企画記事
「FFVIIR」の撮影現場も! ゲームの社会科見学:スクエニのモーションキャプチャスタジオ編。作ったものが別の形へと変わる面白さ
スクウェア・エニックスのタイトルをプレイしたことがあるなら,同部署が制作したハイエンドムービーやカットシーンを,どこかできっと目にしているはずだ。
スクウェア・エニックス イメージ・スタジオ部公式ページ
このスクウェア・エニックスのイメージ・スタジオ部は,社内に大規模なモーションキャプチャスタジオ(公式名称「キャプチャスタジオ」)を有している。今回取り上げるのは,このスタジオだ。
実は今年,2023年の3月にスクウェア・エニックスは,メディアに向けた事業説明会を実施しており,その中でこのスタジオを見学する機会があった。そのときの話が興味深く,さながら社会科見学のようで楽しいものだったので,「これは読者の皆さんにも紹介したい」と考え取材を打診,快諾いただいた次第だ。
そんなわけで今回は,「ゲームの社会科見学」と題して,スクウェア・エニックスのキャラクター達を動かしているキャプチャスタジオがどのような場所なのかをお見せしていこう。案内してくれたのは,イメージ・スタジオ部でモーションキャプチャーコーディネーターとして活躍する佐藤矩生氏だ。
なお,他社の話題ではあるが,4Gamerでは今年3月に,ゲームの中でキャラクターの動きを演じるモーションアクターにスポットを当て,その仕事について取材している(関連記事)ので,合わせて読んでもらえると,より分かりやすいかもしれない。
ガンアクションや殺陣を収録するための小道具置き場,通称「武器庫」は壮観!
モーションキャプチャで撮影した人間の動きは,ゲーム内のキャラクターの動きのデータへと変換される。手製のモーションよりも,リアルな動きを表現でき,短時間で制作することも可能だ。対戦格闘ゲームのアクションや,リズムゲーム,アイドルゲームのダンスなどはもちろん,スクウェア・エニックスのタイトルでは,ゲーム中に挿入されるムービーシーンやカットシーンにもその動きが採用されているし,脇役のちょっとした動きなどにも取り入れられている。
もはや代表的なタイトルやシーンを挙げるまでもなく,「人が動いていればモーションキャプチャが使われている」……は言い過ぎかもしれないが,それぐらい当たり前に導入されているのだ。
スクウェア・エニックスのタイトルで幅広く活用しているということは,キャプチャスタジオは機密情報の塊でもある。開発中の,発表されていないタイトルのモーションを収録しているし,それに必要なキャラクターの情報なども抱えているからだ。
そのため,キャプチャスタジオのセキュリティを抜けて中に入れる社員は限られていて,今回の取材で連絡を取った企業広報の担当者も,普段は入れてもらえないところなのだと話していた。
スタジオ本体に入る前に,演技時の小道具を保管するスペースを見せてもらった。通称「武器庫」と呼ばれるこの場所には,写真の通り,壁一面に武器が設置されていて,あらゆる戦闘シーンの撮影に対応できるようになっている。種類が多いのはやはり銃器類で,ハンドガン,アサルトライフル,ショットガン,マシンガンなど長短の銃器が揃っている。
写真に見える青く塗られているものは「ブルーガン」あるいは「トレーニングガン」と呼ばれる,実銃と同じ見た目で作られたアメリカ製のトレーニング用模造銃だ。形だけでなく重量も実銃と同じなので,これをアクターが手にすることで,銃の重さも反映されたリアルな動きを撮影でき,例えばそれを放り投げたときの挙動も実物と同じになる。
見た目やギミックなどを実銃に近づけた市販の電動ガンやモデルガンなどのトイガンは,弾倉の交換など,ギミックを活用したアクションが必要なときに使用される。また弾を撃つときの反動を表現するため,電動ガンを空撃ちして撮影することもあるそうだ。
などと紹介していると,「へー,やっぱりリアルなモーションを撮影するには,リアルな銃器も必要なんだな」と思うかもしれないが,実はこれらの使用頻度は高くない。なぜかというと,単純に重いからだ。撮影は長丁場になることもあるので,リアルな重量の機材で演じ続けてもらうのは難しい。
そのため,もっぱら使われるのは,EVAボードというウレタンのような素材とガムテープで作られたスタッフ手製の銃となる。モーションキャプチャは,スーツや機材に取り付けたマーカー(反射テープのついた玉)を読み取る。そのため,銃の細かなディテールはまったく必要がなく,だいたいの形状があっていればそれで十分なのだ。
この手製の銃は,ストックが取り外しできるなど,より撮影に向いた形状に調整できるよう工夫もされている。そもそも,ゲーム中の3Dモデルで「ストックを肩に当てて射撃を行う」という状態を表現するのは,ストックが肩を貫通してしまうなどの問題が発生しやすく,腰だめ撃ちを採用するシーンも多いという。その場合はストックがついていては撮影の邪魔になるので,取り外せたほうが都合がよいというわけだ。
