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結のほえほえゲーム演説:特別編「NHK『ゲームゲノム』総合ディレクターの平元慎一郎氏に,番組出演者が裏話を聞いてみました」
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印刷2022/12/14 12:00

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結のほえほえゲーム演説:特別編「NHK『ゲームゲノム』総合ディレクターの平元慎一郎氏に,番組出演者が裏話を聞いてみました」

画像集 No.001のサムネイル画像 / 結のほえほえゲーム演説:特別編「NHK『ゲームゲノム』総合ディレクターの平元慎一郎氏に,番組出演者が裏話を聞いてみました」

 ごきげんよう。タレントとして活動しております。です。

 先日の連載でお伝えしたとおり,本日(2022年12月14日)に放送されるNHK総合「ゲームゲノム」の第9回,「自問自答〜This War of Mine〜」に出演させていただきました。
 「ゲームを『文化』として捉え、名作の魅力に迫っていく」というコンセプトの「ゲームゲノム」が生まれたとき,待ち望んでいた新しい時代の訪れを感じたのを覚えています。いち視聴者として毎回の番組を楽しみながら,そこに関わりたいと強く思っていました。

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 12月14日放送のNHK総合「ゲームゲノム」に出演する結さん。今回の「結のほえほえゲーム演説」では,番組でも取り上げている「This War of Mine」のゲーム内容について,詳しく紹介していきます。

[2022/12/10 12:00]

 そして今回,番組出演をきっかけに生まれたご縁から,番組総合ディレクターの平元慎一郎氏に対談を快く受けていただけましたので,連載の特別編としてお届けしたいと思います。

画像集 No.002のサムネイル画像 / 結のほえほえゲーム演説:特別編「NHK『ゲームゲノム』総合ディレクターの平元慎一郎氏に,番組出演者が裏話を聞いてみました」

NHK公式サイト
「自問自答〜This War of Mine〜」ページ



今,「This War of Mine」を

取り上げることの意味


結:
 今日はお忙しいなか,お時間をいただきありがとうございます。
 私は1年ほど前に放送された「ゲームゲノム」のパイロット版(関連記事)のときから,番組のファンだったんです。ゲームのプロモーションではなく,ゲスト出演者がプレイヤーとしてゲームから何を受け取ったのかを語るという構成に新しさを感じました。

「ゲームゲノム」総合ディレクター 平元慎一郎氏(以下,平元氏):
 ありがとうございます(笑)。放送後,いつもSNSやモニターリポートで視聴者の皆さんの声を聞くことは欠かしていないのですが,「番組のファンです」という方と直接会うのは初めてで,しかもそれが結さんというのが何だか不思議な感じです(笑)。

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結:
 いえいえ,そんな(笑)。実は「This War of Mine」PC / PlayStation 4 / Xbox One / iOS / Android)を取り上げる第9回に出演依頼をいただいたとき,「番組にとって,とんでもなく重要な回になりそうだな」という直感がありました。全10回のシリーズのうちの終盤近くで,このゲームを扱う意義はとても大きいと思いますから。

平元氏:
 「This War of Mine」は,マイナーだけど物語る力を持っていて,ゲームを通して“戦争を想像”できる作品です。実際に長く戦争というものに翻弄されてきた歴史を持つポーランドのデベロッパが作ったからこそ,「This War of Mine」は唯一無二のゲームになっていると思うんです。
 何より,さまざまな問題をリアルタイムに抱えている「世界」と「今」という時世だからこそ,「ゲームゲノム」として伝えられることがあるだろうと考えて取り上げることにしました。

結:
 そうですね。今,「This War of Mine」という作品を扱うことに意味があると思います。

平元氏:
 実は「ゲームゲノム」は各回ごとに異なるディレクターが担当しているんですが,「This War of Mine」を取り上げようと提案してきた堀江凱生ディレクターは,普段は報道系の番組を作っているんです。普段から大切にしているジャーナリズムと,自分を育ててくれたゲームを掛け合わせて番組を作りたいと語ってくれていましたね。

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結:
 取り上げるゲームを決めるうえでの基準はどこにあるんですか?

