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ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた
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印刷2016/01/23 00:00

インタビュー

ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた

ヴァニラウェアが認知されたからこそ,

単なるHDリメイクでは済まされなかった


画像集 No.062のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた

マフィア梶田:
 中々に辛い思い出もあるようですが,そんなオーディンスフィアを何故リメイクすることになったのですか?

神谷氏:
 前々からアトラスさんから出てはいたんです。でも僕らの中では,オーディンスフィアは,言うなれば“終えた”作品だったんです。
 たしかに悔しい思いはしたけれど,でもリメイクするよりは,これまで培った技術を昇華させた新作を作りたいというスタンスでした。

マフィア梶田:
 それがなぜ,やってみようということになったんでしょう。

神谷氏:
 大西さんをディレクターにして,ヴァニラウェアを2ライン化したいという考えがあったんです。それでいきなり新作は難しいけど,HDリメイクなら初ディレクターでもリスクは少ないだろうと思い,大西さんに預けたわけですよ。
 そうしたら……「直していいですか?」という流れです。

マフィア梶田:
 そのあたりが知りたかったんです。その“直す”がリメイクなんて言葉では収まりきらない,もう新作と呼んでも過言ではない“リ・クリエイト作品”になったわけですよね。

大西氏:
 先ほども話に出たように,オーディンスフィアは処理落ちでも有名になってしまったわけです。それは悔しかっただけではなく,せっかくビジュアルやストーリーが好評だった作品にミソをつけてしまったということで。神谷さんに申しわけないな,という気持ちがあったんです。

マフィア梶田:
 なるほど……。

大西氏:
 なのでこの話をいただいたときは,「まさかリメイクの機会をもらえるなんて!」と思いました。それと同時に,「これでただ単に,HD化リメイクはありえないわなあ」と。

マフィア梶田:
 そのころにはヴァニラウェアという会社自体,「朧村正」Wii / PS Vita)やドラゴンズクラウンを生み出した,ハイクオリティの2Dゲームを作る稀有なメーカーとして認知されていますよね。

「朧村正」※写真はPS Vita版
画像集 No.027のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた 画像集 No.026のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた

大西氏:
 そんなときに「こんなもんか。でも古いゲームだからしょうがない」と言われる作品を出したくなんかないし,なにより期待してくれている人達がガッカリするようなことは許されないと思いました。

マフィア梶田:
 機会をもらったんだから,徹底的に見直して作り直そうとなったわけですね?

大西氏:
 そうなのですが……。いまヴァニラウェアには,「オーディンスフィアのビジュアルを見て感動した」といって入社したスタッフが多いんですね。

マフィア梶田:
 オリジナル発売は8年前ですからね。影響を受けたって人が入社していてもおかしくはないです。

大西氏:
 僕と神谷さんの間では「ああ,あれか……時間がない中でどうにか仕上げたけど,当時は叩かれたなあ」なんて言っているオーディンスフィアが,彼らの中では“唯一無二の名作”になってるんですよ。
 彼らも最初はビジュアルから入ったけど,セリフを覚えるほど何周もした,システムも理解して使いこなすともっと面白くなったと,遊び込んでくれていたんですね。

マフィア梶田:
 複雑で敬遠されたと思っていたシステムも含めて,彼らは受け入れて,楽しんでくれていたんですね。

大西氏:
 そうなんです。なので僕や神谷さんが「あれはイマイチだったから,リメイクの際にバッサリ変えてやろう」とか「このシステムは面倒なだけだからカットしちゃおう」とか言うと,明らかに不服そうな顔をするんですよ(笑)。

神谷氏:
 そうそう。2人で「マジックミックスはなくていいかなあ」なんて話をしていると,「いや,なくちゃまずいでしょう」みたいに怒られる(笑)。

大西氏:
 それで,オリジナルがどのように受け入れられていたかということを,その時初めて意識したんです。もちろん処理落ちといった問題は別ですが,システムが分かりにくかったから,遊びにくかったからといって,全てを変えればいいというものでもないんだなって。
 特に元あった要素を削るのは基本的にやめようと思いました。