また,ゲーム開発チームから「軽い銃だとリアルな動きにならないのでは?」と言われることもあるそうだが,ブルーガンで重さを確認してから持ち替え,重さを意識した動きで演じてもらうといった工夫で対応していると話していた。
剣や槍,盾などの近接装備もまた,模造刀剣(アメリカのCOLDSTEEL製のトレーニング用刀剣など)や木刀,竹刀などの既製品と,手作りのものが用意されている。スクウェア・エニックスだけあって,アクターが殺陣をする機会は多く,やはり軽いものが多用されるそうだ。
手作りの剣は主に竹製で,グリップ部分にはテニスラケットなどに使われるグリップテープが巻いてある。竹は軽くて丈夫で加工がしやすく,小道具の材料には最適だと話していた。剣など刃のある武器には,刃や鍔の向きを表したマーキングが施されている。正しい刃筋で殺陣を行うことで,より現実味のある動きができるのである。
そのほか,一点物の自作武器では「FINAL FANTASY VII REMAKE」(以下,FFVIIR)のセフィロスの正宗や,ユフィの巨大手裏剣なども確認できた。さすがにこのレベルで特徴的な形状の武器は,手作りで用意しないと撮影が難しいという。ただ,武器のなかには,初期デザインを忠実に再現すると耐久性に難があり,撮影に使えないものもあったそうで,再現しすぎるのも問題なようだ。
またトンファー,ヌンチャクなど,使用したときの挙動がほかに存在しない唯一無二の武器は,実物かそのレプリカを使っている。
また盾は木製のリングにグリップを付けた,簡素なものが使われる。パっと見,「スカスカだけどこれが盾になるの?」という感じだが,本当に盾の状態になっていると腕が隠れてマーカーが読み取れなくなってしまうので,モーションキャプチャにおいてはむしろ,スカスカのほうが正しいそうだ。
面白かったのは武器を収めるための「鞘」だ。剣は「マーカーを取り付けた棒」となるので,鞘を用意しても納刀できない。しかし,鞘がなくては,抜刀や納刀のモーションをリアルに行うのは難しい。そこで,鞘に該当する特製のホルダー(鞘ではなく,小さなパーツで保持できるホルダー)と,武器側に取り付ける専用のアタッチメントを用意することで,武器をしまわずに鞘に収めるアクションを可能としている。
また劇中で鞘が存在しないFFVIIRのクラウドのバスターソードなどもこのホルダーを利用し,背中から抜いたり戻したりする様子を撮影したそうだ。
ブロックトイを組むように,セットを短時間で作り上げる! スタジオスタッフの技術がすごい
武器庫で小道具の説明を聞いているだけでかなり面白いのだが,ここからはいよいよスタジオ内部の見学だ。
スタジオ内部は,動ける広いスペースをカメラで囲んだような……って,あれ?
そこには,金属製の足場や箱馬(舞台作りなどに使用する定型の木箱),パイプ椅子などを複数組み合わせたセットが組んであった。3月の事業説明会でこうしたセットはなく,今回もスタジオ内部の設備そのものを取材するとばかり考えていたので,このセッティングにはちょっと驚いた。
しかし,実はこのセットこそが,スクウェア・エニックスのキャプチャスタジオの真骨頂。そしてモーションキャプチャの仕事のイメージを変えるものなのだ。
実際,皆さんもモーションキャプチャの撮影現場と言われると,カメラのたくさんある何もないスペースで動いているのだろうな,ぐらいの印象ではないだろうか。
用意してもらえたセットは4つ。数ある制作実績のうち,今回はFFVIIRの一部シーンを再現している。
分かりやすいのは,ステアリングコントローラを使った運転席があるセットだ。こちらは,ストーリー後半,ティファが運転するトラックに乗り込んで脱出するシーンに使われている。
荷台は,足場の上に箱馬と鉄パイプを使って組んであり,簡素だが堅牢で,飛び乗ってもびくともしない。壁にあたる部分が一切なく,荷台にあたる部分に鉄パイプ,運転席にパイプ椅子などを用いているので,スカスカに見えると思うが,これらはもちろん,カメラがマーカーを捉えるのを邪魔しないよう,あえてこうした作りになっている。
撮影中は仮のCGキャラクターや背景をアクターに重ねていて,スタッフのPC画面やスタジオ内のディスプレイにはそれが映し出され,その映像を参考にアクターへの指示が出る。演技でカバーできないところは,セットに改良を加えるなどしてフォローする。
その例として挙げられたのが,次の列車の座席のセットだ。入口となるドアの向かい側にある座席は,土台となる箱馬と,背もたれの鉄パイプで表現されている。座布団のように置かれているのは,野球用の塁ベースだ。これは座り心地を考慮したものではなく,座面とアクターの腰の位置を合わせる必要が生じて,高さを設けるために置いたもの。撮影時にキャラクターが座席に沈んでしまったため,厚みのある塁ベースを用意したというのだ。
