インタビュー
[インタビュー]「アイナナ」「ヒロトラ」の開発を手がけたG2 Studiosの今――。設立5周年を記念して代表取締役社長・桜井 敦氏に話を聞いた
本稿では,代表取締役社長である桜井 敦氏に,社員が活躍できる組織作りや,愛される作品づくりのポイント,ゲーム創りの最前線を走り続けるG2 Studiosの“今”をうかがったインタビューをお届けする。
社員が活躍できる場を作るのが社長の役割
4Gamer:
G2 Studios設立5周年おめでとうございます。今の率直なお気持ちを教えてください。
桜井 敦氏(以下,桜井氏):
一言で表すと,「とても早かった」です。ゲーム開発はもちろん,グループ会社であるギークスの株式上場など,やることが非常に多かったので,あっという間に過ぎてしまったというのが素直な気持ちです。現在も変わらない感覚なのですが,1か月が3日くらいに感じます(笑)。
4Gamer:
大人になると時間の経過が早くなるといいますが,密度の濃い時間を過ごされていると,さらにそう感じそうですね。そのぶん,充実されているのも伝わってきます。
桜井氏:
そうですね,僕自身としても会社としても課題は尽きず,解決に向けて常にアプローチしているからこそなので,そこは強みにもなりますよね。
4Gamer:
この5年間で,特に印象に残っていることはありますか?
桜井氏:
いろいろと振り返ってみたのですが,やっぱり株式上場で鐘を鳴らしたことですかね(株式上場のセレモニーでは,五穀豊穣にならい,会社の繁栄を願って鐘を5回鳴らすのが通例)。僕は2012年にギークスに入社し,IT人材事業の営業,IT人材事業本部長を経て現在のポジションに就いています。ギークスとしても,G2 Studiosとしても,思い出がたくさんあります。大変な時期を経て入社12年目に迎えた株式上場は,個人的な達成感と充実感もあって印象に残っています。
4Gamer:
大変な時期もあったとのことですが,苦労された面で記憶に残っていることを教えてください。
桜井氏:
周りの人からすると大変に見えたり,僕自身も客観的に見てキツイと感じることはたくさんありました。ただ僕は局面ごとに「どうしよう」と思い詰める性格ではなく,「どうしていこう」という感覚が強かったので,記憶に残るほどの苦労はなかったですね。
4Gamer:
大変な場面で悩むというよりも,どう乗り越えて行こうかという方向に考えをシフトされるのですね。
桜井氏:
基本的には,そうですね。就任時からポジティブさは大事にしていますし,その考え方は今も変わっていません。
4Gamer:
代表取締役社長として,大切にされていることを教えてください。
桜井氏:
5年前のインタビューでもお話しましたが,「社員一人一人が,G2 Studiosでやりたいことを実現し,活躍できる」環境づくりを大切にしています。ゲーム開発はチームで1つのものを作っていく取り組みで,それぞれがいろいろな役割を担っています。僕自身も代表取締役社長という肩書がついていますが,偉い偉くないではなく,「そういう役割として社員が活躍できる場を作るのが仕事」だと思っています。これは,ずっと大切にしている考えです。
「G2 Studios」の代表取締役社長・桜井 敦氏にインタビュー。新会社設立の経緯や組織作りの理念について聞いた
「アイドリッシュセブン」や「ツキノパラダイス。」など,女性向けスマホタイトルの開発・運営を手掛けるギークスのゲーム事業本部を基盤として,2018年5月1日に新会社「G2 Studios」が設立された。本稿では,ギークスのこれまでや新会社「G2 Studios」の組織作り,事業展開などについて,代表取締役社長を務める桜井 敦氏に伺ったインタビューをお届けする。
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コロナ禍を乗り越えて
オンとオフのハイブリットで働ける環境に
4Gamer:
5年間で組織体制などの変化はありましたか?