平元氏:
 一番は,「“ゲームゲノム”がそこにあるか」です。“ゲームゲノムの定義とは?”みたいな話もあるかと思いますが,それこそいろいろな解釈ができて……少なくとも番組側としては「その作品のプレイ体験によって受け取った大切な感情や価値観」を指しています。そのうえで,前半のラインナップこそ「有名なタイトルは多くの人の心に残っているはずだし,そうしたものには“ゲームゲノム”があるんじゃないか」という発想で企画を考えた始めた部分もあります。
 ですが,それは決して,ヒット作だから,有名タイトルだから紹介するという文脈ではないんです。それこそ第9回となる「This War of Mine」自体,かなり早い段階から取り上げることは決まっていました。「メジャーじゃないタイトルはどうなの」みたいな議論には一切なりませんでしたね。

結:
 今まで扱ってきたゲームチョイスを考えると,第9回に「This War of Mine」という流れは,特別な意味合いを感じました。ゲームはただ楽しいだけのものじゃないということを,番組として伝えられるのかなって。これまでの放送で,視聴者側もきっと「ゲームゲノム」という番組のコンセプトを理解したでしょうし,満を持してこの作品について放送すべきタイミングがやってきたのかな,とも感じました。
 私はゲームにまつわる仕事を10年ほどやってきましたが,「ゲームはただ楽しいだけのものじゃない」という大切なことを伝えられるチャンスって,とても貴重なんです。それをたくさんの人に知ってもらえるのは,ゲームが次の時代にいくキッカケになると思いました。
 タイトルのチョイスだけで番組側の熱意が想像できましたし,やれるだけのことは全部やりたかったので,オファーをいただいた瞬間に,収録までのプライベートの予定を全部キャンセルしちゃいました。あらためて全身全霊をかけてこのゲームに向き合わないと,絶対に後悔するという思いが生まれて。

平元氏:
 ありがとうございます。結さんがとても真剣に番組とこのゲームに向き合ってくださったことは,スタジオ収録のときにこちらにもひしひしと伝わっていました。
 「ゲーム教養番組」と銘打っているからには,視聴者それぞれに何かを受け取ってほしいんです。とくに第9回では皆さんに伝えたいものが相当重たいものになるぶん,受け止めてもらえるか気になりましたが,ご出演いただいた結さんや徳岡正肇さんのおかげで,僕ら的にもそれが確かなものになったかと思います。

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結:
 実際にポーランドを取材して,現地で撮られたVTRも貴重ですよね。

平元氏:
 堀江ディレクターには「こうした世界情勢だからこそ,クリエイターの方の思いをしっかりと撮ってきてほしい」とお願いしました。ポーランドが国として「This War of Mine」を推薦図書にしていることも分かったので,学生が遊びながら学んでいる現場なども現地コーディネイターの方と探しました。おかげで説得力とリアリティのあるVTRパートになったと思っています。
 「ゲームが教育に使われる」ということ自体は,もうそれほど珍しくないものですが,ことポーランドと「This War of Mine」に関しては,我々が日本で暮らしながら想像しているものとは明らかにニュアンスが違う。この温度感というか肌触りはポーランドまで行かなければ絶対に伝わらないことだったと思います。

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結:
 あの映像を,視聴者の皆さんより先に見せていただくことの責任も感じました。

平元氏:
 時間をかけて丁寧に作ったVTRですが,スタジオで流すときにはやはり緊張しますね。
 「ゲームゲノム」の番組構成は,この作品のどこに心を動かされるのかという部分はVTRで伝え,ゲストの方々に作品の魅力を深掘りしていただくという形です。つまり,ゲストの方がVTRを受けて,“何か深くまで潜ることを言わなければならない”という状況を作ることを重視しています。そのためには,VTRもきちっとしたものを準備しないといけない。ここでVTRがユルいとゲストも何を言っていいのか分からなくなり,その後のスタジオも悪い意味でフワっとした雰囲気になってしまいますから。

