レビュー
補助電源不要で動作するPolarisは1万円台の市場に嵐を呼ぶか?
Radeon RX 460
(Sapphire Technology SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5)
RX 460は,「Radeon RX 480」(以下,RX 480)と「Radeon RX 470」(以下,RX 470)に続く,「Polaris」マクロアーキテクチャを採用するGPUの第3弾で,エントリーミドルクラス向けGPUだ。RX 480やRX 470は,GPUコアに「Polaris 10」を採用していたが,RX 460は,その下位モデルとなるGPUコア「Polaris 11」を採用する点が大きな特徴だ。
8月5日に掲載したレビュー記事で,RX 470は価格対性能比が非常に優れていることを見せたが,日本円で税込1万円台中盤から2万円弱の市場を狙う“最廉価版Polaris”は,この市場で存在感を見せることができるだろうか。今回4Gamerでは,RX 460を搭載するSapphire Technologyオリジナルデザイン版カード「SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5」をAMDの日本法人である日本AMDから入手することができたので,さっそく,その性能に迫ってみたい。
GPUコアはPolaris 11のCompute Unit削減版
シェーダプロセッサ数は896基
冒頭でも述べたとおり,RX 460はRX 470の下位モデルとなるエントリーミドルクラス向けGPUである。従来製品でいえば,「Radeon R7 370」(以下,R7 370)を置き換える製品で,AMDはこのRX 460をe-Sports,とくにMOBAに適したGPUであるとアピールしていた。
Polaris 11コアを採用するため,GLOBALFOUNDRIESもしくはSamsung Electronicsの14nm FinFETプロセス技術を用いて製造される点や,第4世代「Graphics Core Next」(以下,GCN)アーキテクチャである「GCN 1.3」を採用する点は,Polaris 10ベースの上位モデルであるRX 480やRX 470と変わらない。
GCNアーキテクチャの場合,64基のシェーダプロセッサ「Stream Processor」がひとかたまりとして,そこにキャッシュやレジスタファイル,スケジューラ,テクスチャユニットなどを組み合わせて,演算ユニットたる「Compute Unit」を構成する。
そして,このCompute Unitを8基でひとかたまりとし,これにジオメトリプロセッサやラスタライザ,レンダーバックエンドといった機能を加えて,“ミニGPU”的な「Shader Engine」を構成し,そんなShader Engineを2基搭載するというのが,Polaris 11の構造だ。
Polaris 10の場合,Shader Engine数は4基で,さらにShader EngineあたりのCompute Unit数は9基だったので,Polaris 11のフルスペックだと,シェーダプロセッサの総数は64(Stream Processor)×8(Compute Unit)×2(Shader Engine)=1024基。Polaris 10の半分以下ということになる。
無効化された2基が,同じShader Engine内にあるのか,それとも別々であるかは公表されていない。4基のCompute Unitを無効化していたRX 470と同様に,どちらの場合もありえるが,実効性能面で大差ないということなのだろう。
RX 460のメモリ周りに関する仕様を見てみると,グラフィックスメモリ容量は4GBまたは2GBで,メモリインタフェースは128bit,メモリクロックは7000MHzとなっている。RX 470からメモリインタフェースは半減となった一方で,メモリクロックは若干高くなっているわけだ。
気になるのは,RX 460のメモリバス帯域幅が112GB/sと,211GB/sであるRX 470の約53%でしかないところ。これは,既存のエントリーミドルクラスGPUである「Radeon R7 360」(以下,R7 360)や「GeForce GTX 950」(以下,GTX 950)と比べても,若干広い程度でしかない。
RX 460のもうひとつ大きなトピックとして,電源供給にPCI Express補助電源コネクタを必要としない点が挙げられる。AMDが示すRX 460の公称典型消費電力は75Wと以下とされており,プロセスルールを28nmから14nmへと微細化したことによる消費電力が低減している。
実際の消費電力については,後段のテストで検証していこう。
表1にRX 460の主なスペックを,RX 470とR7 370,R7 360,GTX 950,それに「GeForce GTX 750 Ti」とともに示す。Polaris世代GPUらしく,RX 460はコアクロックおよびブースト最大クロックは高めになっていることが分かる。
ブースト最大クロック1210MHzのOC仕様モデル
カード長は実測で約218mm
それでは,テストに用いるSAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5(型番:SA-RX460-2GD5OC001,以下,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5)について見ていこう。
ベースクロックは1090MHzで,ブースト最大クロックは1210MHzと,リファレンスクロックよりもブーストクロックが10MHz引き上げられた,いわゆるクロックアップ仕様の製品である。一方,メモリクロックは7000MHz相当で,こちらはリファレンスクロックと変わらない。