桜井氏:
G2 Studios設立当初はフルフラットで「僕」対「各社員」という体制で,役職は作っていませんでしたが,現在は違う体制にしています。企画,管理,エンジニア,デザインなど,8つの組織体に分け,それぞれにグループリーダーなどの管理職がおり,そのメンバーがプロジェクトを引っ張っている状態です。適材適所になるように,ある程度自由に人員異動できる環境を作っています。プロジェクト単位になると,どうしてもブラックボックス化しやすくなるので,見通しのいい組織になるよう変更しました。
プロジェクトの中心となる人材も育ってきたので,気になることは話し合いますが,あまり口出ししすぎないように我慢しています(笑)。
4Gamer:
1対1を大事にしつつ,プロジェクトのリーダーとなる方を信頼されているんですね。
桜井氏:
そうですね。その役割に就いたメンバーが組織をどうしたいのかが重要ですし,自らこうしたいと説明できること,それに対してのサポート体制を作ることの重要さを5年間で感じました。
また,どのプロジェクトにも属さない,僕直属の「リミットブレイクLab」を設立しました。G2 Studiosのなかでもレベルが高いメンバーを集め,将来の研究開発や各プロジェクトの課題解決など,皆とは違う取り組みをしています。初年度の2022年は手探りだったのですが,今後は彼らが注力したいことに重点を置いて取り組んでいく動きになっています。
4Gamer:
この2,3年は,コロナ禍でゲーム開発への影響,苦労もあったのではないでしょうか。
桜井氏:
コロナ禍でのコミュニケーションは,一番苦労しました。有無を言わさず全員がリモートワークにになり,当初は戸惑いもありましたし,伝わっていると思ったことが伝わっていなかったこともたくさんありました。
すでにリリースして,運営に入っているタイトルは,1か月の作業の流れをプロジェクトの皆が分かっているので情報の齟齬は少ないです。一方,開発中のタイトルは必要情報が正しく伝わっていなかったり,連携不足により漏れがどうしても出てしまうので,コミュニケーション用のツールの導入や,定例のミーティングを増やしました。しかし,それが仇になり,会話や会議に時間が取られ,それぞれの作業が進まない悪循環を生み出してしまったことが反省点です。
4Gamer:
コミュニケーションは欠かせないので,その環境を整えようとしたんですね。特にオンラインのリモートは,空気感が伝わりにくく,対面で会話するよりも大変ですよね。
桜井氏:
そうなんです。仕事面だけでなく,もともと弊社は社員同士のコミュニケーション活性化を目的としたイベントや制度が多かったのですが,コロナ禍によってそれぞれ休止やオンライン型への移行が発生しました。開催していた僕自身も物足りないですし,よく参加してくれていた社員も対面で交流できる場がなくなったことへの寂しさがあったようです。
4Gamer:
すでに働いている社員の方はもちろん,直接会う機会がないぶん,新入社員が馴染むのにも苦労するというお話をよく聞きます。
桜井氏:
月に1回,全員が集まるオンライン会議があり,そこで入社した方に一言ずつコメントをもらいますが,マスクをしていて顔が分からないこともありました。実際,プロジェクトにアサインすると会う機会もなくなるので,半年後に「ウワサの●●さん!」となることもあります。
オンラインでもコミュニケーションをとりやすいようにと,バーチャルオフィスを導入しました。バーチャルオフィス上でゲーム大会をしたり,プロジェクトの打ち上げを行っているところもありましたね。
また,社員がパーソナリティを務め,毎回さまざまなプロジェクトからメンバー1人をゲストとして招き,フリートークをする「G2ラジオ」を定期的に開催しています。ランチをとりながら気軽に聞けるように,昼休憩の時間に行っており,新しく入社したメンバーをゲストに呼び,インタビューすることもあります。
コロナ禍による変化は,ポジティブに考えればリモートで仕事ができることの証明になり,現在取り組んでいるリモートと出社のハイブリッド型が可能と分かったのでよかったです。
4Gamer:
ハイブリッド型だと,よりそれぞれに合う働き方ができそうですね。
桜井氏:
そうですね。勤務形態は,職種ごとに分かれてきた印象がありますね。プログラマーやデザイナーは集中したいタイミングでも,社内にいると仕事上の会話で,どうしても中断されることがあります。リモートはそれがないので,集中する職種に向いていますね。逆にブレインストーミング(複数人によるアイデア出し)が必要な企画職や,情報を集約する管理職は出社して連携をとっていることが多いです。
4Gamer:
お話を聞いていて流動的といいますか,とても面白い組織づくりだなと思いました。
桜井氏:
うまくいっている他社さんを参考にすることもできると思うんですが,会社ごとに課題や体制も異なります。弊社の課題解決に取り組んでいった結果が,今の体制になった形ですね。
ゲーム創りへの情熱と
作品への愛がG2 Studiosの強み
4Gamer:
体制の変化によって,G2 Studiosが変わったと感じる部分はありますか?
