるスキルというものは,ライズの通常攻撃のあとに確率で発動するんですが,ラックが高いほど発動しやすくなります。
回復系スキルの発動率は高めですが,いわゆる必殺技に相当するスキルの発動率は低く設定されています。
世良氏:
ラックは戦闘終了時にも一定確率で上昇します。つもりつもって,ふとしたタイミングで気にかけたとき,結構ラックが上昇しているみたいなこともあります。また,ラックに関しては,そこまで気にしなくてもクリアできるゲームバランスに設定していますので,あくまで高いと攻略しやすくなるというように考えていただけたらと。
下岡氏:
ちなみに,特定の攻撃がコンボ中に重なると,ライズ自身は持っていない追加スキルが発動することがあるんですが,これは僕が「ロマンシング サ・ガ」シリーズを好きなことが根本にある機能だと思います(笑)。あの「わっ! なんか出た!」みたいな感じをもう一度味わってみてほしいですね。
「ベタ」をものすごく大事にしたストーリー
4Gamer:
そういえば,先日公開されたPV「感動へ。」を視聴したとき,少しホロりときてしまいました。
下岡氏:
ありがとうございます。ゲームのPVといえば,その世界観をアニメーションにしたりすることが多いですよね。僕は世界観をアニメ化したいわけではなく,「このゲームはこういう風に遊んでほしい」というメッセージを届けたくて,ああいった形になりました。字コンテからスタジオコロリドさんとタッグを組めて,納得のいく仕上がりになりました。
4Gamer:
PVを視聴しても,王道のストーリーを感じられますが,その見どころをあらためてお聞かせください。
“ベタ”なところ,ですかね。
4Gamer:
というと?
下岡氏:
ベタならではの良さってあるじゃないですか。ヴァルハイトライジングではそういう「ベタ」をすごく大事にしているんですよ。なので,いかにも死にそうだと感じたキャラクターとかは,おそらくそう感じたとおり,死にます。
4Gamer:
なんですって。
下岡氏:
脚本の1番の見どころは,僕や皆さんが昔のRPGをプレイして感じてきたものを取り入れていることだと思います。僕の血には,やっぱりファミコンやスーパーファミコン,PlayStationなどでたくさん遊んできたRPGが経験値として入っていますから,自分でゲームを作るときもそういう要素は自然に出てきてしまいます。
なので,ベタな展開をしっかり入れていますし,その上で,良い意味で裏切らせていただこうかなとも思っています。そもそも,裏切るという行為自体がベタでもありますけどね。
4Gamer:
確かに,RPGには良い意味での裏切り要素も欠かせないものですね。
下岡氏:
とはいえ,最後は大団円で納得のいく形で終わるようには作っているので,そういう展開が好きな人には注目してほしいですね。質の良いシナリオは,ゲームとか映画とか関係なく泣けるじゃないですか。昔のゲームはプラットフォームの性能によって制限され,リアルではなく,ドットで表現されているけれど,プレイヤーが想像力を働かせることで感動して泣けたと思うんですよ。それと同じ現象が,本作でも起きたらいいなと思います。それくらいシナリオには力を入れていますよ。
4Gamer:
音楽に澤野弘之さんを起用されているのも,やはりストーリーを意識してのことでしょうか。その経緯についても教えてください。
下岡氏:
最初のきっかけはアニメ「機動戦士ガンダムユニコーン」「進撃の巨人」「キルラキル」の音楽を聴いたことですね。ボーカルがまるで楽器の一部のように感じられて,劇伴として作られていて物語を支えている。そこに,とにかく感激してしまって,作曲家を調べたていくとことごとく澤野弘之さんで,どうしても一緒にお仕事をしたくて依頼させていただき,運良く楽曲をご提供いただけることになりました。決まったときは本当に嬉しかったですね。澤野さんの作品はクラシックからロックまでとにかく幅広くて,独特なんですよ。
澤野さんはテイストが自由自在で,世界観をすごく勉強されてから作曲に挑むタイプの方なんです。この歌にはこのボーカルって感じで,曲にあった歌手の方を探してきてくれるんですよ。それでもうこの人しかいない,と決めました。
ちなみにヴァルハイトライジングでは,アニメ「機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096」で歌っていたTielleさんがボーカル曲を担当していますので,ファンの人も一度は聴いてみてほしいです。
世良氏:
スマホゲームを外で遊ぶときは音楽をオフにする人が多いと思うんですけど,ボーカル付きの戦闘曲が流れるので,ぜひイヤフォンやヘッドフォンで聴きながらプレイしてみてください。あと,ある程度ストーリーが進んだときにもう一度PV「感動へ。」を観ていただけると,初めて観たとき以上にぐっとくるものがあるので,そちらも楽しみにしていただけたらと思います。
4Gamer:
分かりました。それでは最後に,読者にメッセージをお願いします。
世良氏:
ヴァルハイトライジングを見て「ああ,またソーシャルゲームか」というイメージを持つ人は少なくないと思いますが,本作は,コンシューマ向けゲームに対する熱意を持って開発したゲームなので,昔のRPGが好きだったという方に気に入っていただける作品になっていると思います。コンシューマのRPGが好きな僕らが各システムに込めた想いを感じてもらえると嬉しいです。
下岡氏:
“この手のRPG”という意味では,ヴァルハイトライジングが僕の作る最後の作品になると思います。僕が諸先輩方に楽しませていただいた想い出を再構築できたと思えるものになりました。僕が持っているあの時代のRPGへの情熱とリスペクトは全部詰め込みましたので,ぜひ遊んでみてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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