結:
 あのVTRには,そういう意図もあったんですね。それにしてもクリエイターさんの言葉も重かったです。実際にお話しされているのを見て,想像以上の真っ直ぐなメッセージに,強い衝撃を受けました。

平元氏:
 実際の映像と肉声というのはとても強いです。作品に込めたメッセージについてもハッキリ言葉にしていただいていることが重要で、ここはTVの得意分野かもしれないですね。
 実は毎回,インタビューの収録時には,作品のファンの方が喜んでくれそうな細かいお話もうかがったりするんですが,編集のときには泣く泣くそれを削ったりもします。「初めての情報があるか否か」より,「『ゲームゲノム』で話していただくことで,その作品に触れたことのない方にも届く」ことを重視したほうがいいと思っていますので。これは自分もゲーマーなので,いつも悩むんですが,その覚悟は忘れないようにしています。

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「ゲームゲノム」のキャスティングや

演出に込められた狙い


結:
 視聴者としてこれまで拝見してきて,ゲストのキャスティングに関するこだわりも感じていました。

平元氏:
 「ゲームゲノム」では,ゲームが圧倒的なパワーを持っているという前提で番組を作りますから,それを語るという重要な役割であるゲストのキャスティングはものすごく大事なんです。ゲストはある意味で我々スタッフの代弁者ですし,さらにはご自身ならではの言葉や経験で魅力を語っていただくわけですから。見ていただくためのキャスティング論というTV的な戦略の部分もありますが,有名な方なら誰でもいいというわけでもないんですよね。

結:
 第9回という大切な回で,どうして私にお声がけいただけたんでしょう?

平元氏:
 「This War of Mine」が持つ「戦時下で一般市民がどう生き延びるか」というゲーム体験,そして番組として掲げた「自問自答」というテーマの真髄に迫るには,ゲームが持つ力を心から信じていて,いろいろなゲームをプレイしたうえで比較し,唯一無二である部分を言葉にできる方が必要でした。
 そこでさまざまなゲームメディアをチェックし,インディーズゲームを含めたくさんの作品をプレイされている結さんにお声がけしたわけです。

結:
 ありがとうございます。ゲームが好きだという想いを何よりも大切に活動をしてきたので,こんなに嬉しいことはないです。
 放送を見るたび,取り上げるゲームとゲストの方の意外な共通点にも驚かされていました。「ゲストの方にこの言葉を言わせることを,どこまで想定していたんだろう?」って感動すら覚えることもあって。

平元氏:
 テーマに合わせてゲストを選んだうえで,何を語っていただくかはかなり狙っています。大事なのは,事前アンケートによるキャッチアップですね。その作品を好きなことはリサーチで分かっても,どんな部分に惹かれているのかといった部分や,その人の人生経験と重なったり,あるいは影響を与えたりしたプレイ体験が具体的に何なのかは前もって聞かせていただいて,収録前に打合せを綿密に行います。
 例えば第7回で「ライフ イズ ストレンジ(&2)」関連記事)を取り上げたときのテーマは「選択の重み」です。そこで,これまでの人生で,きっとさまざまな重い選択をされてきた方にお願いしようと,お笑い芸人で映画監督の品川 祐さん,アイドルを経て今さまざまなチャレンジをされている最上もがさんにオファーしたんです。

結:
 番組があれだけ面白くなっているということは,企画段階で慎重に想像をしつつ作られているんだと思いました。
 ただ,出演して気付いたのは,スタッフさんの側で道筋を作るのではなく,スタジオでは完全に私達に場を委ねていただけているところでした。それがとても嬉しかったです。

平元氏:
 収録で最も大事にしている部分なので,そう言っていただけるのはありがたいですね。第9回については「この自問自答というテーマについて,結さんはどう思いますか?」ということを投げかけることが,事前アンケートや打ち合わせによる取材になっていて,その結果をスタジオでトークしていただいたわけですが,それにリアリティや説得力があるかが極めて重要だと考えています。