GPUクーラーの取り外しが許可されていないため,隙間をのぞきこんだり,カード裏面を見たりして判断したものだが,電源部は3+1フェーズ構成と思われる。消費電力が少ないこともあって,電源周りもコンパクトになっているのだろう。メモリチップの型番は判別できないが,ヒートシンクに密接しているので,メモリチップもしっかりと冷却する仕様となっているようだ。
RX 460の位置付けを探る。DirectX 12での性能もチェック
今回,テスト比較対象には,表1で挙げたRX 470,R7 370,R7 360,GTX 950,GTX 750 Tiの5製品を用意した。ただし,Tul製R7 370カードの「PowerColor PCS+ R7 370 2GB GDDR5」(型番:AXR7 370 2GBD5-PPDHE)」は,クロックアップモデルであるため,MSIのオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.3.0 Beta)を用いて,リファレンスレベルに動作クロックを引き下げて使用している。
一方で,RX 470のレビュー記事でも使用したTul製の「PowerColor RED DEVIL RX 470 4GB GDDR5」(型番:AXRX 470 4GBD5-3DH/OC,以下 RX 470 OC)と,今回の主役であるSAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5もクロックアップモデルなのだが,Afterburnerを使っても動作クロックを引き下げることができなかったため,カードの定格クロックのままテストを行っている。
そのほかのテスト環境は表2にまとめたとおり。
Radeon勢のテストに用いたグラフィックスドライバは,「Radeon Software Crimson Editon 16.8.1」で,RX 470のレビュー記事で利用したものと同じもの。一方のGeForce勢は,テスト時点で最新バージョンとなるGeForce 368.81 Driver」を利用している。
テスト方法は,4Gamerのベンチマークレギュレーション18.0準拠。ただ,テスト時間の都合により,「ARK: Survival Evolved」と「Project CARS」のテストは省略した。その一方で,DirectX 12の性能を検証するために,「3DMark」(Version 2.1.2852)の新テストである「Time Spy」と「Ashes of the Singularity」(以下,AotS)を追加でテストしている。
Time Spyのテストでは,2回実行して総合スコアが高いほうをスコアとして採用した。AotSはゲーム側に用意されたベンチマークモードで,「Standard」「Extreme」の2プリセットを実行している。詳細はAotSテストレポートを参照してほしい。
さらに,テスト環境およびテスト方法は,RX 470のレビュー記事とまったく同じであるため,1920×1080ドットで計測したRX 470 OCの全スコアと,消費電力のスコアは,同記事のものを流用している。その点をお断りしておきたい。
なお,GPUレビュー記事ではいつものことだが,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」は,その効果がテストによって異なる可能性を排除すべく,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
クロックアップ版RX 470比で50%強のベンチマークスコア。タイトルによってはGTX 950に迫ることも
それではテスト結果を順に見ていこう。いずれのグラフも,基本的にはSAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5(グラフ内ではRX 460 OCと表記)を一番上に置き,その下には比較対象のRadeon,GeForceをいずれもモデルナンバー順に並べているが,グラフ画像をクリックすると,スコア順に並び替えたもう1つのグラフを表示するようにしてある
グラフ1は,3DMark(Version 2.1.2852)のDirectX 11版テスト「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものだ。SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5のスコアはRX 470 OCの51〜52%と,その差ははかなり大きい。その一方で,R7 360やGTX 750 Tiを大きく引き離しており,R7 370のスコアに迫っている。
一方,Time Spyの結果をまとめたのがグラフ2だ。
RX 470 OCと比べて50%程度のスコアというのは変わらないが,R7 370を21%程度上回り,GTX 950に届きそうな点は評価できる。Polaris世代では,スケジューラがハードウェア化されるなど,大規模なアップデートが行われており,それが功を奏したのかもしれない。
続いてのグラフ3,4は「Far Cry Primal」の結果となる。
Far Cry Primalでも,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5とRX 470 OCの力関係は変わらずといったところで,RX 470 OCと比べての50〜54%といったところ。一方,R7 370と比べると8〜14%程度のフレームレートとなり,R7 370とR7 360の間に収まっている。
「Fallout 4」の結果をまとめたのがグラフ5,6となるが,これまでとは少し異なる傾向となった。
まず1920×1080ドットの場合,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5はRX 470 OCの54〜57%に留まっていたのに対して,1600×900ドットでは67〜68%と健闘している。さらに,R7 370に対しては,どのテストでも上回るスコアを記録しており,なかなかにインパクトが大きい。