佐藤氏をはじめ,キャプチャスタジオ所属のスタッフは,あらゆる撮影状況に臨機応変に対応する必要があり,スタジオ内の機材を利用して何でも大道具として作ってしまうという。今回見せていただいたバイクもそんな例で,これはFFVIIRでクラウドたちが乗っていたバイクのシーンを撮影するときに作られたものだ。
大小の箱馬に前述の塁ベースと武器用の短い棒をベルトでくくりつけている。下側には折り畳んだヨガマットが設置されているが,これはバイクに乗って様々なアクションをするため,現場から「動かしたい」という要望があり,その場で考えて取り付けられたものだ。これによりバイクを前後左右に動かしやすくなっている。
スタッフのその場での閃きにより,セットや大道具の要所にはあらゆる工夫が施されていて,撮影を重ねるたびにそれが洗練されていくという。一度組んでしまえば後は簡単に再構築できるのもいいところで,このバイクなら2人で5分程度,ほかの大型のものでも,今回のセットを全部用意するのに1時間もかかっていないそうだ。
人が演技をし,ときにアクションなども行うために,これらのセットや大道具は安全性も確実に確保している。
例えばこちらのセットは,手前のドアとテーブル,そして奥の螺旋階段で分かりやすいだろう。そう,エアリスの家だ。
ゲーム画面では家なのでどうということはないが,セットは写真のようなシンプルな形で,階段に手すりなどもついておらず,最上段は2m近くとかなり高い。そんな螺旋階段で,演技時は足元を見ず,会話をしながら下りるといった演出もあるので,万が一のために高い場所の周囲には落下しても大丈夫なように分厚いマットが用意されている。
またスタジオにはワイヤーアクションなどを行う設備も揃っているが,撮影にはスタントができるアクターを揃えることはもちろん,機材とそれを扱うスタッフも専門家に来てもらうことを必須とし,万全の態勢で行うようにしているそうだ。
最後にアクターが着用するスーツについても聞いてみた。その動きを正確に捉えるために,全身に50個ほどのマーカーが取り付けられたスーツをスタジオで用意している。身長,体重,性別などで体型が大きく異なるため,サイズ別に数十着の備えがあるとか。スーツは全身を覆っていてかなり暑く感じるため,スタジオ内の空調は強めに設定されていた。
ところで,ゲーム開発の現場としては,キャプチャスタジオはかなり特殊な場所に見えるが,どういったスタッフが働いているのだろうか。
佐藤氏はこの仕事に就く前は映画業界に身を置いていて,転職時に興味のあったゲーム業界でそのスキルを活かせる職を探してみたところ,この仕事を見つけ現在に至るそうだ。
セットや大道具を作る技術は,ブロックのおもちゃを組み立てるような感覚で,PCを使ったデザインやプログラムなどのスキルとはまた違う,現場での物作りが好きな人に向いているのではないかと佐藤氏は話す。
その一方で,撮影したものがそのまま映像となる映画とは異なり,組んだセットはもちろんのこと,演じるアクターの顔すら完成形と直接関係がなく,「作ったものが別の形に変わる,四次元的な面白さがある」と魅力を語ってくれた。
また,佐藤氏のほかに当日対応してくれたスタッフの1人は舞台経験者,もう1人は専門学校でモーションキャプチャの勉強をして興味を持ったという人物だった。ただ,佐藤氏によると,専門学校で学んでから来る人のほうが稀だという。そもそも,キャプチャスタジオで使用するソフトウェアは,ほかに例のない特殊なものであり,全員,ここに所属してから学ぶのだとか。そのため,事前の知識は必要なく,舞台の経験など意外な技術を生かせる「ゲーム開発の現場」と言える。ゲーム業界への就職や転職に興味がある人は,こういった入口があるということも覚えておくといいかもしれない。
以上,キャプチャスタジオがどのような場所かを紹介してきた。取材の内容上,キャプチャスタジオが空いているとき(撮影があるときに使う,というより,毎日のように稼働しているそうだ)でないと見学自体ができない。スケジュールの都合をつけていただいた佐藤氏や担当の方に感謝しつつ,なかなか見られない裏側を,読者の皆さんに楽しんでいただけたなら幸いだ。
このようなメイキングが行われていることが分かると,プレイ中に見る目もひと味違うものとなるのではないだろうか。スクウェア・エニックスの作品をプレイしているときに,本稿の内容をぜひ思い出してほしい。
今回は「ゲームの社会科見学」ということでお届けしたが,また機会があれば,ゲーム会社の裏側を紹介していければと思う。
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