プレイレポート
リアルタイムレイトレーシング対応の「Minecraft with RTX」β版インプレッション。そのグラフィックスはいかに変貌するか
さらに,2020年に発売予定である次世代ゲーム機のPlayStation 5とXbox Series Xも,こぞってレイトレーシングへの対応を表明しており,あらゆるゲームグラフィックスがレイトレーシング技術の対応へと舵を切ったという印象を抱いたゲームファンも多いだろう。
今後に期待されるのは,写実的なグラフィックスが売りの大作ゲームばかりでなく,老若男女,誰もが楽しめる大衆的なゲームでのレイトレーシング対応と言えよう。その一例となりそうなのが,2020年4月に公開となったリアルタイムレイトレーシング対応の「Minecraft for Windows 10」,いわゆる「Minecraft with RTX」のβ版(以下,マイクラRTX)だ。
“マイクラのレイトレ対応”はハードウェア視点やソフトウェア視点,そしてゲーマー視点から見ても,関心が高いだろう。そこで今回,実際にマイクラRTXを試してみることにした。
なお,筆者はMinecraftの完全な初心者であるため,Minecraftの面白さを伝えるというより「レイトレ対応版はグラフィックス的にどうなのか?」という疑問に焦点を当ててインプレッションをまとめてみた。このあたりはあらかじめご了承いただきたい。
「Minecraft with RTX」β版の始め方
まずはマイクラRTXのインストール手順を簡単に説明しておこう。実はダウンロードしたら,すぐに始められるわけではないのだ。
大前提として,製品版「Minecraft for Windows 10」(税込3150円)を購入してインストールしておく必要がある。β版と言えども,プレイするためには製品版が必須である。
続いて,「Xbox Insider Hub」をインストールする。こちらは無料だ。
Xbox Insider Hubを起動すると,左に「Insider コンテンツ」というメニューがある。ここを開くと,マイクラRTXの項目が発見できるだろう。これをクリックして初めてインストールが可能となる。
なお,Xbox Insider Hubでは,さまざまなβ版ゲーム/アプリの評価に参加すると経験値のようなポイントが溜まり,RPG的にアカウントレベルが上がっていく。このレベルに応じて,高度なユーザーや限定メンバー向けのβ版プログラムに参加できる出来るようになる仕組みだ。
なお,マイクラRTXはエントリーレベルでも参加できるので,Xbox Insider Hubをインストールしたらすぐにプレイできる。
以上の手順を終えたら,いよいよMinecraftの起動だ。
ただし,まだマイクラRTXは始められない。というのも,マイクラRTXは本編の拡張ソフトのようなイメージなので,まずはレイトレーシング対応ワールドを読み込むことになる。
Minecraftの起動画面から「マーケットプレイス」を選択して,検索ウィンドウに「RTX」と入力すると,レイトレーシング対応ワールドがヒットするはずだ。
20件程度のレイトレーシング対応ワールドが見つかるかもしれない。まずは,GeForce RTXシリーズを提供しているNVIDIAが無料公開しているものをダウンロードしてみよう。
本稿では,ここで公開されている6つのワールドを試してみることにした。
- Aquatic Adventure RTX
- Temples and Totems RTX
- Crystal Palace RTX
- Imagination Island RTX
- Color, Light and Shadow RTX
- Neon District RTX
マイクラRTXのパフォーマンスは?
設定項目もチェックしてみる
マイクラRTXの設定オプションにおいて,レイトレーシング描画に大きく関わるのは「高度な映像」内の「DirectX レイトレーシング」という項目だ。これは,レイトレーシングを適用する範囲を視点位置から5段階(0〜4)で設定するものになる。レベル0はレイトレーシング適用範囲を視点から直近までに限定し,レベル4は最遠方まで適用する設定と理解すればいい。
当然,視界は視点位置を起点として扇状に広がっていくイメージなので,遠方に行けば行くほど適用範囲は広くなる。すなわち,設定値が上がるほど視界に入ってくるオブジェクト数が増え,レイトレーシングによって描画するオブジェクト数も増えていく。
ちなみに,最遠方まで適用する設定に関しては「安定的な動作保証はしない」という警告メッセージが現れるので,ゲームプレイを目的としている場合は設定すべきではないかもしれない。実際,最遠方の設定にしてみたところ,高確率でマイクラRTXが落ちて,Windowsデスクトップに戻ってしまった。また,GeForce RTXシリーズの下位モデルでは,設定値を上げすぎるとフレームレート低下が著しくなるはずだ。
さらに,DirectX レイトレーシングの項目を有効にすると,「アップスケーリング」というオプションが使えるようになる。これは,DirectX レイトレーシングを活用してレンダリングした映像を,GeForce RTXシリーズが内蔵する推論アクセラレータ「Tensor Core」を使ったアンチエイリアシング&超解像機能「DLSS 2.0」を駆使して,アップスケール表示を行うかどうかのスイッチ設定になる。特別な理由がない限り,フレームレートが高くなるので有効化しておいたほうがいい。