結:
 番組に出演してみて初めて気付いたんですけど,あの円卓ではMC以外誰も台本を持っていないですよね。私は言いたいことをびっしり書いたメモを用意してきたのに,持ち込まないように言われて動揺しちゃいました(笑)。

平元氏:
 あのメモを見て「ゲームゲノム」への愛は感じられて嬉しかったんですけど,引き取らせていただきました(笑)。3人が語るあの場はドキュメンタリーだと思っていて。MCの方は進行上,台本が必要という判断をしていますが,それ以外は目線を落としてほしくないーー“クロストークをする場”という雰囲気を創り上げたい意図があります。加えて,スタッフの存在すらもできるだけ除外した空間にしたいんです。究極的には,あの場で3人がお話しされたことがすべてなんですよ。

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結:
 すごく不思議な空間でしたね。MCの三浦大知さんのほうを向いて話し続けていても,普段の収録と違って私の正面にカメラがないので,とても会話に集中できる環境でした。

平元氏:
 トークのある番組では,ゲストの方にカメラ側へ向いていただくという,TV的な演出がされることもあります。しかし,「ゲームゲノム」では,視聴者の皆さんに「出演者がトークしている様子を一緒に見て,感じていただく」ためテーブルを円卓とし,ゲストの皆さんがお互いを向いてお話しいただけるようにしています。

結:
 あのセットにはそういう意味があったんですね。小道具類も,戦争やポーランドにまつわるものが置いてあって,一つ一つ手に取って紹介したいくらいでした。

平元氏:
 でも,番組内ではほとんど触れないようにしているんですよ(笑)。番組上の意味合いとして、“ピントが語り手に合っていること”を重要視していますから。もちろん,ふとした瞬間の映像で作品やテーマに紐づく小道具を置いていますし,セット全体の雰囲気作りも兼ねています。でも,すべては確かなクロストークを収録するためですね。

結:
 ああいった小道具へのこだわりも,番組に参加して初めて気付いたことでした。

平元氏:
 第6回「ロマンシング サガ2」関連記事)のときは,とくにイースターエッグをいっぱい詰めこんでいます。「ひらめき」に関するVTRが終わったあとに小道具の電球が光ったり,三浦さんが「ひらめき」について語っているとき,その頭上に電球クッションがくるようなカメラアングルで撮影したりしていますね。

結:
 あれは偶然じゃなかったんですね! あらためて録画で確認してみます!


ゲームを消費せずに広く語りたい。

開かれたターミナルのような番組を目指した3か月。


結:
 確証があるわけではないんですが,ゲーム好きな方ばかりで番組を作られているんだろうなという安心感がありました。そうした部分が「ゲームゲノム」の強みなのかな? と。

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平元氏:
 ディレクターはもちろん,技術や美術,音響などいろいろなスタッフがゲーム好きで,収録時にはゲーム話で盛り上がったり,僕の知らないようなゲームをオススメされたりもします。
 ただ面白いことに,ゲームが好きなことを前提としてスタッフを集めたわけではないんです。みんながたまたまゲームを通ってきている。つまりゲームゲノムを持っている人間が,もはや特別な存在ではなくなってきていることの証左でもあるわけです。
 それもあってか,担当していない回のディレクター達もスタジオ収録時には手伝いに来てくれるんです。自分の担当回で忙しいはずなのに(笑)。それは「自分が担当するゲームの良さを絶対に伝えないといけない」という責任感をシェアしているからでしょうし……,番組として放送されるときに削られるトークも聞いておきたいという気持ちもあるみたいで(笑)。

結:
 私も第10回の収録を見学したかったです(笑)。
 でもきっと,クリエイターさんに出演交渉するときも,そういった部分が伝わっているのかもしれないですね。

平元氏:
 実はクリエイターさんに出演をお願いに行くときは,私も担当ディレクターも緊張して胃がキリキリ痛んでいるような状態なんです。とくに「ロマンシング サガ2」の回を担当したディレクターは,河津秋敏さんに会いに行くとき,「そんなスーツ持ってたんですか?」みたいなパリッとした格好をしてきて(笑)。

結:
 河津神は我々ファンにとって,まさに神ですからね……!

