そうだ アニメ，見よう：第117回は大ヒット公開中の「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」。“炎柱”煉獄杏寿郎とはどんな人物か？

　2020年10月16日に満を持して封切られた「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が，公開から10日間で興行収入100億円を突破し，社会現象とも言える勢いで興行成績を伸ばしている。吾峠呼世晴氏の人気コミック「鬼滅の刃」（集英社刊/既刊22巻）をアニメ化した本作は，2019年4月より放送されたTVアニメ版（関連記事)の続きを描いたもので，多くの乗客が失踪している《無限列車》を舞台に，竈門炭治郎の新たな戦いが語られる。
　というわけで，「そうだ アニメ，見よう」第117回のタイトルは「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」。制作はTVアニメ版と同様にufotable，キャラクターデザインは松島 晃氏，監督は「テイルズ オブ ゼスティリア〜導師の夜明け〜」や「テイルズ オブ ゼスティリア ザ クロス」を手がけた外崎春雄氏が務めている。
　なお，ストーリーに関するネタバレが含まれているので，未鑑賞の人は注意してほしい。

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」

　時は大正。家族を鬼に惨殺された少年・竈門炭治郎（CV：花江夏樹）は，鬼を狩る組織「鬼殺隊」に入隊し，鬼と化した妹・禰豆子（CV：鬼頭明里）を人間に戻すべく，命がけの戦いに身を投じていた。
　蝶屋敷での修業を終えた炭治郎達は，次なる任務の地《無限列車》へと赴いた。この列車では，短期間のうちに40人以上が行方不明になっているという。禰豆子を連れた炭治郎は，仲間の我妻善逸（CV：下野 紘）と嘴平伊之助（CV：松岡禎丞）と共に列車に乗り込み，そこで鬼殺隊最強の剣士である《柱》のひとり，炎柱の煉獄杏寿郎（CV：日野 聡）と合流。列車を支配する十二鬼月の《下弦の壱》魘夢（CV：平川大輔）に挑む。


　「鬼滅の刃」がスゴイことになっている。原作コミックスのセールスはもちろん，異例とも言える民放ゴールデン枠でのTVアニメシリーズの再放送や，関連グッズの好調な売り上げなど，もはや一大ブームと言っても過言ではない。
　そんな中，公開された「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は，これまでの興行収入や観客動員数の記録を塗り替える勢いだ。
　なぜ，これほどまでの熱狂ぶりで本作が受け入れられているのか。その考察や検証は，さまざまなメディアが報じているので，ここでは遅ればせながら劇場に足を運んだ筆者の雑感をお伝えしたい。

TVアニメシリーズの最終話から続く物語

　物語の導入は，炭治郎ら一行が《無限列車》へ乗り込むシーンから始まる。これは，TVアニメシリーズの最終話となる第26話「新たなる任務」からの完全な続きで，対する相手も最終話で鬼の首魁・無惨によって力を得た，《下弦の壱》魘夢となる。
　通常，劇場版アニメと言えば，本筋とは関係のないサイドストーリーやオリジナルストーリーが展開されるものだ。本筋への影響を減らし，映画版からの視聴者に配慮しての施策だが，本作では“これまでのあらすじ”といったプロローグもない。

　制作サイドの思い切った手法に驚かされたが，それほどまでに「鬼滅の刃」が世間に受け入れられていると確信してのことなのだろう。作品全体のテンポが悪くなる，その分の尺が削られるといったデメリットを排することを選択したわけだ。


　列車内では，夢を操る魘夢との戦いが展開される。那田蜘蛛山で死闘を演じた《下弦の伍》累戦で，十二鬼月の手ごわさを十分に感じ取れたが，魘夢はさらに上位の存在だ。当然苦戦が予想されるが，今回は強力な助っ人として，炎柱の杏寿郎が同行している。
　あれだけ手ごわかった累をあっさり倒した，水柱の冨岡義勇と同等の強さを持つ杏寿郎。鬼殺隊最強と謳われる“柱”の活躍ぶりに期待してほしい。