今回,筆者のテストはCPUにIntel Core i9-7900X(10コア20スレッド対応,定格クロック3.3GHz,最大クロック4.5GHz),GPUにはGeForce RTX 2080Tiを載せたマシン上で行ったが,描画解像度を1920×1080ドット,DLSSオン設定だと,フレームレートはレイトレーシング表示距離のレベル0で90fps前後,レベル4では40fps程度だった。
6つのレイトレーシング対応ワールド
ここからは前述した6つのワールドについて,それぞれの印象的なシーンをピックアップして紹介しよう。
まずはCrystal Palace RTXだ。広々とした大洋に浮かぶ船舶や,島々に建つファンタジックな建造物を冒険できる世界である。実は海の底も作り込まれていて,美しい珊瑚礁や敵か味方か分からない海棲生物が生息する幻想的な風景が広がっているのも魅力だ。
レイトレーシングを有効化すると,水面上に情景の写り込み,いわゆる鏡像が出現するようになる。また,フレネル反射(Fresnel Reflection)も配慮され,視線と水面の角度に応じて,鏡像や水底の見え方が変わる様子も再現される。
なお,Minecraftでは,もともと遠方まで水の底が見えるグラフィックスが標準仕様となっている。そのため,レイトレーシング描画によって遠方の水の底が見えにくくなることで,「遊びにくい」と感じる人がいるかもしれない。ここはファンの目にどう映るかが気になるところだ。
次のNeon District RTXは,その名のとおり,ネオン看板が煌(きら)めく夜の街をテーマにしたワールドだ。空中浮遊を可能にすれば,高低差のある建物がダイナミックに立ち並ぶ迫力のパノラマビューが満喫できる。また,目を凝らせば「GEFORCE」の看板も発見できたりする。
このワールドは,レイトレーシングの効果が分かりやすいのも大きな魅力となっている。レイトレーシングオフの場合,直接光によるライティングのみとなり,さらに自発光マテリアルからのライティングは省略。間接光の効果もなくなってしまうため,かなり「暗い見た目」となってしまう。ところが,レイトレーシングオンでは,これらが全て有効化されて,柔らかい光に満ちた大変美しい映像となるのだ。
ただし,6つのワールドの中でも,とくに処理が重く,フレームレートが出にくいワールドでもある。表示距離の設定をレベル3〜4にすると,30fpsを下回ることもあり,まともにプレイするのは難しそうだった。自発光マテリアルのライティング,そうした発光体に起因した相互反射,間接光照明といったものの負荷が相当に高いのだろう。
3つめのワールドであるImagination Island RTXは,前述のフレネル反射や間接光の表現に加え,透明オブジェクトの屈折表現が楽しめるワールドになっている。たとえば,噴水のある広場では水流越しに周囲のオブジェクトを眺めてみると分かりやすい。屈折によって,背景が歪んで見えるはずだ。
全体的に「レイトレーシングに対応してます!」というアピール度は低めだが,6つのワールドの中では最もフレームレートが高かった。ミドルクラスのレイトレーシング対応GPUでマイクラRTXを試すなら,このワールドを推す。
続いてAquatic Adventure RTXは,海中と海上のどちらも探検できるワールドで,雰囲気はCrystal Palace RTXとよく似ている。間接光表現,水面のフレネル反射といった見どころも共通しているが,海上の城には隠れた見どころがあるのでチェックしておきたい。
ちなみにこの城は,構成パーツに金属マテリアルが多数用いられており,近寄ってみるとマイクラRTXにおけるレイトレーシング実装の特徴が分かりやすく観察できるのだ。
たとえば,城の黄金ブロックが積み上がっている部分に近づくと,隣接する黄金ブロック同士が互いに映り込む。ただ,その鏡像は瞬時に現れるのではなく,十数フレーム程度の時間をかけてフワっと現れるのだ。おそらく,視点が動いているときには,1フレームの時間内に計算が終えられる程度の鏡像生成に留めて,視線が静止したときに時間をたっぷりと使って,より複雑な鏡像を生成するアルゴリズムになっているのだろう。映像に妥協してでもフレームレートを重視する,ゲームグラフィックスならではのやり方といったところだろうか。なかなか興味深い。
では,鏡像が未完成状態の黄金ブロックはどんな見た目なのか。ノイズだらけの見え方かというと,そんなことはない。
マイクラRTXでは,全ての材質表現が物理ベースのルールに則ったものになっている。ある材質に入射した光のエネルギー総和と,その出射光のエネルギー総和が等しい,いわゆる物理ベースレンダリング(Physically Based Rendering,PBR)作法を採用している。したがって,レイトレーシングによる鏡像が未完成の間は,従来のラスタライズ法による物理ベースシェーディングによる陰影で補間しているので,鏡像はなくとも,ちゃんと直接光が当たった状態の黄金の輝きを再現して描画するのだ。つまり,遠方の情景において,ふんわりと出現する鏡像に気が付くことはほぼない。