平元氏:
 ゲームクリエイターの皆さんに対しては,作品の世界を生み出した神様としてのリスペクトを持っていますし,半分がプレイヤーで半分がTVディレクターとして打ち合わせに臨んでいます。
 「ゲームゲノム」で作品を取り上げるということは,ディレクター目線で「このゲームはここがいいんです! こんな感情や価値観を受け取れると思うんです!」と言い切らせていただくことです。例えば第4回の「DARK SOULS」関連記事)のときにしても,単に“死にゲー”と括るのではなく,そこから何を受け取ったのかを因数分解して“究極の達成感を得る,その醍醐味とはー”という番組にしていきました。これは勇気のいることですし,畏れ多いことでもあるんですね。
 一方でクリエイターさんから,打ち合わせを通して「プレイヤーはこう感じるんだ,という気付きがあった」いうお声をいただけることもありました。

結:
 「ゲームゲノム」がほかの番組と決定的に違うのはそこですよね。単にあらすじを紹介したり,キャッチーなシーンをつなぎ合わせたりするのではなく,ゲームから受けたプレイヤーの心に残り続ける影響を持ち寄って語り合う番組なんて,これまでほかに見たことがありません。
 人がどう感じたかという体験,クリエイターさんが何を考えて作ったかというメッセージや哲学をまとめて知ることのできる番組を,これまでなぜ誰もやってこなかったんだろう? と思うぐらい,私の中では理想のゲーム番組です。

平元氏:
 ただ矛盾するようですが,番組で語ったり,感情や体験をシェアしたりすることは,ある意味で野暮なことなんじゃないかというか,ゲームというのは実際に自分でプレイし,体験することで完結すべきだとは思ってはいます。志としては,そうしたところを越えるくらいの番組にしたいところですが。

画像集 No.014のサムネイル画像 / 結のほえほえゲーム演説:特別編「NHK『ゲームゲノム』総合ディレクターの平元慎一郎氏に,番組出演者が裏話を聞いてみました」
結:
 個人的には,そういう控えめな思いもすごく大事だと思っているんです。いろいろと語りつつも,その後に「私がそう思うんだけなんですけどね」「遊んでもらえないと分からないんですけどね」とカッコ付きで注釈するような感覚ですよね。
 「ゲームゲノム」は,メッセージを発しながらも押しつけがましくない部分があるからこそ、安心して観られるんだと思っています。一番大切なものは何かという前提を絶対に崩さない,ゲームをただの題材として扱わない気持ちがそこにあるんだろうなぁ,と。

平元氏:
 「ゲームを“消費”したくない」,とは思っているんです。とは言っても,番組には決まった尺があるし,見ている人が遊んでいるかどうかも分からない。番組にするという行為には,消費するという側面がないわけではありません。
 ただ今回,いろいろな作品を取り上げたことには意味はあると思っています。時代を経てもゲームの中身は変わらないけど,遊んだ時代や,自分が子供のころに遊んだのか,大人になってから遊んだのかによっても見え方が変わってくるんですよね。
 そうした中で「ゲームゲノム」が,ゲームというエンターテイメントの中心にある“ターミナルのような番組”になればいいなとは思ったんです。このターミナルに来て,ゲームを実際にプレイしてもいいですし,そこに込められた価値観を知って別の作品へ行ってもいい。あるいは,自分が大切にしている感覚が言語化されているのを見て納得してもいいと思っています。

結:
 それはよく分かります。

平元氏:
 例えば「This War of Mine」のキーワードは「自問自答」としました。でも,視聴者の方が「自問自答じゃない!『ゲームゲノム』っていう番組は分かってない!」と受け取っても,それはいいと思っています。
 「ペルソナ5」の回(関連記事)でも,「なぜUIや音楽について語らないんだ」というお声をいただきました。そうした方も少し視点を変えて「自分が『ペルソナ5』を語るとき,そこには音楽やUIの話が欠かせなかったんだ」と気付けば,それは作品をもう一度好きになれる理由になるんじゃないかと思うんですよね。そういう意味では,視聴者を信じてかなりの剛速球を投げているつもりです。