“炎柱”煉獄杏寿郎の人物像とは

　ここで今回のキーパーソンとなる「煉獄杏寿郎」について触れておこう。杏寿郎は，TVアニメシリーズの第23話「柱合会議」で初登場していたが，そこでは鬼の禰豆子を断罪しようと主張するなど，あまりいい印象のキャラクターではなかった。今回も登場シーンでは弁当を食べまくり「うまい！」と連呼する，少々変わった人物像で描かれている。

　杏寿郎の家は，歴代炎柱を輩出している名家で，父親も炎柱だった。しかし，父親はある時から突如剣を捨て無気力となってしまう。そんな父親に，杏寿郎は胸中にさまざまな葛藤を秘めつつ，同じく剣士を目指す弟・千寿郎を笑顔で励ます。
　一見直情型に見える杏寿郎だが，作中で語られるこうしたエピソードで，彼の正義を貫こうとする信念と，他者への思いやりを感じ取れる。
「己の弱さや不甲斐なさに，どれだけ打ちのめされようと――心を燃やせ」
　まだまだ未熟な炭治郎へのこのアドバイスが，どのような形で杏寿郎から伝えられるのか，ぜひ自分の目で確かめよう。

《上弦の参》猗窩座との死闘

　そして，最新PVでその存在が確認され，すでに知っている人も多いと思うが，《上弦の参》猗窩座（CV：石田 彰）が本編に登場する。上弦は数百年間，その顔ぶれが替わることなく，柱でさえ太刀打ちできない上位の鬼だ。作中では“参”にふさわしい実力を披露し，剣士達を追い詰める。猗窩座と杏寿郎の激突が，本作の最大のクライマックスと言っても過言ではない。


　監督の外崎氏は，2人の対決シーンの絵コンテを何度も何度も描き直して完成させたとインタビューで語っている。その熱量にふさわしい壮絶な戦いを，制作にあたったufotableは巧みなCG演出と，国内でも指折りの技術と目される撮影技術で表現。まさに“息を呑む”シーンの連続に圧倒された。


　劇場では，ちらほらと小学生らしき子供達の姿も見受けられたが，騒ぐことなく食い入るように画面を見つめていたのが印象的だった。そして，多くの観客は手にハンカチを持ち，感染予防のマスクを濡らす人も見受けられた。
　圧倒的なクオリティで描かれる本作だが，観客の胸を打ったのはやはり，炭治郎や杏寿郎の鮮烈な“生き様”だったのではないだろうか。機会があればもう一度，劇場に足を運んでみたいと思っている。

「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」公式サイト

「鬼滅の刃」公式Twitter

放映データ
2020年10月16日公開

キャスト
竈門炭治郎(かまど・たんじろう):花江夏樹
竈門禰豆子(かまど・ねずこ):鬼頭明里
我妻善逸(あがつま・ぜんいつ):下野 紘
嘴平伊之助(はしびら・いのすけ):松岡禎丞
煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう):日野 聡
魘夢(下弦の壱)(えんむ・かげんのいち):平川大輔
猗窩座(上弦の参)(あかざ):石田 彰

スタッフ
原作：吾峠呼世晴（集英社ジャンプ コミックス刊）
監督：外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督：松島 晃
脚本制作：ufotable
サブキャラクターデザイン：佐藤美幸・梶山庸子・菊池美花
プロップデザイン：小山将治
コンセプトアート：衛藤功二・矢中 勝・樺澤侑里
撮影監督：寺尾優一
3D監督：西脇一樹
色彩設計：大前祐子
編集：神野 学
音楽：梶浦由記・椎名 豪
主題歌：LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作：ufotable
配給：東宝・アニプレックス
(C)吾峠呼世晴／集英社・アニプレックス・ufotable