マフィア梶田:
 「当時のシステムがあってこそのオーディンスフィアだ」と。開発者の意図をくみ取ってくれたプレイヤーがちゃんといるわけで,それをないがしろにはできないですね。

大西氏:
 じゃあ,いっそ永久保存版という考え方で2本立てにしてみよう。1本はオリジナルが綺麗になってもう一度遊べるものに,もう1本はリファイン版として,オリジナルのファンがどう思うかを気にせず思いっきり変えることができるだろうと。

「クラシックモード」は,リファインされたものがどれだけ進化しているかを比べてみても面白い
画像集 No.044のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた
マフィア梶田:
 だからクラシックモードを積んだわけですね!
 しかし憧れのゲームをもう一度自分たちの手で作れるとなって,スタッフは相当気合が入っていたでしょうね。

大西氏:
 そうですね,けっこう感慨深かったようですよ。

神谷氏:
 彼らはオーディンスフィアを見て会社に入ったのに,まず任されたのがドラゴンズクラウンの“濃い”キャラクターばっかりでしたからねえ。

「ドラゴンズクラウン」のモンスター達はそのリアルな描写が魅力的だ
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マフィア梶田:
 いやいや,テイストは違いますけど,ドラゴンズクラウンも凄いビジュアルで面白いゲームじゃないですか!
 思いっきり作り変えられると制作を始めたリファインモードですが,あの操作性はやはり「朧村正」あってのものですよね?

大西氏:
 少なくともプレイフィールは,ですね。お客さんが触れる表面的な部分,プレイする感覚は朧村正に近づけようと決めてはいましたが,全部同じにできるかとなると疑問だったんです。

神谷氏:
 というのも朧村正は,オーディンスフィアの反省を元に真逆をやった作品なんですよ。当時プレイヤーから声の上がったオーディンスフィアへの不満や問題点を,全て解決してやるぞという意気込みと反発心で作り上げたものなんです。

マフィア梶田:
 たしかに朧村正はマジックミックスのような合成もなければ経験値のために料理を食べる必要もない。極端な話,やろうと思えばアクション一本で突き進むことも無理ではないですもんね。

大西氏:
 だからまず,プレイした感触を朧村正に近づけて,最近ヴァニラウェア作品を知ったという人達にも受け入れてもらえるようにしようという考えがありました。
 そこからどれだけオーディンスフィアらしさを残しつつ,新しいものをどこまで作り出せるのかということを考えましたね。

マフィア梶田:
 その辺のバランス取りは大変そうですね。直したいところはたくさんあるけど,果たしてどこまで手をつけていいか,とか。
 しかも大西さんは,ディレクターとしてスケジュール面からも,リファインの方針を決めなくちゃいけない。

大西氏:
 スケジュールも大変でした。デザイナーからは最初,HD化は半年以上かかるという見積もりがきたんです。「ええー,じゃあ新しい要素の追加や修正は無理かな」と思ったんですけど,いざ始まったら3か月程度で「終わりそうです」って(笑)。
 逆に「このままだとデザイナーのやることがなくなる。それはまずい」と,慌てて神谷さんに中ボスのデザインを頼みに行ったりもして。

神谷氏:
 オリジナルはボスが少なかったので,中ボスの追加はやむなしでしたね。オリジナルはスタートが5人,最終的に12人くらいで制作したものの,明らかにボスを作る工数が足りなくて,同じボスだけどシナリオシチュエーションの違いで戦うという設計で乗り切ろうとしてました。
 それも「同じボスとばかり戦わされる」というお叱りを受けることになるんですが(苦笑)。

大西氏:
 そうでしたね。今回のリファインでは,大ボスはシナリオに沿って戦うので変えるのは無理ですが,中ボスなら追加できるだろうと。
 それで神谷さんから新規デザインが上がり,じゃあアニメーションを作ろうと,オリジナル版と同じように1キャラ1か月くらいと見積もって動いたんですが,実際に作業をはじめたら「1か月なんてとんでもない! まだかかりますよ」と,余裕を見て始めたことが間に合わなくなりそうになったりもして。