結:
 そのゲームのファンであればあるほど,「もっとここを紹介して!」という気持ちになるのは分かります。でも確かに,自分が気に入っていたのが番組では触れられなかった部分なんだと気付かされるところはありますね。

平元氏:
 今まで感覚だけでそのゲームを好きだった人も,番組によって魅力が言語化,体系化されたりすればいいな,と。
 ゲームを知らない人にも見てもらえる,という作りは「ゲームゲノム」の根幹になっている部分です。ゲーマーの方からすれば「それは違う」と思う部分があるかも知れないけれど,番組を通して何かを考えるきっかけにしてもらう。知らない人に見てもらうことと,知っている人には考えるための機会にしてもらうこと,それを両立できないなら,広く放送する意味はないと考えています。これは一人のゲームが大好きな人間として,そしてTVディレクターとしてたどり着いた絶対に譲れない覚悟です。
 マニアックに寄せることはできるけれど,単にゲームを並べるだけでは,浅すぎて前に進まなくなってしまいます。それにゲームの最新情報や細かい部分を知りたいのであれば,それは既存のゲームメディアが日々伝えていることですし,「ゲームゲノム」には絶対にできないところです。つまり棲み分けですよね。

結:
 私もラジオ番組(FM Nack5「FAVFOUR」)で毎週ゲームの紹介をさせていただいていますが,いまゲームをやる習慣がない人にも振り向いてほしいと常に本気で思っていて。「ゲームゲノム」のバランス感覚は参考にしております。

平元氏:
 この辺りは難しいですよね。計算はしていますが,バランス感覚があると感じていただけたのは結果論かも知れません。いろいろと反省することもありますが,基本的には文脈を知らない人にもゲームの魅力を伝えるという前提を崩さずにやってはいます。

結:
 きっとそこが信頼されているからこそ,「ゲームゲノム」の視聴者さんは主体性があって柔軟な意見をお持ちなんだろうな,という印象があります。番組に「分かってないよな〜」と言うことも含めて楽しんでいるというか。

平元氏:
 いろいろなご意見があるということが,番組を作る側にはたまらなく嬉しいし,ありがたいんですよね。教養番組というのは「これが正解であり,異論は認めない」と決めつけるものではなく,考えるきっかけを提示するものだと思っているので,反応が千差万別ということは理想に近付けたんじゃないかと。番組のコンセプトやメッセージは一朝一夕で醸成されるようなものではないんですが,「ゲームゲノム」が放送されている3か月は,僕らが届けたかったことが少しずつ積み上がっていった期間じゃないかと思いますね。


来るべきシーズン2へ向けて

ゲームゲノムを探す旅は続く


結:
 個人的な興味なんですが,平元さんが初めてゲームクリエイターの存在を意識したのは,いつのことなんでしょう?

平元氏:
 うーん……「ファイナルファンタジーVIII」ですかね。初めてプレイしたときは小さかったので,作品に込められた本当の意味は分かっていなかったと思います。でも,物語に強烈に引き込まれて……悔しさがあったり,勇気をもらったり涙が出たりといった瞬間に,このゲームを作った人がいるということに気付いたというか。「なんでこんなにすごいことを思いつくんだろう」と思いました。なので,初めてゲームクリエイターのことを調べたのは野村哲也さんなんです。キャラクターデザインのすさまじさは僕があらためて語るまでもありませんが,野村さんはゲームデザインの面でも当時から異彩を放っていた印象です。

結:
 そうだったんですね。確か当時はどのゲーム雑誌を見ても野村さんのお名前が載っていたような気がします。
 ちなみに子供の頃,ゲーム雑誌などは読んでいましたか?

