連載
結のほえほえゲーム演説:第177回「NHK総合『ゲームゲノム』で『This War of Mine』についてお話します」
私が今までプレイしてきた「戦争」をテーマにしたゲームといえば,銃を持って戦場で戦うものばかりでした。しかし「This War of Mine」(PC / PlayStation 4 / Xbox One / iOS / Android)で操作するのは「戦時下の民間人」で,クリア条件は「戦争が終わるまで,耐えて,生き延びること」です。ゲームの舞台は架空の町,ポゴレン。戦争中の町で,廃屋に逃げ込んだ民間人3人を操作していきます。夜になると,周囲の家や施設に忍び込んで食料や物資などを手に入れる「探索パート」に突入します。
葛藤の連続
食料を溜めこんでいる家を見つけたとき,「こんなに溜めこんでいるなら,ちょっとだけ持って行ってもいいかな……?」と考えてしまうけど,そこには同じように苦しい生活をしている民間人が暮らしていて,「本当に彼らの食糧を奪って生き延びていいのか」と迷いが生じます。例えば,武力を持たない老夫婦の物資を奪うと,部屋の一番奥に,一通の手紙があって,老夫婦が孫のために小麦粉を残していたことが判明します。どんなに後悔しても,罪悪感に駆られても,すでに自分は略奪者になっていて,引き返すことはできません。どんな場所でも物資を奪えるので,そのたびに倫理観を問われ,選択を迫られることになります。極限状態に置かれた人間の心理を,イヤというほど実感させられることになるでしょう。
人の家のタンスを勝手に開けてアイテムを奪うことは,我々ゲーマーにとって恐ろしいほど日常茶飯事で,今までゲームの中では何一つためらうことはありませんでした。しかし本作だけは,「果たしてこの行動は正しいのか?」と,必ず一回立ち止まってしまうのです。まるで現実のように……。
そう,このゲームは「敵」がいません。みんな生き延びるのに必死な民間人なのです。最初はできる限り,他人の物資を奪いたくないと思っていても,戦わない,盗まない,危険なところへ行かない……と行動していると,やがて限界がやってきます。飢え,病気,怪我,寒さ。次々とやってくる困難に,真綿で首を絞められるように,状況は悪くなる一方です。遅かれ早かれ,仲間を守るために「やるしかない」瞬間がやってきます。本作の一番恐ろしいところは,自分の手を汚すタイミングを,プレイヤー自身が決断しなければならない点です。戦闘を覚悟して忍び込んだ建物で,強盗達が「人を殺した」と会話しているのを偶然聞いてしまったとき,怖くて一目散に逃げてしまいました。本作にはチュートリアルがないので,戦闘に入ったときにどんな状況になるのかも分かりません。それが想像以上に怖いのです。
そんな様々な恐怖との葛藤が次々とやってきて,そのたびに決断を迫られます。
絶望との戦い
本作のキャラクターには「気分ステータス」というものがあり「うつ状態」や「精神崩壊」など,プレイヤーの行動によってどんどん変化します。数値化されないステータスなので,初プレイ時には命に影響が及ぶのがいつなのか分からず,ひたすら戸惑った覚えがあります。常に限界なように見える彼らのことを,プレイヤーは自然と気遣うようになるでしょう。食料を盗むために人の命を奪うようなことをしたら,精神的にダメージを負うのはもちろんのこと,助けを求めに来た人を余裕のなさから追い返さざるを得ないときなど,良心が痛むようなことがあっても「気分ステータス」に影響してしまうのです。やりたくてやったわけじゃなくても,キャラクターは罪の意識に駆られてしまい,そうさせてしまったプレイヤーの心にも罪の意識が重くのしかかります。
さらにつらいことに,キャラクター達の絶望は伝染します。キャラクターのうち,一人が死んでしまったとき,生き残った二人がうつ状態になり,作業がまったく進まなくなってしまったり。あんなに助け合って生きてきたのに,仲間一人を重傷に追い込むまで喧嘩したり,みんなの物資を奪って夜逃げされたりしてしまったことも……。こうなると悲しみの連鎖は止まりません。画面の中の彼らが「どうしたらいいんだ」と悲しみに暮れているけれど,私自身も絶望的な状況の中で,無力さにうちひしがれました。
ゲームって「○○日生き延びたらクリア」といった目標が設定されている場合が多いと思うのですが,本作は現実と一緒で,何日間耐え忍べば戦争が終わるのか誰にも分からないのです。ラジオから聴こえてくる情報だけを頼りに,そろそろ戦争が終わりそうだからこのくらいの食糧を確保しておけばいいかな? と思ったのに,全然終わらないこともザラにあるのです。
「ゲームゲノム」で語ります
本作は友達と集まってワイワイ遊ぶようなゲームではありません。クリア後に爽快感や達成感があるわけでもなく,ただなんとか生き延びたという感覚だけが残ります。楽しいゲームか? と問われると「YES」とは言えないけれど,やって良かったと心から思う,そんなゲームです。
非現実を楽しむためじゃなくて,現実の苦しみや痛みを想像できる。こういうゲームがあることを,たくさんの人に知ってもらえたら,きっとゲームが次の時代にいくキッカケになると思うのです。
NHK総合「ゲームゲノム」の12月14日23:00からの放送で,この「This War of Mine」をテーマに,MCの三浦大知さん,ゲームジャーナリストの徳岡正肇さんと語り合っています。本作はこれまで番組で取り上げられてきたゲームと比べると,国内での知名度は圧倒的に低い作品だと思います。しかし今,この時代に「ゲームゲノム」で本作を扱う意味を考えると,間違いなく重要な回になるだろうと確信しています。
興奮と緊張を胸に収録に臨んだので,4Gamer読者のみなさんに,ぜひご覧いただきたいです。きっと何かを感じてもらえると思っています。
最近プレイしているゲーム(2022/12/10)
Steam:「Among Us」
PlayStation 4:「ソウルハッカーズ2」
Nintendo Switch:「スプラトゥーン3」
メガドライブミニ2:「パーティークイズ MEGA Q 2022」
PC:「インペリアル サガ エクリプス」
iOS:「ロマンシング サガ リ・ユニバース」
iOS:「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」
iOS:「ゴッドフィールド」
■■結(女優・タレント)■■
女優・タレントとして活動中。国内映画祭にて主演女優賞を多数受賞。幼少期からのゲーム好きが高じ,数多くのゲーム番組でMCを務め,イトキチ(糸吉)の愛称で親しまれている。
公式サイト:http://yui-monogatari.com/
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