グラフ7,8は,「Tom Clancy’s The Division」(以下,The Division)の結果だが,ここでもSAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5の結果は良好だ。Fallout 4と同様に,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5はR7 370を上回り,GTX 950と比べて2〜6%程度までその差を詰めている。また,レギュレーションでは平均60fps以上を合格点としているが,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5は中設定の1600×900ドットでそれをクリアている点も評価できよう。
「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)のスコアをまとめたものがグラフ9,10となる。
FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチは,毎回のようにRadeon勢が伸び悩む結果となるのだが,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5もGTX 750 Tiと比べて,「標準品質(デスクトップPC)」でほぼ横並び,「最高品質」でも6〜9%上回る程度まで差を詰められている。
とはいえ,最高品質の1600×900ドットであれば,スクウェア・エニックスが指標で「とても快適」とするスコア5000を超えているので,快適にプレイできそうだ。
なお,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチのスコアを平均フレームレートで示したグラフ9’,10’も用意した。興味のある人はこちらも参照してほしい。
DirectX 12のテストとなるAotSの結果がグラフ11,12だ。
端的に言えば,Time Spyとほぼ同様の傾向である。ただ,Extreme設定の1920×1080ドットでは,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5のスコアはRX 470 OCの3分の1程度にまで落ち込んでしまっている。プロセッサ数の違いに加えて,メモリ容量など足回りの差によって,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5では負荷が高すぎるテストとなってしまったということなのだろう。
消費電力はRX 470 OCから最大100W程度低く,GTX 750 Tiよりやや高い程度に
さて,前述したようにRX 460は,電源供給のためにPCI Express補助電源コネクタを必要としない点が,魅力のひとつとなっている。では,実際の消費電力はどの程度なのだろうか。今回も,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体の消費電力を比較してみたい。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイ出力がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果はグラフ13のとおり。まずアイドル時だが,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5は44Wと,最も消費電力が低かった。アイドル時における消費電力の低さは魅力的だ。さらに,各アプリケーション実行時を見ても,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5はRX 470 OCよりも76〜97Wほど消費電力が低く,GTX 750 Tiより若干高い程度という結果となった。PCI Express補助電源コネクタを必要としないだけあって,消費電力の低さはかなり優秀といえよう。
さて,いつもなら,最後にGPUの温度を比較するのだが,SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5は,Afterburnerや「GPU-Z」(Version 1.9.0)でGPU温度を取得できなかったので,今回はやむを得ず断念した。
なお,筆者の主観であることを断ったうえで述べると,GPUクーラーの動作音は,かなり静かなように感じた。静音性が抜群に高いというほどではないが,少なくともケースに入れるとまったく気にならないレベルなのは確かだ。
補助電源コネクタレスとしては相応の性能。ターゲットとなるユーザー層は「AMDの言うとおり」か
SAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5がクロックアップモデルであるということは押さえる必要があるものの,RX 460自体は,補助電源コネクタを必要としない消費電力レベルのグラフィックスカードとして,相応の性能は獲得できていると言っていい。
冒頭でも紹介したとおり,搭載グラフィックスカードは,1万円台半ばから2万円弱の価格で日本市場に登場する見込みと,価格的にはまずまず買いやすいレベルだが,絶対性能が,多くのゲーマーにとって物足りないレベルなのも確かだ。あと1万円+αの予算があれば,ざっくり2倍の性能を持つRX 470搭載カードが選択肢になるわけで,どうしても1万円台で抑える必要があるのでなければ,RX 470を選んだほうが幸せになれるだろう。
RX 460は,AMDの主張するとおり,MOBAを中心とする,描画負荷の低いゲームタイトル向けであり,それ以上を望むべきではない。その意味では,ターゲットとなるユーザー層が極めて明確なGPUという理解が正しいのかもしれない。
AMDのRadeon RX 460 製品情報ページ
アスクのSAPPHIRE RADEON RX 460 2GD5 製品情報ページ
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