平元氏:
 そもそもゲーム雑誌を買うかどうかの葛藤がありましたね(笑)。ゲーム雑誌にお金を使わず貯金すれば,いつかゲームソフトが手に入る。だけど,「ファイナルファンタジー」のインタビューが載っているのでゲーム雑誌も買わずにはいられない……なんてことがありました。
 「電撃PlayStation」の「ファイナルファンタジーVIII」の発売直前号は今でも持っていますよ。オリジナルのガンブレードの表紙で「これは永久保存版だ」と思って買ったんです(笑)。情報を得るだけでなく,何度も読み返して「ケアルラって書かないといけないところがケアルのままになってる」って,校正みたいなことまでしていました(笑)。

結:
 あの頃って検索すれば何でも出てくる時代じゃなかったからこそ,少ない情報で想像をふくらませる楽しみもありました。
 そういえば,私はやったことのないゲームの攻略本を読むのが好きだったんです。親からゲームボーイを買ってもらえなくて,3年ぐらいは「ゼルダの伝説 夢をみる島」の攻略本を読んでイマジネーションを高めていました(笑)。

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平元氏:
 あ,僕も「ボクらの太陽」)を持ってもいないのに,「登下校時にどのルートを通ると太陽エネルギーを効率よく溜められるか」をシミュレートしてましたよ(笑)。
 実は「ゲームゲノム」で取り上げた作品のなかにも,僕個人としてはプレイできていないゲームもあるんです。それでも総合演出としてプロデュースできたのは,子供のころにいろいろと考えていたことや,持っていないゲームの情報を集めて妄想していた体験を無意識に生かすことができたからかもしれません。ゲームをプレイしたことのない人の気持ちを理解したうえで番組を作ることで,初めて伝わる何かがあったのかもしれませんね。

※「ボクらの太陽」のカートリッジは,太陽光を検知する「太陽センサー」を内蔵。太陽光を浴びた状態でゲームをすると,主人公の武器である太陽銃「ガン・デル・ソル」に必要なゲージを充填できるほか,ボスの浄化ができるなどの影響があった

結:
 ちなみに平元さんはどんなジャンルのゲームがお好きなんですか?

平元氏:
 何でも遊びますが,そんなに網羅しているというわけでもないんですよね。

結:
 大丈夫です。その注釈を入れたくなる人は,みんなゲーム好きですから(笑)。

平元氏:
 ゲームには遍歴があり,通ってきた道と通らなかった道がありますからね。これは強調しておきたいです(笑)。
 PlayStationの時代では“宇宙野菜”を育てる「アストロノーカ」が好きでした。何かを育てるシミュレーション的なゲームシステムがありつつ,宇宙が舞台という不思議な世界観となぜかマッチしていて,でもゲームバランス自体はまぁまぁシビアなんですよ。宇宙野菜を育てていても害獣にやられちゃったりするし,目的となっている品評会にもなかなか勝てない。そのうち「なんで宇宙野菜なんて育ててるんだろう?」って気分にさせられて,単なる作業ゲーじゃないことに気付かされるんです。

結:
 「アストロノーカ」は私も大好きです!

平元氏:
 このほかですと,ヨコオタロウさんの「ドラッグ オン ドラグーン」,とくに初代が本当に大好きですね。当時はやり始めていた無双系のゲームは爽快感が真髄ですが,「ドラッグ オン ドラグーン」はとにかく世界観とストーリーが重い(笑)。主人公達「契約者」は,力を得る代償に大切なものを差し出さなければならないけれど,何を代償にするかを選ぶことはできない。本当に大切にしなければならないものは何なのかを突き詰めてくるゲームですし,「自分はなぜ戦っているのか……」なんて考えながらプレイするので,ボタン一つ押すにしても後ろめたさがあるんです。アクションとしての爽快感はあるんだけど,良い意味で物語やプレイ体験として爽快感はない。

結:
 あんなに暗い作品だとは思わずに手に取られたんじゃないですか?

