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そうだ アニメ,見よう:第114回は「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel] III.spring song」。Fateシリーズ映像化作品の集大成がここに
「Fate/stay night」の劇場アニメーション作品「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]III.spring song」が,2020年8月に全国の劇場で封切られた。コロナ禍の影響で3月公開の予定だったものが,ここまで順延されてしまったわけだが,ふたを開けてみれば,8月25日時点で動員人数は62万人を超え,興行収入は10億円を突破する,異例の大ヒットとなっている。
というわけで「そうだ アニメ,見よう」第114回のタイトルは,TYPE-MOONの伝奇ビジュアルノベル「Fate/stay night」のアニメ化作品「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]III.spring song」。制作はufotable,脚本は桧山 彬氏,監督は「空の境界 未来福音 extra chorus」も手掛けた須藤友徳氏が務めている。
「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]III.spring song」
冬木市に住む高校生の衛宮士郎(CV:杉山紀彰)は,サーヴァント同士の戦いを目撃し,口封じのために命を狙われるが,偶然呼び出されたセイバー(CV:川澄綾子)によって命を救われる。彼女のマスターとなった士郎は,否応なく聖杯戦争に巻き込まれていく。
このプロローグの後,ゲーム本編のストーリーは,セイバーの願いを描いた“Fate”(セイバールート),マスターの一人・遠坂 凛(CV:植田佳奈)の戦いを通じて士郎の歩む道を描く“Unlimited Blade Works”(凛ルート),そして,士郎を慕う間桐 桜(CV:下屋則子)をヒロインに,聖杯戦争の真実に迫る“Heaven's Feel”(桜ルート)へと分岐する。その桜ルートをを全3章の物語として再構成したのが「劇場版 Fate/stay night [Heaven’s Feel]」で,「spring song」はその最終章となるわけだ。
ヒロイン・桜を襲う悲劇とは
ここで,今回のヒロインとなる桜の生い立ちに触れておこう。桜はもともと遠坂家の凛の実妹として生まれたが,幼いころに間桐家に養子に出され,そこで間桐臓硯(CV:津嘉山正種)の蟲による修練を受ける。これは正気を失うほど過酷なもので,義兄の慎二(CV:神谷浩史)からの虐待も相まって,桜は生来の明るさを失ってしまう。
そんな折,腕を怪我した士郎の手伝いのため衛宮家に通いだした桜は,彼の人柄に触れ,長い時間をかけて笑顔を取り戻していく。
劇場版の第一章「presage flower」ではこの様子を,桜ファンを公言する須藤監督がオリジナル要素を含めて克明に描き,原作を知るFateプレイヤー達から絶賛された。
いわゆる“悲劇のヒロイン”となる桜だが,本当の悲劇は士郎と結ばれてしまったことから始まる。家庭の温かさや親しい友人,そして密かに想いを寄せる男性など,手に入らないからこそあきらめていた“幸せ”を手に入れてしまった桜は,今度は“失うこと”の恐怖に怯えることになるのだ。
蟲に汚され,慎二の暴行を受け続けた桜は,汚れた自分を士郎に知られたくないという一心から,次第に精神のバランスを失い始める。第二章「lost butterfly」では,臓硯によって埋め込まれた聖杯の欠片がそんな桜の想いと呼応し,“マキリの杯”化した桜は,サーヴァントどころか街の人間まで襲うようになってしまう。
第三章「spring song」では,臓硯の企みで慎二を手にかけてしまい,歯止めの利かなくなった桜を止めようとする,士郎の決断が描かれる。
全ルートを通して,幼いころに養父・衛宮切嗣と交わした約束である“正義の味方になる”方法を模索し続ける士郎。桜と結ばれたことで,桜だけの“正義の味方になる”ことを決めた士郎が,“悪”となった桜をどうするのか。「私が悪いことをしたら叱ってくれますよね?」という桜との約束を守れるのかが,見どころとなる。
ライダーの異次元の戦いに注目
そして,「Fate」シリーズの華ともいえるサーヴァント同士の戦闘シーンは,今回も丁寧かつダイナミックに描かれ,見ごたえ十分だ。「lost butterfly」で見せたセイバーオルタと,イリヤ(CV:門脇舞以)のサーヴァントであるバーサーカーの戦いにも度肝を抜かれたが,本作の最大の山場は,桜のサーヴァント・ライダー(CV:浅川 悠)の戦いっぷりだろう。
TYPE-MOON作品はもちろん,昨今では「鬼滅の刃」を手掛けたことで話題となったアニメスタジオのufotableは,巧みなカメラワークとCGによるエフェクトで,スピーディーなライダーの動きを表現。現実ではありえない,異次元の戦いを生み出していた。
これまでのシリーズであまり目立った活躍のできなかったライダーの存在感に,感涙している人も多いのではないだろうか。あの宝具の発動シーンにも注目してほしい。
「Fate/stay night」は,これまでFate,Unlimited Blade Worksが映像化されてきたが,このHeaven’s Feelはその最後を飾る作品となる。ネタバレになるので多くは語れないが,聖杯の秘密や,遠坂,間桐,アインツベルンの御三家誕生の経緯など,2作品で語れなかった伏線が回収されるエピソードでもあり,一瞬たりとも目が離せないシーンが目白押しだ。
まさに「Fate/stay night」の集大成ともいえる本作。原作で複数用意されているどのエンドになるかは,ぜひ劇場に足を運んで自分の目で確かめてほしい。
劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song」公式サイト
劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song」公式Twitter
放映データ |
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2020年8月15日公開 |
キャスト | |
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衛宮士郎:杉山紀彰 | |
間桐 桜:下屋則子 | |
セイバーオルタ:川澄綾子 | |
遠坂 凛:植田佳奈 | |
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン:門脇舞以 | |
藤村大河:伊藤美紀 | |
言峰綺礼:中田譲治 | |
間桐臓硯:津嘉山正種 | |
ライダー:浅川 悠 | |
真アサシン: 稲田 徹 |
スタッフ |
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原作:奈須きのこ/TYPE-MOON |
キャラクター原案:武内 崇 |
監督:須藤友徳 |
キャラクターデザイン:須藤友徳・碇谷 敦・田畑壽之 |
脚本:桧山 彬(ufotable) |
美術監督:衛藤功二 |
撮影監督:寺尾優一 |
3D監督:西脇一樹 |
色彩設計:松岡美佳 |
編集:神野 学 |
音楽:梶浦由記 |
主題歌:Aimer |
制作プロデューサー:近藤 光 |
アニメーション制作:ufotable |
配給:アニプレックス |
(C)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC |
- 関連タイトル:
Fate/stay night[Realta Nua] -Heaven's Feel-
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キーワード
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