神谷氏:
 最近は特にクオリティ病が加速していますね。オリジナルの時は1キャラ1か月だったのが,朧村正で1〜2か月になり,ドラゴンズクラウンでは半年,主人公級だと10か月とか1年ともうなんだかみんな普通に動かすのでは満足できない身体に。

大西氏:
 デザイナー達も朧村正,ドラゴンズクラウンとやってきたので,見た目がオーディンスフィア的なデザインでも,作りまで8年前と同じにできないんですね。その結果,どんどんクオリティは上がっていくけど,反比例してスケジュールはどんどんまずくなっていくと(苦笑)。

ビジュアルはもちろん,ひとつひとつの動作が細かく描きこまれたモンスター達
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マフィア梶田:
 クオリティ病ですか……たしかにあのキャラクターの書き込みやモーションを見ると,そのこだわりに妄執じみたものを感じますね。
 しかし神谷さん,さきほどは大西さんに預けたと言ってましたが,中ボスデザインを起こしたりと,なんだかんだでかなり関わったのでは?

神谷氏:
 かなりって程ではないですけど,結果的にはそんなに手放しってわけでもありませんでしたね。
 シナリオ追加はありませんが,代わりにテキストアーカイブを新しくして入れようということで,デザイナー前納くんがすごく頑張ってくれたのですが,そのテキストが設定的に問題ないか確認作業があったり……すっかりシナリオ忘れてるから僕ではあまり判断できませんでしたが。

マフィア梶田:
 あのテキストアーカイブの情報量や作りからは,言葉は悪いですが,「頭おかしいな」と感じました。

神谷氏:
 相当精査して削ってあの量らしいです。最初はもっと多かったみたいです。

「テキストアーカイブ」は,その情報量はもちろん,実際の本のように挿絵が入っていたり,メモ紙が挟まっていたりと,デザイン面もかなり細かく作られている
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マフィア梶田:
 なるほど。ほかにもここは苦労したとか,紛糾したってところはありますか?

大西氏:
 やはりバランス調整でしょうか。例えばマジックミックスは,オリジナルのような「合成の失敗」がなく,分かりやすいシステムにして,使用するかしないかはプレイヤーに委ねています。料理も同じで,面倒に感じてやらない人も想定しました。
 そのように“やってもやらなくても良い要素”がわりと多いゲームになったがために,どこを平均にしてバランスをとるかを考えるのは大変でしたね。

マフィア梶田:
 朧村正のようにアクション一辺倒で押し切るのは難しいけど,オリジナルほどシステムには縛られていない。絶妙なゲームバランスに仕上がっているなと感じました。
 そしてこのバランスに至るまでは,相当な試行錯誤を繰り返したんだろうなと。

神谷氏:
 けっこういじっていたよね,ほかのプログラマーから「まだやってる」って怒られたりしながら(笑)。

大西氏:
 でもこれは毎回時間が掛かってしまうんですよ。ただ今回は,ドラゴンズクラウンでずっと敵を担当していたプログラマーが,リファインのアイデアも含めて専任的に敵を担当してくれたんで凄く助かりました。


オリジナルで不評だったところは徹底的に直した


マフィア梶田:
 ゲームバランス以外に,開発側として「ここを頑張ったんでぜひ見てほしい!」っていうところはありますか?

大西氏:
 そうですね,これもなかなか伝えるのは難しんですけど,やはりオリジナルで不評だったところは,徹底的に直しましたっていうところです。操作性だと,キャラクターの動きやコンボの繋がり方は,やってみて分かりやすいところだと思います。

マフィア梶田:
 さっきも朧村正の感覚に近いと言いましたけど,本当に操作感は爽快ですよね。

大西氏:
 あとアイテムのリングメニューなんですが,あれ雰囲気は良いんですが,大量のアイテムを管理するには非常に向かないUIだったんです。このリファインで僕は変えたかったんですけど,「いやいやオーディンスフィアはあのリングメニューでしょう」という意見が凄かったんですね。