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平元氏:
 そうですね。最初はもっとカッコ良くて楽しい作品だと思っていました。プレイしたら最初から最後まで鬱々としていましたし(笑)。当時は,“あの”バッドエンドも話題になりましたよね。でも,バッドエンディングでないと伝わってこないこともあるんですよ。ものすごい爽快感はなかったかも知れないけれど,ゲームのストーリーテリングに紐付いたアクションで意味を持たせることに成功したという意味では,非常にエポックメイキングで,「ゲームとはこうあるべき」という思い込みをPlayStation 2時代に変えたゲームだと思います。
 世界観を共有している「ニーア」シリーズもプレイしましたし,ちゃんとセーブデータも消しました()。単なる演出だと思ったら,本当にセーブデータが消されて30分ほど唖然としましたけれど(笑)。

※「ニーア レプリカント(ゲシュタルト)」は,エンディングの一つを見るためにセーブデータを消さなければならない

結:
 そうした部分はまさにヨコオ節ですよね。
 さて,最後にこの質問をさせてください。ズバリ,「ゲームゲノム」のシーズン2はあるんでしょうか?

平元氏:
 すみません,現時点でハッキリお答えできることはありません。ただ,深掘りしたい作品がまだまだ山のようにあるのは間違いありませんし,シーズン1でいただいた「いろいろと足りていない」というお声に対してはきちんと受け止めて改善していきたいです。制作チームとしてはシーズン2,3と続けていくような形を目指して企画を進めてはいます。

結:
 もし次のシリーズがあったら、ぜひ取り上げて頂きたいゲームを,視聴者からの要望として用意してきたので,一方的にお伝えさせてください(笑)。「俺の屍を越えてゆけ」「ワンダープロジェクト」「ときめきメモリアル」「アイドルマスター」「ダブルキャスト」「ぼくのなつやすみ2」「十三機兵防衛圏」,インディーズでは「グノーシア」「UNDERTALE」です。
 それにしても,取り上げるゲームを選ぶのはたいへんじゃないですか?

平元氏:
 作品のチョイスは本当にたいへんで,シーズン1でも企画レベルでは4〜50本が候補に挙がっています。これから続けるのであれば,一生懸命考えないといけないですね。結さんからいただいたご意見も参考にさせていただきます(笑)。何よりも,作った我々がシーズン1を通して,ゲームを文化として伝え続けようというゲノム(遺伝子)が積み上がっている手応えもありますから。
 第9回のディレクターも,完成した映像を10回くらい見直して「いい番組だな」と思ったみたいですし。これからも自分達が自信を持ってお届けできるシリーズとして続けていければと考えていますし,視聴者の皆さんの心を動かせる番組を作ること,そしてゲームの遺伝子を確かな形で残していく存在を目指していきたいです。

結:
 戦争について語るのにふさわしい方はほかに大勢いらっしゃるにも関わらず,私に出演をご依頼いただいたからには,ゲームとひたすら向き合って,感じたことや見つけた言葉をぶつけたいという気持ちで臨ませていただきました。すごく充実した収録で。オンエアの日を楽しみにしています。ありがとうございました。

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 「ゲームゲノム」第9回,「自問自答〜This War of Mine〜」は本日23:00から放送されます。放送終了後1週間は,NHK+での見逃し配信も行われるそうなので,ぜひご覧ください。

NHK公式サイト
「自問自答〜This War of Mine〜」ページ


■■結(女優・タレント)■■
女優・タレントとして活動中。国内映画祭にて主演女優賞を多数受賞。幼少期からのゲーム好きが高じ,数多くのゲーム番組でMCを務め,イトキチ(糸吉)の愛称で親しまれている。

公式サイト:http://yui-monogatari.com/
公式Twitter:https://twitter.com/xxxjyururixxx
ニコニコチャンネル「結チャンネル」:http://ch.nicovideo.jp/yuichannel
YouTubeチャンネル「結ちゅーぶ!」:https://www.youtube.com/channel/UCNwmczTygyPzEnouz9tR_Fg/
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