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GeForceとRadeonは現状,どこまでDirectX 12に最適化されているのか。「Ashes of the Singularity」で計15製品をテスト
もちろん,控えめに言っても,DirectX 12が今のところまったく普及していないという現実はあるわけだが,ただ,対応タイトルがないわけではない。技術デモや単体ベンチマークではない,実際にプレイできるタイトルとしては,Oxide Gamesが開発中で,Steamから早期アクセスが可能になっているRTS「Ashes of the Singularity」が,すでに存在している。Oxide Games独自開発のゲームエンジン「Nitrous Engine」は,現時点ですでにDirectX 12へ最適化済みとのことだ。
GPUメーカーの二大巨頭であるNVIDIAとAMDはいずれも自社製GPUのDirectX 12対応を宣言済みだが,その後は,「NVIDIA製GPUはDirectX 12の優位性を活用できない」と言い出したり(関連記事),新世代グラフィックスドライバ「Radeon Software」において最大20%の性能向上を図ったり(関連記事)と,AMDのほうが,より“入れ込んでいる”印象を受ける。
では実際のところ,両者のGPUにおけるDirectX 12への対応状況はどうなっているのだろうか。2016年の到来まで1か月を切ったこのタイミングで,GPU計15製品を用い,Ashes of the Singularityのテストを行ってみよう。
ゲーム側で用意しているベンチマークモードを用い,DX12とDX11の両モードでテスト
今回用意したGPU,15製品の内訳は以下のとおりだ。スケジュールの都合で「GeForce GTX 750」を省いたが,基本的にはMaxwellコアのGeForceと,Graphics Core Next(以下,GCN)世代のRadeon R9 Fury&300シリーズを取り揃えている。
- 第2世代Maxwell:「GeForce GTX TITAN X」
「GeForce GTX 980 Ti」 「GeForce GTX 980」 「GeForce GTX 970」 「GeForce GTX 960」 「GeForce GTX 950」 - 第1世代Maxwell:「GeForce GTX 750 Ti」
- GCN 1.2:「Radeon R9 Fury X」
「Radoen R9 Fury」 「Radeon R9 Nano」 「Radeon R9 380X」 「Radeon R9 380」 - GCN 1.1:「Radeon R9 390X」
「Radeon R9 390」「Radeon R7 360」 - GCN 1.0:「Radeon R7 370」
以下,GPU名の「GeForce」「Radeon」は省略して表記するが,今回入手したカードのうち,半数以上はカードメーカーオリジナルのもので,付け加えると,その大多数には工場出荷時点でクロックアップが入っている。そのため,そういった製品は,MSI製のオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.1.1)でリファレンスレベルにまで動作クロックを引き下げ,なるべくGPUの定格で動作するように設定した。
ただし,最近のグラフィックスカードは冷却能力の違いによって高い動作クロックで動作する時間が変わるため,動作クロックをリファレンス相当にまで下げたとしても,入手したカードによって,スコアは微妙に変わることになる。すべてリファレンスカードで揃えられるのが理想だが,現実にはリファレンスカードが用意されていないものも多く,どうにもならないので,ここは理解してもらえれば幸いだ。
P 3スロット仕様の大型クーラーを搭載するR9 390X メーカー:Tul 問い合わせ先:CFD販売(販売代理店) 050-3786-9590(平日13:00〜17:00) 実勢価格:6万6000〜6万9000円程度(※2015年12月5日現在) |
P 上位モデルと同じクーラーを採用した,OC仕様のR9 390 メーカー:Tul 問い合わせ先:CFD販売(販売代理店) 050-3786-9590(平日13:00〜17:00) 実勢価格:5万〜5万5000円程度(※2015年12月5日現在) |
P ヒートパイプ付きの大型クーラーを搭載した,OC版R9 380X Tul 問い合わせ先:CFD販売(販売代理店) 050-3786-9590(平日13:00〜17:00) 実勢価格:3万1000〜3万6000円程度(※2015年12月5日現在) |
P 2連ファン仕様のクーラーを搭載するOC版R9 380 メーカー:Tul 問い合わせ先:CFD販売(販売代理店) 050-3786-9590(平日13:00〜17:00) 実勢価格:3万1000〜3万6000円程度(※2015年12月5日現在) |
P 冷却能力重視の大型クーラーを採用したR7 370 メーカー:Tul 問い合わせ先:CFD販売(販売代理店) 050-3786-9590(平日13:00〜17:00) 実勢価格:2万4000〜2万7000円程度(※2015年12月5日現在) |
そのほかのテスト環境は表のとおり。用いたグラフィックスドライバ「GeForce 359.00 Driver」「Radeon Software Crimson Edition 15.11.1」は,いずれもテスト開始時点における最新版である。
ちなみに,テストに用いたバージョンはプリβとされる「0.64.14585」。以前のαバージョンでは,設定オプションに「AFR GPU」という項目があり,異種混合マルチGPU動作設定も行えるようになっていたのだが,今回テストに用いたプリβにその項目はない。
なお,グラフィックス設定のプリセットやテスト解像度は「Option」から変更できるのだが,変更内容はゲームを再起動しないと反映されないので,この点は注意が必要だろう。