桜井氏:
ゲーム開発では「アイドリッシュセブン」など女性向けコンテンツや,リズムゲームのイメージを強く持つ方が多かったと思います。現在は次の柱となるコンテンツのリリースが始まり,我々としてもジャンルを問わず,開発できる領域が広がっているなと感じています。今開発しているものも3Dのコンテンツで,G2 Studiosとしてまだ浅かった分野の経験を積むことができ,手ごたえを感じ始めています。
4Gamer:
現在運営されている「アイドリッシュセブン」や「僕のヒーローアカデミア ULTRA IMPACT」は,どのような体制で作られているのでしょうか?
桜井氏:
どちらも運営に入っているので,大きく変わったところはなく,先ほどお話した体制でプロジェクトを構成しています。毎月やシーズンごとに施策を行っているので,3か月先くらいのものを開発,準備しています。たくさんの方に遊んでいただいていており,大きな期待をいただいている分,これからもファンの皆さんに喜んでもらえる新しい機能やサービスを提供していきたいです。パブリッシャーとしっかりタッグを組んで,この先どんな展開を持ってくるのか意識しながら進めています。
4Gamer:
たくさんのファンに愛されている現在のタイトルに加え,今後もさまざまなプロジェクトを計画されていると思います。メンバーのみなさんはどういったスタンスで開発に取り組まれているのでしょうか。
桜井氏:
開発しているタイトルに対して,メンバー1人ひとりの愛情が強いなと感じています。僕自身も含めて,1人のファンとして遊んでいるスタッフも多く,仕事に対して作業感や強制感がとても薄いですね。むしろ,ファン目線で「もっと,こうしていこう」という前向きな話がよく出ます。
4Gamer:
昨年「アイドリッシュセブン」の開発の皆さんにインタビューさせていただいたのですが,本当に愛情深くて……。記事を読んだマネージャーの皆さんにも,その想いが通じているなというのを感じました。
「アイドリッシュセブン」開発者インタビュー。アイドルとマネージャーと開発者で奇跡のような時間をこれからも!
スマホ向け「アイドリッシュセブン」は,2022年8月20日に7周年を迎えた。それを記念し,今回は本作の開発を担当するG2Studiosの橋本 啓氏,森田 勝氏,林 竜之介氏にインタビューを行った。今だから話せる開発の裏話など,貴重な話をたっぷりとお届けする。
桜井氏:
開発スタッフは男女問わずアイドルたちを好きになっていて,素晴らしいなと思います。打ち上げの席でカラオケに行って「MONSTER GENERATiON」を歌ってスタッフ同士で盛り上がったりします(笑)。
4Gamer:
最高の職場ですね(笑)。すでにリリースされているタイトルのほかにも,G2 Studiosのインディーズブランド「Gprout」でさまざまな作品が発表されています。こちらは,社員の方からアイデアを募っているのでしょうか?