よりおしゃれに,そして操作感や見やすさが改善された「リングメニュー」
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マフィア梶田:
 オリジナルのファンだった,スタッフ達から声が上がったんですね。でもあれはおしゃれだし,残して正解ですよ。

大西氏:
 なのでリングメニューはそのまま生かしつつ,見やすくするためアイテムが同じ種類で集まるようにしたり,すぐにカバンを圧迫してしまうと不評だった,種やマンドラゴラをスタック形式で貯めこめるようにしたりと,ここはかなり頑張って改善ましたね。

マフィア梶田:
 たしかに気付いたらアイテムが溜まっていることがよくありますが,アイテム管理に不自由することはないですね。

大西氏:
 あとはスキルでしょうか。オリジナルは一人のスタッフが1週間ぐらいで作ったんですけど,あまり数を作れなかったんで,今回は頑張って数を作りましたね。
 それと細かいところではありますが,スキルメニューのキラキラした感じは,女の子のスタッフが一人専属で,時間をかけて丁寧に作ってくれたんです。これはぜひ見ていただきたいですね。

綺麗なだけではなく,スキルの繋がりも見やすい作りにもなっている
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マフィア梶田:
 スキルってショートカットを設定してワンタッチで出るようになっているじゃないですか。

大西氏:
 はい,そうですね。

マフィア梶田:
 でもあれ,ショートカットと同じように,格闘ゲームのようなコマンド入力も設定できますよね?
 どうしてわざわざ作ったのですか?

ショートカットと合わせると,かなりの技数を設定できる
画像集 No.036のサムネイル画像 / ヴァニラウェア神谷盛治氏,大西憲太郎氏インタビュー。マフィア梶田が「オーディンスフィア レイヴスラシル」の魅力について聞いた
大西氏:
 もちろんショートカットに設定した技を駆使して,ゲームを進めていって問題ないんです。ただいろんな技を覚えるけど,一度にセットできるのが4つまでなので,使わない技が生まれたり,やり込み要素に壁ができたりしてしまうわけです。そのあたりの救済処置として入れ込みました。

マフィア梶田:
 あのコマンド入力,レスポンスの良さに驚いたんですよ。コンボも格ゲーと遜色ないくらいに繋がるんで。

大西氏:
 ありがとうございます。コマンドシステムは何回も作っては直しました。コンボのつながりについては調整の賜物で,僕達は格ゲーを作ったことはないんですが,格ゲー好きの企画の古川くんが,吹っ飛びや浮きのパラメータをしっかり調整してくれたんです。

マフィア梶田:
 格ゲー好きがいたんですか。それは心強いですね。

大西氏:
 でも,ある時期から,お願いしていたデバッグ会社からコマンド入力のバグ報告が凄く来るようになったんです。それが,「○○すると××が反応しません」とか「○○と××が誤爆します」とかですね,とにかく妙に細かいんですよ。

マフィア梶田:
 おそらくその古川さんと同じく,格ゲー好きが担当に入ったんでしょうね(笑)。

大西氏:
 とにかく時間がない時期だったんで,チクショーと思いながらも(笑)だいぶ改造しました。TGS 2015の体験版の時点ではまだ誤爆もあったんですけど,そのおかげで改善されて,製品版ではレスポンスがかなり正確になりました。

マフィア梶田:
 それはうまくかみ合いましたね,プレイしていて,「ヴァニラウェアは2D格闘もいけるんじゃないか!?」って思いましたよ。

神谷氏:
 たしかに僕らの会社のコンピタンスだと,格ゲーは向いていると思うんですよ。こんなモチーフで作ったら面白いなってアイデアはあったりするんですが。

大西氏:
 格ゲーには眼の肥えたお客さんが多いですからね。本気の本気で取り組まないと「こいつら全然分かってないな」ってことになってしまいます。

マフィア梶田:
 たしかにそうですね。とはいえ,ヴァニラウェアが参戦したら,2D格闘ゲーム界隈も面白いことになるなと,妄想が広がりますよ。

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