ベンチマークモードでは,多くのユニットが実際に戦闘しているシーンを,Flyby(フライバイ)形式で上空から約3分間描画し,その間の平均フレームレートがを計測する。DirectX 12モードとDirectX 11モードでテストの流れ自体は共通だ。
テストが終わると,「All Batches」「Normal Batches」「Medium Batches」「Heavy Batches」と,バッチ処理ごとに平均フレームレートが表示されるので,今回は総合スコア的な存在であるAll Batchesの値をスコアとして採用することにした。事前検証において,フレームレートのバラツキがかなり小さいことを確認できたため,テストは各条件1回のみの実行だ。
テスト解像度は,ユーザー数が多いと思われる1920
AMDの主張どおり,DX12ではRadeonが優勢
とくにDX11とのギャップが大きいのはGCN 1.1世代
今回,テスト結果のグラフは,DirectX 12環境におけるスコア順に並べつつ,そのスコアを示すグラフの直下に,当該GPUを使ってDirectX 11モードのテストを行ったときの結果も,薄い色のグラフで並べた。DirectX 12モードとDirectX 11モードでスコアにどのような違いがあるのかに注目してほしい。
グラフバーの色分けはGPU世代別になっており,具体的には,濃いめの緑系が第2世代Maxwell,薄めの緑系が第1世代Maxwell,赤系がGCN 1.2,橙系がGCN 1.1,紫系がGCN 1.0だ。
まずグラフ1は,Extremeプリセットにおける2560
一方,Radeonはまず,API間の比較以前に,DirectX 12モードでR9 390がGTX 980より高いスコアを示しているのが目を引く。また,そのR9 390をはじめとするGCN 1.1世代のGPUが,DirectX 11モード時のスコアと比べて同等以上のスコアを出しているのも印象的だ。
AMDは,現行世代のRadeonが搭載する「Asynchronous Shaders」(非同期シェーダ,以下 Async Shaders)が,GeForceに対する優位性だとアピールしているが,全体としてRadeonのスコアが高めに出ているのは,その証左といえるだろう。GCN 1.2世代とGCN 1.1世代でスコアの傾向が異なる理由は正直分からないが,DirectX 12世代のタイトルにおける最大20%の性能向上が「Radeon Software Crimson Edition 15.11」のリリースノートに載ったことを考えると,DirectX 12に向けたGCN 1.2の最適化はまだ道半ばということなのかもしれない。
グラフ2は,Extremeプリセットのまま,解像度を1920
描画負荷を下げたStandard設定になると,傾向に若干の変化が見られた。グラフ3は解像度2560
いま述べたスコア傾向は,解像度を1920
最後に,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いてテスト実行中に計測した,システム全体の消費電力も,グラフ5で示しておこう。
第2世代Maxwellの優秀性と,R9 390Xの強烈さはもはや言うまでもないところだが,R9 Nanoが十分に低いといえるスコアを示している点は評価できるだろう。
確かにDX12で速いRadeonと,Pascal待ちのGeForce。勝負のカギを握るのは対応タイトルの数に
Ashes of the Singularityのテストにおいて,GTX TITAN XとGTX 980 Tiはなんとかその牙城を守ったものの,GTX 980に対しては,R9 390以上のRadeonが相当に優勢な戦いを演じることとなった。AMDの主張どおり,Radeonで正常に動作しているAsync Shadersは,DirectX 12世代のタイトルを前に,対競合で明白なメリットをもたらしているといえそうだ。
GCN 1.2とGCN 1.1でスコア傾向に違いがある理由は最後まで分からず,ドライバの問題があるのか,ハードウェア上の問題があるのかは判別できていないが,描画負荷が上がるとスコアが伸びなくなる点を考慮すると,Async Shader以外の箇所で何かしらのボトルネックが発生しているのではないかとも思う。
つまり,Oxide Gamesの見立てが正しいのであれば,GeForceによるAsync Shadersのサポートは,2016年第3四半期のリリースが見込まれている次世代GeForce――Pascal世代の開幕は来春の「PK100」(開発コードネーム)だが,倍精度浮動小数点数演算プロセッサを持たない「PK104」(開発コードネーム)が次世代GeForceとしてリリースされるのはそれよりも遅くなる――が登場し,この制限が解消されるのを待つ必要がある。なので,PK104が登場するまでの間に,DirectX 12へ最適化されたゲームタイトルが出てきた場合は,Ashes of the Singularityと同様,Radeon優勢という結果になる可能性が高い。
おそらくAMDは「DirectX 12対応タイトルが一刻も早く出揃う」ことを,NVIDIAは「2016年の年末商戦期くらいまで大して出てこない」ことを,それぞれの立場から大いに期待しているはずだ。向こう半年(と少し),両社がどのようなプロモーションをDirectX 12に対して行っていくのか,そして対応タイトルがどの程度増えていくのかを,今回のテスト結果を踏まえながら追っていくのが,PCゲーマーとしての正解ではなかろうか。
「Ashes of the Singularity」公式Webサイト(英語)
- 関連タイトル:
Ashes of the Singularity
- 関連タイトル:
GeForce GTX 900
- 関連タイトル:
GeForce GTX 700
- 関連タイトル:
Radeon R9 Fury
- 関連タイトル:
Radeon R9 300
- 関連タイトル:
Radeon R7 300
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