桜井氏:
そうです。そもそものスタートは,新卒社員に半年間研修を積んでもらい,その集大成として,チームを組んで企画・開発,リリースまでしてもらうことからだったんです。新卒向けだったんですが,社員からも「自分達もやりたい」という声が上がり,実際にさまざまな企画案があがりました。気持ちは分かるものの,通常業務もあることを考えると,経営者としてはジレンマも少しあります(笑)。
4Gamer:
本当に皆さん,ゲーム創りが好きなんですね。
桜井氏:
そうですね。小さなきっかけで大きなアイデアが生まれる場合もあるため,アイデアを気軽に形にできる環境を整えておくことが大事だなと思います。Gproutに関してはリリースまではしなくても,有志が集まって,社内で企画を揉んだり,モックを作ったりと,そういう動きを活性化させていきたいです。実はリミットブレイクLabでもそうした取り組みをしています。
4Gamer:
他にも今後強化していきたいところはどこでしょうか。
桜井氏:
開発が長期化する大型プロジェクトが多いこともあり,自信を持ってこのタイミングにリリースできるという見積もりの精度がまだまだ足りないなと感じています。
また,品質面でもユーザーに提供される段階でいかに快適なものにできるか,プレイした後に没入いただけるが重要です。レベルはかなり上がってきてはいますが,もっともっと高めていきたいです。
ビジネス的な目線でいいますと,売り上げを出さなければ運営がまわらず,ファンの皆さんにも長く愛してもらうことができません。日頃から細かな分析をして,次に打つ手を考えていくことも大切です。
先ほどお伝えした新体制を組み,こうした点を強化できるように進めている最中です。
4Gamer:
今後の展望や注力したいことを教えてください。
桜井氏:
去年,エンターテイメント向けの動画制作やxR(クロスリアリティ。現実と仮想現実を融合し,新たな体験を提供する技術)を手掛ける部門を,本社から引き継ぎました。この分野では現在,いろいろなキーワードが飛び交っていて,3か月後には違うものが出ている可能性があるほど状況が目まぐるしく変化しています。新しい感動体験の場は広がっていくと思うので,開発という面で協力できる体制を整えていきたいです。
また,旬なところではChatGPTのようなAIをゲームに活かせないか,開発で効率化を図ることはできないのかの研究を進めています。このあたりは,今後のインターネット産業でも中心になっていく技術だと思うので注目していますね。
4Gamer:
最後に,ゲーム開発に興味を持っている読者の皆さんへメッセージをお願いします。
現在はゲーム業界に関する情報が多すぎて,学生から社会人になることにたくさんの不安があると思いますが,そこで人生が決まるわけではないので,自分の直感や期待感を信じて1社目に飛び込んでみてほしいです。入社した後でうまくいかないと感じても,その先の選択肢は多いので,そこから軌道修正したり,新たな分野に挑戦することも可能です。志を持って挑戦を継続することを大切にしてほしいです。
弊社の場合は,若い段階でゲーム開発や運営に携われる環境が整っています。そのため,経験を積みやすい組織なのかなと。また,研究開発やジョブチェンジを応援する制度を設けており,メンバーの挑戦やキャリアアップを支援する風土があります。興味がある方はぜひエントリーいただけたらと思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
――2023年4月12日収録
G2 Studiosオフィス訪問
今回の取材に合わせて,G2 Studiosのオフィスを取材させてもらった。オフィスがあるのは渋谷駅直結の高層ビルで,アクセスも楽々! シェアオフィス・ワーキングスペースのWeWorkを活用しており,落ち着いたラウンジや会議室などの共用スペースも利用できるステキな環境だ。
G2 Studiosのオフィスは個別の席のほか,ハイブリッドな働き方に合わせて,事前に予約できるフリーの席も用意されている。
驚いたことに桜井氏の社長室はなく,ほかの社員と同じようにフロア内に席がある。取材時は研修期間中で,各部署に配属前の新卒社員が同じ部屋で作業しており,役職による垣根がない環境作りをしていることを目の当たりすることになった。
現在の社員の平均年齢は33歳。2年目,3年目から活躍している人材も多く,今後も新卒採用を積極的に行っていきたいと桜井氏は話す。男女比は6:4で,エンジニアには男性,デザイナーには女性が多いとのこと。
産休/育休を取得して復帰する社員や,育休を取得する社員も男女共におり,子育て世代の情報交換やお譲り会などの交流も盛んだという。
ほかにも残業を減らす試みやフレックス推奨デイなど,働きやすい環境づくりが多数行われているとのことだ。公式サイトにて社員の募集が随時行われているので,気になる人はぜひチェックしておこう。
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(C)堀越耕平/集英社・僕のヒーローアカデミア製作委員会
(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
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