5つめのTemples and Totems RTXは,南米の古代遺跡を連想させるワールドだ。トラップやパズルなどが作り込まれているほか,危険な動物や敵,味方のNPCといったものも徘徊しており,ソロプレイを想定した世界が広がっている。森や木,池といった要素で構成される自然景観の再現にもこだわっているため,どこに行っても見応えのあるシーンに出会えるだろう。
このワールドでは昼夜の表現があるので,影の生成などに注目してみた。レイトレーシングオフではクラシックな「丸影」だった影の表現が,レイトレーシングオンではちゃんと太陽光から生成されたキャラクター形状の影になる。しかも地面に近い足の影ははっきりと,地面から遠い頭部の影はぼんやりとといった具合に,投射距離に応じた半影表現を伴うのだ。地味ながら,これぞレイトレーシングによる影表現といった描写を堪能できる。
また,神殿の頂上に登ってレイトレーシングを切り替えながら景観を観察していたところ,面白い現象を確認できたので報告したい。
マイクラRTXではレイトレーシングオンのときに,天球シミュレーションが有効化されるようだ。下の画像は太陽が地平線に沈んだ直後の情景を,レイトレーシングのオン/オフで比較したものになる。
オフの場合,太陽が地平線に隠れた瞬間から夜空になってしまう。しかし,オンでは太陽が地平線に深く潜るまで,じんわりとした夕闇の空が長く再現される。
現実世界でも,太陽が地平線に隠れた直後は,強い陽光が空気散乱により広く伝搬するため,しばらくの間は,空を赤く彩る。この様子がマイクラRTXでは再現されているのだ。おそらく「ミー散乱」や「レイリー散乱」などを考慮した空気散乱シミュレーションをベースにした天球シミュレーションが実践されているのだろう。
最後のColor, Light and Shadow RTXは,間接光や鏡像の表現に特化した作りになっており,レイトレーシング対応GPUを導入したら,まず実行してみたいワールドだ。マイクラRTXのショーケース的な位置付けとして,レイトレーシングの醍醐味が満喫できると思う。
これまでの5つのワールドとは違い,屋内を歩き回ることになるワールドだが,建造物を構成する素材のほとんどがツルツルとした(≒スペキュラ強度強めの)鏡像が出やすいマテリアルになっている。そのため,レイトレーシングのオン/オフによって,世界の見え方がドラスティックに変わるのだ。
これぞレイトレーシングならではの描写を楽しめるのは,四方の壁が鏡貼りとなった部屋だろう。遊園地のミラーハウスのような部屋で,向かい合う2組,計4面の壁が合わせ鏡になっているので,無限の鏡像が眼前に広がるのだ。
下の画像を見てほしいが,レイトレーシングオフでは味気のないただの狭くて暗い部屋が,レイトレーシングオンにした途端,無限の広さがある明るい部屋に様変わりする。もちろん,実際に部屋が広くなったわけではない。
なお,鏡の世界に映った自身の姿を数えてみると,7つあった。一番手前にある鏡像は直近の鏡に映る鏡像で,その1つ奥の鏡像は反対側の壁の鏡に映り込んだ鏡像である。この法則性でレイの反射回数を数えると,目の前に広がる7つの鏡像はカメラから投げられたレイが4回反射して作られたものだと計算できる。
また,このワールドで地味に面白いのが,室内には自発光の照明を置かずに,太陽の外光を取り入れた「間接照明の部屋」の数々。レイトレーシングオフでは,ほとんど真っ暗なビジュアルになるが,レイトレーシングオンにすると外光が室内の有彩色の金属ブロックに反射して,色とりどりの間接光を放つ明るい世界に変貌するのだ。部屋によっては,光筋(ボリュメトリックライト)の表現も楽しめたりする。
こうしたレイトレーシングのオン/オフによる情景の変わり様を見ていると,「近い将来,レイトレーシングによる視覚効果をゲームメカニクスに取り込んだタイトルが出てくるのかも?」と思わせてくれる。
レイトレーシングで何ができるかを理解できるマイクラRTX
冒頭で触れたとおり,筆者はMinecraftの初心者であり,同作をちゃんと楽しんだ経験はなかったので,「ああ,レイトレーシングによって表現がこう変わるのか」といった視点でのインプレッションをお伝えしてきた。おそらく,Minecraftを長く楽しんでいる人ならば,筆者より大きな感動を得られるのではないか。ぜひとも,その目で確かめてみてほしい。
また,Minecraftを楽しんでいる小学生や中学生といった若いプレイヤーが,マイクラRTXをどう感じるのかも気になるところだ。ただ「きれいですね」という感想に留まらず,レイトレーシングの効果を応用した独創的なアイデアを生み出して,これまでにないワールドを作ってくれるのではないか,と期待してしまう。
なお,筆者のYouTubeチャンネルでは,32:9の超横長ワイドアスペクトのディスプレイによるマイクラRTXのテストプレイ動画を公開している。興味のある人は,こちらも合わせてご覧いただけると嬉しい。
Microsoft Store「Minecraft for Windows 10」
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