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そうだ アニメ,見よう:第211回は,阿部智里氏原作の和風ファンタジー「烏は主を選ばない」。八咫烏たちの宮廷ミステリーをアニメ化
史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞した小説家・阿部智里氏の和風ファンタジー小説「八咫烏(やたがらす)シリーズ」(文春文庫/既刊12巻)。2021年に発表された「烏(からす)に単(ひとえ)は似合わない」から始まる本シリーズは,累計発行部数が200万部を突破(2023年10月時点)している人気作だ。ウェブコミック配信サイト「コミックDAYS」で,松崎夏未氏によるコミック版も連載されている。
というわけで,「そうだ アニメ,見よう」第211回のタイトルは,同シリーズをアニメ化した「烏は主を選ばない」(毎週土曜23:45〜NHK総合)。制作はスタジオぴえろ,シリーズ構成は映画「武士の献立」や「恋する寄生虫」の山室有紀子氏が担当。監督は「東京喰種トーキョーグール」や「ゆるキャン△」の京極義昭氏が務めている。
「烏は主を選ばない」
ある春のこと。皇太子・若宮(わかみや,CV:入野自由)の后を選ぶ「登殿の儀」が始まった。候補となるのは,南家の姫・浜木綿(はまゆう,CV:七海ひろき),西家の姫・真赭の薄(ますほのすすき,福原綾香),北家の姫・白珠(しらたま,釘宮理恵),そして病の姉に代わり急遽登殿した東家の姫・あせび(CV:本泉莉奈)の4人。山内の統治者である次期・金烏の妻に選ばれるのは1人だけ。張り詰めた空気が漂う女の園「桜花宮」で,あせびはまだ見ぬ若宮への想いを募らせていく。
一方,北領の垂氷(たるひ)に住まう少年・雪哉(ゆきや,CV:田村睦心)は,ふとしたことから宗家の長束(なつか,CV:日野 聡)の目にとまり,若宮の側仕えに指名されてしまう。側仕えの期限は一年間。その間,北家の姫・白珠が若宮の后に選ばれるよう動くよう言いつけられる。
故郷を離れ,中央山へと赴いた雪哉は,そこで若宮から大量の仕事を言いつけられる。側仕えとして朝廷に出入りするうちに,若宮が“真の金烏”と呼ばれていること,若宮に皇太子の座を奪われた異母兄・長束との因縁,そして長束を信奉する勢力「長束派」にまつわる黒い噂を耳にするのだった。
八咫烏たちの宮廷ミステリー
八咫烏をご存じだろうか。三本足のカラスの姿をした伝説の生物で,サッカー日本代表のエンブレムに使われているアレである。一説によると,神武天皇が東征の時,熊野から大和へ道案内したとされている。本作の舞台となる山内は,その八咫烏たちが人間同様に暮らす世界だ。
山内は,金烏の族長一家「宗家」の下,東西南北の大貴族「四家」によって四つの領(東領,西領,南領,北領)が治められている。その四家から若宮の后を選ぶイベントが「登殿の儀」となる。
本作は,この登殿の儀を中心に,世継ぎの座を巡る陰謀や朝廷の権力争い,そしてさまざまな思惑が絡み合う人間模様が,かなり濃い目に繰り広げられる。日本の大奥や,中国の後宮ものでもそうだが,女性の園の争いはとかく苛烈になりがちだ。予想通り,いじめや勢力争い,ついには殺人事件まで発生してしまう。
すべての元凶とも言える若宮は,兄を追い落として世継ぎとなった人物。陰謀や暗殺者のうごめく朝廷内で,彼に仕えることになった雪哉の視点で物語は展開する。若宮と雪哉は危機を乗り越えられるのか。果たして殺人事件の犯人は。そんな数々の謎を秘めた宮廷劇が,ミステリ―タッチで進行していく。
個性的な4人の姫たちに秘められた過去
八咫烏たちは,烏から人,人から烏に「転身」できるが,貴族階級の「宮烏」は烏の姿を卑しい姿だと考えているという。そのため,烏の姿のまま家畜として使役される者は「馬」と呼ばれる。町で商業を営む者は「里烏」,地方の庶民は「山烏」となる。
空を飛べるのに飛ばず,人間同様に階級社会を作って暮らしている八咫烏たち。そのため身分違いの恋や,階級由来の悲劇が人間社会同様に発生する。浜木綿,真赭の薄,白珠,あせびもこの悲劇に巻き込まれ,翻弄されてしまう。4人の姫たちの出自や過去,取り巻く環境がストーリーの焦点となっている。
“真の金烏”若宮の力とは
非常に人間臭く,ファンタジーの生き物であることを忘れそうになる八咫烏たちだが,その中でも“真の金烏”である若宮は別次元の存在だ。
数十年に一度,宗家の家系に産まれるとされる“真の金烏”は,普通の八咫烏にはない不思議な力を持つと言われている。第4話「御前会議」でその片鱗を見せたが,まだまだ謎は多い。普段はうつけと侮られる若宮が,真の力を発揮するのはどんな時なのか。ここも本作をひも解くキーワードとなりそうだ。
第13話「烏に単は似合わない」でシーズン1は終了
6月29日に第13話「烏に単は似合わない」が放送され,シーズン1は大団円を迎えた。若宮の后となったのは誰なのか,殺人事件の真相は? など気になる部分は多いが,そこはぜひ,自分の目で確かめてほしい。
平安時代風の雅な背景や,きらびやかな姫たち,丁寧な作風に惹かれて視聴を始めたが,毎回深まる謎や,登場キャラクターの魅力に引き込まれ,最終回までガッツリはまってしまった。
7月20日からは新シーズン「黄金(きん)の烏」編がスタートし,異世界・山内に迫る新たな脅威が描かれる。次のシーズンも見逃せない作品となりそうだ。
TVアニメ「烏は主を選ばない」公式サイト
TVアニメ「烏は主を選ばない」公式X
放映データ |
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2024年4月〜 全13話 |
毎週土曜23:45〜NEK総合 |
キャスト | |
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雪哉:田村睦心 | |
若宮:入野自由 | |
あせび:本泉莉奈 | |
浜木綿:七海ひろき | |
真赭の薄:福原綾香 | |
白珠:釘宮理恵 | |
澄尾:竹内栄治 | |
長束:日野 聡 | |
路近:白熊寛嗣 | |
敦房:河西健吾 | |
藤波:青山吉能 | |
大紫の御前:田中敦子 | |
滝本:清水はる香 | |
うこぎ:宮寺智子 | |
菊野:大地 葉 | |
苧麻:きそひろこ | |
茶の花:磯辺万沙子 | |
雪正:近藤浩徳 | |
雪馬:梶原岳人 | |
雪雉:引坂理絵 | |
東家当主:家中 宏 | |
西家当主:三上 哲 | |
南家当主:咲野俊介 | |
北家当主:楠見尚己 |
スタッフ | |
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原作:阿部智里 | |
監督:京極義昭 | |
シリーズ構成:山室有紀子 | |
キャラクターデザイン:乘田拓茂 | |
音楽:瀬川英史 | |
音響監督:丹下雄二 | |
OP:「poi」Saucy Dog | |
ED:「とこしえ」志方あきこ | |
アニメーション制作:ぴえろ | |
制作・著作:NHK NHKエンタープライズ ぴえろ | |
(C)阿部智里/文藝春秋/NHK・NEP・ぴえろ |
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