インタビュー
Quantic Dreamのキーパーソンに聞く,「Detroit Become Human」におけるアンドロイドに感情移入してしまうメカニズム
Quantic Dreamのキーパーソンと言えば,デイビッド・ケージ(David Cage)氏がよく知られているが,ケージ氏とデ・フォンダミア氏は共に創業メンバーであるという間柄にして,ケージ氏がクリエイティブ面を,デ・フォンダミア氏がプロデュース面を担っている。
PSX2017のオープニングセレモニーでは,デ・フォンダミア氏が観衆の意見を聞きながら「Detroit Become Human」のデモを披露していた。アンドロイドのコナーが主人公となる「The Hostage」である。
今回,ビジネスエリアにおいては,家政婦アンドロイドのカーラが乱暴を振るう父親から少女アリスを助けたいがために,“変異体”へと覚醒するシーンがプレイアブル公開されていた(関連記事)。残念ながら筆者には時間がなく,ほかの取材陣がプレイしている様子を眺めるしかできなかったものの,コナーのデモは3回プレイしている。
そのうち,少女を助けることに成功したのが2回,失敗したのは1回だった。本作ではコナーが死んでも「成功」になることもあるのだが,そもそも「成功」とは何なのか。そのあたりから,デ・フォンダミア氏に話をうかがった。
「Detroit Become Human」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはプロデューサーの観点からお聞きしたいのですが,「Detroit Become Human」はこれまでのプロジェクトとはどのような違いがありますか。
デ・フォンダミア氏:
「Detroit Become Human」は非常に野心的なプロジェクトで,これまでに我々が手がけてきたどの作品よりも困難を極めました。既存のゲームにはなかったほどにストーリーが枝分かれしていくゲームにしよう,という意図があったのですが,あまりにも脚本が複雑だったで大変な思いをしました。
本来,ゲームプレイやグラフィックスをゲームに落とし込んでいくときには,脚本がかなりできあがっているものです。しかし,今回は異なる部門がほぼ同時進行で制作を行っていたので,プロデューサーとして頭が痛かったです。
4Gamer:
前作「Beyond: Two Souls」では,脚本が2000ページに及んだと聞きました。
デ・フォンダミア氏:
今回の脚本は,それよりも数百ページ多いといったところです。ただ,お話ししたように登場キャラクターの数は比較にならず,どんどん枝分かれしていく作りになっているため,脚本は非常に複雑です。「Detroit Become Human」には100人以上の主要キャラクターが登場し,モーションキャプチャだけでも370日間にわたって行われました。本当にスケールが大きなものになりました。
4Gamer:
まるでスキルツリーのようにストーリーの分岐を可視化できる「ロジック」システムで確認しましたが,分岐のパターンの多さに驚かされました。
デ・フォンダミア氏:
デイビッド率いる脚本チームが,ストーリーに綻びが出ないように調整しています。非常に複雑に分岐しますが,「ロジック」によってゲーマーの皆さんが「何を達成していないのか」「どんなパターンがあるのか」を確認できるようになっています。
4Gamer:
コナーとカーラ,そしてマーカスというメインキャラクターが登場します。それぞれののストーリーは独立しているのでしょうか。
デ・フォンダミア氏:
いいえ。あるミッションでプレイヤーが導き出した結果は,ほかのキャラクターのストーリーにも何らかの影響を与えます。このあたりは「HEAVY RAIN」と似ていますが,3人のキャラクターが全員死んでしまっても,ストーリーは1つのエンディングを迎えます。
4Gamer:
私はコナーのデモを3回プレイしましたが,少女を人質にしていたアンドロイドのダニエルを救えませんでした。もしダニエルを救えれば,その後のストーリーに影響を与えるということですね。
デ・フォンダミア氏:
残念ですが(笑),ダニエルを救うことはできません。
4Gamer:
え,救えないのですか?
デ・フォンダミア氏:
ちょっとネタバレになっちゃいましたかね。
リアリズムの観点で言うと,ダニエルは単独で早過ぎた覚醒を起こし,人間社会に反逆を起こしてしまった悲しいアンドロイドです。彼を救いたいと思う気持ちは分かります。
4Gamer:
確かに……。「Detroit Become Human」はプレイヤーの心をもてあそぶ要素がありますね。
デ・フォンダミア氏:
「もてあそぶ」という意図はないですが,「感情」が本作の大きなテーマになっていることは間違いありません。それぞれが何かを考えながらプレイしてもらいたいと思います。
さまざまな国で「Detroit Become Human」のデモを公開してきましたが,多少の偏りがあるとはいえ,別の部分では非常に似た選択を行っている。これは非常に面白い現象であると思います。
4Gamer:
もう10年以上前になりますが,ゲームにおける「不気味の谷」(1970年,日本のロボット工学者である森 政弘博士が提唱した。ロボットがリアルになっていくと,逆に些細な非人間的な動きが気になってしまう現象)について考えさせられたのも,「HEAVY RAIN」のデモがきっかけでした(関連記事)。私が「Detroit Become Human」によって引き起こされる感情は,谷を越えつつあるということでしょうか。
デ・フォンダミア氏:
その話をしていただいてありがとうございます。Quantic Dreamはゲーム表現の限界を超えるべく,テクノロジーやグラフィックス,ストーリーといった面で挑戦を続けています。「Detroit Become Human」では不気味の谷を越えることを意識しているわけではありませんが,そのようにいろいろなことを考えてもらえるのは嬉しいです。
4Gamer:
いや,「Detroit Become Human」は不気味の谷を越えられていないことを逆手に取っているようでもあります。覚醒していない能面のようなコナーより,やつれた面持ちで混乱している様子のダニエルのほうが明らかに人間的です。
このゲームはアンドロイドとしてプレイすることを強要しますが,少なくとも感情的には暴力的な父親よりアンドロイドの味方になります。
デ・フォンダミア氏:
もちろん,我々はプレイヤーの皆さんにはアンドロイドに共感してほしいと思っています。コナーであれ,カーラであれ,人間であるプレイヤーの皆さんが,人間に反逆するアンドロイドに感情移入してほしいと願っています。それが愛なのか,憎しみなのか,感情移入のトリガーは一つではないでしょう。プレイヤーの皆さんが何かを感じて,それを考えてもらうことに主眼を置いています。
「Detroit Become Human」は20年後の近未来が舞台になっていますが,プレイヤーの皆さんには,現在のあなたを意識してストーリーを進めてほしいですね。その意味では,不気味の谷を逆行しているかもしれません。身体はロボットでも,感情を持てば人間はアンドロイドを同類として迎え入れるのか,それとも……。
4Gamer:
そもそも,20年後という近未来を舞台に選んだ理由は何でしょうか。
デ・フォンダミア氏:
「Detroit Become Human」の企画を立ち上げるにあたり,過去にシンギュラリティ(AIテクノロジーなどの進化において,人間社会が大きく変化するとされるポイント)が起こる時期に言及した学者の意見をリストアップしました。その半数を「20年後」が占めていたんです。
20年後には,まだ現在の生活習慣が大きく変化していないでしょう。一方で人間の仕事を奪うアンドロイドが現れ,その結果として酒浸りになる人間も出てきている。そんな絶妙な時期になっている可能性があると思います。
4Gamer:
いろいろと面白い話をありがとうございました。今度はマーカスのデモが公開されることを期待しています。
「Detroit Become Human」公式サイト
- 関連タイトル:
Detroit: Become Human
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(C)2018 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Quantic Dream.
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